兵士達の足音でルフィは目を醒まし、上体を起こした。
「……む?」
自分の置かれている状況が分からずボンヤリと辺りを見回した。
その様子に気づいたビビがルフィに声を掛けた。
「おはよう、ルフィさん」
「あ〜そっか。捕まったんだっけ。ん〜! おはよう」
ルフィは昨日起きた出来事を思い出し、背伸びをしてからビビに朝の挨拶をした。
「兵士が食事を持って来たわ。よく眠っているたから起こさなかったんだけど」
テーブルには二人分の朝食が並んでいる。
「…ご飯出るんだな」
囚人のような扱いかと思っていたルフィはポカンとして、美味しそうな朝食を見た。
ルフィの反応にビビは苦笑いをした
「一応、客人扱いらしいの。鉄格子の中にいるんじゃ説得力ないけど」
「う〜ん、客扱いなのか。ま、食べるか? 脱走のために体力温存だな」
「ふふ、そうね」
二人は席に着き、朝食を摂ることにした。
「いただきまーす! むぐ…そういえばビビは脱出したらどうするんだ?」
「もちろん、村へ帰るわ」
故郷を思い出しているのかビビは優しい顔で笑った。
「ふえ〜、近くに住んでるのか?」
「いいえ、海の向こうにある村に住んでるの」
「海!? 見てみたい!」
「えっ……」
ルフィの反応にビビは驚く。
海の近い地域なので普通に生活していれば海を見ていないとは考えられなかった。
何か事情があることを悟ったが、ビビはあえて詳しく聞こうとは思わなかった。
「おれ、見たことないんだ〜、いいな〜」
「とても、壮大よ? ここを出たら見に行きましょう」
「うん! 船にも乗ってみたいな〜」
嬉しそうにルフィはうなずいた。
「ここを出たらすることがたくさんあるわね」
「そうなんだ〜。捕まってる場合じゃねェもん。早く出たいよな」
口を尖らせるルフィにビビは笑った。
***
「サンジ様、お客様が訪ねておいでです」
「は? おれに?」
朝食を済ませ、会議室で今晩の作戦を練っていたサンジは驚く。
わざわざ他国にまで自分に会いに来る人物が思いつかなかった。
「はい。あちらに……」
兵士が見る先をサンジが振り返ると扉の陰に隠れる見知った顔があった。
しかし、ほとんど隠れていない。
「……逆じゃないか、チョッパー?」
「うえ!?」
「いやいや、直さなくていいから。こっち来いって」
わざわざ隠れ直したチョッパーに苦笑しながら、サンジは手招きをする。
チョッパーはサンジの陰に隠れるように座り込んだ。
「……緊張した」
「人が苦手なのによく頑張ったな。で、どうしたんだ?」
「薬の調合はもう終わったから。おれだってロビンの役に立ちたいんだ」
決意を秘めた眼差しでチョッパーはサンジを見た。
「そうか。偉いな。いろいろと手伝ってくれ」
「えへへ、任せてくれ。……ルフィは?」
チョッパーはキョロキョロと辺りを見回した。
「あ〜…ちょっと捕まってるんだよ」
「えェ!? 大丈夫なのか?」
チョッパーは立ち上がり、心配そうにサンジにしがみついた。
「今夜助けるから心配ない」
「お、おれも手伝う!」
チョッパーはサンジによじ登り、サンジの隣のイスに座った。
「助かる。本当に手のかかるお姫さまで気が抜けないな」
「ルフィは男だぞ?」
サンジのセリフにチョッパーは首をかしげた。
「イメージだ。こういうときにさらわれるのは女性の役なんだけどな」
「そういうもんなのか」
なるほど、とチョッパーは納得した。
「サンジ君、ちょっといい? ……あら?」
部屋の入り口で立ち止まったナミにエースはぶつかる。
「なんだ〜ナミ……おっ、たぬきか」
サンジの横に座るチョッパーを見て、エースは笑った。
「し、失礼な! おれはトナカイだ!」
「あれはルフィの兄貴のエースと幼なじみのナミさんだ。こっちは魔女の助手のチョッパーだ」
サンジの紹介に三人は顔を見合わせる。
