夕暮れ時、空を見上げるルフィを呼ぶ声がした。

「ルフィ〜ちょっとこっち来い」
「なんだ〜?」

ルフィが駆け寄るとサンジは壁にもたれ座り込んでいた。

「寒ぃんだよ…あとでなんか作ってやるから抱きしめさせろ」
「抱っこか〜いいぞ! おれも寒ぃ〜」

白い息を吐きながら、しししと笑う。
ルフィはサンジの足の間に座り、サンジにもたれ空を見た。
サンジはそんなルフィを自分のコートの中に入れる。
そして後ろから抱きしめるようにサンジはルフィの腹の上で手を組む。

「薄着だからだろ…冬島が近いから寒さ対策しろってナミさんが言ってただろ?」
「そうだっけ? ん? でもサンジは寒ィならキッチンに行けばいいじゃねェのか? みんな寒いから部屋にいるぞ?」
「……お前は甲板にいるだろ?」
「だって雪が降りそうなんだぞ!」

振り返り、空を指差してルフィは真剣に言った。

「はいはい。ウチの船長は雪が好きですね〜。明日になりゃ積もってるっての」
「おれは今日中に見たいんだ!」
「わかってるよ。雪が降るまでお前は外にいる気だろ?」

後ろから抱きしめる手をサンジは強めた。

「風邪引いたらどうするんだよ? ま、健康が取り柄のお前を心配しても…仕方ねェんだけどな…」
「…心配してたのか?」

一瞬の沈黙。

「心配して悪いか? こんな寒い中、薄着で、しかも一人でアホみてェに空ばっか見上げて。……おれに気づけよ」

サンジの声音が少し不機嫌なものに変わった。

「悪くねェよ。嬉しい…けど、ずっと外にいたのか?」
「…まァな、アホみたいなお前を見てた」
「話しかけろよ〜なんか恥ずかしいだろ〜」

ルフィは赤くなり、うつむく。

「震えてただろ?」
「えー、……うん。寒かったから」
「それでも部屋に戻る気なかったんだろ?」
「………う、うん」

バツが悪そうにルフィは答える。

「やっぱりな…はァ。だから、目が離せねェ」
「……そうかァ? でも今はあったかいぞ」
「おれがいるからな」
「うん。サンジがいなきゃおれは困る」

腹の上にあるサンジの手にルフィは自分の手を重ねる。

「……よくわかってるじゃねェか。それなら雪ばっかり待ってねェでおれも見ろよ」

少し嬉しそうにサンジは笑った。

「んん? サンジな〜結構見てると思うけどな」
「見てねェよ」
「えー、なんか自信満々だな〜」
「…おれはお前をよく見てるからな。目、合わねェし。まァそんなお前を見てるのは楽しいけどな」

笑いながらサンジはルフィのうなじに口づけた。

「くすぐってェよ〜おれは料理を作ってるサンジを見るの好きだぞ?」
「へェ? …そりゃ初耳だなァ」
「うわっ…首、なめるなっ! サンジは密着すると危ないからヤダっ」

暴れるが効果なし。
楽しそうなサンジにルフィも暴れる気が失せそうだ。

「あっ! ストップストップ! 上、上!」
「…なんだよ? お、雪」

見上げるとしんしんと雪が降り始めていた。

「へへ、サンジと一緒に見れたから満足だ」
「そりゃよかった。うわっ余計冷えてきたな〜なんか温いもんでも飲むか?」

ぎゅっと抱きしめ、サンジはルフィの耳元に口を寄せる。

「……それともこのままここでアツくなるようなこと、するか?」
「却下! おれはあったけェ飲み物が飲みたい! サンジ〜作ってくれよ」

ルフィはスルッとサンジの腕から抜け出して立ち上がる。そしてサンジの手を掴んで甘えた。

「はァ…色気より食い気か。…仕方ねェな。よし! とびきり美味いモノ作ってやる」
「やったァ! 早く早く」
「はいはい」

ぐいぐいとキッチンに向かって自分の手を引っ張るルフィに苦笑しながらサンジは立ち上がる。

「あっ、サンジ!」
「ん? ……っ」

ルフィが背伸びをし、サンジの唇に軽くキスをした。

「あ、あっためてくれたお礼だ! は、早くなんか作ってくれよな!」

真っ赤になったルフィはキッチンに逃げるように走り去った。

「…ルフィからしてくんの初めてじゃねェか?」

珍しく赤くなった顔のままでサンジはルフィの走り去った方を見る。

「…少し頭冷やしてから行くか。料理作る前に襲いそう」

ニヤける口元を片手で隠し、愛しい船長のために最高の手料理を作ろうとサンジは頭の中をレシピで埋める。

「寒いのも悪くねェな」

一人、降り続ける雪を見ながらぽつりと呟き、真っ赤になって待っているであろうルフィを想ってサンジもキッチンへと入って行った。

















*END*