「もうすぐ島に着くから準備しなさいよ」
「今から島?」
「そう。あの島」

甲板でまったりと転がっているとナミに話しかけられた。
ルフィは起き上がりナミが指差した先を見ると、小さな島が見える。
首を傾げてルフィはナミを見た。

「随分近づいてから言うんだな」
「誰かさんが露骨に喜んでる姿を出来るだけ見たくないのよ」
「誰かさん?」

嫌そうな顔でナミはアゴでその人物を指し示す。
その先には確かに嬉しそうなサンジがいた。

「サンジだ。なんで嬉しいの?」
「……さァ? 本人に聞いてみたらどうかしら」

応えたくもないのか、ナミは適当にはぐらかして自分の部屋に戻って行ってしまった。
ナミの態度を不思議に思いつつ、ルフィはサンジに聞いてみることにする。

「なんなんだろ? まァいいか。おーい! サンジ!」

ルフィが手を振ると、サンジは嬉しそうな顔のまま甲板に来る。

「どうした?」
「なんで嬉しそうなんだ?」
「ん? 気になるか?」
「うん」

ルフィは笑顔で頷いた。
こうして話している間もサンジは楽しそうでルフィも楽しくなってくる。

「なんでだと思う?」

楽しげに訊ねられルフィは考える。

「島に着くから」
「ま、そうだけど。お前が聞きたいのはなんで嬉しいかだろ?」
「うーん、新しい食材が買えるから…とか?」
「それもあるけど、それだけじゃない」

にこにこと笑うサンジを見ていても答えは出て来なさそうだとルフィは降参した。

「わかんないや〜なんで?」
「お前と二人きりになれるから」
「へ?」

思わぬ回答にルフィは間抜けな顔をする。
サンジはそんなルフィを見て笑った。

「島に行くとデートもできるわけだ」
「で、デートって……いつも一緒にいるじゃんか」

見る見るうちに顔が熱くなる。
きっと自分は今、赤い顔をしているんだろうと鏡を見なくてもルフィは分かった。

「一緒の空間にいても二人きりじゃないだろ〜船にいても邪魔者が多すぎて、なかなか二人きりになれない」

船は広くなったが船員も増えたので結局二人きりの時間はほとんどないに等しい。
それがサンジは不満で面白くなかった。
しかし、買い出しのときは自然とルフィと二人きりになれるので、ついつい嬉しさを隠せないのだ。

