「さっむー! サンジ、息が白いぞ! 久々にデカイ町だ!」

寒いのに嬉しそうにルフィは辺りに残る雪を見て、はしゃぐ。

「寒い地方だからな。ほら、前見ろよ。転けるだろ」
「おう!」

微笑ましい光景にサンジも自然と頬が緩む。

ひたすら北の町を目指し、時には野宿、時には小さな宿で休息し、やっと辿り着いたところだ。

屋敷を出て、一週間。
初めのうちは寂しそうにしていることも多かったが今のルフィは笑っていることが多い。
その事実にサンジは幸せな気分になった。

「何、ニヤけてんだ?」
「うるせェ、ウソップ。さっさと宿探して来い」

幸せを邪魔されたようで思わず、話しかけてきたウソップを睨む。

「怖っ! ルフィに対する態度と全然違うな。了解〜サンジも宿に泊まるのか?」
「ああ」
「えっ!?」

予想外の返答にウソップは驚きの声をあげた。
毎回、サンジにどうするか聞いていたが大きな町で宿に泊まるのは今回が初めてではないだろうか。
いつもは適当に見つけた町の女や娼婦の部屋に泊まるのに。

「……なんか文句あんのか?」

驚き過ぎて固まっているウソップをサンジは再び睨む。

「い、いやいや、滅相もない! 探して来まーす!」
「早くしろよ」

ウソップが驚くのも無理はないと思うが露骨に驚かれると腹が立った。

「サンジサンジ」
「ん?」

ぐいぐいとルフィに服を引っ張られ、サンジはルフィを見る。

「雪だるま」

ニカッと笑って、地面を指差した。
そこには小さな雪だるまがちょこんと置かれている。
ウソップとのやり取りの間に作ったのだろう。

「………可愛い」
「だろ! もっとデケーのも作り…わっ」
「雪だるまじゃなくて可愛いのはお前だ」

あまりにも可愛らしい様子に我慢できず、サンジはルフィを抱きしめた。

「な、なに言ってんだ! しかも、人前で…うー、放せ〜」
「誰もいなかったらいいのか?」
「そ、そういう意味じゃないって!」

耳元で囁かれルフィは、びくっと体を震わせた。

「可愛い反応するなよ。押し倒したくたるだろ?」
「知らない! いい加減、放せっ」
「…ハイハイ」

真っ赤な顔で怒るルフィをサンジは渋々、放した。
仲間達は見てみぬフリをしてくれるのだがルフィはそれでも恥ずかしがる。

「もー、急に変なことすんなよ」
「変なことではないだろ。こんなことで恥ずかしがってたら、この先どうするんだ」
「知るか! どうもしねェよ! サンジは危険だ」

頬を膨らませてルフィは怒る。
しかし、その顔は赤い。

「危険だぜ? せいぜい、気をつけろよ」
「……寄るなよ〜」

ルフィの腰に手を回し、サンジはニッコリと笑った。

「無理だ。おれは独占欲強いからな。これでも結構抑えてるんだぜ?」
「そうなのか?」
「そうそう。今、着てるコートもマフラーも手袋も切り裂いてやりたいぐらいだからな」

笑顔で怖いことを言うサンジにルフィは驚く。
大好きなナミとゾロから貰った大事な大事なプレゼント。
それを切り裂かれては堪らない。絶対泣いてしまう。
無論、サンジは他人から貰ったプレゼントを大事にするという行為自体が気に入らないのだがルフィは持ち前の鈍さで気がつかない。

「なっ! そんなことしたらサンジのこと大っ嫌いになるからな!」
「分かってるって。それが死ぬほど嫌だから我慢してんだろ」
「……頑張って我慢してください」
「了解しました」