「魔女の助手? それは戦力になりそうね。チョッパー、よろしくね」
「う…よ、よろしく」
チョッパーは恥ずかしそうに返事をした。
「ん、おれもよろしく。よし! 役者も揃ったし配役を決めるか」
「私とエースは王様の警護をしようと思ってるの。そりゃあルフィを助けに行きたいけど今回狙われるのは王様でしょうからね」
「物凄く不満だが城の造りに詳しいサンジ王子にルフィ奪還は任せることにしたんだよ。外で騒げば逃げるのも楽になるだろ」
本当に不満そうにエースはイスに座った。
ナミも空いているイスに腰掛ける。
「その代わり失敗したらシャレにならないからね。私達は逃げられるけど城の中まで入り込んだら逃げられないわよ」
「任せて下さい。おれが必ず助けますから」
ナミを安心させるようにサンジは優しく笑った。
それを見てエースは複雑な顔をしてからチョッパーを見た。
「……当然だ。チョッパーはどうする?」
「こ、怖いけどおれはサンジと行くよ。おれでも役に立てることがあると思う」
チョッパーは震えながらもサンジに着いて行くことを決めた。
「よし、一緒に頑張ろうな。捕まってる場所は大体想像できる。あと、気をつけるのは兵士と罠だな。助けるまでは、できるだけ見つかりたくないし」
「エースが騒ぎを作ってくれるから大丈夫よ」
ナミはニッコリと笑ってエースを見た。
「…ボヤ騒ぎの話か?」
「あはは、ボヤどころか大火事だったじゃない」
「まァ騒ぎは任せておけ」
ルフィを村から逃がすときを思い出して、ナミは笑った。
エースもニヤリと笑った。
「さて、王様との連携も必要だろうな。チョッパーに今までの経緯を話しててくれ」
サンジは立ち上がる。
「了解」
「忙しそうだったからなかなか話、できないかもしれないわ」
「わかりました。では、またあとで」
***
ルフィとビビは鉄格子の前に座り、考え込む。
「やっぱり鍵は兵士が持ち歩いているみたいね」
「う〜ん、この術は消せないかもしれない…初めて見たなァ」
ルフィはまじまじと鉄格子を見る。
一応、祓ってみようとするがパチパチと電気のようなものが鉄格子を走り、反発するのがわかった。
「鍵がなきゃ開けれない仕掛けになっているんだわ」
「うわ〜誰が持ってるかわからないから困ったなァ」
「見回りに来る兵士もバラバラ。夜までに見つかるかしら」
う〜ん、と二人して悩んだ。
「壊そうとしても無理だったもんな〜」
「イスが壊れちゃったものね」
とりあえず力技で出ようとしたが鉄格子には傷一つもつけられなかった。
「魔法でも無理か?」
「ええ…反発されるだけだったわ」
前にしたことがあるのか、ビビは悔しそうに呟いた。
「う〜、行き詰まった。ご飯を持って来る奴から取る?」
「多分、助けを呼ばれて牢獄のような場所に閉じ込められると思う」
「それは困る…よな。う〜ん、サンジに聞いてみようかな」
ふとサンジを思い出し、ルフィはビビを見る。
「青の王子様のことよね? 昨日よりは長く話せるように頑張るわ」
ビビは張り切ってルフィを見た。
兵士に見つからないように部屋の奥へ行く。
ビビはルフィの肩に手を起き、精神を集中させる。
「うん、大丈夫。繋がってるわ」
「ビビ、無理すんなよ?」
「ええ、ありがとう」
ルフィの優しさにビビは微笑む。
そして目を瞑り、言葉を繋ぐことだけに集中した。
「サンジ〜聞こえてるか〜?」
『ルフィ、元気か?』
「あはは、元気だぞ」
心配そうなサンジにルフィは笑ってしまった。
『どうかしたか?』
「ん、鉄格子が手強くで出られないかもしれない。鍵は兵士が持ち歩いてるんだ」
しょんぼりとしてルフィは話す。
『鉄格子……まァ、術がかかってるだろうな』
「そうなんだ〜魔法も効かない…妖精もいないから頼めない」
『そう落ち込むな。地下にいるんだよな?』
サンジは苦笑しているようだ。
