「到着!」

ルフィは勢い良く、赤の国の門を潜り抜けた。

「元気ね〜。私は疲れたわ」
「……おれもだ」

ナミのセリフにエースも疲れた声を出した。
そんなエースをナミは睨む。

「あんたのせいで疲れてんのよ!」
「ナミがルフィを心配しすぎるからだろ!」
「エースの方が過保護じゃない!」

ナミとエースは睨み合ってから同時にため息を吐いた。

「大丈夫ですか? ナミさん、お義兄さん」

サンジが二人の様子に苦笑しながら声を掛ける。

「大丈夫よ。気疲れだから」

ナミは疲れを吹き飛ばすように大きく伸びをした。
初めて一緒に旅をするだけにエースとナミはルフィが心配で仕方ないのだ。
心配されている本人は旅に多少の慣れがある。
しかも、今回は整備してある道を進めばいいだけなのでロビンに会いに行ったときよりも数倍、楽な旅だった。

「ちょっと待て。お前、今、義理の兄と書いておニイさんと呼ばなかったか?」
「被害妄想じゃないのか?」

ちらりとエースを見てサンジは笑う。
エースはルフィがサンジに懐いているのが気に入らない。
思わずサンジを睨む。

「エースはサンジがキライなのか?」

いつの間にかサンジの傍に来ていたルフィ。
険悪な雰囲気を察したのか悲しそうな顔で見つめられエースは口をついて出そうな文句を飲み込んだ。

「そーんなワケないだろ〜? ほらな、仲良し仲良し」

そういって引きつった笑顔でエースはサンジの肩を掴んだ。

「そっか〜、よかった」

エースの様子に安心したのかルフィはニカッと笑ってナミの横へ行った。

「……肩、掴むなよ」
「……おれだってイヤだっつーの」

ルフィが見ていないことを確認してエースはさっさとサンジから離れた。

「お前のこと嫌いじゃないんだが…なんかイヤなんだよ」
「その勘、合ってると思うぜ?」

サンジのセリフにエースは再び顔を引きつらせる。

「…………あんまりルフィに近づくなよ」
「無理」

鼻で笑ってからサンジはルフィの横へ行く。
エースの中でサンジは要注意人物になった。



***



ナミとエースが辺りを散策に出掛けたのでルフィとサンジは木陰で休むことにした。

「なんか暑い国だな」

ルフィは自分を手で仰ぎながらサンジを見た。

「火が有名な国だからな。鍛冶屋も多い」
「へェ〜じゃあこのナイフもここで作られたのかな?」

ルフィはエースがくれたナイフをサンジに見せた。

「そうだろうな。刃物の七割はこの国で作られてる。質がいいから売れるしな。ん? このナイフ、実用的だがお守りの一種だな」
「そうなの?」
「刀身に字が彫ってあるだろ? 持ち主を守ってくれますように、みたいなことが彫ってある」

鞘を抜いてサンジは刀身を見せた。

「ホントだ。気づかなかった…」
「どうした?」

ルフィがしょんぼりと肩をすくめたのでサンジは心配になった。

「目の下の傷はこのナイフでしたんだ。……エースに悪いことした」

ルフィはナイフを鞘に戻し抱きしめる。

「…昔のことだろ? お前が同じ過ちを繰り返さなきゃいいんだよ」

ルフィの傷を触りながらサンジは優しく笑った。
つられるようにルフィも笑顔になる。

「うん! ナミが泣くし、目を潰したいなんて二度と思わねェ。今はこのチカラ、便利だと思うもん」
「そうか、そりゃよかった」

にこにこと笑うルフィの頭を撫でているとサンジはその手を払い除けられた。

「さァ! 城へ行こう!」
「うお! エースか〜ビックリした〜。散策は終わったのか?」
「あァ。城へ行くぞ」

手を払い除けた張本人は勝ち誇ったように笑いながらルフィの頭を撫でる。

「心の狭い兄貴よね」

ナミはため息を吐きながらサンジを見た。

「今は我慢しますよ。可愛い弟が心配で仕方ないんでしょうし」
「確かに可愛い弟だと思うけどあんなのが自分の兄だったら苦労するわよ。せっかく外の世界に出られたのにルフィに誰も近づけないじゃない。……抑えられるトコは私が抑えるわ」

