昼食後、屋上でくだらない話をしていると女子のはしゃぐ声が校庭の方から聞こえてきた。
ウソップはルフィとサンジを見る。

「毎度のことだけど男3人で飯を食うってのもムサイよなァ」
「おれは一生彼女できる気がしなくて色々と心配。とりあえず高校生活では無理だろ…誰かさんのせいでな」
「はァ…おれ達はもしかして一生童貞か」
「…言うなよ。考えないようにしてんだから」

拗ねたようにウソップから視線を外すとルフィはサンジと目が合った。

「あ〜、サンジには関係ない話だな」
「おれも童貞だぞ?」
「は、え!? サンジも!?」

当たり前のように、こくりと頷くサンジにルフィの方が動揺してしまう。

「変か?」
「変っつーか、意外だよな。結構な数の女子と付き合ってたからさ。年頃だし、何かあったかと」

ウソップも驚きつつ、サンジを見た。

「キスはしたりしたけど。うーん、その先はないなァ」
「え? そういう雰囲気になったりしなかったのか?」

ルフィは首を傾げて、サンジを見つめた。
サンジは少々照れながら笑う。

「勃たないんだよ、ルフィじゃないと」
「う、わー!! おれは今、とてつもなく不必要な情報を聞いてしまったァ!!」

ルフィは耳を塞ぎ、現実逃避に入ってしまった。
仕方なくウソップが話を引き継ぐ。

「お前…そういうとき彼女に何て言うわけ」
「『ごめん、君じゃ勃たないみたいだ』って」
「うわ、恐ろしいほどのストレート…女のプライドが木っ端みじんだな。トラウマになりそうなセリフだ」
「でも、事実だし。そのときフラれる。肉体関係を求めてきた女はプライド高い人達ばっかりだったから」
「身体にも自信あったんだろうなァ」
「確かに胸はデカかったな。そんでインポ野郎って言われた。そうでもねェけどな〜ルフィが相手ならいつでもどこでも大丈夫だ」

逃避中のルフィを見てサンジは微笑んだ。
それを見てウソップは頬を引き攣らせた。

「それは大丈夫じゃないだろ。むしろ、ダメだと思う。あ〜、なるほど、そうやってフった女が変な噂を流してんだなァ」
「ヤるだけヤったら捨てられたとか?」
「それそれ。身体に自信あるのに全く無反応じゃ悔しくて別れた理由の真実も周りに話せないだろうからな。腹いせだろうよ」
「あー、そういうもんかな」
「まァ、女子には同情してるけどな。好きでもないのに告白を了承されてんだから。そういえば、サンジって自分に対する嫌な噂、全然気にしないよな」
「だって、気にならないからな」

なんてことないように話しているが周りの評価を気にしないというのは、かなり難しい。
しかし、気にしなさ過ぎるのも一部の人間に迷惑が掛かるので兼ね合いだろう。

「鋼のハートだな…それにしても高校男子が女に迫られても無反応って…逆に心配になるんだけど。例え、他に好きな人いても流されてシちゃったりしそうだけどな」
「がんばれば何とかなると思うけど、身体が反応するだけだからな」
「ん?」
「性欲は満たされても、心までは気持ちよくなれないだろ。それじゃあ意味ない。おれの場合はだけどさ」
「おい、ルフィ! サンジがいいこと言ってるぞ!」

ウソップは耳を塞ぎ現実逃避をしているルフィの肩を叩く。

「ん? 猥談、終わった?」
「性に対する姿勢がヤりたい盛りの男子には思えねェ! おれはサンジを見直した!」
「え? 何話してたの?」

期待のこもるルフィの眼差しにサンジはニッコリと笑った。

「好きじゃない女と寝るより、ルフィを想って自慰する方が気持ちいいって話」
「? ……っ!? う、ウソップ…これを聞いて…サンジを見直したのか?」

一瞬、何を言われたかわからなかった。
意味が脳内に浸透し、驚愕してからルフィは泣きそうに顔を歪めていった。
ウソップは激しく否定する。

「ち、違う!! 全然違う!! サンジ、お前、直球すぎだろ!!」
「おれの童貞はルフィに捧げるつもりです」
「〜っ! うぅ…」

動揺で言葉を紡ぐことができず、ルフィは真っ赤になりながらも唸った。

「別にルフィを傷つけたいわけじゃなくて! 色々と勉強してるから平気だと思う。おれはルフィを気持ちよくしてやりたい…そういうときにする表情とか声とかを想像して自慰してる」
「あー! もー! やだ!! 二人とも不能になってしまえー!!」
「な、なんでおれまで!?」

ウソップの疑問には答えず、ルフィは赤い顔で泣きそうなまま、その場を走り去ってしまった。

「ルフィがいる限り、おれが不能になるなんてありえないけどな」
「被害者の気分だ、ものすごく。あとでフォローしなきゃだな…昼休み中に戻ってくるかなァ」

この話が原因で絶縁ということはないだろうが、しばらく睨まれそうだ。

「おれはルフィが嫌がるなら何もできなくていい。それぐらいルフィのことが大切なんだ」
「……そういうことをルフィに言えよ」
「でも、ムラムラするときもある、想いを伝えてからは頻繁に。可愛いし、無防備だし、襲いたくなる。不思議な存在だ。ものすごく優しくしたいけど…ときどき、性的な意味でめちゃくちゃにしたくなる」
「……そういうことはルフィに言うなよ。いくら寛容なルフィでも一ヶ月はサンジを避けるぞ。あいつは下ネタが得意ってわけじゃないんだからさ」

ルフィはあまり積極的に猥談を話すタイプでもない。
今日は貴重な下ネタ話だったがトラウマになっていそうで心配だ。
とりあえず、サンジの前では二度とこのような話をルフィから振ることはないだろう。

「ルフィは恥ずかしがり屋だなァ」
「いや、恥ずかしいとかそういう次元の話じゃなくて…同級生の同性、しかも友達に自分が性の対象になってる話を聞かされるのは誰だってイヤだろ」
「さっきの顔は…やばかったな。あの表情だけでヌける」
「そういうことだけは絶対に本人、または周りに言うなよ!」
「なんで?」

邪気のない眼差しにウソップは脱力しそうだ。
常識が通用しないのなら通用する方法で話さないようにしておかなければいけない。
そうしないとあまりにもルフィが哀れだ。

「…ルフィが他の奴らに性的な目で見られたらイヤだろ? お前がそういう風に言ってると錯覚を起こす奴もいるかもしれない」
「確かにそれは危険だ。あんなに可愛いんだからな…四六時中は一緒にいられないし。わかった、この話題は気をつける」

神妙な顔で頷くサンジにウソップの脱力感だけが増していくのだった。





























*END*