ルフィはナミ姿のゾロに会いに甲板へ行くことにした。
「おーい! ゾロ〜」
「どうした、ルフィ。笑いに来たのか?」
「違うって! 会いたいから来たんだ」
ルフィはニカッと笑い、ゾロの横に座る。
「ふーん? 嬉しいこと言ってくれるじゃねェか」
少しだけ顔を赤くしたゾロは照れたようにルフィに笑いかけた。
「はァ…よりによってナミとはな…足がスースーする。あいつ、よくスカートなんてはいてられるな」
「着替えればいいじゃんか?」
「アホか! 全裸で街中、歩かれるだろうが」
ナミは本気でやるとゾロは思っているので迂闊にこの身体には触れられないのだ。
「あはは、全裸で街中を歩かれたらゾロは変態って言われるだろうな」
「笑いごとじゃねェよ」
「海賊狩りの変態ゾロって呼ばれるかな? …いでッ」
無言のゾロにルフィは頭を殴られた。
「ルフィ〜!」
「どした? サンジ…じゃなくてチョッパー?」
男部屋からチョッパーが顔を出した。といっても姿はサンジだ。
ルフィの元へ駆け寄る。
「材料が足りなくなっちゃったんだ。だから薬草を買ってきてほしいんだ」
「別にいいぞ! どんなのだ?」
「これと同じヤツだ。あと3本いるんだ」
「わかったぞ」
ルフィはチョッパーから赤い薬草を受け取りポケットに突っ込んだ。
「な、なんでにらむんだ、ゾロ…」
チョッパーがルフィに近づいてから今もずっとゾロは睨み続けている。
「あァ、悪い。コックかと思ったらつい、な」
「えー! こ、恐いぞ…サンジはいつも平気そうなのに」
「…気にするな」
気にするなと言いつつもまだ睨んでいる。
「る、ルフィ〜」
「おっ、なんだ?」
ササッとチョッパーはルフィの後ろに隠れる。
「ぎゃーッ!! もっと恐ェ!」
先程よりも鋭い眼光で睨まれチョッパーはビビった。
「諦めろ、チョッパー…その姿ではやることなすこと腹立つ」
ルフィの背後でしょんぼりしたチョッパーの頭をルフィが優しく撫でる。
しかし、その行為はゾロにとっては究極に腹の立つ光景だった。
「ルフィ…薬草買いに行くぞ」
「お、おう。じゃあな」
先を行くゾロを追いかけながらルフィはチョッパーに手を振った。
「ゾロ〜待てよ〜何、急いでるんだ」
「…早く元に戻りてェだろ」
「そうなのか?」
「ナミがおれの姿でなんかしそうで嫌なんだよ」
なるほど、とルフィはポンッと手を叩き納得した。
「あら? ルフィ、航海士さん」
振り返るとロビンがいた。
「あっロビン〜買い出し終わったのか?」
「ええ。もう船に戻ろうかと思っていたの。ルフィ達も買い物?」
「おう! チョッパーに頼まれて薬草を買いに来たんだ」
そう言うとロビンがじっとナミの姿をしたゾロを見た。
「……薬草を売ってる店はこの街に一つしかないの」
「だからなんだ」
挑むようにゾロはロビンを見上げる。
「方向が逆よ?」
「え! そうなのか?」
ルフィはゾロを見る。なぜならルフィはゾロの後を追いかけて来ただけだったからだ。
「あなた、誰かしら? 航海士さんは迷子にならないもの」
「あっ忘れてた! こいつはナミじゃなくてゾロなんだ」
「…なんとなくそんな気がしていたけど。何があったの?」
事の成り行きをルフィが話すとロビンはおかしそうに笑った。
ゾロは仏頂面で黙ったままだ。
「フフ、じゃあ今は剣士さんなのね」
「ナミはすごいぞ〜ゾロなのに女言葉のまま話すんだ」
「黙れ、ルフィ」
ゾロは楽しそうに笑うロビンを睨みながらルフィの口を片手で塞ぐ。
「ふふ、早く元に戻らないと何もできないわね、剣士さん?」
「あァ?」
「もしかして今がみんなと差をつけるチャンスなのかしら」
ルフィ達のまわりに僅かだが人が集まり始める。
「私、あなたが一番近い気がするのよ」
「どういう意味だ?」
「船長さんとの心の距離よ。恋愛感情は抜きにしても危ない気がする」
ライバルながら嬉しいことを言ってくれるとゾロはニヤリと笑った。
「潔く諦めろよ」
「嫌よ。勝負はこれから、でしょ? まだ誰も特別じゃないもの」
美女二人が男を取り合う修羅場だと先程よりも人集りができている。
「ど、どうしたんだ〜二人とも〜」
いきなりの争いにルフィは困惑気味だ。
「ルフィは私と剣士さん、どっちが好き?」
「え…どっちも好きだぞ?」
おー! 二股か! とギャラリーも騒つく。
「ほら? 別にあなただけが特別好かれてるわけじゃないわ」
悔しそうに唸るゾロ。
すると人垣を掻き分けてルフィ達に近づく人物がいた。
「ルフィ! ゾロ! あっ、ロビンまでいる」
「お〜ナミ」
「遅いのよ! こんなとこでルフィ争奪戦する前に薬草を買って来なさいよ! 元に戻ったら私も参戦するから」
おかまの乱入だ! とギャラリーもまた騒つく。
「お前……まさか、わざと?」
青筋を額に浮かべ、ゾロはナミに話し掛ける。
「私を怒らせるからよ? はいはい、暇人達はどっか散りなさい! 通行の邪魔よ!」
ナミの言葉にギャラリーは恐々と散って行った。
「フフ、剣士さんはもうこの街を歩けないわね」
「あはは、おかまって言われてたもんな〜」
ナミに文句を言いまくるゾロを見ながらロビンとルフィは笑い合った。
***
その後、買ってきた薬草を混ぜて解毒剤は完成。それを飲んだ四人は本来の身体に戻ることができた。
「ゾロ〜機嫌悪いな」
「当たり前だ! 笑い者にされた挙げ句、街にも出れねェんだからな!」
「ししし、おれが近くにいてやるよ」
思わずルフィを見るが何も考えてなさそうな顔をしていた。
「そりゃどうも。お前がいるなら街になんか出られなくてもいい」
「おれもゾロがいるならそれだけでいいぞ」
深い意味があるのか、ないのか。
しかし、ニコニコ笑うルフィにそんな言葉を言われるなら意味なんてどうでもいいかとゾロは思うのだった。
*END*