ニッコリと笑うサンジを胡散臭げに見つめてからルフィは思い出したようにコッソリと問いかけた。

「そういや、何を盗むつもりなんだ?」
「ん? 考え中。聞き込みでもするかな」
「え? 欲しいモノがあったから、この町に来たんじゃないのか?」

てっきり、何か盗む予定があって遥々旅をして来たのかと思いきやそうではないらしい。

「別にねェよ。ただ、お前がコートとか早く着たそうだったから」
「え…おれのため? あ、ありがとう」

サンジの心遣いにルフィは本気で感動した。

「…さっさと領主から遠ざけたかったっていうのもあるがな」
「へ?」

ボソッと呟いたセリフが上手く聞こえず、ルフィは首をかしげた。

「いや、なんでもない」
「そう? でも、ホントにありがと」
「どういたしまして。着れて良かったな」
「うん!」

顔を赤らめ、嬉しそうに笑うルフィの頭をサンジは撫でる。
ウソップが戻って来たのを確認し、ルフィに問う。

「部屋で休んでるか?」
「ううん、なんか手伝う。おれだって盗賊の一員だからな」
「じゃあお前にしかできないこと、頼んでもいいか?」
「お、おう」

あまりにも真剣な顔で尋ねられ、ルフィは少しビビりながら頷いた。



***



「何を頼まれるのかと思ったけど…お嬢様になってくれだもんなァ」

鏡に映る自分の女装姿にルフィは懐かしさを覚えた。
しかも、長年していた格好なだけにこちらの姿の方がしっくりする。

あの後、宿に戻ってからお嬢様姿に着替えたのだ。
サンジが言うには女性の方が情報収集しやすいらしい。
本当か嘘かはわからないがルフィは役に立ちたい一心だった。

「スカート寒いな〜でも、カツラしてると首はあったかいな」

一応、ある服で重ね着をしたがズボンとは違い、やはりスカートは足が涼しい。

(やっぱり化粧した方がいいかな? ま、いいか。でも、化粧道具まで入ってるとは思わなかったなァ)

領主から渡された荷物にはありとあらゆる物が詰め込まれていた。
重かったが役に立つ物も多かったのでルフィは感謝している。

「みんな、元気かな」

感傷に浸りそうになり、ルフィは思わず頭を振った。

「よし! おれにできることをするぞ! あんまり待たせるのも悪いよな」

気合いを入れ直し、ルフィは扉を開けた。

「うわっ! みんな、何してんだ?」
「あ、あはは〜」
「なんでもないよ」

ルフィが扉を開けるとそこには盗賊団のメンバーが勢揃いしていた。

「そ、そう? ビックリするだろ。みんなも情報収集?」
「悪かった悪かった。おれ達は休憩。情報収集はサンジの仕事だ。せっかくだから一目見てから休憩しようかと…」
「お頭待たせてんだろ? 早く行った方がいいぜ」

なぜか慌てている仲間達に首をかしげながらもルフィは笑顔で手を振った。

「うん、いってきます」
「いってらっしゃーい」

ルフィの姿が見えなくなってからメンバーは安堵のため息を吐いた。
中には顔の赤い者もいる。

「やっぱ可愛いな」
「お頭の前で絶対言うなよ? あとが怖い」
「男に見えなかった」
「雰囲気変わるよな」
「普段も可愛いじゃねェか」

口々に思ったことを喋りだした。

「サンジがいるとじっくり見れないもんな」
「お頭は心が狭いからな」
「なんかおれ、ルフィに癒される」
「同感」

ルフィの女装を一目見るために集まっていたメンバー達は満足いくモノが見れてテンションも高く自室へと帰って行った。



***



宿屋を出てもサンジはいなかった。

「あれ?」
「お、ルフィ。しっかり化けたな」
「あ、ウソップ! サンジ、知らないか?」

可愛らしく小首をかしげる仕草にウソップは唸る。

「これは男…男……おれはノーマルだ」
「は?」
「い、いや、なんでもねェ! サンジは先に情報収集行ってるってさ。あっちの方。まァ行けばわかる」

ウソップは少し人集りが出来ている方を指差した。
ルフィは頷き、ウソップに手を振る。

「そっか〜サンキュ。行ってみる」
「おう、気をつけろよ」
「わかった!」

変な男に気をつけろという意味なのだがルフィ本人は絶対に気づいていない気がした。

「…大丈夫かな」

不安そうにしばらく見送ってからウソップも宿屋で休憩することにするのだった。



***



人集りの真ん中には大きな掲示板があり、どうやらそれを見るために多くの人が集まっているらしい。

「なんか貼り紙してるみたいだ」

ルフィも人集りに近づくが人が多くて、よく見えない。

「むー」
「わわっ」

割り込もうかと考えていると近くにいた女性が無理に割り込もうとして跳ね飛ばされたようだ。
同時に眼鏡がルフィの足元に転がってきた。

「…あれ? 眼鏡が…」
「あの、大丈夫ですか? はい、眼鏡」
「あ、ありがとうございます」

ルフィは眼鏡を差し出したあとに手を差し出した。
女性は眼鏡を掛けてからその手に掴まり、起き上がる。

「危ないですからもうちょっと人数が減ってから見ましょうか」
「そ、そうですよね! あはは、なんだか気が急いちゃって」
「ふふ、私も割り込もうと思っていたところなんですよ」

ルフィの可愛らしい笑顔につられるように眼鏡の女性も笑った。

「あ、私、たしぎです」
「私は……ルフィです」

思わず、いつもの癖でお嬢様の名前を言いそうになりルフィは内心で動揺した。

(別に自分の名前を言えばいいんじゃん。お嬢様の名前は知ってる人はいないだろうけど軽々しく名乗るべきじゃないよな)

ニコニコと笑うルフィの内心を知ってか知らずか、たしぎはじっとルフィを見つめる。

「え、えっと…何か?」
「い、いえ、ごめんなさい! 可愛らしい方だなと思って……あはは、何言ってんでしょうね!」

まるで口説いているような自分のセリフに気づき、たしぎは赤くなって照れた。
その様子にルフィは微笑ましくなり、笑う。

「ふふ、たしぎさんの方が可愛らしいですよ」
「わ、私は可愛くないですから! ルフィさんが可愛いんです! ……なんだかこのやり取りって不毛ですね」
「そうですね。誰か待ってるんですか?」

