扉を開けると、まず木のテーブルが目に入った。ティーカップが5個乗っている。
本棚には大量の書物。
見たことない植物や花々も飾られていた。
他に目立つ物といえば部屋の奥にある黒い扉と白い扉だろう。

「おじゃましまーす」

ルフィは迷うことなくズカズカと家の中へと入って行った。

「ちょっとは遠慮しろ」

そういいながらサンジも家の中へ入る。

「いらっしゃい」
「うわっビックリした」

突然、白い扉からポットを持った長身の女性が笑顔で出てきた。

「どうぞ、久々のお客様方。今、お菓子も持ってくるわ」
「お菓子! えへへ、ありがとう」
「ウフフ、気にしないでね」

ルフィはニコニコと笑って席に着く。
黒髪の女性は再び白い扉の向こうに消えて行った。

「……お前、知らない人について行くなよ」

サンジはルフィの横に腰掛けながら呆れたように頬杖をついた。

「行くわけないだろ〜」

ルフィは、しかめっ面でサンジを見る。

「……お菓子やるって言われてもついて行かないか?」
「……い、行かない」
「なんだ、その間は……着いて行くなよ。不安満載だな、お前は」

ルフィは誤魔化すように笑いながらゾロを見た。

「ゾロも座れよ」
「……あァ」
「呪術をかけた魔女ってさっきの人?」
「今の奴だった」

ゾロは難しい顔をしたままルフィの斜め前に座った。
ゾロが腰を下ろすとさっきの女性がケーキを持って戻ってきた。

「お待たせ、好きなだけ食べてね」
「わーい! あっ、おれはルフィ」

ルフィはケーキを食べながら自分の名前を名乗った。

「おれはサンジだ。あっちで恐い顔をしてるのがゾロだ」
「………」

ゾロはサンジを睨んだがサンジは無視してニコニコと女性に笑いかけた。

「私はロビンよ。よろしくね」

楽しそうに笑ってロビンはお茶を注いだ。

「ロビンちゃんはおれ達が来るの分かってたのかい?」
「ええ。幻を抜けて来た時からお茶の用意をしていたんだけど間に合わなかったわね」
「カップが一つ多いみたいだが?」

ゾロは一つ余分にあるカップをチラリと見た。

「助手さんのよ」
「助手?」

ケーキを食べ切ったルフィは辺りを見渡した。

「照れ屋さんなのよ。助手さん、一緒にお茶しましょ? ケーキのおかわりを持って来てあげて」

白い扉の向こうでガタガタと音がした。用意をしているのだろう。

「ゾロ〜言うことあるんじゃねェの?」

紅茶を飲みながらルフィはゾロを見た。

「…呪いを解いてくれ」
「あなた…やっぱりあの時の…ごめんなさいね」
「え? 解けないの?」

ルフィは首をかしげてロビンを見た。

「簡単には無理ね。いきなりだったから強力な呪術を使ってしまったの」
「そもそも、道を聞こうとしただけなのになんで呪いをかけられなきゃいけねェんだ」

ゾロは仏頂面でロビンを見る。

「盗賊と間違えたのよ」
「あはは! やっぱり! 顔が恐いもん…いたっ」

ゾロは大笑いするルフィを軽く殴って、ため息を吐いた。

「最近、命を狙われていて気が立っていたの。でも解けないわけじゃないから安心して」
「そうなのか?」
「ええ。見たところ半分ぐらいは解けているみたいだし…あなたが解いたのかしら?」

ロビンはルフィを見た。

「おう! でも、全部は無理だった」
「あなたならきっとチカラの使い方を工夫すればどんな呪術でも解けるようになるわ」
「そうかな? まァどっちでもいいんだ〜あとはロビンが解いてくれるんだろ?」
「そうね」

ロビンは優しく笑いながらルフィを見た。

「……ケーキのおかわり、持って来たぞ」

ルフィは声のした方を見て声を上げる。

「あっ! たぬき!」
「違う! おれはトナカイだ!」

ロビンの後ろに隠れながらトナカイはルフィを睨んだ。

「トナカイか〜かわいいな〜おれはルフィだ。よろしくな」

ルフィはトナカイの高さに合わせてしゃがみ、ニカッと笑った。

「…おれはロビンの助手のチョッパーだ。かわいいなんて言われても嬉しくねェぞ」
「あれ? お前、鼻青いんだな」

ルフィの問いにチョッパーはロビンで顔を隠す。

「………変だろ?」
「えー? 変なもんか! かっこいいじゃねェか!」

目をキラキラさせてルフィはチョッパーを見ている。

「そ、そうかな?」
「うん、かっこいい! いいな〜」
「えへへ、嬉しくなんかねェぞ」

チョッパーは照れくさそうにルフィの前へと出てきた。
ルフィはチョッパーを抱っこしてイスに座り、再びケーキを食べ始めた。
そんな様子をロビンは微笑ましそうに見つめている。

