「ルフィ、起きろ」
「ん〜…エース…もうちょい寝る〜」
ルフィの夢うつつで応えた言葉を聞いた瞬間、サンジの顔が引きつる。
「起きろ……」
「いってェ! ……あれ? どこだ、ここ」
ゴンッと殴られルフィは飛び起きる。
辺りを見るが長年、閉じ込められていた部屋の変わらぬ景色と違ったので驚く。
「おはよう、ルフィ」
きょとんとしているルフィにサンジは呆れながら朝のあいさつをした。
「ん? サンジ……あっ! 思い出した!」
「そりゃあよかった」
ルフィはサンジの顔を見て昨日までの出来事を思い出した。
「おはよう、サンジ! 寝ぼけたみてェだ」
「だろうな」
あはは、と笑いながらルフィはベッドから飛び降りる。
「あれ? おれ、ベッドで寝てたっけ?」
ベッドを見ながらルフィは首をかしげる。
「おれが運んだんだよ。……で、エースって誰なんだ?」
不機嫌な口調を隠そうともせずにサンジはルフィに聞く。
「ん? エースはおれの兄ちゃんだ。昨日言わなかったっけ?」
「あァ〜そういえば言ってたな」
サンジは昨日、兄がいるとルフィが言っていたのを思い出し、怒りを引っ込めた。
「おれを起こすのは大抵エースだから間違えたんだ」
「今後、絶対に間違うなよ」
「お、おう」
サンジの迫力に驚きながらもルフィはこくりとうなずいた。
「よし、じゃあ風呂行って来い。朝飯、用意しとくから」
「はーい。サンジは?」
「おれはお前が寝てる間に入った。風呂場はあっち。バスタオルは置いてあるやつを使えばいい」
「了解!」
部屋の奥にある風呂場にルフィは着替えを持って入っていった。
***
「うわ〜朝から豪華なご飯だな」
テーブルに並べられた朝食をルフィは目をキラキラさせながら見つめた。
「おれの手作りだ。心して食えってお前、髪びしょびしょじゃねェか」
サンジがルフィを見ると髪からポタポタと水滴が落ちていた。
「うまそうだな〜」
「話を聞け! はァ、仕方ねェな」
肩にかけてあるバスタオルを取り、サンジはルフィの髪を拭いてやる。
髪を拭いている間もルフィは、ずっと朝ご飯を見つめていた。
「はい、拭けた。ガキじゃねェんだからちゃんと自分で拭けよな……」
「あはは、ありがとサンジ。でも、うまそうだぞ?」
「でもの意味がわからねェよ」
呆れながらもサンジはどこか嬉しそうに笑った。
ルフィは急いでイスに座る。
「食べよ食べよ!」
「ハイハイ」
「いただきまーす!」
ルフィは、あっという間に食べ終え、満足そうに笑った。
「ごちそうさまでした」
「食うの早いな」
「おいしかった!」
ニコニコと笑ってルフィはサンジを見た。
「そうか、サンキュ」
「えっ? サンジが作ったのか?」
疑問たっぷりの顔でルフィはサンジを見た。
「……やっぱり聞いてなかったか。おれが作ったんだよ」
「えっ? 王子なのに?」
もっともな疑問にサンジは笑った。
「毒殺の可能性もあったからな。自分で作れば安心だろ? まァ料理を作るのも楽しかったからいいんだけどな」
「サンジはすげェな! おれは料理はちょっとしかできない」
ルフィは苦笑いをした。
「料理……するんだな」
料理をするルフィがあまり想像できずサンジは驚いてしまう。
「下手だ…料理中に火事になりそうになってからはナミかエースが作るようになった」
「そ、そうか」
火事を起こしそうになるところは簡単に想像でき、サンジは苦笑した。
しばらく他愛ない話をした後、サンジは時計を見た。
「そろそろ時間だな。親父のトコに行くぞ」
「そうだった…怒られないよな?」
不安そうにルフィに見上げられサンジは笑う。
「さァな〜説教されるのかもなァ」
「えー? 昨日と言ってることが違うぞ!」
「はは、冗談だ」
「も〜趣味悪ィな〜」
ルフィは口を尖らせ、おかしそうに笑うサンジを睨んだ。