「そ、そうなんだ」
「そうなんだよ。早く島に着かないかなァ」

嬉しそうなサンジにルフィは気恥ずかしくも幸せな気分になる。
自分と二人きりで一緒に居たいと思ってくれていたなんて、ルフィも嬉しい。

「えへへ、そうだな」
「何より簡単に手を出せるのがいいよな」
「はい?」

にこにこと笑っていたはずの表情がいつの間にかニヤニヤに変わっていてルフィは嫌な予感に顔を引きつらせる。

「船じゃ満足にできないもんな?」
「……」

何を? などと聞こうものなら聞かなくていいことまでサンジに言い聞かされるに決まっている。
耳を塞げば無理矢理にでも言って来るだろう。

「あれ? 顔が赤いけど、どうかしたのか?」
「……うー」

勝手に赤くなるのだから仕方ない。
何も言い返せずにルフィはサンジを見上げて唸る。

「ルフィは期待してんだな。わかったわかった。期待通り、いろんなことしてやるからな」
「してない! さ、サンジはおれの体だけが好きなんだろ!?」

さすがに驚きサンジは目を見張る。
ルフィは真っ赤になって壁際に追い詰められているが、自分の発言の凄さには気づいていないようだ。

「お前、混乱してすごいこと言ってるぞ…そんなわけねェだろ」

とりあえず両手を壁について檻を作り、逃げ出せないようにしてからサンジはルフィを見る。

「だ、だって…」
「あのなァ、性欲処理だけなら男じゃなく女にするって」
「……最低だな」

口を尖らせルフィはサンジを睨んだ。

「だからァ、例えばの話だろ。体を含めてお前が好きなんだよ」
「う、うん」
「時々、無性に襲いたくなるんだよなァ」
「…っ、ちょっと」

裾から手を入れられ、脇腹の辺りを直接撫でられる。
ルフィは困ったようにサンジを見た。

「こう怯えた目をされると泣いても叫んでも逃がしたくないっつーか」
「……っ」
「煽るなよ」
「……あおってません。放してくださーい」
「えー」

拗ねたようにサンジに言われ、ルフィは途方に暮れてしまいそうだ。

「えー、じゃなくて。目がヤダ」
「どんな目?」
「やらしい目…してるもん。だから、放して…」

何だか困った顔をしてサンジはルフィを見た。
ルフィは首を傾げる。

「なに…かな?」
「あー、今すぐやりてェな〜」
「へ? だ、だ、ダメだ!」

あまりにも直接的なセリフにルフィは顔を真っ赤にして首を横に振った。

「少しぐらい、いいか?」
「す、少しってなんだよ…ダメだよ、ダメ」
「我慢我慢の連続だと、いつかブチっと切れそうなんだよ」
「……何が?」
「理性の糸」
「い、今は切れてないんだよな?」
何やら妖しい雰囲気になってきたのでルフィは必死だ。
そんなルフィにお構いなしでサンジは、へらっと笑った。

「でも、なんか興奮してきたしなァ」
「え? し、知らないって! わ、ダメ……っ」

聞く耳持たないサンジにボタンを外されていく。
ルフィの動揺が頂点に達したとき突然、目の前が明るくなった。

「か、雷? 晴れてんのに……」

突然の落雷にルフィは目を瞬かせる。
空を見上げてから船の床を見るとサンジの倒れている周りが少し焦げている。あとでフランキーに修理してもらわないといけない。
とりあえず、サンジを起こそうと思ってしゃがむと目の前に影ができた。

「ここがどこだとか、今は何時だとかサンジ君には関係ないのかしら? 起こすことないわよ、永遠に。ね、ルフィ」
「ナミ!」

倒れてしまったサンジの向こう側に、不敵に笑うナミが仁王立ちしている。
その手には天候棒。
どうやら先ほどの落雷はナミの仕業のようだ。
雷なのでゴム人間のルフィには、もちろん被害はない。

「部屋に戻ったのかと思った」
「サンジ君が暴走すると思って天候棒を取りに行ってただけよ。ほら、ルフィこっちに来なさい」
「は、はーい」

威圧感のある雰囲気に負けてルフィは立ち上がる。すると、ナミにボタンを締められた。
ルフィは真っ赤になり、小声でお礼を言う。

「……ありがと」
「あんた、鈍いんだから常に逃げることを考えてサンジ君に近づきなさい」
「そ、それはさすがに変じゃないか?」

ナミに手を引かれ、ルフィはピクリとも動かないサンジを飛び越えた。

「変じゃないわよ。どうせルフィを話してる時は、やらしいことしか考えてないんだから。エロコックめ、場所を選べっての!」

ルフィの手を引いたまま船首に向かい、ナミは叫ぶ。
その内容にルフィが慌ててしまった。

「な、ナミ…女のコがそんなこと言っちゃダメな気がする」
「ごめんなさいね。予想通りな展開に怒りも倍増だったの」
「ナミはすごいなァ。おれはサンジがいつ襲ってくるかわからない」

しょぼんとしてルフィはナミを見た。
その姿にナミはルフィを抱きしめる。

「……可愛いなァもう!」
「ふえ?」
「なんでサンジ君なのかしら…はァ、早くサンジ君がフラれないかな〜」
「ナミ?」

なんでもないと笑ってナミはルフィの頭を撫でた。

「さて、ホントにもうすぐ着くから準備しときなさいよ? 船番はゾロに任せればいいから」
「うん、わかった。な、なァ?」

そわそわとするルフィを見てナミは苦笑する。

「しょうがないわね。行ってらっしゃい」
「え?」
「サンジ君が気になるんでしょ? もう船の上で手を出してきたりはしないだろうから安心して近づきなさい」

ナミの言葉にルフィは恥ずかしそうな笑顔になる。

「何も言わなくてもナミはなんでもお見通しだな」
「あんた達が単純なだけよ。ほら、そろそろ目を覚ますんじゃない?」
「うん! 助けてくれてありがとな!」
「……ふふ、何度でも助けてあげるわよ」

船首からサンジのいる場所まで走って行くルフィの後ろ姿を見て、ナミは満足そうに呟いた。



※※※



「いってて…何が…?」
「サンジ! 記憶はあるか?」
「ルフィ? ……おれ、何かしてたっけ?」

意識を取り戻したサンジの横に急いで座り込み様子を伺う。

「えーっと…いろいろ、かな」
「いろいろ? あァ、なんとなく状況理解した」

自分の周りにある黒焦げを指で撫で、サンジは苦笑した。
その様子を見たルフィは目を泳がせてからサンジを見る。

「……手加減はしてたと思うぞ」
「……そうだな。暴走したおれが悪いから反省します」
「そっか!」

反省という言葉に安心して、ルフィはにっこりと笑った。
サンジは目を細めてルフィをじとっと見る。

「お前、おれとするの嫌なのかァ?」
「そ! そ、そんな…こと……ない、けど。けど! 場所が変じゃん! 時間も! まだ昼だぞ?」
「常識に捕らわれてたら新しい発見はできないぜ?」
「出来なくいいよ〜」
「ふーん」