「うん、普通の部屋なんだけど扉だけが牢屋みたいな鉄格子」
『なるほどな。鍵がなきゃ出られないのか。こっちでなんとかしてみるから危ないことすんなよ』
「う、うん」
『捕まる場所が変わると予定が狂うからな。絶対助けてやるから余裕で待ってろ』
サンジはなんてことないように言うが実際は難しいことだろう。
誰が鍵を持っているのか分からないからだ。
「でも…大丈夫か?」
『なんとかなるだろ。ああ、そうだ。チョッパーも来てるぞ』
心配そうなルフィを元気づけるためにサンジはチョッパーが来たことを伝えた。
「チョッパー? 薬は?」
『作り終わってから来たんだ。やっぱりロビンちゃんが心配なんだろ。お前のことも心配してる』
「そっか〜。あはは、元気だって伝えといて?」
『了解。こんな状況だけどお前がアホみたいに元気で安心した』
「アホみたいは余計だ! サンジは失礼だ。……なんか話してるのに近くにいないのって変な感じだな」
変というか本当は寂しかった。
『……そうだな。でも今夜会える』
「うん…早くみんなに会いたいなァ」
『はァ……みんな、か』
「ん?」
盛大なため息を吐くサンジにルフィは首をかしげた。
『なんでもねェよ…とりあえず待ってろ。いいな?』
「はーい。ビビが疲れちゃうから、またな」
『あァ、無茶するなよ』
その言葉を最後にサンジの声は聞こえなくなった。
「ビビ、大丈夫か?」
「うん。あはは、ごめんなさい」
「ど、どうしたんだ?」
急に笑いだしたビビにルフィは驚いた。
「ふふ、だって…サンジさんの気持ちが分かったから」
「え? え?」
「ルフィさんは鈍いの」
「な、なんだよ〜サンジの気持ち?」
なぜ、このタイミングで鈍いと言われるのかルフィには理解できずに疑問符いっぱいの顔をしている。
「私が言うことじゃないわ。本当は聞くべきでもなかったんだけど…サンジさんには悪いことをしちゃった」
「ビビ、意味わかんないぞ?」
「うふふ、今は脱出のことだけ考えましょうか」
やけにニコニコしているビビにルフィは首をかしげるのだった。
***
「あー、あそこでおれに会いたいって言ってたらすげェやる気でたのに」
サンジはルフィのナイフをポケットに入れながら、ため息を吐いた。
「サンジ、どうした?」
「ちょっとヘコんでんだよ。分かっちゃいたけどなかなか前に進めねェな〜」
「へ?」
チョッパーは意味がわからず、ポカンとした。
「いやいや、こっちの話だ。あ、術がかかった鉄格子って壊せるか?」
「う〜ん、見てみないと分からないけど壊せるかもしれない」
「ホントか? そりゃ助かる」
「鍵を無くしたときの対処でロビンに教えてもらったんだ。術をかけた人間が解いてくれないときの対処の方が的確かな」
チョッパーは鉄格子の壊し方を悩み始めた。
「兵士が持ってる鍵が見つかればいいんだがな。うん、鉄格子のことはチョッパーに任せるか」
「うん! 準備もいるから、ちょっと出掛けて来るな」
チョッパーは走って、その場を離れた。
「よし、おれも頑張るかな」
計画通りにいかなかったときのことも考えて、サンジも侵入の準備に移る。
城内に多くの町の人々が避難してきていた。
シャンクスを信頼しているのか町の人々は落ち着いているように見える。
赤の王のことだ黒の国民達にも被害がないように戦う。
しかし、黒の王は国民のことまで考えない。その分、こちらが不利になるだろう。
兵士達も準備のためかバタバタと走り回っている。
彼らの緊張も伝わってきた。
一つの国と対立しようとしているのだから当然だ。
「……早く会いてェな」
ふと出た自分の呟きに苦笑しながらサンジは気合いを入れ直した。
黒の国へ出発するまで、あと少し。
*続く*
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