エースはルフィの手を引き城へ向かっていた。
ナミとサンジも後を追う。

「ありがとうございます。まァ、ルフィも嫌がってないみたいなんでほどほどにお願いします」
「あら、心が広いわね」

意外だというようにナミは驚いた。

「兄弟ですからね。他の男は近づけたくないですよ」

にっこりと笑ってサンジは言う。
そんなサンジを見て、ナミは脱力した。

「……あんたらがいたらルフィの交友が広がらないわよ。サンジ君もほどほどにしなさいよ?」
「……努力はします」

渋々とサンジは頷いた。



***



「ようこそおいで下さいました。客間にてお待ち下さい。ご案内致します」

門番の一人がサンジを見て深々とお辞儀をした。
そして案内を始める。

「サンジって有名なんだな〜」

ルフィは門番の後を追いながらサンジに話し掛ける。

「ここ近辺の王族には有名かもな。この城も何度か来たことある」
「ちゃんと王子様してるんだな〜」
「まァな」

感心するルフィにサンジは笑った。
適当に話をしているうちに客間に到着した。

「少々、お待ち下さい」
「あ、一応これ王様に渡しといてくれ」

サンジは封書を渡した。

「かしこまりました」

一礼して、門番をしていた兵士は部屋を出て行った。

「豪華な部屋だな。なんか簡単に城へ入れたし」

エースはソファーに腰を掛ける。

「この国の城は一階だけは一般人でも自由に入れる。美術品の展示会もたまにしてるみたいだな」
「へェ〜、国によって違うもんだな」
「この部屋にあるもの少し盗んでもバレないかしら?」
「いや、バレるだろ! 盗賊か!」

ナミの呟きにエースは素早く反応した。
ソファーに座り、和やかに話しているとドタドタと足音が聞こえてきた。

「よォ! よく来たな〜不良王子」

バタンと勢い良く扉が開き、赤い髪の男が満面の笑みで部屋に入ってきた。
全員ソファーから立ち上がったがその男がソファーに腰掛けたので、再び座った。

「……どうも」
「ありゃ? なんか大勢いるじゃねェか」
「…封書読んでねェのかよ」

サンジは呆れたように赤髪の男を見た。

「城まで足を運んだんだから話せばいいだろ〜。おれはシャンクスだ。気を遣わなくていい」
「あ〜、やっぱり王様なんだ…イメージ狂うなァ」
「気さくにもほどがあるわよ」

エースとナミも呆れ顔でシャンクスを見た。

「王様か〜サンジの父ちゃんとは全然違うな! じゃなくて違いますね…ん? 合ってる?」

ニカッと笑って、ルフィはシャンクスを見た。

「お? 無礼そうなガキだな。実に良いと思うぞ? 話し方は気にするな、元気が一番だ」

シャンクスは、がしがしとルフィの頭を撫でる。

「おれはルフィ。ナミとエースだ」
「「どうも」」

ルフィの自己紹介にナミとエースは軽く頭を下げた。

「お〜、よろしく。そんで話って?」
「黒の王のことで」
「……あァ〜、タイミング悪いな」

シャンクスは困ったように全員を見た。

「どういう意味?」
「城の中にスパイがいるとかなんとかで今、ごちゃごちゃしてんだよ」
「は?」

サンジは意味がわからず顔をしかめる。

「ウチの兵士が国家機密を黒の国へ流してるって噂があってな」
「ただの噂だろ?」
「……この国は黒の王と仲良しってわけじゃねェんだよ。刃物の輸出が多いから会う機会も割りとあるがな。そのときに城の内情を言われるんだよ。まァ、ほのめかす程度だがな」

シャンクスは難しい顔でため息を吐いた。

「黒の王と仲良くないなら、こっちも難しい話になってきたな」
「なんだ? とりあえず言ってみろ」
「実は……っ」

サンジが話そうとすると隣に座るルフィがサンジの口を片手で塞いだ。
文句を言おうとしたがルフィは真剣な顔で空中を見ていた。

「どうした?」
「……なんかいる。あそこの壁。時計の下」
「ルフィ、ナイフ貸せ」

サンジはルフィからナイフを借り、時計の下目がけて投げつけた。

「お〜! 命中したぞ? サンジはすごいな!」
「そう褒めるなよ…襲うぞ?」
「こらこらこら! サンジ君、ぶっちゃけすぎ! エースは睨みすぎ! 冗談だから……たぶん」