「……おれの呪いはどうやったら解けるんだ?」
「聖水を作ればすぐにでも。ただ、すぐには作れないわ。材料がないの」
「取ってくる」
「また迷うぞ〜大体、何取ってくればいいか分かってんのか?」

サンジにからかわれゾロは頬を引きつらせた。

「兵士達が邪魔で材料ものんびり探せないの。追い払ってたんだけど量が増えて余計面倒なことになってしまって」
「確かに異様なほど兵士がいたな」

サンジはこの森にいた兵士達を思い出した。

「術士もたくさん雇ったみたいね。フフ、でもこの場所まで来たのはあなた達が初めてよ」

急いでケーキを平らげルフィは立ち上がった。

「おれ、探検して来る! チョッパー、案内してくれ」
「え? ロビン、いい?」
「構わないわ。薬品には気をつけてね」
「行こう行こう!」
「待ってルフィ! そっちは危ない!」

黒い扉を開けたルフィに慌てチョッパーは後を追った。

「ガキだな」
「フフ、でも見ていて楽しいわね」
「同感」

サンジは笑ってから紅茶を飲んだ。

「剣士さんには少し働いてもらおうかしら」
「あ?」
「聖水作りにはキレイな水も必要なの。裏の井戸から汲み上げておいてくれないかしら?」
「……食えねェ女だな」

ゾロは山ほどある文句を飲み込み裏口へと向かった。

「おれの話はもう分かるよね?」
「ええ。王妃様の薬よね。今の状態を看てから作った方がいいわ……私はここを出られないからその件は助手さんに任せることに決めた」
「さっきのトナカイか」

サンジは騒がしい隣の部屋に目を向けた。

「腕は確かよ? 外の世界も学ばせたいの。それに簡単に心を開いたから」
「ルフィか…あいつは警戒する方がアホらしくなるからな」
「そうみたいね」

楽しそうに笑ってからロビンは真面目な顔をしてサンジを見た。

「気をつけて。良いモノも悪いモノも簡単に引き寄せる。とても魅力的な強いチカラだわ。悪用したい人も存在するはず」
「……おれが守るさ」
「フフッ、頑張ってね、騎士さん」

恋心を見透かされたような眼差しに照れ笑いをしてからサンジは気になっていたことを聞いた。

「いつから兵士が命を狙ってるんだい?」
「半年ぐらい前かしら…昔から魔女の心臓を食べると不老不死になるという伝承はあるけれど。信じる人は久しぶりね。それにとてもしつこいの」

