港に停泊中、ルフィとサンジ以外のクルーは町に買い出しに行っていた。
ルフィはイスに座り、サンジが作ったおやつを食べている。
とても美味しいのでおやつに文句なんてないのだが別のことでルフィに限界がきた。
「サンジ…何なんだよ」
「何がだ?」
「何がって……黙ってジーッとこっちを見てるじゃねェか!」
おやつを食べている間、そして今も向かいに座っているサンジはテーブルに肘をつき、ずっとルフィを見つめていた。
「あァ、見てるけど何か問題でもあるのか?」
「あるよ! 黙ってジーッと見られてんだぞ?……なんかイヤだ」
「そうか」
話している間もサンジはルフィから全く目を逸らさずにジッと見ている。
「う〜まだ見てるし……何、考えてんだ?」
ルフィはおやつを食べ終わり、ソワソワしながらサンジをチラリと見た。
「言っていいのか?」
「へ?」
「声に出して言ってもいいのか?」
サンジの言葉にルフィはきょとんとした。
「どういう……意味?」
いい意味ではないことを感じ取り、ルフィは恐る恐るサンジを見た。
「意味は…」
「やっぱりストップ!」
「なんで?」
「なんか……よくない感じがする」
ルフィはテーブルに乗り上がりサンジの口を両手で慌て押さえる。
「……勘がいいな」
ニヤリとサンジに笑われ、ルフィは背中がゾワゾワした。
「参考までに何考えてんのかひとつだけ聞いてもいいか?」
何の参考だかサッパリわからないがルフィはイスに座り直して真剣にサンジを見た。
「ひとつ? …そうだな、お前が脱いでるトコとか想像してただけだ」
「だけって……わわ、やらしい目でおれを見るなよ」
身体をテーブルの下に隠し、顔だけ出してルフィはサンジの視線から逃げた。
「別に実際に脱がしてるわけじゃないんだからいいじゃねェか」
「や、ヤダよ! そんなこと考えながら見られてるなんてヤダ」
今度は顔も半分隠して、ルフィはサンジを見た。
「……もっとすげェことも考えてたんだけどな」
「え!? ……じゃあな」
ルフィはサンジの発言にテーブルの下へ隠れてしまった。
「おい、隠れなくてもいいだろ」
サンジがテーブルの下を覗き込むとルフィは小さく縮こまっていた。
「……サンジが変なことを言うからだろ」
ルフィはいじいじとしながらうつむいている。
「変かァ? むしろ、おれは健全だと思うけどな」
「そういうもんかなァ……よくわかんねェ。そういや、最近よくジーッと見てるよな?」
縮こまったままルフィはサンジを見上げた。
「気づいてたのか」
「気のせいかと思ったけど…サンジだったのか」
「気のせいかと思った? ……お前、鈍いな。隙あらば見てたんだけどな」
「そう…だっ!」
そうなのか? と言おうとしたルフィはテーブルの下にいることも忘れ、立ち上がろうとしたため思い切り頭をゴンッと打った。
「何やってんだよ。すげェ振動が手に伝わって来たけど…大丈夫か?」
「びっくりしたァ…痛くないから平気だ」
「そうか。まァもう少ししたら今よりは見なくなるだろうから我慢しろ」
覗き込みながらサンジはニッコリとルフィに笑いかけた。
「なーんで? まァその方が恥ずかしくなくて助かるけどさ」
「約束しただろ?」
「約束?」
何の話かよくわからずルフィは首をかしげた。
「忘れたのか? 一週間ぐらい前にしただろ」
「一週間前……約束……ん〜?したかなァ?」
「忘れてても約束は約束だからな」
「うっ……降参…教えてください」
テーブルの下からルフィは困り顔でサンジを見上げる。
「ほら、夜中にお前、便所に行っただろ? それから部屋に帰って来る前に……」
「うん? ……あっ!」
「壁に押さえつけて無理矢理しようとしたとき約束しただろ?」
「あ、あれは! ……いたッ!」
何の約束か思い出したルフィはまた勢いよくテーブルに頭をぶつけた。
「……いい加減、テーブルの下から出て来いよ」
「う〜……だって…あの約束は……」
テーブルの下から這い出て来たルフィは赤い顔で座り込み、困っていた。