辺りを見回すたしぎにルフィは首をかしげる。

「はい、そうなんです。でも、まだ来てないみたい。目立つ方なんで近くにいればすぐわかるんですけど」
「そうなんですか。良かったら少しお話しませんか? 私、連れとはぐれてしまって」
「そうだったんですか…じゃあ、あっちのベンチで話て待ちましょうか」

人集りから少し離れた場所に移動し、二人は近くにあるベンチに腰掛けた。

「それ……カメラですか?」

たしぎの首にかかっている物を指差し、ルフィは先ほどから気になっていたことを聞いてみた。

「はい。私、こう見えても新聞記者なんです。といっても助手なんですが」
「そうだったんですか。助手でもすごいです」

ルフィの嫌味のない賛辞にたしぎは照れる。

「あはは、すごくないですって。怒られてばっかりですよ」
「そうなんですか? どんな写真を撮るのか見てみたいです」
「たしぎ!!」
「うわわ! はい!!」

たしぎは条件反射のようにベンチから飛び起きて気をつけをした。
突然の大声にルフィはビックリしてしまう。

「何、油売ってやがる…って一人じゃなかったのか」
「は、はい。転けたところをこちらの方に助けていただいて」
「あ、初めまして。ルフィです」

ルフィも慌てて立ち上がり、ペコリとお辞儀をした。

「こちらは、やり手新聞記者のスモーカーさんです」
「……」

たしぎの紹介を聞いて、ルフィはスモーカーをじーっと見つめる。

(デカイ男だな〜。あれは煙草? 変わった形だなァ。サンジが吸ってんのと違う。葉巻ってヤツかな)

視線を逸らすことなく見つめているとスモーカーは、くわえていた葉巻を地面に落とした。
その顔は心なしか赤い。

「あれ? スモーカーさん?」
「あ、あの?」
「ルフィ!」

聞き覚えがある声に呼ばれ、ルフィは振り返る。

「サンジ! もう、どこにいた…の?」

思わず口調が普段通りに戻りそうになるが、なんとか踏み止まった。

「悪ィな。掲示板見てたんだよ」
「あの中にいたのか…」
「久しぶりだな。たしぎちゃんとスモーカー」

サンジの態度にルフィは驚く。
どうやら、たしぎとスモーカーも驚いているようだ。

「「知り合い?」」

たしぎとルフィの声が見事にハモった。



***



外は寒いので近くにある喫茶店で四人は話をすることにした。
人気のない奥のテーブル席に座る。

「ルフィさんも盗賊団の一人だったとは驚きです」
「あはは、新人なんです」

驚くたしぎにルフィは困ったように笑った。

「ほらよ」

スモーカーはサンジに封書を渡した。
サンジは手紙を一読する。

「……ふーん」
「なになに?」
「盗むモノが決まったぜ」

サンジに手紙を渡され、ルフィは内容を確認した。

「『つきかげとうぞくだんのみなさまへ』って子供が書いたの?」

たどたどしい字体を見てからルフィはサンジを見た。

「そうみたいだな」
「月影盗賊団って?」

「あ、私が考えたんです。リーダー格のサンジさんの髪の色から連想させてもらったんです」
「そうなんですか?」

恥ずかしそうに笑うたしぎをルフィは見つめた。
そんなルフィにスモーカーが説明する。

「記事にするとき盗賊団に名前がある方が書きやすかったからな」
「スモーカーさんも考えてくれたんですが…ちょっと変だったので」
「どんなの?」
「……ぐるぐる盗賊団とかうずまき盗賊団」

ルフィの問いに気まずそうにたしぎは答えた。

「ふっ! あはははっ! うぐっ…」
「……笑いすぎだ」

サンジに口を押さえつけられたが笑いの波は引かず、ルフィはブルブルと震えた。

「おれはそっちの方が似合うと思うがな。編集長に止められたから仕方ない」
「止められて良かったですよ。スモーカーさんの案だとお笑い集団みたいじゃないですか」

呆れたようにいうたしぎにスモーカーは睨みをきかせる。

「……言うようになったな、たしぎ」
「ご、ごめんなさい」
「っぷはー! 押さえすぎ! ふふ、あははは…」

ルフィはサンジの手から逃れるもまだ笑い続けている。

「……あんまり笑うと違う方法で塞ぐぞ?」
「っ! も、もう笑いません!」

サンジの意味深な視線にルフィは自分の両手で口を塞いだ。

「はァ、話戻すぞ」

ルフィは口を塞いだまま、コクコクと頷いた。

「こいつらは仲介屋みたいなもんだ。たまにおれ達に依頼してくる輩がいるんだよ」
「盗賊団のみなさんは住所不定なので依頼人の方もどこに頼めばいいか分からないんですよ。そこで私達に依頼人の方が手紙を持って来るんです。まァ裏ルートですけど」
「盗賊に依頼なんてあるの?」

