「表だ!」
ルフィが叫ぶとサンジはゆっくりとコインを隠している手を退けた。
じっと二人がコインを見つめる。
それは表を向いていた。
「やったァ! 表だ!」
「チッ、当てたか」
ルフィはぴょんぴょん飛んで喜び、サンジは心底残念そうだ。
「へへ、サンジが罰ゲームだな!」
「はいはい、なんでも言うこと聞きますよ〜」
なげやりにサンジは応える。
「え〜っと…うーん、どうしようかなァ? 全然、考えてなかった…ちなみにサンジはおれが間違えたらどんな罰ゲームにするつもりだったんだ?」
なんでも、と言われると逆に思いつかないもので参考までに聞いてみようとルフィはサンジに尋ねる。
「……聞きたいか?」
「えっ! や、やっぱいいや! 自分で考える!」
ニヤリと笑ったサンジにルフィは嫌な予感がして聞くのを止めた。
「今日の晩飯は肉が食いたい!」
「そりゃ別にいいけどいつもと変わらねェから罰ゲームにならないんじゃねェか?」
それもそうかとルフィは再び悩む。
「うーん…じゃあ、ぎゅってしてくれ」
「全然、罰ゲームじゃねェな」
サンジは笑いながらもルフィを抱きしめる。
スリスリとサンジの胸元に擦り寄りながらルフィはまだ考えているようで唸っている。
「決まったか?」
「これ、意外と難題だぞ……うーん…ちょっ! どこ触ってんだ!」
腰の辺りを抱きしめていたはずのサンジの手が下にずれていた。
「あァ、ついクセでな」
反省ゼロの顔で言われルフィは呆れた。
「もーサンジは油断も隙もねェな…あっ思いついた!」
ニコッと笑ってルフィはサンジを見上げた。
「今日、一緒に寝よ?」
「…それが罰ゲームなのか?」
どこが『罰』なのかわからないという顔でサンジはルフィを見つめた。むしろ、一緒に寝られるのはサンジにとって嬉しい出来事なのだ。
しかも、さっきのおねだりはかなり可愛かった。
「ししし、でも手を出すのはダメだぞ」
「はァ!? 一緒に寝るのにか!?」
オーバーリアクションと言われてもいいぐらいにサンジは驚く。
「だって『罰』ゲームなんだろ?」
「…そうだな…確かにそう言ったな…」
「ちゃんと守れよ?」
「……努力する」
「いやいや、守れよ」
サンジにとっては最高に難易度の高い罰ゲームだった。
「…正直守れる自信ねェな」
「がんばれサンジ! がんばるサンジはカッコよくて大好きだぞ!」
「お前なァ…そんなこと言われると違うこと頑張りたくなるだろうが!」
「違うこと?」
ルフィが一生懸命に応援するたびにサンジは手を出しそうな自分が悲しくなる。
「はァ…わかった…罰は罰だ…守り切ってみせようじゃねェか!」
「やったァ! おれ、サンジと寝るの好きなんだ〜ちゃんと朝までそばにいてくれよ?」
「…了解」
顔を引きつらせながらも笑顔でサンジはうなずいた。
一緒に眠るとなるとサンジは何かと手を出してくるのでルフィは普通に一緒に寝てみたかったのだ。
その日の夜。
わくわくしながらもルフィはサンジの腕の中で安心して眠ることができた。
もちろん、罰ゲーム通り、手は出してこない。
サンジの心の中の葛藤も知らずに眠るルフィに軽くキスをする。
「これぐらいはいいよな、ルフィ?」
苦笑しながら可愛いらしい寝顔を見つめる。
こんな無防備に眠るルフィに手が出せないとは……サンジの長い夜はまだ始まったばかりだ。
***
次の日、約束を守り切ったサンジはかなりの寝不足だったようだ。
「サンジ…寝てないのかァ?」
「寝れるわけ…ねェだろ…安心しろ、お前も今日は眠れねェからな」
「えっ! どういう意味なんだ!?」
「エロい意味」
「ええーっ!」
ルフィの絶叫が爽やかな朝の陽気の中に響き渡った。
*END*