***
国王の部屋の前に来るとルフィは顔を引きつらせた。
サンジはそんなルフィの頭を軽く撫でて、部屋をノックした。
「おれです。ルフィを連れて来ました」
「入ってくれ」
中に入ると国王はソファーにゆったりと腰掛けていた。
「そう緊張しなくていい。今日は私から頼みがあるんだから。さあ座ってくれ」
緊張したルフィの様子を見て国王は安心させるように笑う。
二人は国王の向かいに座った。
「大臣達のことは安心してくれ。早急に対応するからな」
「わかった。それで何の用なんだ?」
「妻のことなんだが…実は病を患っているのだ」
一呼吸置いてから国王は話始めた。
「元気そうだけど?」
サンジが城でたまに見かける王妃は元気そうに見えた。
「特別に調合した薬を飲んでいるのだよ」
「そうだったのか。で、こいつに頼みたいことって?」
部屋の中を見渡すルフィの頭にサンジはポンッと手を置いた。
「……薬を貰って来て欲しい」
「はァ? なんで、こいつが?」
何故、わざわざ客人のルフィにそのようなことを頼むのか、わからずサンジは素直に疑問を口にした。
「うむ、その疑問はもっともだな。その薬はある魔女に依頼し、作ってもらっているんだが急に連絡が取れなくなってしまってな」
国王はため息を吐き、うつむいた。
「会おうにも結界がしてあるらしく兵士では会えない」
「あ〜なるほど」
「ん〜? どういうことなんだ?」
納得したサンジとは違いルフィは首をかしげた。
「つまり、お前の目が必要なんだ。魔女は居場所を隠しているからお前じゃないと見つけられないってこと」
「あ〜そういうことか」
「もう薬が残っていないのだよ……今までは薬があったから平気だったが無くなれば妻は……ルフィ君、魔女探しを頼めないだろうか?」
ルフィはきょとんとしてから力強くうなずいた。
「わかった! 魔女を見つけて王妃さまの薬を作ってもらえばいいんだな」
「……簡単に承諾していいのか?」
「え? だって薬がないと困るんだろ?」
ルフィは首をかしげてサンジを見た。
「そりゃま〜そうだけどなァ。お前、待ってる奴らがいるんじゃねェのか?」
「う〜ん……宿に書き置きをしとけば平気だ思う。魔女探しの方が緊急性を感じたんだ! おれは探すぞ!」
ルフィはニカッと笑い、サンジはお人好しだな、と笑った。
「ありがとう、ルフィ君……礼は必ずする。では、詳しい場所を説明しよう」
「……おれも行くよ」
「え?」
サンジの言葉に国王が驚く。
「おれも行く。ルフィだけじゃ不安だしな」
「え〜? 信用ねェな〜」
口を尖らせてルフィは拗ねる。
「道、わかるのか?」
「うっ…わかりません」
ずっと監禁されていたためか妖精がいなければルフィ自身は方向音痴だ。
「おれはわかる」
「むー……そりゃそうだけどいいの?」
王子がどんな仕事をしているのかは、わからないが城近辺から離れてはいけない、ルフィにはそんな気がした。
ルフィはチラリと国王の様子を伺う。
「……私は構わんよ。行ってもらえると私も助かる。……反対しても聞かないし」
ボソッと最後に呟いた国王の言葉は二人には聞こえなかった。
「王子がそんなんでいいのかな〜?」
「王妃のために働くんだからいいんだよ」
「あっ、そうか」
楽しそうに笑うサンジを見て、国王は微笑むのだった。
***
旅の用意をし、宿に置き手紙をしてから二人はゾロとの待ち合わせ場所に向かった。
その途中でルフィが立ち止まった。
「あっ! ゾロの探してる人と一緒かも」
「あ? 急だな……なんだよ?」
サンジも足を止め、ルフィを見る。
「さっきの魔女の話、ゾロに呪いをかけた魔女と似てるんだ」
「ってことは……あいつも一緒に旅するのか」
表情を歪めてサンジはため息を吐いた。
「たぶんな。賑やかな旅になりそうだな! 楽しみだなァ」
