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「なーんか薄暗い森だな~」
半日も歩いた頃、三人は陽の光があまり入らない森の中にいた。
ルフィは太陽を探して空を見上げる。
「『闇の森』って呼ばれてるぐらいだからな。奥の方はもっと暗くなってくるぞ」
「へェ~昼間なのに暗いと変な感じだな。ほんと、先が見えねェ」
サンジの言葉にルフィは森の奥を凝視する。
「なんでこんな道を通るんだ? もっとマシな道があるだろ」
一応、道らしきものは存在しているが暗さのためか非常に見えにくい。
ゾロは辺りを警戒しながらサンジに問いかける。
「単純に近道だからだ。多少は危険だがこっちも急いでいるんでね」
「王妃様が大変だもんなァ。うん、急ごうな」
「……仕方ねェな。わかったよ」
やる気のルフィを見て、ゾロは渋々と了承する。
「へェ? 優しいじゃねェか」
旅慣れをしていないルフィを心配しての発言だと気づき、サンジはニヤリと笑った。
「………何が?」
「さァな~何がだろうな~」
「ん? なんだ?」
ルフィの肩を抱き、サンジは歩く。
それを見てゾロは眉間にシワを寄せる。
からかわれているとわかっていても腹が立つ光景だった。
「……」
ゾロは無意識に腰の刀に触れていた。
恐れるわけでもなくサンジはニヤニヤしたままだった。
「わ~、暗くなってきたなァ。夜みたい」
そんな二人を気にもせずにルフィは辺りを見回している。
旅をする半日の間にもう何度も二人はケンカをしていたので慣れてしまったのだ。
「ランプ、出しとくか」
「わかった!」
サンジに言われ、ルフィはリュックからランプを取り出した。
夕闇に似た暗さになり、これ以上先に進むには灯りがなければ歩くのも困難だ。
灯りを点けると三人の周りだけ明るくなる。
「ランプ、一個で大丈夫かな?」
「全員がランプを持ってると獣が出たとき対処に困るだろ。壊れたときのために予備も欲しいしな」
「なるほど~」
サンジの言葉にルフィは納得して頷いた。
「盗賊が出たらお前が一番に狙われるから気をつけろよ?」
「えー! なんでだよ」
「灯りを持ってると狙われやすいからだ」
「ゾロも物知りだな~方向音痴だけど…いてっ」
ボソッと呟いた後半のセリフが聞こえていたらしくルフィはゾロに叩かれる。
「安心しろ。こういう森は意外と何も出ないからな。出たとしても守ってやるよ」
サンジに優しく笑われ、ルフィは少し照れる。
「あはは、おれ、強いから平気だって」
「そうか? 無理はすんなよ」
「……うん」
サンジに頭を撫でられてルフィはニッコリと笑った。
そんな様子にゾロは顔を引きつらせながらも辺りの警戒を怠らず黙って歩いている。
「時間がわからねェな」
ゾロは空を見上げ舌打ちをする。
「そうだな~時計持ってきてないし。太陽の位置を見れば大体わかるんだけどなァ」
ルフィも空を見るが相変わらず木々が生い茂っており太陽は見当たらない。
「つーことは疲れたら今日の旅は終了だな。そんなに焦る必要もねェだろ」
「そうだな」
サンジの言葉にルフィとゾロは頷いた。
三人は他愛ない話をしながら、しばらく歩き続ける。
外敵が現れるでもなく安全に三人は進むことができた。
「あっ!」
「どうした?」
ルフィが突然、声を上げたのでサンジは驚いた。
「いや、こんな場所にも妖精がいるんだなって思ってさ」
「闇を好む妖精もいるんだろ」
「それもそっか」
ゾロはルフィの視線の先に目を向ける。
しかし、予想通り何も見えなかった。
「この辺りは安全だってさ。野宿はここでしよ」
ルフィが妖精に確認を取ってサンジに告げた。
「薪を拾ってくるからお前らは適当に休んでろ」
一番旅慣れしているゾロはスタスタと薪を拾いに行ってしまった。
「そうか。じゃあのんびりしようぜ~それなりに疲れた」
「あはは、確かに疲れた~でも旅は楽しいな!」
木の根元に腰を下ろしたサンジの横にルフィは楽しそうに笑いながら座った。
「楽しい? そりゃよかったな」
