「ん……?」
頬をペチペチと誰かに叩かれ、ルフィは目を覚ました。
「暗い…夜? …あ〜闇の森の中だったっけ」
ぼんやりとしたまま起き上がり、ルフィは辺りを見る。
昨日、見張りを頼んだ妖精がふよふよとルフィの近くを飛んでいた。
その妖精がルフィを起こしてくれたようだ。
「ん? 陽が昇ったのか〜起こしてくれてありがとな」
どうやらルフィに朝日が昇ったことを伝えたかったらしい。
時計も持ってきていないルフィ達には今の時間がわからない。
ルフィは妖精の心遣いに感謝した。
ふと下を見るとまだ熟睡している人間姿のゾロがいる。
「あ、人間に戻ってる。あれ? 毛布?」
ルフィは自分に掛けてあった毛布を見て、首をかしげた。
「サンジが掛けてくれたのかな」
消えかけた焚き火の周りを見渡すがサンジはいない。
「……あれ?」
焚き火から少し離れた木の幹にもたれて眠るサンジを見つけた。
「……寒くねェのかな」
焚き火からも離れ、毛布もないのでは風邪を引くかもしれないとルフィは慌て立ち上がった。
そして焚き火に新しく薪を入れて、眠るゾロに謝りながら毛布を剥ぎ取る。
「う…ゾロも寒いよな…どうしよ…」
毛布を取られてもゾロは起きることなく眠っている。
いくら焚き火が近くにあるとはいえ毛布を取るとそれはそれで寒そうに見えた。
「あ! ひらめいた!」
ルフィは自分の着ているコートを脱いで、ゾロに掛ける。
「うぅ…名案だったけど今度はおれが寒いぞ」
ルフィは持っている毛布に包まった。そして包まったままサンジに近づく。
「さ、寒ッ……」
サンジに毛布を掛けるとルフィは寒さにブルッと震えた。
「うぅ……一緒に入ってもいいよな? うんうん」
ルフィはモソモソとサンジの横に潜り込んだ。
歩き旅に疲れているのかルフィが横に入り込んで来てもサンジは起きない。
「えへへ、あったかい」
陽が昇ったとはいえまだ朝が早い。ルフィはいつの間にか再び眠りについていた。
***
サンジが目を覚ますとルフィに掛けたはずの毛布が自分に掛かっていた。
不思議に思い、立ち上がろうとすると左肩に違和感があった。
視線を左肩に移す。
「………はァ、どうしてやろうかな」
サンジは自分の肩にもたれて、すやすやと眠っているルフィを見て、ため息を吐いた。
「おい…起きろ。……早く起きねェと襲うぞ?」
サンジの気持ちを知ってか知らずかルフィはまだ寝息を立てている。
「おれは我慢強い方じゃねェんだよ……わざとやってんのか? おれを試してんのか? 襲えって意味なのか?」
サンジは空いている右手でルフィの頬をそっと撫でる。
その感触にルフィはゆっくりと目を開けた。
「ん〜……サンジ?」
「チッ、起きたか」
「?」
サンジがなぜ舌打ちをしたのか分からずにボンヤリしたままルフィは目を擦った。
「気にするな。それよりおはよう、ルフィ」
「ん? うん、おはようサンジ」
ニカッと太陽のように笑ってルフィはサンジに朝の挨拶をした。
「毛布、掛けてくれたんだな。おかげで寒くなかった。ありがとな」
「えへへ、どういたしましてだぞ。でもサンジが先に毛布、掛けてくれたんだろ? おれの方こそありがとうだ」
立ち上がりながらルフィは笑った。
「お互い様ってことだな。お前が寒くなかったならそれでいい」
「う、うん。あはは」
サンジの優しい笑顔を見てルフィは照れ笑いをした。
「あれ? お前、コート着てなかったっけ?」
「あ〜それはゾロに掛けといた」
「……あっそ」
途端に不機嫌そうになったサンジにルフィは首をかしげる。すると背後から、ふわりとした温もりに包まれた。
「うお、ゾロ」
いつの間にか起きていたゾロがルフィにコートを掛けたのだ。
「着てろ。おれはこの程度の寒さには慣れてる。お前が風邪引くぞ」
「お〜、そうだったのか」
なるほどと頷きながらルフィはコートを着た。
「おれは寒いの弱いから今日も一緒に寝ような」
「おー、いいぞ!」
ニヤニヤと笑うサンジの下心に気づきもせずに、ルフィはニッコリと笑って了承した。
「……朝方に冷える場所は今日抜けるから一緒に寝る必要はねェよ」
「ん? そうなのか〜じゃあ別に一緒じゃなくていいか〜それより飯にしようぜ」
しゃがみ込んでルフィはリュックを漁り出す。
そんな後ろ姿を見ながらサンジはルフィに聞こえないようにゾロへ低い声で呟いた。
