「あ、あれ!?」

二年生になって初めての授業も終わり、みんなが帰る中でルフィは慌てて机の中や鞄の中を探っていた。

「ルフィ、どうかしたの?」

不審な様子に前の席のナミが不思議そうに声を掛けた。
ルフィとナミは一年生のときも同じクラスだったので顔馴染みだ。

「えっ? いや! 化学室に忘れ物しただけ! じゃあな〜ナミ!」
「え、ええ。じゃあね」

異様に慌てながらルフィは教室を飛び出した。



***



ガラガラっとドアを開け、ルフィは化学室の中を覗いた。
人の気配はない。

「……失礼しまーす」

ルフィは自分が座っていた席の周りを見る。
すると床に自分のであろう教科書を見つけた。

「あった!」
「何が?」
「うわっ!?」

ルフィは文字どおり飛び上がって驚いた。

「ははっ、驚きすぎ」
「な、だ、誰? えっと……あれ?」

ドキドキする心臓を押さえながらルフィは振り返った。
振り返ると白衣を着た男が笑いながらルフィを見ていた。
どうやら準備室から出て来たようだ。
知らない人かと思って見ると、どこかで見たことがある気がした。

「お前…さっきおれの授業受けてただろ」
「え? あ! サンジ先生」

言われれば授業中に見た気がした。

「ずっと寝てたもんな。文句は言わねェが赤点だけは取るなよ。追試するの面倒だからな」
「適当な奴だな」
「お前に言われたくねェよ。で、何? 忘れ物?」
「そ、その通り!」

床に落ちている教科書を指差されてルフィは慌て拾う。
勢い良く拾ったせいか、ひらひらと教科書から紙が落ちた。

「ん? なんか落ちたぞ……手紙?」
「うわ〜!!」
「おいっ! 危なっ……」

ルフィは手紙を奪い返し、勢いのまま机にぶつかった。
ガシャンという音とともに床にガラスが散らばった。

「ぎゃー!! ごめんなさい!」

どうやら後ろの机に置いてあったビーカーを割ってしまったようだ。
謝りながらルフィはその場にしゃがんだ。

「アホ、素手で触ろうとするな。ホウキとチリトリ、持って来い」
「はーい!」

言われたものをルフィは急いで持ってきた。

「……」
「先生、おれ、弁償?」
「いや、そんなことはねェが…そもそも、このビーカーは高いぞ」
「え?」

チリトリの中身を割れてしまった器具が入れてある段ボールに入れた。

「これはいくらだと思う?」

サンジはよく使う100mlビーカーを手にしてルフィを見た。

「えーっと…わかりません」
「まァそうだな。安いトコで三百円ぐらいだ」
「へェ〜」
「そんでお前が割ったのは10000mlのでかいビーカーだ」
「う、うん。値段は?」
「……そっちのビーカーの値段を百倍。それマイナス五千円ぐらい」

頭の中でルフィは計算した。
三百円を百倍…三万引く五千円……

「に、二万五千円!?」

予想より遥かに高い値段にルフィは驚きのあまりに固まる。

「高校生から取るにはちょっとな〜。まァ片付けてなかったおれも悪かったし気にするな」
「き、気にするって…」
「そうか? ……じゃあ放課後しばらく手伝え」
「手伝い?」

ホウキとチリトリを用具入れにしまってからルフィはサンジに近寄る。

「教師にもいろいろあるんだよ。資料の整理だけでもしてもらえたら助かる。あ、部活してるのか?」
「ううん、おれは帰宅部だから平気!」

ルフィはにっこりと笑って了承した。

「明日からでいい。で、その手紙はなんだったんだ? また落としてるぜ?」
「うわっ!」

ルフィは焦って手紙を拾い上げポケットにしまった。

「ラブレター?」
「っ……先生には関係ないの! じゃあ、また明日な!」
「ハイハイ、さようなら〜」

ニヤニヤ笑うサンジを睨んでからルフィは化学室を出て行った。



***



化学室を出た後、ルフィは手紙で呼び出された裏庭へと急いだ。

「あ、あの……」

木陰に隠れている人物にルフィは声を掛けた。

「来てくれたんだ」
「えっ? いや、あの…ごめんなさい。そ、その…おれ、付き合うとかそういうこと考えられなくて」

嬉しそうな相手にルフィは素早く頭を下げた。

「どうしても駄目?」
「ダメっていうか…なんでおれなんだ? 可愛い女の子はたくさんいるだろ? この学校、共学だし」
「お前がいいんだよ」

真剣に見つめてくる同級生にルフィは戸惑いを隠せない。
一年生のときクラスが一緒だった友人にルフィは告白されたのだ。
しかも、男友達だと思っていた相手に。
二年生になり、理数系を選択したルフィとは別のクラスになっている。