「おう! 見るモノ全部楽しいぞ」
「お前…どこの村にいたんだ?」
サンジはルフィの出身がふと気になり聞いてみた。
「名前もないような小さい村。城から北の森を抜けた先に住んでたんだ」
「森の先の村…お前、あの村に住んでたのか」
奥地にあるような村のしきたりや妄信的な様子がサンジには容易に想像でき、自然と顔が歪む。
見えないモノが見えるという貴重な能力さえ村人にとっては煩わしく不快なものだったのだろう。
「もう大丈夫だぞ? 逃げ出してやったからな」
「よくやった。村を出てよかったな」
楽しそうなルフィの様子にサンジは強ばらせていた表情を緩める。
「うん! サンジにも会えたしな~やっぱり外は楽しいぞ」
「可愛い奴だな」
「わわ…なんだよ~」
ニコニコ笑っているルフィをサンジは座ったまま抱きしめた。
「お前さ、好きな奴とかいたのか?」
「ん~、いるけど」
抱きしめられたまま変な質問をされルフィは戸惑いながら答えた。
「……誰だ?」
「え!」
サンジに低い声で問われ、ルフィは驚く。
「だ、誰って…エースとナミだけど。あっ、サンジとゾロも好きだぞ?」
「……あァ、そういうことか」
安堵したような呆れたような、ため息を吐いてサンジは脱力した。
「なんだよ~」
「お前がお子様だということがわかった」
「失礼な奴だな! だからなんだよ」
拗ねた口調でルフィはサンジを見上げる。
サンジはルフィを抱きしめたまま悩んでいた。
「どうやってオトすべきか検討中」
「落とす? 落とし穴?」
「はァ……ホントどうするかなァ」
つまり、抱きしめてもベタベタしても嫌がらないのはルフィが鈍いというのもあるが恋をしたことがないからだろう。
「おれ、落とし穴はイヤだぞ?」
「いやいや、落とし穴は関係ねェから」
「そうなのか? んん?」
ルフィは、やはりよくわかっていないようで首をかしげている。
「ゆっくりじっくりいくか」
恐がらせて近づかなくなっては意味がない。
ルフィの頭を撫でながらサンジはボソッと呟く。
「よくわかんねェけど頑張れよ」
「あァ、頑張るに決まってるだろ」
「そっか~」
サンジはニヤリと笑ってルフィを放した。
「ちょっとぐらいは手を出してもいいか」
「?」
サンジはルフィに口づけをしようとそっと顔を寄せる。
もちろん意味のわかっていないルフィは嫌がることもなく、きょとんとしてサンジを見ている。
触れるか触れないかというほど二人の距離が近づいたときサンジが急にルフィから離れた。
「チッ」
「うわ!」
舌打ちと共に二人の間に剣刺さる。
「危ねェな~クソ剣士」
「危ないのはお前だ!」
ゾロは怒りも露に幹に刺さった剣を抜き、鞘に戻す。
「てめェがのんびり薪を探してるから手を出したくなるんだよ」
「……」
「手を出す? サンジはたまに意味わかんねェな~ゾロ、もしかしてまた迷ってたのか?」
ルフィに図星をさされ、ゾロは押し黙る。
「迷うのに自信満々で行くなよ。マヌケだな」
「あはは、ゾロはマヌケだってさ~」
「誰がマヌケだ!」
ゾロは怒りながらも拾ってきた薪を燃えやすいようにルフィ達に背を向け、しゃがみ込んで用意している。
「一度離れたらゾロには二度と会えない気がするなァ」
「今までは一人旅だったから迷ってもそこまで困らなかったんだろうな…なんか気の毒になってくるな」
「勝手に同情するな!」
もはや迷子の話はネタになりつつあるのでゾロも本気で怒っているわけではない。
ただ、サンジがルフィに手を出そうとしていたのには本気で怒っている。
イラついた気持ちを静めようとゾロはため息を吐いた。
「なんか、ゾロ怒ってねェか?」
「うっ……近いぞ、ルフィ」
振り返ると思ったよりも近くにルフィが来ていてゾロは動揺する。
「ん? そうかな? もう怒ってないか?」
「お、怒ってねェよ…」
「そっか」
ルフィはニカッと笑って、ゾロを見た。
至近距離で笑われ、ゾロの顔が赤くなる。
同時にサンジの殺気が強くなる。
「あれ? 顔、赤いぞ。熱か?」
「る、ルフィ……っ!」