「お前、言ったよな? 一週間、自分に触らなかったら何してもいいって」
「い、言ったけど……」
押さえつけられ追い詰められたときにルフィが混乱したまま口から出任せで言ったセリフだった。
まさかサンジがその言葉を信じて実行しているとは夢にも思わなかった。
「冗談だ! ……っていうのは?」
「認めねェよ」
「あはは〜やっぱり?」
乾いた笑いをしながらルフィは立ち上がる。
ルフィが覚えていなかったとはいえサンジは約束を今まで守り続けている。
「当たり前だ。おれが約一週間、どれだけ我慢したと思ってんだ。その約束を持ち出された日の夜は手を出さなかっただろ?」
「確かに…そうなんだけどさ〜」
サンジの横のイスに座り、ルフィは足をぶらぶらさせた。
思い返して見ればここ最近ルフィはサンジに襲われることはなかった。
ルフィにしてみれば安心安全な日々だったがサンジにとっては我慢の日々だったに違いない。
ルフィはテーブルの上にあるサンジの手をぎゅっと握った。
「はい、触った! 約束終了! 一件落着! ……っていうのは?」
「ダメだな。お前から触るのはノーカウント」
「そ、そうか……」
握っていた手を放し、腕を組んでルフィは悩む。
「ちなみに今日の夜中で一週間だから、そのつもりでいろよ?」
どのつもり!?と叫びそうになる自分の口を押さえてルフィは考え込む。
ニヤニヤしながら見つめるサンジの視線を何とか無視しながらルフィはこのままではヤバイと身の危険を感じた。
「さ、サンジ〜」
「なんだ?」
ニコニコと笑いながらルフィは上目遣いにサンジを見つめた。
「頭、撫でて?」
「ぐっ……卑怯だぞ…」
「な、何が〜?」
ルフィは今までの経験から逃げるのは無理だと悟り、夜中までにサンジに自分を触らそうと考えたのだ。
「……てめェの考えは読めた」
「な、何のことかなァ? サンジ……撫でてくれないのか?」
「……夜中になったらイヤっていうほど撫でてやるよ」
サンジも負けじと笑顔で応えた。
「今がいいな〜」
「……我慢しろよ。おれも今、我慢してるんだからな」
「え〜我慢なんてするなよ〜」
サンジの服の袖を引っ張りながらルフィはニッコリと笑う。
「今、我慢したら最高のご褒美があるからなァ」
「む、手強いな〜」
「いつものおれと思うなよ」
サンジはなぜか爽やかにルフィに笑いかけた。
「ちぇっ! どうしようかなァ」
「無理無理。魂胆は読めてんのに触るかよ」
余裕のサンジにルフィは口を尖らせる。
「う〜ん……どうしたら……あっ、そうだ!」
ルフィは何か思いついたようで急に赤面した。
「……なんで赤くなるんだよ?」
「う〜恥ずかしいなァ」
赤い顔のまま、チラチラとサンジを見ると決意したようにルフィはサンジの腕に触れた。
「お前から触るのはナシだって…」
「……サンジ、大好き」
「っ!」
ルフィは真っ赤な顔で軽く、チュッとサンジに口づけをした。
「あは…あはは! や、やっぱり恥ずかしいな! 出直してくる!」
イスを跳ね飛ばす勢いでガタッと立ち上がり、ルフィは恥ずかしそうに笑う。
そしてサンジの顔を見ないまま脱兎のごとく部屋を走って出ていってしまった。
「あいつ……やってくれるじゃねェか」
不意討ちに照れて赤くなった頬を掻きながらサンジは立ち上がった。
部屋を出ようとしてから何かを思い出したように戻り、テーブルにあった紙切れにメモを書き残した。
そして逃げ出してしまったルフィを探しにサンジは部屋を出る。
「おーい、ルフィ〜どこだ〜」
「………………ここ」
サンジの呼びかけにルフィの小さな小さな声がみかん畑の方から聞こえてきた。
声のした方へ近づくとみかん畑の中で膝を抱えるルフィがいた。
「……何してんだ?」
サンジが近くで話し掛けるとルフィはビクッと肩を震わせた。
「う〜…恥ずかしいんだよ……勢いに任せてあんなことするんじゃなかった……」
「おれは嬉しかったけどな」
「……そうか? サンジはすごいな…おれにチューしてもいつも平気そうというか…気づけば服を脱がされてるというか…」