「……お前、心底、邪魔だな」
「……お互い様だ」
サンジはとりあえずゾロの足を思いきり踏んでから腹を空かせたルフィのために朝食の準備を始めた。
***
「やっと抜けたな〜太陽、久々に見た気分だぞ」
ルフィが空を見上げると太陽はまだ高い位置にある。
闇に慣れた目には眩しすぎる太陽にルフィは目を瞬かせた。
半日ほど歩き、三人はやっと闇の森を抜けたのだ。
「意外と早く森を抜けれたな」
サンジも眩しそうに空を見上げる。
「今日中に魔女に会えるかもな」
ゾロはニヤリと笑った。
「もう狼にならなくなっちゃうのか〜」
「世の中にはもっと可愛いふわふわした生き物がいるから狼にこだわる必要もねェだろ」
しょんぼりしたルフィの頭を撫でながらサンジは笑った。
「ふわふわした生き物……触りてェ!」
「よしよし、アイツは用なしだな」
「お前なァ……」
目を輝かせるルフィにサンジは満足そうに頷く。
ゾロはそんな二人に顔を引きつらせた。
そんなやり取りをしていると前方からガシャガシャと鎧の音が聞こえてきた。
三人は顔を見合わせた後、急いで闇の森に戻り、身を潜める。
隠れたと同時に音のした方から二人の兵士が現れた。
「誰もいねェじゃん」
「あれ? こっちの方で声がしたと思ったんですけど」
辺りをキョロキョロと見回している。
「あの鎧……隣国の兵士だな。治安の悪い国だ。悪政に嫌気がさして逃げる国民も多い」
「隣の国ってことか〜嫌な国だな〜王様は何、考えてんだ」
「そもそも、なんでこんな場所に兵士がいるんだ?」
「………聞いてみるか」
サンジの言葉にゾロはニヤッと笑い、ルフィは面白そうだと頷いた。
「何やってんだ?」
「うわっ!」
ルフィの急な問いかけに一人の兵士が肩をすくめた。
「び、びっくりした……男?」
「む、当たり前だろ! 失礼なヤツだな」
ルフィは顔をしかめる。
その様子を見て兵士は慌て謝った。
「ご、ごめん。魔女かと思って……」
「おい! あんまり喋るなよ」
「す、すみません」
次はもう一人の背の高い兵士に頭を下げる。
どうやら気の弱いタイプのようだ。
「アンタら、魔女を探してんのか?」
「答える義務はない」
「隠し事はよくねェな」
悪役のような笑い方でゾロは背の高い兵士に素早く剣を向けた。
「なっ……」
「せ、先輩…こいつ賞金稼ぎのゾロじゃないですか」
「げっ……」
兵士の顔が蒼白になる。
ゾロはそんな兵士の様子に鼻で笑った。
「し、しかもあの金髪…隣国の第二王子じゃないですか!?」
「はァ!? ……賞金稼ぎと王子…交流があるのか」
「なんでクソ剣士とコンビみたいに言われなきゃいけねェんだ」
サンジは心底嫌そうに兵士を睨みつけた。
「ちぇっ、おれの噂はないのか〜」
「……あったら変だろ」
自分だけ話題に出ず、むくれているルフィにサンジは呆れた。
「あはは、それもそっかァ」
「こっちは首筋に刃物をあてられてんのに和やかムードだな……」
顔を強ばられたまま兵士は文句を言った。
「早く言え。早くしないと手を滑らすかもしれねェ」
「ま、魔女を探してたんです」
ゾロの明確な脅しに気の弱い兵士が急いで口を開いた。
「なぜ?」
「……王の命令で心臓をいただくつもりなんだよ!」
長身の兵士も観念したのか怒鳴りつけるように話した。
「心臓? 趣味悪ィな〜お前ら」
「同感だ。取ってどうすんだよ?」
ルフィの言葉に頷いて、サンジは気の弱そうな兵士に質問した。
「食べるんですよ」
「げっ! それはないって〜趣味悪すぎだ」
ルフィの言葉に兵士も苦笑いになる。
「……魔女の心臓が永遠の命を与えると王様は信じているんですよ」
「そんなわけねェだろ」
「みんなはそう思ってるんですが…食べてみないと分からないとおっしゃられまして」
兵士達も探したくて探しているわけではないようだ。
「見つけなければおれ達の首が飛ぶんだよ! もういいだろ!」
「……」
ゾロはため息を吐きながら剣を鞘にしまった。
「行くぞ!」
「あ、はい」
解放された途端に長身の兵士は歩きだした。
兵士は走りだしてからすぐに立ち止まる。
「どうした?」
その様子にルフィは首をかしげる。
「あの、気をつけてくださいね? この先の森にも兵士はたくさんいます。戦いが好きな輩も多いですから」
「親切にどうも」