「わっ!」
おでこでゾロの熱を計ろうとしたルフィから驚きの声が上がる。
我慢限界のサンジが立ち上がるとゾロの姿はなかった。ルフィのそばにいるのは白銀の狼だ。
「あ?」
「あ~暗いから、いつ変わるかわからなかったんだな」
「それ…緑頭か」
「うん。急に変身したからビックリした」
ルフィはよしよしと狼、もといゾロの頭を撫でる。
心なしかガックリと肩を落としている。
「ナイスタイミングだったな」
「何が?」
「変身のタイミング」
額と額がくっつくだなんてサンジには許しがたい行為なので心底安堵している。
「しかし難儀な呪いだなァ。おれは絶対かかりたくないね」
「そうかな~かわいいと思うけどな~」
「可愛い? 時計代わりにはなるな」
「時計…まァ確かに今、陽が暮れたんだなって思うけどさ。うわ~ふわふわだ~」
ぎゅーっと抱きしめてルフィはゾロに頬擦りをする。
「……あの野郎だと思うと腹立つな」
「ん? サンジも触りてェのか?」
視線の意味を勘違いしたルフィはゾロを持ち上げてサンジの方へ差し出す。
「遠慮する。噛まれそうだしな」
「え~? そんなことしねェだろ」
「お前の前では大丈夫だろうな」
ゾロにじっと睨まれ、サンジは鼻で笑った。
「あっ、火を点けてもらおっと」
ルフィはゾロを地面に下ろし、近くを漂っている妖精にお願いした。
サンジの目には急に火が点いたように見えたがルフィには、ちゃんと見えているのだろう。
「ありがとな!」
手を振るルフィを横目に見ながらサンジは夕食の準備を始めた。
***
「いい加減、触るのを止めろ」
「おれ、狼触ったことないんだもん」
食事が終わった後もルフィは何かとゾロを撫でていた。ゾロも気持ち良さそうに目を瞑っている。
それを見て、サンジが腹を立てるのは仕方がないだろう。
「はァ…もう寝るぞ」
「うん! おれも眠い」
ルフィはアクビをしながらゾロを抱きしめた。
「ちょっと待て」
「ん? 何?」
「もしかして、一緒に寝るつもりか?」
「うん、ダメか?」
ルフィは首をかしげてサンジを見上げる。
「ダメだろ…ものすごくダメだろ」
「えっ! そんなにダメなのか? おれ、犬と一緒に寝てみたいし、ちょっと寒い」
「………………少しぐらい我慢するか」
犬というか狼の姿なら手を出されることはないだろうと深いため息を吐きながらサンジは渋々と了承を出した。
ゾロはそんなサンジを見て鼻で笑う。
その様子にサンジは頬を引きつらせた。
「見張りはいらねェぞ? 何かあったら教えてくれるって妖精が言ってたから」
「はァ…了解」
にこにこと笑いながら見当違いなことをルフィは言った。
「明日も結構歩くから、ちゃんと休めよ」
「うん、おやすみ~」
そういうとルフィはゾロを抱きしめたまま、焚き火の近くで寝転がった。
もう寝息を立てている。
「お、そういや毛布があったな」
この森は明け方がわりに冷えることを思い出し、サンジは一枚だけ持ってきた毛布をリュックから取り出してルフィに掛けた。
「チッ…羨ましいじゃねェか」
先程は狼になんてなりたくないと思ったサンジだがルフィに抱きしめられるなら呪われてもいいなどと思ってしまう。
「重症だな…会って間もないのに」
すやすや眠るルフィを見てサンジは苦笑する。
想いの大きさは出会ってからの長さとは関係ないとはよく言ったもので今やサンジにはルフィ以外と恋するなど考えられなかった。
木の幹にもたれ目を瞑る。
性欲処理という目的なしに誰かと一緒にいたいと思うのは初めてかもしれない。
もちろん、手を出したいとも思っているが大切にしたいとも同時に思っている。
「これが恋ってヤツなのかねェ」
当たり前のようにルフィのことで腹を立て、ルフィの笑顔で気持ちが温かくなる。
突然訪れた本気の恋をサンジは楽しもうと思った。
夢にもルフィが出てきますように。
柄にもなくそんなことを考えながらサンジは眠りについた。
*続く*
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