まだ照れているのかルフィは地面を見たままボソボソと話している。
「平気っつーかお前とキスするのは幸せなんだよ。あと、気づけば手が勝手に脱がしてる」
「幸せ? そう思ってくれたら嬉しいけど……おれはドキドキの方が強かった……あと、勝手に脱がしちゃダメだぞ」
ルフィは膝を抱え、ゆらゆらとゆりかごのように揺れながら話している。
「お前からはしないもんな〜慣れも多少あるんじゃねェの?」
「慣れか……うん、そうかも」
「よし、もう一回してみろよ」
「え!?」
驚いてルフィはサンジを見上げた。
ニコニコと笑っているサンジと目が合う。
「おれからは触れねェしなァ」
「えーっ!?それはサンジの事情じゃねェか!恥ずかしいから無理!」
ルフィは立ち上がり、手でバツ印を作った。
「……一回」
「へ?」
「一回だけ」
ものすごく真剣な顔でサンジに言われ、ルフィはたじろぐ。
「そ、そんなこと言われても……」
「別に何回もしろとか舌を入れろとか言ってるわけじゃないだろ?」
「えっ? う、うん……うん?」
心底、困り顔でルフィはうなずいてから首をかしげる。
丸め込めそうだと思ったサンジは再び真剣な表情でルフィを見つめる。
「たった一回だけだぞ? 恥ずかしいかもしれねェが一回! お前からして欲しいんだよ」
「うん………あれ? なんでおれからしなきゃダメなんだ?」
あまりにも真剣に頼まれルフィは思わずうなずいてしまう。
丸め込まれたことなど気がつかずルフィは首をかしげる。
「よし! いつでも来い」
「あれェ? なんで?」
「いやいや、今さらそんなこと気にするな」
「う〜…わ、わかった! 一回だけだからな」
このままではこの話が終わらないことを本能的に悟り、ルフィはなんとか決意した。
ルフィが決意するとサンジは本当に嬉しそうにうなずいた。
「うわァ…さっきより恥ずかしいかも…」
ルフィは真っ赤になりサンジを見上げた。
しかし、心底嬉しそうなサンジを見ると今さらできないとはルフィには言えなかった。
「……緊張する」
「頑張れ、お前ならできるって」
「応援されても……うぅ…が、がんばる」
深呼吸をした後、ルフィはぎゅっと目を瞑った。
サンジの腕をそっと掴み、少し背伸びをして、ルフィはサンジにチュッとキスをした。
「や、やっぱ! は、恥ずかし……うわっ」
すぐに離れようとしたルフィをサンジはがっしりと抱きしめる。
「さ、サンジ? …あっ! 触った! あはは、約束はナシだな」
「あ〜限界だ! 宿に行くぞ」
「へ? な、なんでだよ! 約束が違うぞ!」
サンジに強く抱きしめられているのでルフィが暴れても逃げられない。
「それはそれ、これはこれ」
「なんだそりゃ!? 約束の意味ねェじゃん!」
「我慢できねェよ……お前、可愛すぎる」
「わわっ!」
いわゆる、お姫様抱っこをされルフィは慌てる。
「え? え!? 本気?」
「本気」
「ちょっ……待っ!」
「待たない」
スタスタと歩きだしたサンジにルフィは焦る。
「ほ、ほら! 黙って出て行くのはよくないと思うぞ?」
「明日には戻るってちゃんとメモを残してるから大丈夫だ」
「な、なんで……え? もしかして……」
ルフィは暴れるのを止めてサンジを見上げる。
サンジはルフィに向かってニヤリと笑った。
「部屋を出るときから宿に泊まるつもりだった」
「えー! 卑怯だぞ! じゃあさっきのチューはなんだったんだ……」
再び顔を赤くしながらもルフィは文句を言う。
「おれへのサービスってヤツかな」
「えー!」
「宿の場所はきちんと調べてるから安心しろ」
「そんな心配してねェって!」
ニコニコと楽しそうなサンジには勝てない。
ルフィ暴れるのを止めて、サンジの首にしがみつく。
「や、優しくして?」
せめてもの願いをルフィは真っ赤になりながらもサンジの耳元で囁いた。
「……朝までコース決定だな」
「えぇー! なんで!? む、無理!」
「いやいや、今のはお前が悪い。煽るなよ」
「意味わからねェ!」
無意識にサンジを煽るのが上手いルフィだった。
*END*