「やっぱり、嫉妬させるなんて止めとくか」

嫉妬もさせてみたいがサンジは笑っているルフィが好きなのだ。
無理に拗ねさせる必要もない。

「独り言なら別の場所で言え…うるせェ」
「あ?」

サンジは気づかなかったが近くでゾロが寝ていたようだ。
反射的に喧嘩腰になる。

「存在感皆無のお前が悪い」
「……なんだと?」
「やるか?」

腰にある剣に手を伸ばすゾロの額には青筋が浮かんでいた。

「何してんの、ルフィ? あ、ゾロにサンジ君、島に着いたわよ」

サンジとゾロが声のした方を見ると黙り込み俯いているルフィと不思議そうな顔のナミがいた。
船はいつの間にか島に着いていたようだ。
それならばゾロを構っていては時間がもったいないとサンジはルフィを見る。

「了解です、ナミさん。ルフィ、一緒に町へ行くか?」
「………」
「……ルフィ?」

いつもなら太陽のような笑顔を向けてくれるはずなのに反応がない。
不審に思いサンジはルフィの肩に手を乗せる。
とたんに、その手を払われた。

「る、ルフィ?」

サンジは怒らせるようなことをしたかと考えるが覚えがない。

「サンジなんか……」
「え?」

ボソッと呟いたかと思うとルフィはサンジを睨み上げた。

「っ…サンジなんか嫌いだ!」

ビシリとその場の空気が固まったのがナミには分かった。
ルフィはゾロも睨み上げ、叫んだ。

「ゾロも大っ嫌いだ!」

ゾロはその場に崩れ落ちた。
ルフィは言うだけ言うと走り去ってしまった。
ナミはルフィの後ろ姿を見た後、視線をサンジ達に戻した。

「うわ…屍が二つも」

サンジはルフィに手を払われた時の格好のまま、ゾロは崩れ落ちたまま固まっていた。

「ほら、しっかりして! サンジ君はルフィの後を追いなさい!」
「な、ナミさん…ありがとうございます」

なんとか正気に戻ったサンジはルフィの後を追った。

「ゾロは…もう使い物にならないかしら」

確かにルフィに大嫌いと言われたら自分もこうなるだろうとナミはゾロを不憫に思った。

「なんで…大嫌い? コックは嫌いなのに…おれは大嫌い? はは、夢か…夢だな」
「重症だわ…ルフィ本人にしか治せないわね」

ぶつぶつと呟き続けるゾロを哀れに思いつつ、記憶が消えるほど頭を強打してあげた方がゾロのためかもしれないとナミは思った。



***



サンジはルフィを追って男部屋まで入る。
ルフィは布団を頭からすっぽりと被り、部屋の隅でうずくまっていた。

「……ルフィ?」

サンジの声にビクッと身体を震わせた。

「う〜…ごめんなさい」

ひどく落ち込んだ様子でルフィは布団から顔を出してくれない。

「どうした? 怒ってねェから話してみろ」

サンジは恐がらせないようにゆっくりとルフィに近づく。

「だって…おれ、バカみたいだ…」

サンジはしゃがみ込みルフィの頭があるであろう場所を布団の上から撫でる。

「理由があるんだろ? それとも、本気でおれのことが……嫌いになったのか?」
「違う! そんなわけないだろ!」

ルフィはガバッと顔を上げ、真剣な目でサンジを見た。

「よかった…寿命、縮まるっつーの」

心底安心したようにサンジは、ため息を吐いた。
ルフィは申し訳なさそうにサンジを見つめる。

「ご、ごめんな?」
「いいって。どうせ嫌われても逃がしてやるつもりなかったし」
「おれ、サンジのこと…大好きだもん。逃げねェよ」

口を尖らせてルフィは拗ねる。
サンジは嬉しいセリフに顔がにやけそうになるがなんとか耐える。

「さっき逃げたじゃねェか」