ルフィの質問にスモーカーはカバンに入った手紙の束を見せた。

「うわ、いっぱい…これ、全部?」
「いや、ガセネタもある。そこらはおれ達が調べて信頼できる依頼人だけを提供してる。盗賊団が滞在している場所に依頼品があればそれを渡す」
「たまに滞在場所以外の依頼もあるけどな。盗賊は盗みのプロだから正規のやり方で取り返せないモノを依頼してくるヤツもいるんだよ」
「そう…なの?」

ルフィのよくわかっていない様子にサンジは苦笑した。

「要するに無理矢理取り上げられたモノを持ち主に返すって感じだな」
「あ〜、なるほど。でも、サンジ達の居場所がよくわかるなァ」
「新聞記者はどこにでも現れる」

ルフィの感心した眼差しからスモーカーは視線を逸らす。

「スモーカーさん、照れてるんですか? ルフィさんって可愛らしい方ですもんね」
「…うるせェ」
「ご、ごめんなさい」

そういえば自分は男だと言っていなかったことを思い出し、ルフィは口を開こうとするとサンジに肩を叩かれた。
サンジを見ると人差し指を自分の口にあててニヤニヤしている。
どうやら黙っていろということらしい。
ルフィは不思議に思いながらも頷いた。

「なんで盗賊の手伝いをしているんですか?」

先程までは若干砕けた話し方をしていたがお嬢様モードを続けろというのでルフィは口調を戻した。

「利害が一致してる」
「利害?」

スモーカーの解答にルフィは首をかしげる。

「はい、依頼人を提供する代わりに取材に応えてもらってるんですよ。あと私達は警察に盗賊団の居場所を教えないんです」
「捕まってもらっちゃ困るからな。盗賊団を記事にすると新聞の売り上げがいいんだよ」

スモーカーの言葉にたしぎも頷く。

「それで利害一致なんですね」
「そんで今回の依頼はティアラだ。祖母の形見を取り返して欲しいんだとよ」
「依頼人の祖母は王族だったらしい。駆け落ちしたんだが相手が貧乏でな。相当苦労したみたいだ」

依頼人のことを調べた内容が書いてある手帳を見ながらスモーカーは話す。

「依頼人の母親が結婚してすぐに祖父母は流行病で亡くなられてます。父親の病気も重なり、税金が払えず代わりに形見のティアラを渡したそうです」
「壮絶な家庭だな」

サンジは難しい顔でため息を吐いた。

「今は父親の病気も回復されて税金も払えているんですが祖母の形見を渡してしまったことを母親が深く後悔しているようです。そんな母親を見た幼い娘さんからの依頼ですね」

「お前ら新聞記者辞めて探偵にでもなればいいんじゃねェか」

相変わらずの情報収集力にサンジは感心とも呆れともとれる表情をした。

「新聞記者をクビになったら考えてもやってもいいな」

スモーカーはサンジのセリフに鼻で笑った。

「お前、ダンスできるか?」
「え? できるけど…」

お嬢様の影を完璧にするためによく練習したので踊れる。しかし、なぜ今そんな質問をサンジにされるのかわからずルフィはきょとんとした。

「今回は盗まなくても取り返せるかもな」
「どういう意味?」
「ほら、掲示板見に行くぞ」
「掲示板? あ〜、さっきの」

ルフィは人集りが出来ていた掲示板を思い出した。

「おれ達ももう行く。なんかあったら長鼻でも使って連絡して来い」
「ハイハイ」
「スモーカーさ〜ん、待ってくださいよ〜」
「ちょっと待って」

伝票を持ってスタスタと先を歩くスモーカーを追いかけようとするたしぎをサンジは呼び止めた。

「なんですか?」
「こいつ、男だから」
「へ?」

たしぎはマヌケな声をしてルフィの顔をじっと見る。

「本当…ですか?」
「うん、そうなんだ。なんか騙したみたいでごめんな」
「い、いえ! 別にいいですよ。ただ、驚いただけなんで」

黙っていろとジェスチャーしたわりに、あっさりと正体をバラしたのでルフィは不思議に思い、ちらりとサンジを見る。

「たしぎ!」
「は、はい! それではまた」
「たしぎちゃん、スモーカーにはこのこと内緒で」

スモーカーに呼ばれ、走り出そうとするたしぎにサンジは笑顔で言った。

「はい、わかりました」
「よろしくね」

気の毒そうな顔をしてスモーカーを見てからたしぎは苦笑して頷き、走りだした。
走り去るたしぎに手を振ってからルフィはサンジを見る。

「なんでスモーカーにだけ内緒なんだ?」
「面白いからに決まってんだろ。あいつが葉巻落とすほど動揺したトコ初めて見たぜ」
「?」

どうやらルフィは何もわかっていないらしい。
罪作りな奴だとサンジは内心思った。



***



「あ、もうあんまり人いないな」
「喫茶店で結構のんびりしたからな」

二人が掲示板の前に行くと人集りはもう少なくなっていた。
周りを気にせず、貼り紙に目を通す。
その内容は舞踏会が今夜七時に、緊急開催されるというものだった。

「舞踏会? 飛び入り参加ありで最優秀ペアには賞品あり…あっ! ティアラだ」
「そういうことだ。今回の依頼品は賞品になってんだよ。スモーカーの野郎に確認したから間違いねェ。最優秀ペアになれば盗む必要なく手に入るってわけだ」
「あ〜、なるほど。それでさっきの質問になるわけか」

