(こっそり寝ちゃえ)

ルフィはナミをチラリと見る。

「何?」
「えっ! えっと…もうちょい考える」
「そんなに悩まなくていいと思うけど……まァいいわ。私は女部屋を掃除するから適当に決めて掃除しなさいね」

スタスタとその場を去るナミにルフィは一安心した。

(見つからなそうな場所で寝ようっと)

しばらくウロウロした後、甲板の端で眠ることにした。
のどかな陽気に包まれてルフィはあっという間に夢の中へ旅立った。



***



「よう! ルフィ〜元気だったか?」
「えっ! シャンクス? あ、あれ? なんで?」

疑問符いっぱいの顔で目の前に現れた懐かしい男をルフィは見上げた。
赤い髪、目の傷、ルフィの記憶と変わらずにシャンクスはそこにいた。
そして周りを見回す。見たことのない森の中だった。

「まァどうでもいいじゃねェか! 久々の再会を喜べよ」
「えーっ! よくねェだろ……だって急すぎるぞ? ……おれ、甲板で寝た気がするんだけど…夢? あァ夢なのかな?」

ルフィは困った顔でシャンクスを見上げる。

「あー…お前…誘ってるのか?」
「ん? どういう意味?」
「無意識か……はいはい、お前はガキだったな」

夢だと思えばそんなに動揺することはない。いつか会いたいと思っていたのだから夢に出てきてくれたのかもしれない。
首をかしげるルフィの頭を撫でながらシャンクスは笑った。

「でも、大きくなったなァ。こんな小せェガキだったのに」
「シャンクスは変わらねェな〜あっ、帽子!」

約束通り麦わら帽子を返そうと頭を触るが帽子がない。
眠る前にお腹の上へ置いたからかもしれない。

「いいっていいって、本当に会えたときにな」
「そうか? なんか…夢にしてはリアルなんだよなァ」

ルフィはペタペタとシャンクスに触った。

「よーし! 抱きしめてやる!」
「は? 意味わかんな…ぶふっ…」

ギューっと抱きしめられルフィは暴れたが逃げられない。

「か、片腕なのにィ!」
「あっはっは! おれに勝とうなんて千年早い!」
「せ、千年〜? 長すぎだぞ!」

夢なのか現実なのかわからなくなる。
ルフィは混乱した。

「お前は相変わらず可愛いな〜」
「え〜サンジもよくいうけど可愛いよりカッコいいがいいぞ!」
「サンジ? ……へェ? なかなか素敵な仲間がいるみてェじゃねェか」

ルフィはなんとか腕から抜け出し、笑顔でシャンクスを見上げた。

「おれの仲間はみんなすげェんだ! 優しいし、強いし、おもしれェぞ」
「おれと一緒で下心がありそうなんだよな……おれに会う前に誰かに手出されてそうだなァ…すげェ腹立つ」
「んん? 下心? 夢の中のシャンクスは難しいこと言うんだなァ」

一人悩むシャンクスにルフィはきょとんとした。

「ちょっとクルーに同情する……お前、おれのことどの程度覚えてんだ? 忘れてそう…」
「ちゃんと覚えてるよ! 失礼だな〜船に乗せてくれなかったし、バカにされたし、山賊にケンカ売ったおれを助けてくれたし、海王類から守ってくれた」
「あ〜そういう感じだったな。おれ達のために戦ったんだったな」