「うっ…あれは…その」

歯切れの悪い返事にサンジは苦笑する。

「ルフィ…」

サンジは目を逸らすルフィが逃げられないように両手を壁につき、その中に閉じ込める。

「理由を言え」

低い声で囁くとルフィの身体がビクッと跳ねた。

「あ……う…」
「ひどいこと…されてェのか?」
「んっ……や、やだ」

頬を優しく撫でられルフィは怯えたように目を瞑る。
嫌いと言われたせいだろうか、サンジは理性が残っていなかった。

「早く言えよ」
「サン…っ……」

言えと命令をしながらサンジはルフィの口を己の口で塞いだ。
何か言おうとしていたルフィは何もしゃべれなくなってしまう。

「言わないのか?」
「っ……イジ…ワル…言う…から」
「じゃあ教えてくれよ、ルフィ?」
「っ!」

口を開けば今度は先ほどよりも深い口づけをサンジにされ、ルフィは混乱した。
ルフィは両手でサンジを突っぱねるつもりが縋ってしまう。
ルフィにはサンジが理由を聞きたいのか聞きたくないのか分からなくなる。

「真っ赤だな」
「はァ…はァ…さ、サンジのせいだろ! バカ!」

やっとサンジに解放されたときには、ルフィは息も上がり、涙目になっていた。

「悪かった…お仕置きしたかったんだよ」
「なんだそれ……はァ」
「このままするのもいいけど、お前があんなこと言った理由が気になるんでね」

じゃあすぐに言わせてくれと言いたかったが、また何かされそうでルフィはジロッと睨むだけにした。

「で、理由は?」
「…………ゾロと仲良いから」
「は?」
「だから! ゾロと仲良いからだよ! いっつも二人で遊んでて…さっきだって一緒にいたし…だから、なんか腹立って…八つ当たりしちゃったんだよ!」

顔を背けてルフィは一気にしゃべった。

「お前…それ…」
「ゾロにまで八つ当たりしちゃった…あとで謝らないと」

しゅんとうなだれるルフィにサンジは今度こそ顔がにやけた。

「八つ当たりっていうか…嫉妬?」
「ふえ? 何それ?」

ルフィはきょとんとしてサンジを見た。

「意味分からねェのか? 可愛い奴だな」
「うっ…ニヤニヤするなよ…変な奴だな」
「嬉しいんだよ」
「わ…サンジはズルイなァ」

サンジの優しい笑顔にルフィは赤面してしまう。

「あのな、マリモ剣士とは仲良くねェから安心しろ。あれが仲良く見えるお前の目をおれは心配する」
「えー? 仲良いじゃんか。じゃなくて、えっと…仲良くしてもいいんだけど…う〜上手く言えねェ」

どう伝えればいいか分からずルフィは困った顔をした。

「お前の言いたいことはなんとなく分かるから安心しろって」
「ホント?」
「みんな仲間なんだから仲良しで大いに結構。ただ、ゾロと仲良くされるとモヤモヤする。結局はそんな気持ちになる自分が悪い」
「その通りかも…サンジはすげェな!」

自分の言いたいことを言葉にされルフィは感心した。

「すごくねェよ。おれも同じだからな」
「ん?」

鈍いルフィはサンジが何を言いたいのか分からず首をかしげた。

「……お前が誰かと仲良くしてたらモヤモヤすんだよ」
「えー!? サンジが? ホントに?」

本当に分かっていなかったのかルフィは大げさなほど驚いた。

「やっぱり気づいてなかったか」
「うん…そっかァ、サンジも同じだったんだ」
「笑ってんなよ?」

嬉しそうに笑うルフィをサンジは抱きしめる。

「こんな気持ちになってるのおれだけかと思ったんだ」
「おれは独占欲が強いんだよ。しっかし、藻のことで嫉妬されてたとは微妙…仲良しというよりはライバルだしな」
「なんのこと?」