盗む手間を考えれば最優秀ペアに選ばれた方が簡単かもしれない。

「ん? 誰が踊るの?」
「お前とおれ」
「えっ!? サンジ…踊れるのか?」

正直、踊れるとは思えずルフィは驚いてしまった。

「バカにすんなよ? あらゆる状況に対応できるようにいろいろ覚えてんだよ」
「ふえ〜、盗賊も楽じゃないんだな」

意外な努力をしているのが分かり、ルフィは感心する。

「そうだろ。褒めてくれ」
「え? よしよし……って、これはなんか違うか」

背伸びしてサンジの頭を撫でてからルフィは褒め方が子供を褒める様だと気づき首をかしげた。

「……癒された」
「わっ…もうなんだよ」

急にサンジに抱きしめられ、訳が分からずルフィは困惑した。

「なんかお前の行動がツボだったんだよ」
「ツボ? サンジの考えはよくわかんないなァ。ちょっと疑問に思ったんだけどさ」
「ん?」
「依頼品、取り返したら依頼人に返すよな」
「そりゃそうだろ」
「また取られたりしないのか?」

取ったり取られたりの繰り返しにならないかルフィは疑問に思ったらしい。

「それはないな。盗賊団が盗んだっていう証拠を確実に残すから取られた奴も諦めがつくんだよ。依頼人も安心するし、円満解決だろ」
「そっか〜安心した。えっと……放して?」
「イヤだな……でも、準備があるから帰るか」

渋々、放されると肌寒かった。
日が暮れて来たので少し寒さが強くなってきたようだ。

「う〜寒いな」
「抱きしめてやろうか?」
「い、いらない! 早く宿に戻ろ!」

サンジはルフィにグイグイと手を引かれて宿に向かう。
ルフィは照れ隠しに手を引っ張っているのだがサンジは結果的に手を繋ぐことができて満足だった。



***



日が暮れて準備の整った二人は賑わいをみせる屋敷に向かって歩いた。

「またこのドレスを着る日が来るとは思わなかったなァ」

ルフィは着るものに悩んだ末、お嬢様の誕生日パーティーに着ていたドレスにしたのだ。

「似合ってるぜ」
「そりゃ、どうも……結構、人がいるんだな」

サンジのセリフに半信半疑で応えて、ルフィは辺りを見る。
着飾った女性と男性達がルフィ達と同じように屋敷に向かっていた。

「緊張してんのか?」
「そりゃあするよ〜失敗したらどうすんだよ」
「最優秀ペアからティアラを盗めばいいから安心しろよ」

チラッとサンジを見てからルフィはため息を吐いた。

「なんだ? おれがカッコ良すぎて困ってるのか?」

普段は着ないタキシード姿をカッコ悪いと言ったら嘘になるだろう。
ルフィは口を尖らせながら拗ねた。

「っ……違…わないかもしれないけど困ってはないもん。人前で踊るのに困ってんの! なんでサンジは緊張してないんだか」
「いろんな修羅場を乗り越えて来たからな。それより、さっきの要約するとどういう意味だ?」
「む? さっきの?」

何か言ったかな、と考えているルフィをサンジは嬉しそうに見つめた。

「違わないってことは?」
「……サンジはカッコ良いです」

渋々とルフィは言ったのだがサンジは異常なほど嬉しそうに笑った。

「う、嬉しいの?」
「当たり前だろ。好きなヤツにカッコ良いって言われて喜ばないヤツはいない」
「……う〜」

返答に困り、ルフィは赤い顔で唸る。

「ま、悩んでくれ。おれのことで悩むなら大歓迎だ」
「サンジはズルイなァ」

そんなやり取りをしていると二人は屋敷に着いた。
中に入ろうとするとルフィは門番に声を掛けられた。

「飛び入り参加の方ですか?」
「はい」

不審に思われたかと身構えてしまったが、そんなことはなかったらしく門番はニッコリと笑った。

「あの…頑張って下さい」
「はい、ありがとうございます。あなたもお寒いでしょうが身体に気をつけて見張りしてくださいね」
「あ、ありがとうございます!」

ふわりと笑ったルフィを門番は赤い顔で見送った。

「はァ、怪しまれたかと思った〜」

門番から離れたあと、ホッと胸を撫で下ろすルフィを呆れたようにサンジは見つめた。

「お前はもっと自分の魅力に気づくべきだな」
「え?」
「鈍いのは可愛いが変な男に目を付けられそうで不安になるんだよ」
「?」

恋愛方面に疎いルフィは周りから寄せられる憧れの眼差しには気がつかないようだ。



***



「七時までまだ時間あるな。ティアラが依頼品か確認してくるからお前はこの辺で待ってろ」
「はーい」

多くの料理が並んでおり、ルフィはそれを食べながらサンジを待つことにした。
会場内には多くの人で賑わっていた。
隅には楽団の姿もあり、舞踏会の雰囲気を盛り上げる生演奏をしている。