「上司を殺そうとしたヤツらにわざわざ忠告するのか?」
サンジとゾロは呆れたように人の良い兵士を見た。
「悪い人達には見えませんから」
「人を見る目がない奴だな」
「あはは、よく言われます」
「おい! 何してる!」
話し込んでいると先に行った兵士が遠くで怒鳴っていた。
「す、すみません! それではお気をつけて」
「そっちもな〜」
「はい!」
手を振るルフィに兵士は笑いながら走り去った。
「確実に損するタイプの奴だったな」
「あはは、でもイイ奴だったな」
「まァな」
サンジは呆れながらもルフィに賛同した。
「魔女が殺される前に呪いを解かせねェとな」
ゾロはため息を吐く。
「薬も貰わねェと。魔女が姿を隠した理由も分かったし、兵士達より先に見つけるぞ」
「おー! 結界は任せろ」
ルフィ達は先を急いだ。
***
「隠れて進むのは時間かかるな〜」
兵士の気配がする度にルフィ達は隠れて戦闘を避けていた。
サンジが周りを警戒しながらルフィを見る。
「気絶させながら進むのも時間掛かりそうだからな」
「まァな〜」
「隠れるのは性に合わねェな」
ゾロも戦えないことにストレスを感じていた。
「ん?」
後ろに気配を感じ、ルフィは振り返った。
ガサガサっと近くの草むらが音を立てる。
「なんだ? 兵士? ……あっ! たぬき!」
ルフィが音のした方に目を凝らすと茶色い毛並みの生き物が走り去る姿が見えた。
「はァ? この森にたぬきなんていたかな」
「ゾロ、おれは見たんだぞ?」
「はいはい。兵士じゃなくてよかったな」
ゾロは適当に流して先を急ごうとした。
「む、信じてねェな。捕まえて来る」
「は? おい、ルフィ!」
ゾロの態度に拗ねたルフィは獣が走り去った方向へ駆け出した。
「あのアホが!」
急いで二人も駆け出すがすぐに兵士達に見つかってしまう。
「なんだ、お前ら!」
「魔女の手先か!?」
立ちふさがれルフィを追い掛けることができない。
「隠れながら進んだ意味ねェ!」
「退け! 見失う!」
二十人はいたであろう兵士達をあっという間に気絶させ、二人はルフィを追い掛ける。
木立を抜けると切り立った崖の上にルフィが立ち止まっていた。
「ルフィ!」
「お、サンジ」
ルフィは笑いながら振り返った。
「このアホ!」
「いだ! ご、ごめんなさい」
サンジは素早く近づきルフィの頭にげんこつをした。
本気で怒っているのを感じ、ルフィはしょんぼりとして謝った。
「………はァ、無茶すんなよ」
「無事でよかった」
二人は安心したのかホッと息を吐いた。
「ホントごめんな」
二人に頭を下げてからルフィは崖下に目を向ける。
「あのな、魔女の居場所が分かったぞ」
「ホントか! って言いたいトコだが………視線の先から想像すると崖下だな」
「正解! でも、ここに崖なんてねェんだぞ?」
「は?」
ルフィの話によると強力な幻覚を見せられているらしい。
ルフィは止める間もなく崖へ一歩足を踏み出す。
「ほら、な?」
二人には宙に浮いているように見えるがルフィにはきちんと地面が見えていて、そこに立っているだけなのだろう。
「お前、すごいな」
「えへへ〜階段とかあるから、おれの後ろに着いてきてくれ」
「了解」
サンジは迷うことなくルフィの後ろに続いた。
宙に浮いている感じがして多少怖いが足下の感触は地面を踏みしめているときと変わらない。
「……やっと会える」
ゾロもサンジの後へ続いた。
「あっ、ここから先はホントの崖になってるから踏み外さないように気をつけてな」
「恐ェこと言うな」
「あはは、おれの後ろは大丈夫だぞ」
サンジはルフィの後をさっきより慎重に着いて行く。
「そういや、お前、たぬきはどうしたんだ?」
「追い掛けてたら、ここ見つけたんだ〜そしたら見失っちゃった」
ルフィはしょんぼりとして残念そうに呟いた。
「……また見つかればいいな」
「うん」
ゾロは無言で二人の後を着いて行く。
「ここから階段だ。下りた先に扉が見える」
階段らしきモノをゆっくり下り、空中散歩もやっと終わりが見えた。
サンジとゾロは安堵のため息を吐く。
やはり、宙を歩くというのは気力が必要だったらしい。
「……行くか」
ゾロの言葉にルフィとサンジも頷く。
サンジは僅かに緊張しながらノックをし、扉を開けた。
*続く*
・10 魔女の家でを読む?