「ナミさんばかり構ってみるか」

いつも通りな気がしないでもないが、せっかく思いついた作戦を実行することにした。

「ナミさん」
「あら、サンジ君。そろそろ到着よ? 錨を下ろす準備してね」
「了解です」

やはり女性はいいなと思いながら頼まれた仕事をこなす。

「あ、サンジ〜町に着いたぞ」
「ルフィ」

ニッコリと笑いながら話しかけてきたルフィにサンジは自然と笑顔になった。

「あ、ナミ〜! 町に行ってもいいだろ?」

サンジの様子を見に来たのかナミが姿を現した。

「ええ、私は海図を描きたいから行ってくればいいわよ」
「サンジ、行こう」
「あァ…って違う違う」

あまりにも可愛らしい笑顔でルフィに誘われ、サンジはいつも通り一緒に町へ行くところだった。

「ん? 行かないのか?」
「ナミさんに用事があるんだよ。行きたいなら一人で行け」
「そっか……じゃあ行ってくるな」

シュンと落ち込んだルフィを抱きしめたい衝動にかられるが、サンジはなんとか耐えた。
ルフィのしょんぼりした後ろ姿にサンジは、やはり追いかけようとしてナミに声をかけられた。

「……ねェ、サンジ君」
「はい?」
「もしかして、私を当て馬に使ったわけじゃないわよね?」

ナミの薄ら笑いにサンジは背筋に冷や汗をかく。

「ま、まさか、そんなことは…」
「言っておくけど…今後、同じようなことしたらルフィを襲って既成事実作って結婚するから」
「すみませんでした!」

ナミならやりかねないとサンジは潔く謝った。

「嫉妬されたいとか思ったかもしれないけど贅沢な悩みよ…いい? ルフィを悲しませたら許さないから」
「…申し訳ありませんでした」

サンジは、ひたすら謝るのみだった。

恋敵の多いルフィと付き合っているだけでも幸せなのに嫉妬させたいとは確かに贅沢すぎる悩みかもしれない。

「じゃあ、私は海図描くから買い出しにでも行ってらっしゃい」
「はい、ナミさん。ごゆっくり」

深々と頭を下げつつ、ナミの恐ろしさを痛感したサンジだった。

「……サンジ?」
「ルフィ、町に行ったんじゃなかったのか?」

振り返るとそこにはルフィがいた。

「あはは、やっぱりサンジと一緒に行きたいって思って。おれ、用事終わるの待ってる」

照れたように笑うルフィをサンジは今度は我慢せずに抱きしめた。

「サンジ?」
「用事は終わった」
「えへへ、そっか!」

サンジは嬉しそうなルフィの頭を撫でる。

「嫉妬させるより取られないようにする方が大事みたいだな」
「ん? なんの話?」

頭を撫でられながらルフィは首をかしげた。

「さァな。それより町に行くんだろ?」
「うん!」

ルフィはサンジの手を嬉しそうに引っ張った。

「どこ行くかな〜」
「なんか食いたい」

ニカッと笑ってルフィはサンジを見上げた。

「そればっかだな。おれはお前を食いたいよ」
「サ、サンジもそればっかだな」

ルフィは顔を赤くし、サンジから顔を逸らした。

「ルフィはすぐ照れるよな」
「仕方ないだろ…そういうこと言われるの慣れてないし恥ずかしいんだから」
「慣れてたら…相当、嫌だな」

サンジは心底嫌そうに顔を歪めた。

「……サンジは慣れてるから相当嫌だぞ」
「え?」
「おれじゃない奴にもそういうこと言ったりしたんだろ? …ヤダ」

ムッとした顔でルフィは拗ねる。

「可愛い奴だな。おれにはお前しかいねェよ」
「そうかァ?」

半信半疑の顔でルフィはサンジを見た。

「可愛くねェ反応だな」
「ちぇっ、可愛くなくていいもん」

その口を尖らせた態度がひどく可愛らしいことにルフィ本人は無自覚なようだ。

「まァ信じろよ。おれはお前に夢中だからな離してなんかやらねェよ」
「おれだって離してやらねェからな! ……今さら女がいいとか言っても無駄だからな」

ぎゅっとサンジの手を握り、ルフィはサンジを睨む。

「………ルフィ」
「んぅ……ば、バカっ」
「自制心が少なくて申し訳ない」

ルフィは急いでサンジを押し退ける。
人通りがないとはいえ、道端で突然キスをされルフィは真っ赤になった。

「……急になんだよ?」
「鈍い姫君には難しい話かもな」
「はァ?」

サンジの言いたいことが分からず、ルフィはきょとんとする。

「要するにさっきの言葉が嬉しかったんだよ」
「そうなのか? あはは、よかったな」
「そういうことだ。まァ今回は健全にデートするかな」

サンジは隙をみてルフィの唇を奪う。
そして真っ赤になって固まるルフィの手を取り歩きだした。

嬉しい言葉をたくさんもらったサンジはひどく幸せそうに笑っていて、ルフィは突然のキスに文句を言うことができなかった。
























*END*