(こんなに人がいるのに最優秀ペアに選ばれるかなァ)

もそもそと料理を食べながら少し不安な気持ちになった。

(悩んでても仕方ないか。ま、やるだけやってみよっと)

審査基準がよくわからないので何を頑張ればいいかわからないがルフィはとりあえず前向きに考えることにした。

「ね、君一人?」

突然、白いタキシードを着た男性に声を掛けられ、ルフィは驚く。

「え? 違いますけど…」
「そりゃあそうだよね〜。君みたいに可愛いコが一人なわけないよね」

なんだか嫌な感じがしてルフィは手に持っていた皿をテーブルに置き、その男と距離をあけた。

「なんで逃げるの?」
「いえ…そんなつもりは…」

お嬢様の影としてパーティーに出席したことは何度もあるのだが、こういう輩に声を掛けられたことはなくルフィは対処に困る。

「相手が来るまで一緒に待ってようよ」
「ちょっ…放してください」

強引に腰を掴まれ、ルフィは嫌悪感も露に男を睨んだ。

「そういう顔もいいね」

男はニヤニヤ笑うだけでルフィを放そうとしない。

「ホント可愛いね。名前はなんていうの?」
「なっ!」

さり気なくお尻を触られルフィはリアクションに困る。

(なんなんだ、コイツ!)

眩暈がしそうなほど疲れを感じているとルフィのお尻を撫でていた手が急に離れ、地を這うような低い声がした。

「おい、人のモンに何してんだ」
「サンジ!」
「いててっ」

振り返るとサンジが苛立ちも露に男の手を捻りあげている。

「…ちょっと待ってな」
「う、うん」

喚く男を押さえつけ、サンジはそのままテラスへと出て行った。
しばらくしてテラスからサンジ一人だけ戻ってくる。

「さっきの男は?」
「悪さ出来ないようにしてきた」
「そ、そう。怒ってるのか?」

具体的にどうなったのかはサンジの表情を見ると怖くて聞けなかったな。
どうやらサンジはまだ怒っているらしい。

「そりゃそうだろ。おれだってまだルフィの尻は触ったことねェのに」
「えっ…触りたいの?」

怒っている理由が予想外のものだったのでルフィはポカンとしてサンジを見上げた。

「当たり前だ。触っていいのか?」
「よ、よくないです」

ルフィは、じっと見つめてくるサンジから視線を逸らす。

「なんで抵抗しねェんだよ。怯えて抵抗できなかったわけじゃなさそうだったし、尻触られんの嫌じゃないのか?」
「嫌に決まってんだろ! なんで…うーん? ……あっ! わかった」
「どうした?」

サンジは苛立ちを引っ込めて理由を聞こうと思った。

「お嬢様の評判を落としたくなかったからだ。おれ、今まで何回かお嬢様の影をしてるときに尻触られたことあったけど、あのときも笑って流してた」
「……昔のクセってことか。今度からはもっと抵抗しろよ?」
「もちろん! 抵抗しない理由がわかってスッキリした」

ニコニコ笑うルフィを見て、サンジは苛立ちを吐き出すように深いため息を吐いた。

「お前の境遇を理解してやりたいんだがやっぱり腹立つな。ちなみに過去のセクハラからはどうやって逃げたんだ?」
「えっと……領主様がさり気なく助けてくれてたかな」

今、思えばルフィが嫌な目に遭うと領主が何かと理由をつけて自室へ帰るように言ってくれていた気がした。
領主を思い出して幸せそうに笑うルフィを見て、サンジは硬直した。

「っ……お前」
「サンジ? どうかしたか?」
「………」

不思議そうに見上げてくるルフィを今すぐ押し倒し、自分だけのモノにしたくなる。

ルフィ自身さえも気づいていないような淡い恋心にサンジは気がついてしまったからだ。

(……こいつ、領主に惚れてたのか。相思相愛だったわけだな…冗談じゃねェ)

