ルフィはサンジ姿のチョッパーに会いに男部屋へ行くことにした。
どうやら座り込んで調合をしているようだ。
「おーい、チョッパー。薬すぐにできそうか?」
「ルフィ、うー…ナミが恐いからがんばる」
チョッパーの手元を見るといくつかの薬草をすり鉢ですっているところだった。
ルフィも座り込み、調合の手順を覗き込んだ。
「チョッパーならすぐできるって」
「えへへ、そんなこと言われても嬉しくねェぞ、コノヤロー」
ニコニコ笑いながらチョッパーはさっきよりも素早い動作で調合を進めた。
するとチョッパーはハッとしたようにルフィを見つめた。
「チョッパー、どしたんだ?」
作業の手を止め、じーっと見つめられる。
「あれ? おーい! 聞いてるかァ?」
「うェ! あっ…ご、ごめん!」
チョッパーは顔を真っ赤にして謝る。姿はサンジ、それが本気で赤面しているのだからめずらしいものを見た気になる。
「別にいいけど…どうしたんだ?」
赤い顔のままチョッパーはソワソワとし始める。
「る、ルフィって小さかったんだなって思って」
「そうか? 普通だと思うけどな」
それが理由で凝視されたと言われてもルフィには意味がわからなかった。
「うェ…だって普段はおれの方が小さいだろ?」
「あァ〜そう言われればそうだな」
ルフィがじっとチョッパーを見ると目をそらされた。
「…なんで目、そらすんだ?」
「えッ! そ、そらしてないぞ!」
「いや、今も見てねェしさ」
変な奴だとルフィは思いながらチョッパーが顔を向けているところに行ってみる。
「わっ! 何してんだ…困るぞ」
「んん? よくわかんねェんだけど」
顔を真っ赤にしたまま俯けてしまった。
覗き込もうとしてルフィはチョッパーに近づく。
「うー……ルフィ!」
「わっ! びっくりした…なんだ?」
意を決したようにチョッパーはいきなり立ち上がった。
「る、ルフィのことを抱きしめても…いいか?」
語尾は消えそうなほど小さな声でチョッパーはルフィにお願いした。
ルフィはポカンとチョッパーを見上げていたがすぐに同じように立ち上がった。
「うん、別にかまわねェけど」
「ホントか!」
「いつもの逆だろ? 別にいいぞ」
二カッと笑いルフィは赤い顔のチョッパーを見た。
寒い日や暇なときルフィはよくチョッパーを抱っこして遊んでいる。
チョッパーは、そっとルフィを抱きしめる。
「…ルフィは小さいんだな」
「まだ言うか…そんな小さくねェぞ」
「すごく強いのにすごく細い」
「…そうか? 鍛えてるから細くないと思うけどなァ」
壊れ物を扱うようにチョッパーは優しくルフィを抱きしめる。
「おれ、ルフィに抱っこされるの好きだ」
「そうなのか? 嫌がってるのかと思ったぞ、逃げるしさ」
「そ、それは恥ずかしいからだ…別に嫌なわけじゃない」
ちょっとだけ強く抱きしめられた。
「そうだったのか〜じゃあこれからも遠慮なく抱っこするぞ」
「うん。でも、今だけは抱っこさせて?」
チョッパーはもう少しだけ強くルフィを抱きしめた。
「そんなに抱っこするの気に入ったんなら元に戻ってからもしていいぞ?」
「え! だって…おれ、小さい」
「人型になればいいんじゃねェか? あれだとおれより確実にでけェぞ」
「あ…そっか。ルフィは頭いいな!」
チョッパーは嬉しそうにルフィを強く抱きしめた。
「く、苦しいぞ。チョッパー」
「わわ、ごめん。このぐらい力を入れたら苦しいんだな…」
謝りながらもルフィを離すことはせずチョッパーは軽く抱きしめ直した。
「おれはルフィに抱っこしてもらえるしルフィを抱っこすることもできるんだな」
「ん? そうだな」
「えへへ、両方できるのはクルーの中でおれだけだな」
抱きしめるのをやめ、ルフィの肩を掴みニコニコ笑いながらチョッパーは船長を見た。
「おれ、早く解毒剤を作るぞ!」
「おう、頑張れ!」
「…がんばるから早くできたらごほうびに抱っこして一緒に寝てくれ」
再びチョッパーは顔を赤くしてソワソワし始めた。
「ん、いいぞ。今日は一緒に寝ような」
ニコニコ笑うルフィからその言葉を聞いた途端チョッパーはものすごい早さで作業し、薬を完成させた。
***
「薬、成功しててよかったな」
後遺症もなく四人は元の姿に戻ることができた。
「うん、急いで作ったけど大丈夫だったみたいだ」
ルフィは約束通りハンモックでチョッパーを抱っこして寝転がっている。
「ルフィと一緒に寝るって言ったときサンジとゾロがすげェ恐かった……今も」
二つの微かな殺気を感じてチョッパーはブルッと震えた。
「今日は寒いからみんなチョッパーと寝たかったんじゃねェか?」
「……ちがうと思うぞ。ルフィは鈍いんだな」
(二人ともルフィにおれがくっついてるのを怒ってるのに…でも二人が恐くてもおれだって戦うんだ)
船長と一緒にいたいのはチョッパーだって同じこと。自分の特権をフル活用してルフィ争奪戦に参加することを心に誓った。
一人、わけが分かってなさそうなルフィの腕の中でチョッパーは微かな殺気にさえ優越感を持ちながら眠りにつくのだった。
*END*