ナミはエースがサンジに殴りかからないように落ち着かせる。

「で、結局なんだったんだ?」

シャンクスは訳が分からず聞いてきた。

「あれがスパイの正体じゃないかなァ」
「ん? 葉っぱだな」

さっきまで何もなかった場所に葉っぱがナイフで貫かれていた。

「術をかけて盗聴してたんだと思う……なんかよくない気配だった」
「……なるほどな。よくやった、ルフィ。いい目を持ってるな」
「えへへ」

シャンクスに褒められ、ルフィは嬉しそうに笑った。

「なんで盗聴?」

エースは状況がよくわかっていないようだった。

「内部分裂を狙ってたんだろうな」
「内部が崩れているときに戦を仕掛ければ勝ちやすいものね。上手くいけば内紛ということもあるし」

サンジとナミは難しい顔でエースに答える。

「そういうことだ。黒の王は領土を広げたいんだよ。チッ、誰か入れ知恵してる奴がいるな」

シャンクスも気難しい顔でしばし悩む。

「ん? そういや、お前らの用件聞けてなかったな。話してみろ」

今度こそサンジはロビンが命を狙われて迷惑していることを伝えた。

「なるほど、魔女も困ってんだな。…よし、手伝ってやるよ。スパイの礼もあるしな」
「ありがとうございます。ま、作戦練らなきゃ駄目だな」
「ははは、困ったら力ずくでもいいんじゃねェか? ちょっと頭にきてんだよな」

シャンクスは笑っているがその目は笑っていなかった。

「遅くなったし、今日は城に泊まれよ。おれはスパイの件をみんなに話して来るから自由にしといてくれ」

来たときと同様にバタバタとシャンクスは部屋から出ていった。

「はァ、なんとかなりそうだな」
「そうだな〜堅苦しい感じの話し合いじゃなくて安心した」

エースは伸びをした。

「もうちょっと大変でしょうけどね。交渉次第かしら」
「おれはハラへった」

ルフィはテーブルに突っ伏した。



***



その後、四人は夕食をご馳走になった。
黒の王をどうするかは明日話し合うことになった。

それぞれがのんびりした時間を過ごす中、ルフィは風呂上がりの火照った身体を冷やそうと一人、中庭のベンチで涼んでいた。
そろそろ、みんなの元へ戻ろうと立ち上がる。

「こんばんは」
「へ? こんばんは…」

突然、声を掛けられルフィは身構える。

「どうかした?」
「あんた…何者だ?」

闇に溶けそうな黒いコート。フードをしていて相手の顔が見えない。

「何者だっていいだろ? それより、よく分かったね」
「……なにが?」

ルフィはジリジリと後退りして相手と距離をとる。

「葉っぱのことさ。上手く術を掛けたつもりだったんだけどね。ルフィは目がいい」
「っ……お前がやったのか?」

名前を呼ばれ驚くが盗聴していたのだと思い出し、相手を睨んだ。

「そうだよ。あはは、逃げないでよ。迎えに来たんだから」

離れていたはずの距離を一気に縮められ、布を口にあてられる。
疑問を口にする間もなくルフィの意識は暗い暗い闇へ落ちて行った。



***



「遅いなァ…私、ちょっと見てくる」
「……おれも」

帰りの遅いルフィを心配してナミとエースは立ち上がり、部屋を出る。
サンジは、もしルフィが帰ってきたときにすれ違いにならないよう書き置きをしてから部屋を出た。
ひどく嫌な予感がした。

歩き回るがルフィは見当たらない。
不安が募る。

サンジは兵士に聞き、ルフィが中庭へ向かったことを聞いた。
急いで中庭に向かう。

「ルフィ! いないのか?」

名前を呼んでみるが返事はない。
自分の声が焦っているのを感じた。

「ん?」

サンジはベンチにナイフが落ちているのを見つけた。

「……大事なもんを置いてどっか行くわけねェよな」

不安が形になっていく。
シャンクスに事情を話して兵士にも捜索させようと振り返るとナミが息を切らせてこちらへ走って来ていた。

「サンジ君! ルフィが…ルフィがさらわれた」
























*続く*


14 捕らわれの魔法士を読む?