ドス黒い感情がサンジの中を巡る。
ルフィが自分の気持ちに気づいていないのが何よりも救いだった。
そうでなかったら今頃何をしていたかわからない。

「…サンジ? どうしたの?」

急に黙り込んだサンジの袖をルフィは不安げに引っ張った。

「どうかしたんだよ。重大事件だ」
「えっ? なに?」
「言わねェ。一生、言わねェ」

例え、ルフィが自分の感情にいつか気づいたとしても自分を好きになっていれば問題ないとサンジは無理矢理そう考えることにする。

「気になるって!」
「……お前がおれを好きになったら言ってもいいかな」
「わ、訳がわからないぞ?」

どこか縮まらない自分達の距離の原因が分かり、サンジは舌打ちしたい気分だった。

「でも、原因が分かれば対策もできるって話だよな。よし、頑張るか」
「あ、笑った。えへへ、よかった〜怒ってんのかと思ったぞ」

ニヤリとだが笑ったサンジにルフィは安堵の笑みを見せる。

「発想の転換だよな。おれの方が絶対有利だし。ははは、さっさとあの野郎から引き離して良かった」
「なんのこと?」
「ははは、気にするなって。おっ、もうすぐ七時だな。真ん中を陣取ろうぜ」

よく考えればルフィの気持ちは自分に傾いてきているようにも思える。
どうせもう領主に会うことはないのだから領主の存在に焦ることはない。

「今度はニヤニヤしてるし…変なの」
「いやいや、ポジティブに考えたんだよ」
「ふーん?」

サンジの内心を知る由もないルフィは首をかしげた。
会場のほぼ中央で二人は向かい合うと七時の鐘の音が辺りに響き渡る。
楽団の奏でる演奏が変わり、その音楽に合わせて周り人々は踊りだした。

「やっぱり形から入らないとな。お嬢様、今宵のダンスは私と踊っていただけますか?」
「はい、喜んで」

サンジのセリフに笑ってからルフィはドレスの裾を軽くつまみ上げ、可愛らしくお辞儀をした。
そして、サンジに差し出された手へ自分の手を重ねる。

「結構見てるだけの奴も多いな」
「サンジは余裕だな…」

踊りながら辺りを観察しているサンジにルフィは感心した。

「まだ緊張してんのか? それなら周りは気にせず、おれだけ見てろ」
「うん。なるべくそうしてる」

一見すれば華麗に踊っているように見えるがルフィは必死なようだ。

「おれのことだけ考えて、おれのことだけ想え」
「そ、それはなんか違う気が…」

サンジのセリフにステップを間違えそうになりながらもなんとか持ち直す。
ルフィは徐々に赤くなる顔を夜風で冷やしたい気分になった。

「あはは、ついつい本音がでた」
「本音って…サンジは恥ずかしい奴だ」

特に反省もせず、サンジはニッコリと笑った。
返答に困ったルフィは今だ赤い顔で拗ねる。

「さて、そろそろフィナーレだ。お嬢様、最高の笑顔で踊ってください」
「……はーい。あはは、なんか楽しくなってきたかも」

ルフィは周りの人々が見惚れるほど楽しそうに笑った。

「……可愛い顔で笑いすぎ」
「わぷっ、何?」

ダンスの終了と同時に抱きしめられてルフィは驚く。

「誰にも見せたくねェから隠してみたりしただけだ」
「あはは、なんだそれ」
「お前は周り見てなかったから余裕なんだよ。はァ、やっぱり油断できねェな」

サンジに放されたあとルフィが周りを見ると他の人々はこちらに注目し、拍手喝采していた。
自分達を中心に円ができている。
状況が理解できず、ルフィは慌てた。

「えっ…えっ!? い、いつから」

ルフィは驚き、サンジを見上げる。

「曲の中盤すぎぐらいから。最後の方はおれ達しか踊ってなかったんだぜ?」
「そ、そうだったんだ…気がつかなくてよかった」

そんな状況だと気づいたら踊れていなかっただろう。
ルフィはとりあえず安堵した。

「おめでとうございます」
「え?」

突然の言葉に振り返る。
ティアラを持った初老の男がいつの間にか二人の近くに立っていた。

「最優秀ペアは誰の目にも明らかでしょう」
「ありがとうございます」

周りの拍手に促されルフィは少し屈んでティアラを頭に乗せてもらった。
そして、ルフィが周りにお辞儀をすると、さらに大きな拍手が二人を包んだ。

「えへへ、やった! 依頼成功だな!」
「よく頑張りました。お嬢様じゃなくてお姫様みたいだな」

はしゃぐルフィの頭を撫でてやりたいがティアラがあるので撫でれない。
代わりに右手で髪を梳く。

「ルフィさーん!」
「あ、たしぎ…さん!」

人集りを掻き分けて、たしぎがルフィに近寄ってきた。

「おめでとうございます! 見てましたよ! 素敵でした〜写真撮ってもいいですか?」
「えっ、なんか恥ずかしいなァ」
「じゃあコッソリ撮ります。というか何枚かもう撮っちゃいました! もう興奮です!」