ルフィの言葉にサンジはつまらなそうに呟いた。

「サンジ? …怒ったのか?」
「べっつに〜。そんなに心狭くないですからァ? ルフィが嫌なら一切手を出さないし、触りませんよ〜」

投げやりに言いながらサンジは立ち上がり、ルフィに背を向ける。
ルフィも慌てて立ち上がった。

「お、怒ってんじゃんか〜そこまで言ってないだろ?」

怒っているというよりは拗ねている。

「いやいや、無理すんなよ。今まで無理矢理して悪かったな」
「う……」

いじけてしまったサンジはある意味、襲ってくるよりも質が悪い。

「デートもしばらくやめとくか」
「こ、今夜!」
「ん?」
「今夜……なら、別に……いい…よ?」

歩き出してしまいそうなサンジのスーツを掴み、消え入りそうな声でルフィは応えた。

「押してダメなら引いてみろってな」
「ん? なんか言った?」
「いやいや、なんでもない」

ニヤニヤと笑いながら振り返るサンジを見て、ルフィは赤い顔で首を傾げる。

「で、何回していいの?」
「え? か、回数まで言わなきゃダメなの? ……い、一回」
「はァ? それでこのおれが満足できると思ってんのか?」
「サンジの状況なんか知らないよ! おれは一回がいい!」
「若いくせに〜もっと欲張れよ」
「ま、毎回おれがどんだけ恥ずかしい思いしてるかサンジは知らないだろ」
「知ってるよ」
「知ってて!? ……もうヤダ」

知ってて、あんな恥ずかしいことをしてくるのかと思うと何も言えなくなり、ルフィは脱力して座り込んでしまった。

「おれ、お前の恥ずかしがってる顔とか困ってる顔も好きなんだよ」
「…なんだそりゃ」

どういう反応をすればいいのかわからないのかルフィは困り顔でサンジを見上げる。
こんな可愛い顔をされたら困らせたくなるのは仕方ない事ではないだろうかとサンジは本気で思った。
自分の言葉に対するルフィの行動すべてが愛しい。
サンジがじっとルフィを見つめていると目を逸らされてしまった。

「でも、安心しろよ。一番好きなのは笑顔だからさ」

その言葉に、ちらりと視線を上げるとルフィは笑っているサンジと目が合う。
サンジに手を差し出され、ルフィは無言でその手に掴まって立ち上がった。

「おれは欲張りだから、いろんなお前が見たいんだよなァ」
「……むー、サンジには見せてるよ」
「はは、そうだな」
「というかサンジにしか見せれないよ…」

何を考えているのかルフィの頬は赤い。
それを見てサンジはついつい、からかってしまう。

「何のときの表情を考えてるんだ?」
「そ、ういう事を平気で言うトコは直した方がいいぞ」

からかわれないように極力リアクションをしないで頑張っている姿が余計に可愛い。
その反応が余計からかわれてしまうのだがルフィ本人は気づいていなかった。

「からかって欲しいのかと思うだろ? ホント、ルフィは可愛い反応する」
「……なんか悔しいなァ」
「ん?」

このまま、からかわれて終わりなのが嫌でルフィは思案する。
そして、ルフィはイタズラを思いついたように笑った。
サンジが怪訝な顔で目の前のルフィを見る。

「サンジ、大好き!」
「っ!」

正面から、ぎゅっと抱きつかれサンジは思わず赤くなる。
突然のことで行動できないサンジを見て、ルフィはにししと笑いながら素早くサンジから離れた。

「おれもサンジのそういう照れた顔、好きだぞ!」

サンジの一番好きな顔でルフィは船を降りる準備に向かう。
照れ笑いをして、頭を掻きながらサンジはゆっくりとルフィの後を追った。

「まったく、負けず嫌いな奴だな」

嬉しそうにサンジは呟いてから今夜、仕返ししてやろうと楽しそうに思案するのだった。






















※END?※












おまけ



サンジとルフィは二人きりで町の中を見て周る。
食材を買い足すのは明日になったので今日はのんびり出来そうだ。

「あ、子犬!」

子犬特有の丸々とした姿を店先に発見し、ルフィは目を輝かせる。
しゃがみ込むと子犬の方からルフィに体をすり寄せてきた。
懐っこい子犬なのか、しきりに尻尾を左右に振っている
ルフィも嬉しそうに真っ白でふわふわの毛並みを撫でた。