昔を懐かしむように笑ってシャンクスはルフィの頭を撫でた。

「おれ、シャンクスに友達って言われたとき嬉しかったぞ」

ルフィが山賊の頭に踏みつけられていたときの話だろう。
シャンクスは昔のことながら腹が立った。

「あいつ…おれの手で八つ裂きにしてやりたかったな」
「ん? なんか言ったか? よく聞こえなかった」

シャンクスが囁くように言った本音はルフィには聞こえなかった。

「いや、大したことじゃねェよ。それよりおれは友達より上の関係になりてェな〜」
「友達より上? 親友?」

ルフィは首をかしげてシャンクスを見る。

「鈍い…つまり、こういうことだ」
「え?」

シャンクスにアゴを掴まれたがルフィは何がなんだかわからないという顔でシャンクスを見た。
シャンクスの顔が近づいて来たなァと思ったとき、ルフィは目を開けた。



***



「ルフィ、起きろ」
「え? シャンクス? え? サンジ?」

目を開けていたのに目を開けた感じがしたのは夢から醒めたからだった。
さっき目の前にいたはずのシャンクスは影も形もなく、代わりにサンジがいてルフィは混乱する。

「シャンクスって……てめェどんな夢見てたんだ?」

どことなくサンジの声が低くなったがルフィは気づかない。

「なんか久々にシャンクスに会う夢見たんだ〜すげェリアルだった!」

お陰でルフィは寝た気がしなかった。

「……どんな夢だ?」
「えっ? だからシャンクスに会って、話して、なんかギュッてされて、話して、アゴを掴まれて、サンジに起こされて、目が醒めた」
「……」
「おれと親友になりたいんだってさ」

ニコニコ笑うルフィとは対照的にひどく不機嫌にサンジはルフィを見ていた。

「本当にそう言われたのか?」
「ん? 友達より上の関係になりてェな〜って言ってたかな?」
「やっぱりな……」

はァ、とため息を吐き、サンジはルフィの横に座った。

「ん? 何悩んでるんだ? ただの夢だぞ?」
「おれの勘が正しけりゃ、ただの夢じゃねェんだよな……アゴ掴まれた後なんもなかったんだろうな?」
「うん、急にサンジに起こされたからな」

起こしてよかったとサンジは心底思った。

「鈍すぎるのは不安になるな。またライバルが一人増えた」

しかもルフィの幼少期を知っているなんて羨ましくもある。トレードマークの麦わら帽子もシャンクスという男から預かっている。きっと憧れもあるのだろう。
しかし自分は今のルフィをよく知っている。今、一緒にいるというのは相手をリードしているだろう。

「よし、なんかやる気出てきた。ルフィ、今度シャンクスの夢見たら宣戦布告しといてくれ」
「よくわかんねェけど任せろ!」
「掃除行くぞ? もうサボり禁止だ」

ルフィの返事にサンジは満足そうに笑い、立ち上がった。
サンジに続き、ルフィも笑って立ち上がる。

「じゃあピカピカにするぞ!」
「サボってた奴が偉そうに言うなよ」

笑い合いながらサンジとルフィは掃除に向かった。



***



「ぎゃー! 悔しい! おいしいトコでルフィが消えたァ!」

シャンクスは叫びながら飛び起きた。

「妙に怪しい薬屋の変な薬だったけど会えたみたいだな〜お頭」

仲間の一人がシャンクスに笑いかける。

「ルフィもこんな昼間にタイミングよく寝てたなァ」
「ラッキーだったけどタイミング悪かった! 誰かが起こしやがったんだ」
「……夢の中で手を出そうとしたのか?」
「えー! 変態!」
「お頭、最低!」

シャンクスのセリフに周りが騒ぐ。

「いつまでもガキじゃねェだろ! 鈍いんだから強引にいかなきゃ気づかねェの!」

シャンクスは周りで騒ぐクルーに怒鳴りつける。

「ルフィの手配書、抱きしめて寝るのをやめろ」
「ルフィを船に乗せればよかったっていつもうるさい」
「自慢しすぎ」
「手配書持ってニヤニヤしないてください」
「うるせェ! あァ〜友達じゃなくて恋人だって言っとけばよかった〜あいつアホだから信じそう」

ガックリと肩を落としてシャンクスはいじいじとし始めた。

「お頭、情けない」
「なんとでもいえ」

部下にけなされてシャンクスは甲板をゴロゴロと寝転がる。

ルフィに会い、想いは募るのだと知った。
ただのガキだと思っていたが自分の中で段々と存在が大きくなっていた。
早く会いたいなどと常日頃考えている。
お陰で訳のわからない薬を飲んだ。
会いたい人を自分の夢に誘い、会える薬。
実際会えたのだからいいがもっと買っておけばよかった。
夢とはいえ、会うと自分の気持ちをより深く理解できた。

おれはルフィが好きだ。


「次は実際に会いてェな〜」
「もうすぐ会えるだろ」

部下の心強い言葉にシャンクスはニヤリと笑う。

「次は確実にチューしてやろっと! お前ら、手出すなよ? 潰すぞ?」

最低だ! とシャンクスは部下達に再び、けなされるのだった。






















*END*