「こ、困る…気の迷いだって! 文系は女子が多いだろ? きっと好きな奴できるよ」
「今はルフィが好きなんだ」
「お、おれは……ちょっと退けろって……」

ルフィは相手に威圧され後退りをして、木に背中をぶつけた。
そして、逃げられないように追い詰められてしまう。

「駄目な理由を教えてくれよ」
「…お前は友達にしか見れないから」
「……諦められない」
「うっ……」

相手にアゴを取られ抵抗する間もなく、唇を塞がれそうになる。

(だ、誰か!)



***



ルフィが出て行った後、化学室は静かになった。

「賑やかな奴だったな。告白されたのか」

あの慌て具合から間違いないだろう。
準備室に戻り、窓際の席に腰を下ろす。
ふと視線を窓の下に向けると丁度ルフィが走って来ていた。

「おっ、裏庭に呼ばれたのか。確かに人は滅多に来ねェが化学室から丸見えなんだよな」

二階にある化学室と化学準備室からは丁度、裏庭がよく見える。
サンジは相手の顔でも見てやろうと観察した。

「………男じゃねェか」

相手の制服を見てサンジは目を細めた。
こちらに背を向けているので相手の顔までは見えないが確実に男子の制服だ。

(嫌がってるというよりは困ってんな)

声までは聞こえないがルフィの困っている様子は伝わってきた。

「……あれはヤバイな」

ルフィが後退りをして追い詰められるのを確認してサンジは窓を開けた。

「おーい、ルフィ! ちょっと手伝え!」

サンジがそう声をかけると男子生徒は走ってどこかへ行ってしまった。



***



「っ! じゃあな」
「お前とは付き合わないからな!」

サンジの存在に焦って、走り去る後ろ姿にルフィは半泣きで叫んだ。

「…………はァ、怖かった」

ルフィは気持ちを落ち着けるために深呼吸し、サンジがいる二階を見上げた。

「今、行く!」

ルフィは再び化学室に戻った。



***



「……先生?」
「こっち来い」

化学室に入り、声を掛けると準備室から声がした。

「あの、手伝いは?」
「嘘に決まってんだろ。まァ、座れ。そして、缶ジュースでも飲め」
「…先生、ありがとう」

サンジが冷蔵庫から出したジュースをルフィは心底感謝しながら受け取った。

気持ちを落ち着かせるために冷えたジュースを一口飲んだ。

「キスされたのか?」
「ぶはっ!」

ルフィは口に含んでいたジュースを盛大に吹き出した。

「汚ェな……ほら、タオル」
「せ、先生が変なこと聞くからだろ!」

ルフィは真っ赤な顔でタオルを受け取り、飛び散ったジュースを拭く。

「ちゃんと助けられたか気になっただけだ」
「……無事だよ。何もされてない」
「そりゃよかった」

サンジはルフィの頭を撫でた。

「先生、彼女いる?」
「今はいない」

急な質問にサンジはルフィを撫でるのを止めて、真面目に答えた。

「告白されたことってある?」
「まァそれなりに」
「女子生徒にも?」
「まァな……他言無用だぞ? 校長に知れたらうるせェからな」

ルフィはじっとサンジを見つめた。

「断ってる?」
「当たり前だ。教師っつー立場があるし、ガキに興味はねェよ」

呆れたようにサンジはルフィを見た。

「そうなのか。なァ、付き合うって何? 友達じゃダメなのか?」
「誰かと付き合ったことないのか?」
「ないよ。ないから聞いてるの!」

ルフィは口を尖らせてサンジを睨んだ。

「さっきの奴は友達って関係に満足いかねェから告白して来たんだろ。お前の特別になりたかったんじゃないか?」
「特別?」
「友達は大勢いても恋人は大抵一人だろ」
「友達だって特別なのに……よくわかんねェや」

ルフィは近くにある机へ突っ伏した。

「お前ってさ、男に告白されたの初めてじゃないだろ」
「へ? な、なんでわかるの?」

ルフィは赤い顔でサンジを見た。
初めて男に告白されたならもう少し動揺していても不思議はないが今のルフィは落ち着いている。

「なんとなく。からかわずに真剣に答えてるんだから偉いな」
「相手が真剣ならおれだってちゃんと答えるよ」

頭を撫でられてルフィは照れたように笑う。
サンジはその顔を見て、撫でる手を止めた。

「どうかした?」

急に動かなくなったサンジを不思議に思い、ルフィは首をかしげた。

「……いや、別に。お前の特別になりたいってのもあるだろうけど性的欲求もあるんじゃねェの?」
「せ、性的……大人は汚いな」
「あはは、ガキは考え方がキレイだな。ん? 暗くなって来たな、恋愛相談は終了だ。そろそろ帰れ」