「ここの店の看板犬みたいだな」

サンジは店先にある犬小屋を見て、そう判断する。

「うわっ、くすぐったい〜。あはは」

抱き上げると子犬はルフィの頬をペロペロと舐めた。
じっと見るサンジの視線に気づき、ルフィは子犬をサンジに差し出す。

「ほら、可愛いぞ。サンジも撫でたいんだろ?」
「…まァなー」
「はい、どうぞ。わんこも喜んでるぞ〜。ほら、ちゅー」

ルフィは嬉しそうな子犬をサンジの顔の方へ持って行く。
サンジは自分を見て嬉しそうに尻尾を振る子犬を見てから、ルフィを見、ゆっくりと両手を差し出した。
子犬を持つ自分の手の上に手を重ねられ、ルフィは驚く。これでは子犬を渡せない。

「サン…ジ」

ルフィは講義しようとサンジを見上げると顔が異様に近くにあり、目を見開いた。
もしかしてと思ったときには、もうサンジに口づけられていた。

「な、な、な、なに…なんで、急に……」

確かに、ちゅーとは言ったが無論、犬がサンジにするつもりで言っただけで、サンジが自分にするつもりで言ったわけではない。
ここは町の中で、往来で、夕方で、買い物客もいる。
誰かに見られていたかもしれないと思うと、ルフィはその場から走って逃げ出したくなった。

「…………」

まさか犬に嫉妬したなどとは言えず、サンジは思わず黙り込む。
そして、とりあえず子犬を犬小屋へ押し込んだ。

「サンジって犬、キライだったっけ?」

その様子を見てルフィはまだ赤い顔でサンジに訊ねた。

「いや、好きだけど」
「え? じゃあ、なんで…おれに、ちゅーすんの?」
「犬より好きな奴が目の前にいたから、ついな」

あまりにも恥ずかしい発言にルフィは真っ赤になって、うつむく。

「う、嬉しいけど…こういう場所でするのは反対です」
「賛成されるとは思ってねェよ」
「じゃあ、すんなよ〜」
「……お前が犬ばっか構ってんのが悪い」

サンジの言葉にルフィは驚いて顔を上げる。
憮然とした表情で見つめられ、ルフィは目を瞬かせた。

「えっ……もしかして、ヤキモチ? 犬に?」
「……悪ィかよ」

決まりが悪いのかサンジはルフィから顔を逸らす。
その頬は心なしか少し赤い。

サンジのこういうところを可愛いなとルフィは思っているし、好きだと思う。
しかし、本人に言うと後が怖いので言えない。

「悪くない。すげェ嬉しいぞ!」

しあわせそうに笑うルフィを見て、サンジはルフィの手を取る。

「もう夜ってことにしないか?」
「は?」
「お前が可愛いからしたくなった」

サンジのセリフにルフィは固まった。

今からしたのでは明日、起き上がることができない、絶対に。
それは嫌だ。明日もサンジとデートしたい。

ルフィはどうやって引き伸ばそうか、ぐるぐると脳内で考える。

「いいのか?」

何も言わないルフィに、サンジはにこにこと笑って手を引いた。

「だ、ダメ! おれ、腹減ったし! えっと、店もまだ見たいし……それとー」
「あはは、必死だなァ。余計に襲いたくなるっつーの」
「じゃあ、どうしろと? サンジはおれの意見を聞かない…」
「本気で嫌がることはしてないだろ?してみたいことはいろいろあるけど我慢してるんだぜ?」

呆れたようにサンジに言われて、ルフィはは愕然とする。

「我慢ってホントか!? これで? ……むー、おれに何したいんだよ」
「したかったり、させてみたかったり。言わねェよ? お前、絶対走って逃げるからな」

絶対に走って逃げるようなことを自分にしたいのかと思うとルフィは眩暈がしてくる。
今でもイッパイイッパイなのに。
黙ってしまったルフィにサンジは苦笑しながら助け舟を出す。

「とりあえず、メシでも食うか」
「うん!」
「その後、イチャイチャしよう」
「う……うん」

首を横に振りそうになるが、必死に止める。
サンジも一生懸命に妥協しているなら恥ずかしいのは出来るだけ我慢しようと、ルフィは赤い顔でぎこちなく頷いた。
驚いた顔をしてからサンジは嬉しそうにルフィの頭を撫でた。

「お前のそういう前向きなトコも本気で好きだな」
「えへへ、おれもサンジ好き」

二人で笑い合ってから食事をするために、とりあえずレストランに向かうのだった。
























*END*