楽しそうに笑うルフィにサンジは再び、ため息を吐いた。
待ち合わせ場所に行くとゾロはもうすでにその場に来ていた。
地面に寝転がり眠っているようだ。
「ゾロ! 迷わずに来れたんだな〜すごいぞ!」
寝転がるゾロのそばにしゃがみ込みルフィは笑った。
「……人に戻る前にここに来ておいたからな」
薄目を開けてゾロは憮然と応えた。
どうやら狼の姿では迷子にならないらしい。
「なんで王子様もいるんだ?」
起き上がり、心底嫌そうにゾロはサンジ見た。
「一緒に魔女探しだ! あはは、頑張ろうな」
「はァ?」
「……おれが説明する」
ルフィの言葉にゾロは意味わからん、という顔をした。
サンジはため息を吐き、説明を始めた。
説明が終わった後、ゾロはうなだれた。
「じゃあ、この三人で魔女を探すのか」
「最初からそう言ってんだろ〜」
ゾロの言葉にルフィはゾロの肩をバシバシと叩いた。
「お前、省略しすぎなんだよ。あんなのでわかるかっつーの」
「そうかな〜?」
叩くのを止めて、ルフィはサンジを見た。
「道が悪いから馬は使えねェ。歩くしかない、早くても三日ぐらいはかかると思う」
「馬! 乗ってみたかったな〜」
「乗馬用の馬が庭にいるからな。帰って来たら乗せてやるよ」
「ホントか? 楽しみ! サンジ、ありがと!」
嬉しそうに笑うルフィの頭をサンジは撫でる。
その様子を見て、ゾロは静かに口を開いた。
「ルフィ……無事だったんだろうな?」
「無事? 何が?」
「昨日の夜だ」
真剣なゾロにルフィはポカンとした。
「昨日の夜は大変だったぞ! 大臣に仕返ししてやったんだ! あはは、スッキリしたけどな」
「まァな〜確かにスッキリしたな」
ルフィの楽しそうな様子にサンジはニヤリと笑った。
「そうか、お疲れさん」
満足そうなルフィにゾロも笑う。
「疲れてソファーで寝ちゃったんだけどサンジがベッドに運んでくれたんだ」
「なっ!」
ゾロはサンジを睨む。
「アホか。そんなに早く手ェ出さねェよ」
「……」
「……まだ、な」
ニヤッと笑ったサンジにゾロはさらにきつく睨みをきかせた。
「……油断できねェ奴だな」
「……お互い様だろ」
「…」
「…」
無言で睨み合う二人の服の袖をルフィは引っ張った。
「何なんだよ〜二人の世界なのか?」
「「アホか!!」」
同時に怒鳴られ、ルフィは目を丸くした。
「ビックリした〜仲良しなんだな」
「違う……って言ってもお前は信じないんだろうなァ」
サンジはため息を吐き、肩を落とした。
ゾロも同じように肩を落としている。
「……ここで話しててもしょうがねェ。出発するぞ」
ゾロはガックリしたまま歩き出した。
「逆だ」
サンジの言葉にゾロはピタリと立ち止まる。
「期待を裏切らないな」
「方向音痴もここまでくると笑うしかねェな」
「迷いやすいのになんで先頭を行こうとするんだろうな?」
不思議そうな顔でルフィはサンジを見る。
その問いにサンジは悩んだ。
「う〜ん、さァな〜。もしかしたらボケのつもりかもな」
「ボケ〜? じゃあ、なんでやねん! とか言った方がいいのかな?」
「あはは! そりゃいいんじゃねェか?」
「うるせェ!! 喋ってねェで行くぞ!!」
二人は楽しそうな会話にゾロはキレた。
そして逆方向に怒りながら歩いていく。
「いやいや、お前は先を歩くなって……時間が倍かかる」
「あ〜なんでやねんって言うタイミングって難しそうだな〜勉強しとくな、ゾロ」
「そんな勉強するな!」
ゾロに怒鳴られたがルフィは笑った。
サンジも笑いながら歩き出す。
「行くぞ、ルフィ」
「おう!」
サンジを追い掛けてルフィは走る。
賑やかな旅になりそうだと三人ともが思った。
*続く*
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