サンジは笑いながら腕時計を見て、そう言った。

「うん、先生ありがとな。また明日の放課後に来る」
「気をつけて帰れよ」
「はーい、さようなら」

ニカッと笑ってルフィはサンジと別れた。
バタバタと走る足音が聞こえなくなりサンジはイスに深く腰掛けた。

「参ったな……」

ため息を吐いて目を閉じる。
男に告白するなんてどういう神経かと思っていたがその気持ちがわかってしまった。

「可愛い奴だな……あ〜、放課後の手伝い断るべきか」

ルフィの仕草や態度にぐらぐら揺れている。
放課後、毎日一緒だと手を出してしまいそうな自分が嫌だった。

「断るのも変か…あいつは男で生徒…よし、大丈夫」

何が大丈夫なのかはよくわからないがサンジは自分に言い聞かせてから仕事に戻る。
気のせいかもしれないということで下手に避けるのは止めておくことにした。



***



放課後、ルフィは机に突っ伏して寝ていた。

「最近、楽しそうね」
「うえ? ナミ?」

頭を突かれて起きる。
教室の中にはナミとルフィしかいなかった。

「一年の頃よりも楽しそうよ。でも、今はつまらなそうね」

ナミはおもしろそうに笑う。

「え? な、なんだよ〜急に」
「今日は職員会議があるものね」
「?」

寝起きの頭は回らない。
ルフィは首をかしげて、ナミを見た。

「サンジ先生の手伝いしてるんでしょ?」
「お〜、失敗もよくするけどな」

ルフィはニカッと笑う。

「先生のこと、好き?」
「うん、好き」

ルフィはナミの質問に楽しそうな笑顔で答えた。

「う〜ん…あんたって分かりにくいわ。多分、自覚がないから分かりにくいのね」
「え?」
「……サンジ先生を恋愛対象として考えたことある?」

ナミの言いたいことがよく分からずルフィは首を横に振った。

「なんで先生が恋愛対象になるんだよ」
「一緒にいてドキドキしたりしない?」
「えーっと…しない…かな? たぶん」

ナミはルフィの様子にため息を吐いた。

「いつから先生の手伝いしてるの?」
「一ヶ月前ぐらいかな」
「あんた、化学の時間だけは絶対に寝ないわよね」
「楽しいから…ナミ、何が言いたいんだ?」

ナミはジーッとルフィを見てからにっこりと笑った。

「自分で考えなさい。職員会議終わったみたいよ? 私は帰るから。じゃあね」
「え、うん。じゃあな」

ルフィはナミに言われたことを考えながら化学室へ向かった。

「おい」
「うわっ!」

考え事をしているとき急に肩へ手を置かれ、ルフィは飛び上がって驚く。

「あはは、驚きすぎ」
「なっ、先生〜」

振り返るとサンジが笑っていた。

「まだ残ってたんだな? 今日も手伝いしてくれるのか?」
「えと……う」

うん、と言おうとしてルフィは固まった。

ドキドキしたりしない?