ロビンは、ため息を吐いて立ち上がる。
すると黒い扉からルフィが飛び出て来た。

「ロビン、おれが王様に言ってやるよ」
「お前な……急に出てきて何を言い出すんだ」

カップを片付けるロビンにルフィは近づく。
サンジもカップの片付けを手伝うために立ち上がった。

「あら? 助手さんは?」

首をかしげてロビンはルフィを見た。
ルフィは気まずそうに顔を逸らした。

「え、えーと…片付け中だ」
「…なんか壊したのか」

サンジは呆れながらルフィを見る。

「あは、あはは! そんなことはどうでもいいじゃねェか」
「よくねェよ」
「ご、ごめんなさい」

ルフィはロビンに頭を下げた。

「ケガがなかったならよかったわ。ルフィ、嬉しい提案だけど……」
「だって困ってんだろ? サンジ、なんとかならねェかなァ?」

ルフィはじっと上目遣いでサンジを見る。

「………なんとかしてみるか」
「わっ…な、何?」

サンジにぎゅーっと抱きしめられてルフィはきょとんとした。

「嬉しいけれど大丈夫かしら?」
「やれるだけやってみるさ。キレイなお姉さんが困っているのは無視できない」

サンジはルフィを抱きしめたまま、爽やかに笑った。

「無理はしないでね。一国の王子様なのに他国に文句言っても平気?」
「親父に聞いてからするから大丈夫」
「そう、ありがとう。少し待ってて。片付けをしてくるわ」

カップをお盆に乗せて、ロビンは部屋から出て行った。
それから、ようやくサンジはルフィを離した。

「サンジの行動はナゾだらけだな〜」
「……そのうち分かるだろ」
「そうかァ? あ、チョッパー大丈夫かな」

ルフィは思い出したように黒い扉を見つめた。

「何を壊したんだ?」

とたんにルフィは困った顔をしてサンジを見た。

「なんか…こういう…丸くて四角い…」
「は?」

ルフィはジェスチャーで伝えようとしているがサンジには何なのかサッパリ分からない。

「いや、初めて見たモノだから…動物? 植物? 初めからグシャグシャだったから壊したかどうかもよく分からない」
「…………すげェ気になるんだけど」
「あっちの部屋はそんなんばっかりだったぞ? 不思議部屋だった」

ルフィは楽しそうな顔で黒い扉を指差した。

「……おれも見ればよかったな」
「行ってみるか?」
「機会があればな」

ポンポンとルフィの頭を軽く叩きながらサンジは笑った。
そんなやり取りをしていると黒い扉が開き、チョッパーが出てきた。

「大丈夫だったか?」

申し訳なさそうなルフィにチョッパーは笑った。

「うん、壊れてなかった。散らばってたから、それを片付けてただけなんだ。あ、今日はゆっくりして明日出発したらいいってロビンが言ってたぞ」
「泊めてくれるのか?」
「う、うん」

チョッパーはルフィの後ろに隠れながらサンジに答えた。

「んなビビんなよ」
「び、ビビってなんかないぞ」
「ふーん。ま、いいか」

チョッパーはサンジが苦手なわけではなく人間が苦手なのだ。
そのうち、慣れるだろうとサンジは思うことにした。

「あれ? ロビンとゾロは?」

ルフィは辺りを見渡す。

「ロビンはゾロと聖水作るって言ってたから」
「あ〜、なるほど。おれ達は手伝わなくていいのか?」
「材料があればすぐできるからいいってさ。二人は休んでてくれよ。風呂もどうぞ」

チョッパーは二人を白い扉の方へ案内した。
そして白い扉の先にある木の扉を開く。
部屋にはベッドが二つと小さな机があった。

「この部屋、使ってくれ。おれは夕食を準備するから呼ぶまでのんびりしてて」
「分かった。ありがとうな」

チョッパーは笑いながら、扉を閉める。

二人はその後、風呂に入り夕食をした。
部屋に戻る頃には夜も更けていた。

「ちょっと疲れた〜」

そう言ってルフィはベッドに転がった。

「そうだな。もう寝ろ。明日も早いぞ」
「うん。ん? そういえば、ここって二人部屋だな。ゾロはどうするんだろうな」

結局、あれからロビンとゾロには会っていない。
ずっと聖水を作っているのだろうかとルフィはぼんやりと思った。

「…呪いを解くために必死だろ?そっとしといてやれよ」

ルフィがゾロのことを気にするのが気に入らないのかサンジは引きつった笑みで応えた。

「それもそっか〜邪魔しちゃ悪いよな」
「そうそう。あんなアホは気にするな」

キィ……

僅かな物音と共に扉がゆっくりと開いた。
二人は同時に扉へ目を向ける。

「あ、ゾロ」
「また狼になってるじゃねェか」

陽が沈んだので白銀の狼姿に変わったのだろう。
ゾロは憮然としたまま部屋に入って来た。

「聖水できなかったんだろうな〜ゾロ、一緒に寝よ」
「…………床でいいんじゃねェか?」

ゾロを手招きするルフィにサンジは視線を向ける。

「え〜、さすがに床はイヤだろ。おれは狭くても平気だぞ?」
「……そんな心配をしてるんじゃねェよ。あっ! てめェ…」

サンジの言葉を無視してゾロはさっさとルフィの布団に入り込んだ。

「ゾロも疲れてるんじゃねェか? おれも眠い。サンジ、おやすみ〜」
「……おやすみ」

昨日に引き続き、再びルフィと一緒に寝られるとはうらやましい奴だと心の中で思いながらサンジはランプの灯りを消した。
辺りは暗闇に包まれる。
すると、すやすやというルフィの寝息がもう聞こえてきた。

とりあえず陽が昇る前にゾロをベッドから蹴り落とそうと心に決めてサンジは目を閉じた。































*続く*


11 再び城へを読む?