ルフィはゾロ姿のナミに会いにみかん畑へ行くことにした。
「おーい、ナミー!」
「あら、ルフィ。私で暇潰しするのかしら?」
「うっ…そんなわけ…ない」
「ウソつけないんだから隠さないの」
ゾロの姿をしていても、やはり笑い方はナミなんだなとルフィは思った。
「ナミは男になったのにしゃべり方は変えないんだな」
「男になったって…嫌な言葉ね。いくらゾロになったからって中身は私なのよ? なんで話し方変えなきゃいけないのよ」
「それもそうだな」
ルフィはナミの嫌そうな言葉に納得する。
「女口調のゾロなんてレアじゃない? 楽しむことにしたのよ」
ナミはにっこり笑いルフィを見た。
「ナミはおもしろいな」
ルフィもニカッと笑い、ナミを見る。
「ルフィ〜どこだ〜?」
呼ばれた方をルフィが見てみるとキョロキョロしながら甲板を歩きまわるサンジの姿が見えた。
「ん? サンジ…じゃなくて今はチョッパーか。チョッパー! こっちだ」
「ルフィ! 足りない薬草を買ってきてほしいんだ」
ルフィを見つけたチョッパーは笑顔で駆け寄る。
「いいぞ! チョッパーは解毒剤を作っててくれ」
「ありがと、ルフィ。おれ、がんばって作ってるぞ」
ニコニコ笑いながらチョッパーはルフィに手を振った。
「ちょっと待ちなさい。あんた、どの薬草買ってくるかわかってる?」
「えっ!」
走り出そうとしたルフィはナミの言葉を聞いてピタッと立ち止まる。
「いや…わかんねェ」
ナミは額に手をあて、ため息を吐いた。
「いいわ、私も行くから。チョッパー、どんな薬草か教えてちょうだい」
「ご、ごめんな、おれがちゃんと言えばよかったな」
チョッパーは謝った後に薬草の説明を詳しくナミにした。
「わかったわ。ほら行くわよ、ルフィ」
「はーい」
黙って成り行きを見守っていたルフィはおとなしくナミについて行った。
そんな二人に手を振ってチョッパーは見送る。
「見た目はゾロでも中身はナミだから迷子になる心配がないなァ」
ボソッと呟いた後、チョッパーは再び解毒剤を作るために男部屋に戻った。
「中身はチョッパーだけど情けないサンジくんもおもしろかったわね」
おかしそうに笑いながらナミとルフィは薬草を買いに街へ出た。
「サンジはナミとロビンの前だといつもおもしろいぞ」
女に甘いサンジの態度を思い出してルフィは笑った。
「そう? 私はルフィの前にいるときのサンジくんの方がよっぽどおもしろいわよ」
「そうか?」
「本気…なのかもね」
「本気?」
ルフィはナミの言葉を繰り返し、不思議そうな顔をする。
「フフ、あんたは分からなくていいわ」
「なんか、ずりィな〜おれだけわかってない」
ブーブーと文句を言い、口を尖らせながらルフィはナミを見た。
「ウチのクルーはみんな、あんたの特別になりたいのよ」
「みんな特別だぞ? わかんなかったか?」
「はァ…そうね。あんたが何も分かってないことが分かったわ」
深いため息を吐き、ナミはスタスタと先を急いで歩いた。
「もーなんなんだよ〜。あっ、ウソップ!」
「よー! ルフィにゾロじゃねェか」
二人は両手に買い物袋を持ったウソップと出会った。
「あ〜ウソップ、こいつはゾロじゃなくて…もがっ」
ナミだと言おうとしたルフィの口をナミが後ろから抱き込むように片手で塞いだ。
「ゾロじゃない? どう見てもゾロじゃねェか」
「そうよね? ウソップ」
「はァ!? ぞ、ゾロどうしたんだ?」
ルフィの口を手で塞いだままナミは女口調でウソップに話し掛ける。
「何がかしら? ウソップは買い出し終わったの?」
「え! あ、あァ…もう帰ろうかと思ってる…」
女言葉のゾロにウソップは動揺が隠せないようだ。
ルフィは笑いを堪えているためにナミの腕の中でぶるぶると震えている。
「そう? 私達も薬草を買ったら帰るからまた後でね」
「あ、あァまた後でな」
ギクシャクと手を振るウソップを見送ってナミは震えるルフィを引きずり建物の陰に連れ込んだ。
「…アハッアハハ! な、ナミ…お前ッサイコーだ! あはは」
口を押さえる手を離された途端にルフィは笑い転げた。
「あはは、からかい過ぎたかしら? 船に戻るのが楽しみね」
「あはは! …見たか? ウソップの顔…ぷっ、ははは」
「フフ、ロビンだと見破られそうよね」
しばらく笑い合った後、二人はチョッパーに言われた薬草を買い、船に戻った。
「おい! ナミ、コノヤロー!」
船に戻ると大笑いするウソップ、サンジ、チョッパーと一人激怒するゾロがいた。
「てめェ、その姿でウソップと喋ったらしいじゃねェか」
「あら? 街で仲間に会ったら普通、話をするでしょ?」
「だーッ! 女言葉は止めろ!」
そんな二人の様子にルフィも笑い始める。
どうやら血相を変えて船に戻ってきたウソップがナミの姿をしたゾロに『ゾロがおかまになっちまった!』と言ってしまったらしい。
「ははは! ナミさん最高です!」
「ギャハハ! おかまゾロって!」
「あはは! ゾロもナミもおかしいぞ!」
何があったか分かったウソップは大笑いし、その笑い声につられてサンジとチョッパーも甲板に出てきた。
そして二人もウソップから話を聞き、甲板は大爆笑に包まれたようだ。
「チョッパー、笑ってないで早く薬を作れ」
その後、薬ができる前にロビンが船に戻り、再び甲板は爆笑騒ぎになったのは言うまでもない。
***
薬は完成し四人は無事、元の身体に戻れた。
ゾロは元に戻った後も、機嫌が悪い。
理由はみんながゾロを見るたびに吹き出すからだった。
「私と一緒にいると楽しいでしょ?」
「おう! めちゃくちゃ楽しい!」
「フフ、一歩ぐらいはリードできたかしらね」
みんな特別と言う船長を振り向かせるのは長期戦になるだろう。
だが、楽しそうに笑うルフィが近くにいるなら今はそれでいいか、とナミは思った。
今は、ね?
*END*