ナミの言葉が蘇る。
サンジの顔を見てルフィは鼓動が早くなるのを感じた。

「どうした?」
「う……わ」

近づくサンジからルフィは後退りする。
顔が熱くなり、胸が苦しくなった。

「ルフィ?」
「お、おれ! 急用、思い出した! 帰る!」
「あ、おいっ…早いな」

ルフィは脱兎のごとく廊下を走って帰ってしまった。

「………下心に気づかれたか? でも、肩に触っただけだしな」

職員会議が長引き、ルフィはもう帰ったと思っていた。
だから、今日はもう会えないだろうと思っていたルフィに会えてサンジは嬉しかったのだ。

「……どうするかな」

とりあえず化学準備室へ行き、悩むことにした。



***



ルフィは校門から出ると焦ってポケットにある携帯を取り出し、電話を掛けた。

『もしもし』
「な、ナミが…変なこと言うから! 帰って来ちゃったじゃねェか!」

ルフィはなんだか恥ずかしさで泣きそうだった。

『落ち着きなさいよ。後ろ』
「ふえ?」

振り返るとナミが携帯を片手に笑っていた。

「気分はどう?」
「………悪い。つーか、恥ずかしい」

二人は携帯の通話を切り、帰り道にある喫茶店へ入った。

「ルフィは危なっかしいのよね」
「なんだよ〜、急に」

人のあまりいない店の奥へ二人は座った。
適当に飲み物を注文して話し始めた。

「周りの視線に鈍いから恋人ができた方が個人的に安心」
「な、なにソレ?」
「なんか体育倉庫とか連れ込まれそうだし」

ナミは心配そうにルフィを見た。

「だったらナミの方が危ないだろ」

何人もの男子に告白されているのを知っているのでルフィは怪訝な顔をする。

「私は平気。油断しないもの。恋人でもいれば多少のガードになると思うのよね」
「そんなこと言われたって好きな奴なんていないもん。お前の話もよくわかんねェし」

口を尖らせてルフィは拗ねる。

「あら、可愛い態度。恋人作れってトコだけ分かればいいわ」
「だから好きな奴いないって」
「本当に?」
「う……」

なぜかサンジが頭に浮かびルフィの顔は赤くなった。

「今、誰を思い浮かべたの?」
「だ、誰も思い浮かべてなんか……」

おどおどと目を逸らしながらルフィは小さな声で否定した。

「ウソ下手ね。いいわ、自分でもよく分かってないんでしょ?」
「う〜……」
「その人に恋人ができたら嫌でしょ?」

ルフィはじっくり考えてみる。

「…………嫌、かも」
「うんうん、自分の気持ちをよく考えてみなさいよ」

「……うん。でも、ナミは何がしたいんだ?」

ナミはオレンジジュースを飲んでからルフィを見て優しく笑った。

「しあわせになって欲しいし、初恋は実らないっていうから今の恋には協力的なの」
「んん?」

ルフィは相変わらず説明されても理解できずに首をかしげる。

「次の恋の相手は私にしてよね。気長に待つし、隙あらば邪魔しようと思ってるから」
「う、うん」

楽しそうに笑うナミにルフィはとりあえず頷いておいた。



***



次の日の放課後。
昨日は走って逃げてしまったのでルフィはなんとなく気まずかった。

「………よしっ」

気合いを入れて化学準備室のドアをノックした。

「失礼しま…す。あれ? 先生…いない」

気合いが空回りするように準備室の中は誰もいなかった。

「なんだ……」

安心したようなガッカリしたような不思議な気持ちでルフィはいつも座る二人用ソファーに腰掛けた。
すると前になくした自分のボールペンを机の下で見つけた。

「こんなトコにあったのか〜見つからないはずだよ」

床に伏せて机の下に手を突っ込む。
するとガラリと準備室のドアが開いた。
ルフィは思わず机の影へ身を隠す。

(何、隠れてんだ…)

こっそりと部屋の中を見るとサンジがいた。
いつもルフィが座る横に腰掛けている。

(今、出なきゃ出れなくなる気がする)

段々と焦りのようなものがルフィの中に湧いてくる。
意を決して机の影から出ようとすると再びガラリと準備室の扉が開いた。

「ルフィ?」
「え? あ、あの違います…先生」
「あァ、えっと手紙をくれたコかな?」
「はい……」

ルフィは再びこっそりと様子を伺う。
可愛らしい少女が扉へ立っていた。
心なしか緊張しているように見える。

「ごめんね。おれ、今は好きな人がいるから君とは付き合えない」
「っ……そう、ですか…すみません、手紙のことは忘れてください。さようなら」

泣きそうになるのを精一杯の笑顔で隠し、少女はサンジに頭を下げて帰って行った。
その様子にルフィはひどく胸が痛んだ。

「………はァ」

サンジは何を思ったか準備室から出て行った。

「……」

ルフィはサンジが戻って来ないのを確認してから急いで準備室から出て行った。



***



サンジは煙草を吸うために喫煙所に来ていた。
女生徒から貰っていたラブレターのことはすっかり忘れていたが最後の表情にはさすがに胸が痛んだ。

「………はァ、一本吸ったら戻るか」

ルフィが来るかもしれないと思うとのんびり吸う気にもならない。
なんだか無性にルフィに会いたかった。

(今日は来ねェかもな…いや、これからずっと来ねェかも)

そう考えると気分は沈む一方だった。
結局、その日サンジはルフィに会うことはなかった。



***



「……っ」

次の日、一人考え事をしようかと思ったルフィは立ち入り禁止の屋上に来ていた。
授業をサボるときは大概ここにいるのだが今日は先客がいた。

「サンジ先生……サボり? ここ、立ち入り禁止だよ」
「……今日はもうおれが教える授業ないからな。サボりはお前だけだ。立ち入り禁止は気にするな」
「あはは、そっか。そんなトコに寝たら白衣、汚れるんじゃないか?」