やはりゾロの気持ちに気づいていないルフィは首をかしげた。

「まァいい。あの野郎の気持ちには一生気づくなよ?」
「う、うん。うん? わっ、服、脱がすなよ!」

いつの間にかボタンを外されているのに気づき、ルフィは焦ってサンジを押し退ける。

「なんで?」
「な、なんでって…ゾロにも謝らないといけないし、町に着いたばっかだし、お腹空いたし、えっと…」
「あ〜、ハイハイ。夜まで我慢すればいいんだろ?」

必死で理由を探すルフィに苦笑しながらサンジは自ら外したボタンをはめてやる。

「サンジ…たまには止まるんだな」
「そんなことで感心するなよ。理性が戻ってきたからな。夜になれば嫌がってもするし」
「い、嫌がらないけど…んっ」

軽く口づけをされルフィは赤くなる。

「可愛いこと言うなよ? 止まらなくなるだろ」
「えー、よくわかんねェよ」

困った顔でルフィはサンジを見る。

「密室に二人っきりってのがそもそも危ねェんだな。ほら、一緒に町へ行くぞ。ここは危険だ」
「わーい! 探検だな。行こ行こ!」

楽しそうに笑うルフィの頭をサンジは笑顔で撫でた。



***



二人が甲板に出るとナミがゾロの頭に鈍器をぶつけようとする場面だった。

「わわわ! ストップ!」

ルフィは慌て、ナミを止めに二人の間に入る。

「ルフィ…いっそのこと記憶を無くしてあげようと思ってたトコよ」

哀愁を漂わせながらナミはゾロを見た。

「さ、さすがに死んじゃうって。ゾロ〜おーい、大丈夫か? さっきはごめんな?」
「ルフィ…? おれは…悪夢を見ていたようだな」
「悪夢? わっ…サンジ」

ルフィは話し込もうとしたがサンジに腕を掴まれ、引っ張られた。
引きずられるようにルフィはゾロの近くから離される。

「謝る用事はすんだだろ? 行くぞ」
「へ? う、うん。ナミ〜町に行ってくる! ゾロを頼んだ〜」
「嫌だけど了解。すぐ元に戻るわよ」

寝起きのようにボンヤリしているゾロの頭を叩いてナミはルフィを笑顔で見送った。

「痛ェな…」
「今回はちょっとゾロに同情したわ」
「は? まァいいか。寝覚めが悪いから寝直す」
「悪夢を見ないことを願うわ」

もうイビキをしいているゾロを見てナミはため息を吐くのだった。



***



腕を掴まれたままルフィはどんどん船から離れた。

「なんだよ、サンジ」
「……さァな?」
「変なの〜」

サンジが嫉妬しているなんて露知らず、ルフィは不思議そうな顔をしている。
そんなルフィにサンジはこっそりとため息を吐いた。

「まァいいか。今度からは素直に邪魔すればいいし。ルフィ、愛してるからな」
「わ…なんだよ〜急に」

ルフィはみるみるうちに赤くなりソワソワとし始めた。

「急じゃねェよ。いつも想ってる」
「な、なんだよ…おれだってサンジのこと好きだぞ」
「ということで宿に行こう」
「え…えー!? 今の話ってそういう流れだったのか!? 夜まで我慢するって言わなかったっけ?」
「あァ…素直になることにしたんだよ」

サンジにニッコリと笑われ、ルフィは固まる。
別にサンジとするのが嫌なわけではないのだが行為自体が恥ずかく抵抗があるのだ。
夜までに心の準備をしておこうと思っていたルフィは焦った。

「町を一緒に探検するんだろ?」
「それは夜に行こう」
「む、無理だって…我慢してくれよ」

情事の後にそんな元気が残っているなどルフィには、とても思えない。
サンジの袖を引っ張り、ルフィは懇願する。

「お前が愛しすぎて我慢できなくなった」
「う…なんだよそれ〜」
「宿じゃなくて、ここでしてもおれは構わないけど?」

まんざら嘘でもなさそうなサンジの瞳にルフィは怯む。

「え!? じょ、冗談だろ?」
「宿かこの場か…どっちがいい?」
「えー!?」

この後、サンジになんだかんだと理由をつけられ、ルフィは宿へ連れ込まれるのだった。




















*END*