「ゾロかな」
「へェ、ゾロの方なんだ?」
「だってゾロはカッコイイじゃねェか」
「そう…かしらね? まァ戦闘中はカッコイイかもね」
迷子になる剣士の姿が頭に浮かび、すぐには納得できないナミだった。
「初めての仲間だしな! 特別だ、ししし」
「そういえばそうだったわね。あんたが好きなのはサンジくんかと思ってたわ。料理人だし」

色気より食い気のルフィはサンジを選ぶとナミは思っていた。

「サンジは別腹だ」
「…よく分からないけどサンジくんはサンジくんで好きなのね」
「おう! 当たり前だ」
「ゾロも全然報われないわね」
鈍い船長にため息を吐いてナミは喧嘩中の二人に目を向けた。
「あら? いつの間にか終わってるわね」
「ホントだ。今日は何も壊さなかったな」

サンジとゾロは喧嘩すると誰かが止めない限り、何かしら壊すまで止まらないことが多い。

「そうね、めずらしい。ご褒美にゾロに感謝の気持ちを伝えてきなさい」
「お? さっきの話か?」
「そうよ。ゾロだってたまには報われてもいいと思うのよ」
「?」
「ワケ分かんないって顔ね。まァいいのよ、ゾロに会いに行ってあげて」
「わかった〜」

まだ怒り冷めやらぬ様子で海を見ているゾロにルフィはパタパタと駆け寄る。

「ゾロ〜」
「ルフィ」

ルフィを見るとゾロの機嫌はすぐに直った。

「おれはゾロが好きだぞ」
「…は?」

にこにこと笑いながらそういうルフィにゾロはポカンとした。

「サンジよりゾロが好きだぞ」
「………」

己の口を押さえたゾロの顔が真っ赤だった。

「どうしたんだ、ゾロ。お前、顔赤いぞ?」
「どうしたってお前…」

ゾロに言わせればお前がどうしたという感じなのだがルフィは全くわかっていないようだった。

「どういう意味の好きなんだ?」

この船長の心を読むのは不可能と悟ったゾロは素直に聞いてみることにした。

「ん? 好きに種類があるのか?」
「…ある」
「そうかァ?好きな奴は好きだろ。違いとかよくわかんねェ」

口で言っても理解されないと思ったゾロはルフィの肩を掴んだ。

「なんだ?」
「ちょっと黙れ」

わけわからんというルフィの口をゾロは己の口でふさいだ。

「っ!」
「おれはこういう事をしたいぐらいお前が好きだ」

軽く触れるだけの幼い口づけ。
驚き固まっていたルフィはゆっくり口を開いた。

「びっくりした…サンジとしかしたことないから」
「はァ?」

ルフィの言葉に今度はゾロが驚く番だった。
額に青筋が浮かぶ。

「でも…なんか、全然違った」
「ルフィ?」

腰にある剣に思わず手をかけていたゾロは動揺しているルフィを見て怒りが消える。
とりあえずコックを斬るのは後にしようと剣から手を放した。

「…なんかドキドキした。サンジとしたときはこんなにドキドキしなかった」

ルフィは真っ赤になって俯いてしまった。
俯いてしまったルフィにはわからないがゾロも同様に顔を赤くしていた。

「本当か?」
「うん、なんでだ?」

困ったようにルフィは呟いた。

「それは好きの種類が違うからだ」
「そう…なのか…でもゾロが近くにいるときにドキドキしたら困る」
「別に困らない。おれは嬉しい。それにお前だけじゃない」

ルフィの手を掴み、そのままゾロは自分の胸に手をやった。

「あ…ゾロもおれと同じなのか」

ドキドキと手のひらに伝わる鼓動は何故か心地よかった。

「ドキドキしてんのおれだけかと思った」

ゾロはルフィをそっと抱きしめる。
ルフィは静かにゾロの背に手を回した。
耳を胸に当てるとゾロの鼓動が聞こえてきた。
目を閉じて鼓動に耳を傾ける。

「ルフィ、もう一度キスしていいか?」
「…えっ! そ、それは…」

安心して鼓動を聞いていたルフィは驚き俯く。

「まァ嫌だって言われてもするけどな」
「わわわっ」

顎を捕らえられ、赤い顔でルフィはぎゅっと目を瞑った。

「んっ………」

先ほどより長い口づけにルフィは眩暈がした。
どうしようかとゾロの腕をぎゅっと掴むと名残惜しそうにゾロが唇を離した。

「今日はこのぐらいにしとくか。先に進むとお前、倒れそうだしな」
「…ふぇ?」

にやりとゾロに笑われてもルフィにその意味は分からなかった。
困惑しているルフィを再び抱きしめてゾロはしあわせの余韻に浸った。


一方その頃、ナミとサンジは抱き合うゾロとルフィを遠目から見ていた。

「ナミさーん! 離してくださーい! あー…」
「サンジ君、今日は諦めて明日からまた邪魔しなさいよ」

必死にゾロの邪魔をしに行こうとするサンジをナミが腕を掴んで止める。

「あァ…ルフィが…クソ剣士に…汚される…」
「さすがに失礼よ…先に手を出していたのはサンジ君の方なんでしょ?」

しばらくの沈黙。
自嘲しながらサンジはナミを見た。

「ナミさん…キスしたっていうのは事故ですから。おれの意志でしたわけじゃないんです。ラッキーハプニングなんですよ」
「じゃあまだ望みはあるじゃないの?」
「…えっ?」
「真剣にキスしたらルフィもサンジ君にドキドキするかも知れないわよ?」
「そうか…そうですよね。明日にでも真剣にキスしてみます」
「はいはい。頑張って」

やる気を取り戻したサンジは鼻歌を歌いながらキッチンに消えて行った。

「ルフィのおやつでも作るのかしら。ゾロも前途多難ね」

とりあえずゾロにサンジ引き止め料を払って貰おうと思うナミだった。















*END*