寝転がっているサンジから離れた場所にルフィは座った。

「もう汚れてるからいいんだよ……昨日はどうした?」
「う……用事あったから…」
「そうか。忙しいなら暇な日だけでいいからな」

用事なんてなかったとルフィの口調で分かりサンジは悲しくなる。

「……うん。先生、眠いの?」
「寝不足だ。眠い」

まさかルフィのことを考えていたから寝不足だとは言えない。

「寝る? おれ、放課後になったら起こすよ」
「……頼んだ」
「うん」

放課後まで一緒にいられるなら会話なんてしなくていいかとサンジは目を閉じた。

「先生……寝た?」
「……」

起きていたがなんとなく返事はしなかった。
ルフィはサンジが寝ていると思い、近づく。

(先生は好きな人がいるんだよな……なんか、イヤだなァ)

昨日からずっと考えていたが今だに自分の気持ちがよく分からなかった。
サンジをじっと覗き込んでいると心臓がドキドキしてくる。

「おれ、サンジ先生のこと好き………かも」
「なんだよ…かもって」
「え!? わっ……」

寝ていると思い込んでいただけにルフィは心底驚いた。
反射的に逃げようとするが腕を掴まれてしまう。

「まァ落ち着け」
「む、無理! さっきの聞いてたんだろ!?」

ルフィは真っ赤になって慌てる。

「……よく聞こえなかった。結局どうなんだ? はっきり言え」
「なっ!?」

ルフィはぐるぐると頭の中が渦巻く感じがした。

(こんな恥ずかしい思いをもう一度しろって? い、イヤだ〜)

「う、わっ」

ルフィはぐるぐると考え事をしているうちに足払いをされ、床に押しつけられてしまった。

「ちゃんと言えって」
「う〜」

この状況で逃げるのはまず無理だろう。
何よりこの体勢は心臓に悪い。
恥ずかしい思いをあと一度するだけで解放されるならとルフィは深呼吸をした。

「おれはサンジ先生が好きです」
「おれもお前が好きだ」
「うん…うん? えっ!? 本気……んっ」

かなり驚いているとルフィは口づけをされた。

「本気」
「ふわ…初めてチューした…」
「そうか。これからは何度もしような」

嬉しそうに笑われ、ルフィは恥ずかしくて逃げ出したくてモゾモゾと動いた。
もちろん逃げられない。

「だ、だって好きな人がいるって…」
「あ〜、昨日の聞いてたのか。好きな奴ってのはルフィのことだ。キスしていいか?」
「も…今日はいいです。恥ずかしさの限界です」

露骨に聞かれ、ルフィは目を逸らす。
顔から熱が引かない。

「おれも嬉しさの限界だから悪いな」
「え? んぅ……む…」

聞いた意味がないと思いながらルフィにはどうすることもできず、サンジが解放してくれるのを待った。

「ははは、悪い悪い」
「うぅ…とりあえず退いてください」
「ハイハイ」

終始楽しそうなサンジにルフィは文句が言えなかった。

「……この体勢も恥ずかしいんだけど」
「お前、こんなんで恥ずかしがってたらヤバイんじゃないか?」

フェンスにもたれて座るサンジに後ろから抱きしめられてルフィも腰掛けている。

「…何がヤバイんだよ」
「キスだけで真っ赤になるしなァ」
「わ、悪いか!おれには恥ずかしいことなんだよ!」

お腹をまさぐるサンジの手をつねってルフィは口を尖らせた。

「もうちょっと慣れてもらわねェと先に進めないだろ」
「さ、先……卒業するまで待って…」

サンジの言わんとしていることが分かり、ルフィは居心地悪そうに顔を赤らめる。

「え〜、嫌だ。無理。毎日慣れるようにいろいろしような」
「せ、んせい!」

ズボンの中に手を入れられそうになり、ルフィは慌てる。

「まァ教師なんだが…ちゃんと一人の男として見ろよ? 二人のときは呼び捨てにしろ」
「サン…ジ…手がやらしい」
「……慣れろ、ルフィ」

サンジに耳元で囁かれ、ルフィはビクッと震える。
止めさせようと白衣の袖を引っ張ると、丁度辺りにチャイムの音が響き渡った。

「チャイム…鳴った」
「放課後だな、手伝いに来るか?」
「うん!」

にっこりと笑ってルフィはサンジを見た。

「ルフィ、好きだ」
「お、おれも…好き」

突然の告白に顔を赤らめながらもルフィは応える。
照れくさそうに笑うルフィにサンジはもう一度キスをした。





















*END*