「失礼します。ルフィ!」
ルフィの存在を確認した途端に嬉しそうな顔でサンジは笑った。
思わず顔を逸らして、ルフィは不機嫌そうに話す。
「お前な〜0点取るとかするなよ」
「おれも同じ教室で一緒に追試受けたかったから」
追試の人数はそれほど多くはないので、別のクラスでも確かに同じ教室にはなる。
しかし、そういう問題ではないのだ。
「そうじゃなくて…っ! な、なんですぐ横に座るんだよ!」
「ダメ?」
「〜っ! 好きにすれば!」
「うん、好きにする」
ダメだと言うとサンジを意識しているようで何となくイヤだった。
密着するほど近くに座られるとイヤでも意識してしまうが今は説教が先決だ。
さっさと話をつけて帰ろう。密室に二人きりは心臓に悪い。
「じゃなくて! 期末はちゃんとしろ……何、肩に手を回してんだ」
「ルフィ、好きにしろって言ったから」
「…お客さん、タダで触らないでください」
肩に回るサンジの手の甲を抓りながらルフィはにこりと笑った。
「いくら?」
「…ちょっと高校生には厳しい値段かなァ」
「頑張るよ、貯金結構あるし」
「値段設定まで考えてねェよ! しかも、お前が金持ちなの忘れてた! というか、そんなことで無駄遣いするな!」
「ルフィに触れるなら無駄じゃない。そういえばウソップはタダで触ってる」
じとりとした眼差しをサンジに向けられ、ルフィは内心焦りつつ応えた。
「……下心ないなら触ってもいいの。スキンシップなの!」
「難しいこと言うな。ルフィに触りたいけど下心なしは無理だ。好きなら下心は消せない」
「だあー!! おれはこんな話するためにわざわざ呼び出されたんじゃねェんだよ! 期末テストはちゃんとしろよ!」
立ち上がり、サンジのいるソファーの正面に座り直した。
恥ずかしさで顔が熱い。
何度好きだと言われても慣れることはない。
直球な好意には慣れていないからか、それともサンジが相手だからだろうか。
いつもは流せる告白も二人きりだと流しきれずに動揺してしまった。
サンジは困ったようにルフィを見ている。
「…期末テスト」
「えっ?」
「期末テストもルフィは追試?」
ここでそうだと答えた場合、中間テストと同じ結末が見えている。
しかし、嘘はつけない。性格的に。
思考をフル回転させ、適切な答えを探した。
「あ! 勉強!」
「ん?」
「期末でおれが追試にならないように勉強教えてくれよ」
自分が追試にならなければいい。単純明快な答えだが自力では難しい。
それなら、学年トップのくせに阿呆なサンジに教えてもらえばいい。
我ながら名案だ。
「うん! それならテスト前も一緒だ」
「勉強、するんだからな?」
「……うん」
返事まで妙な間がある。
「よし、ウソップも呼ぶか」
「ちぇっ。でも、それがいいかな」
「ん?」
「二人で勉強なんて、襲いそうなシチュエーションだ」
「っ! そういうのはいいから! きちんと先生達に謝って来い。次からはちゃんとしますって」
「わかった。呼び出されるとルフィといる時間が減る。今度から気をつける」
論点はズレているが教師達の期待通り、いや、期待以上の説得ができたのではないだろうか。
追試する人間は減るし、学年トップは真面目にテストを受ける。
理想的な解決法だ。勉強は嫌だがサンジの奇行を止められるなら致し方ない。
一人満足していると、まだドアの前にいたサンジがルフィを振り返った。
「ルフィ」
「なに?」
「おれはテストの結果よりお前と一緒に居られることの方が大切だから」
そう言って笑ったサンジは応接室を出て行く。
あとに残されたルフィは無意識に赤くなっている自分の頬を抓った。
深呼吸をして立ち上がり、応接室を出る。
サンジのああいうところは苦手だ。
どうしていいかわからなくなるから。
自分の中の知らない感情が揺らめいて怖くなるから。
それでもサンジから離れようとは思わないのだから、自分も結構変わり者なのだろうかと思うルフィだった。
*END*