自分のことのように喜ぶ、たしぎにルフィも嬉しくなった。

「ありがと。たしぎも踊ったの?」
「まさか! スモーカーさんと舞踏会の取材ですよ」
「スモーカー? あ、いた。目立つ人だなァ。サンジもいつの間に」

見当たらないと思ったら少し離れた場所でサンジと話していた。
ルフィが見ているのに気づくとスモーカーから視線を逸らされる。

「あれ? おれ、嫌われてる?」
「えっと…きっと逆ですよ」

たしぎから見て、スモーカーの顔がほんのり赤くなっているように見えるのは気のせいではないだろう。

「逆? 嫌われてないなら安心かな〜これから何度も会うから仲良くしたい」
「できますよ〜。あ、こっち来ますね」

スモーカーはずんずんと進んでルフィの前に来た。

「はい、依頼主さんに早く渡してあげてくださいね」
「ああ」

ニッコリと笑ってルフィはティアラをスモーカーに渡した。
受け取ったあとも何を話す訳でもなく、じっと見つめられルフィは首をかしげる。

「あの?」
「お前、金髪と付き合っるのか?」
「い、いえ……まだ」
「………そうか」

ルフィは突然の質問に動揺しながら応えた。
内容が内容なだけにルフィは赤面してしまう。
スモーカーは難しい顔をしてから、どこかへ行ってしまった。

「あ、あれ? スモーカーさん! 待ってくださいよ! ルフィさん、サンジさん、またいつか」
「うん、またな」

手を振るルフィをカメラで写し、たしぎは笑って手を振り返して走り去った。

「スモーカー…なんだったんだ」
「思うトコがいろいろあるんじゃねェか?」
「そんなもんかな」

ルフィは首をかしげて、不思議そうにスモーカー達が走り去った方向を見つめるのだった。



***



まだ賑やかな会場を抜け出し、ルフィとサンジは少し肌寒い中庭でのんびりすることにした。

「人がいないと落ち着くな〜寒いけど」

ルフィは大きく伸びをしてからサンジを見て笑う。

「そうだな。なァ」
「ん?」
「さっきの礼が欲しい」
「さっきってセクハラの?」

今日、礼を言わなければならない出来事はさっきのセクハラぐらいだろうと思い、サンジを見つめた。

「そうそう。言葉じゃなくて態度で示してくれねェ?」
「…また難しいことを」

多分、土下座しろとかそういう意味ではないように思う。

「な、何すればいいの…かな?」
「キス」
「うっ…」

はっきり言われて動揺してしまう。
しかし、助けられたことは心底感謝しているので嫌だとは言いにくい。
サンジに期待の眼差しで見つめられルフィは赤くなった。

「……少し、しゃがんで?」
「……了解」

思った以上に素直なルフィの態度に驚いてからサンジは少し屈んだ。
ルフィは周りに人がいないことを確認し、サンジの頬にキスした。

「助けてくれて、ありがとう」
「まさか…頬だけ?」

そう言いながらもサンジの表情は嬉しそうだ。

「どこにするかは指定されなかったもん」
「ま、こんなもんか。おれ達、付き合ってないもんな〜まだ」

まだ、というセリフを異様に強調され、ルフィは恥ずかしくてサンジから顔を逸らす。
あの質問は考えず、応えただけに本心にかなり近い。

「き、聞こえてた?」
「そりゃもちろん。脈ありってのが確認できたから浮かれてんだよ」

サンジの顔をチラリと見ると本当に幸せそうに笑っていて、ルフィは照れくさくなった。
少し寒そうなルフィにサンジは自分の上着をかける。

「あ、ありがとう」
「どういたしまして。次はどこの町に行くかな」
「……サンジとならどこへでも」
「すごい殺し文句だな」

セリフの直後、思いきり抱きしめられたがルフィは恥ずかしがりながらも抵抗しなかった。



***



「スモーカーさん、写真よく撮れてそうです。ルフィさん可愛い」

現像作業のために入っていた暗室からたしぎは笑顔で出てきた。

「そりゃよかった。盗賊の頭が欲しいって言ってたからネガごと盗まれる前に何枚か分けておけ」

新聞記事の原稿を書く手を止めて、スモーカーはたしぎを見た。

「会場でそんなこと話してたんですか…じゃあ全部、封筒にいれときますかね」
「……数枚でいい」
「スモーカーさんって好きなコの写真を手帳とかに挟むタイプなんですね」
「………」

確かに一枚ぐらい拝借しようかと思っていたが、助手に図星を指されていい気はしない。

「に、睨まないでくださいよ。あ、一つ質問していいですか?」
「なんだ?」
「例えば好きな人に秘密があったとしたら本人から伝えられたいですか?」
「……変な質問だな。そりゃそうなんじゃねェか?」
「そう…ですよね」

訝しげにたしぎを見たあとスモーカーは再び原稿に取り掛かった。
たしぎはルフィが男ということを話そうかどうか悩んでいたがスモーカー自身が気づくか、ルフィが話すまで待つことにする。
スモーカーがルフィの秘密を知ったときショックで寝込まないのを祈るばかりだった。















*END*


3 告白と再会を読む?