「うわー…カバンが重い」

持ち上げたカバンはいつもより重く、ルフィは顔をしかめた。
それはウソップも同じらしく渋い表情でルフィの横にくる。

「教科書持って帰るの久々だもんな〜」
「ルフィ、持とうか?」
「いや、大丈夫ですから」

そばにいるサンジの質問にルフィは即答した。
教室を出つつ、ウソップはため息を吐く。

「あ〜、一人でできる気がしないよな。提出期限が明日の宿題多過ぎ」
「あ! サンジに教えてもらえばいいんじゃん! ファミレス寄って、宿題して帰ろう!」
「うん」

ルフィの言葉に嬉しそうにサンジは頷く。
しかし、そのあと前を歩くルフィを見て、少し困った顔をしていた。
ウソップは不思議に思い、小声で尋ねる。

「なんだ? 用事あるなら帰ってもいいぞ?」
「そうじゃない。ただ、席どうしようかと思って」
「はい?」
「ルフィの正面に座るのと、横に座るの…どっちがいいかな」

知らんがな!と叫びたいところを我慢し、ウソップは顔を引き攣らせた。
用事でも思い出して困っているのかと思ったが全く関係なかった。
サンジ自身は真剣に悩んでいるのがウソップにしてみれば本当にどうでもいい話だ。
悩み続けられるのも困るので一応アドバイスをする。

「………横にしたら? 教えやすいだろうし、テーブルがない分近づけるし」
「そうだな! 横だと密着できるもんな!」
「それはド突かれると思う」

席が決まり安心したのかサンジは満面の笑みでルフィを見た。
靴を履き換えながらルフィは振り返る。

「早く行こ〜腹減った」
「わかった」
「メシ食いに行くのが目的じゃねェぞ」
「わかってるって〜」

三人は談笑しつつも、駅の近くにあるファミレスへと向かった。



***



「結構空いてるな」

お好きな席へどうぞと店員に言われ、禁煙席にする。
タバコのニオイが制服につくと、親がうるさいし、妙な誤解を与えたくない。

「あれ? あいつら…何してんだ?」

見覚えのある姿を見つけ、ルフィは不思議そうに首を傾げた。
ウソップがこっそりと振り返るとサンジが盛大に顔を歪めている。
そのことに気がつかず、ルフィは後輩コンビに声を掛けた。

「何してんの?」
「ルフィ先輩! あ〜、嬉しいけど静かに! あと1コで新記録達成なんですよ」

ローは笑顔になってから現状を思い出したのか真剣な顔で人差し指を立てて口に当てる。
テーブルには大量のガムシロップとミルクが積み上げられていた。
キッドもかなり慎重にポーションタイプのミルクを1コ持っている。
数えると下から4コがガムシロップ、あとはその上にミルクが14コ積み上がっていた。

「………」

無駄に真剣な空気に全員黙る。
ローはケータイを片手に新記録達成の瞬間を写メろうと構えていた。
手が震えないように注意しつつ、キッドはミルクを乗せ、微調整したあと、手をゆっくりと放す。
緊張の一瞬。
僅かに揺れるタワーに全員が倒れないことを祈る。
みんなの祈りが通じたのかガムシロミルクタワーは崩れなかった。
19コ、新記録達成だ。

「よっしゃあ!!」
「お〜! すげェ!」

沸き上がる歓声に周りの人もチラチラとロー達を見た。
なぜかわからないがルフィ達もキッドに拍手喝采を贈る。
ルフィは拍手をしてから、得意顔でローの写メに写っているキッドの頭を笑顔で撫でた。

「すごいすごい」
「「あっ!?」」
「えっ?」

サンジとローに叫ばれ、ルフィは驚く。
茫然としていたキッドは動揺したのかテーブルに足をぶつけた。
当然ながら積み上げたミルクはテーブルの揺れで倒れる。

「あ〜崩れちゃったか」
「…お客様、困ります」
「うわっ、すみません! ちゃんと全部使います」

店員に睨まれ、ついついウソップは謝罪した。

「そりゃまぁ、怒られるよな。つーか、お前らが謝れよ」
「「ごめんなさーい」」
「雑な謝り方だな…はァ、ガムシロとか使うの手伝ってやる」

呆れつつルフィは崩れたタワーから多めに貰う。

「ルフィ、座ろう」

苦笑しているルフィの腕を不機嫌そうなサンジが引かれた。

「こっちに座ればいいじゃないですか!」

ローが自分の横の席を叩く。
ルフィは嫌そうな顔で応えた。

「ヤダ。5人で座ると狭いだろ〜。おれ達は勉強するんだよ」
「ルフィ先輩、おれ達も教えてくださいよ」
「正気か? おれは教えてもらう側だ」

自慢げに言うルフィにローは目を逸らして気まずそうに呟く。

「あー…やっぱり」
「…それはそれで失礼だな」
「ルフィ、こっち」
「お、おお」

意外にもロー達の隣の席に引っ張られ、奥へと押し込まれた。
床へと落とす前にルフィはガムシロとミルクをテーブルに置く。

「サンジのことだから遠くの席に行くかと思った」
「あいつは近くに移動してくるだろ、どうせ」
「なるほどな〜。ん、カバン出せ」

サンジの解答に納得し、ウソップはルフィ達のカバンを受け取る。
それを自分の座る席の奥側へと置いた。

「ありがと。お、お前はいつまで掴んでんだよ! 放せって」
「………はーい」

サンジは渋々と赤い顔で怒るルフィの手を放す。

「勉強はとりあえずメシ食ってからにしようか」
「賛成!」

とりあえず三人は食事を先にすることにした。




























*END*