「フランキー…何してんの?」
「おー、麦わらか。お前のメシはまだだ。そこに座ってちょっと待ってろ」
「うん。じゃなくて! 何してんの?」
とりあえず、イスに腰掛けてルフィはなぜかキッチンに立っているフランキーに再び同じ質問をした。
「何ってメシ作ってるに決まってるだろ?」
「そう…だな」
不思議そうな顔をしたフランキーにルフィは微妙な表情で頷く。
確かにサンジのように料理を作っている。
しかし、ルフィが聞きたいのは何故フランキーが料理を作っているかだ。
「みんなは?」
「お前、寝てたから昼飯は先に食ったぜ。各々自由にしてんじゃねェか? ほら、さっさと食っちまえ」
「そっか。うん、とりあえず食う! いただきます!」
当たり前のようにフランキーが食事の用意をした。手際がいい。
色々と言いたいことはあったが昼食を摂るのが腹も空いているので先に食べてしまうことにした。
あっという間に食べ終えてルフィはフランキーを見る。
「ごちそうさま! おいしかった…フランキーが作ったのか?」
「当たり前だろ。コックだしな」
フランキーは当たり前のように食器を片付けた。
「ぶっ……ふ…そうだよな〜じゃあな!」
笑いそうになり、口を押さえてからルフィは甲板に走り出る。
「なんだァ? …あいつが変なのはいつものことか」
ルフィの態度を不審に思いつつも、フランキーは食器を洗い始めた。
***
「フランキーがコックって! あっははは!」
甲板に走り出たルフィは、こらえられず大笑いした。
「何、笑ってんだ?」
ルフィが声の主を探すとゾロが不思議そうにルフィを見ていた。
ゾロは甲板で本を読んでいる最中だったようだ。
その様子に驚き、ルフィは笑うのを止めた。
「えー?ゾロこそ…どうしたんだ?本?」
「ん?あァ、前の島で買ったんだよ」
「いやいやいや…うわ、字ばっかり」
当たり前のように言われてルフィはゾロの読んでいる本を覗き込む。
簡単な本ではない。
例えて言うならロビンが読むような、そこまで考えてある仮説に辿り着いた。
「もしかして……ゾロ、ウソップどこ?」
「ウソップ? 見張りか、もしくは地図でも描いてんじゃねェか」
「ロビンは?」
「この前、お前が壊したテーブル直してたぜ」
「やっぱり!!」
自分の閃きにルフィは興奮してしまった。
からかわれているという雰囲気ではない。
夢にしろ現実にしろ、クルーの役職が変わっているのだ。
なんだか面白くて、わくわくしてしまう。
ぽかんとしているゾロに近づく。
「おれは、なになに?」
「は?」
「船長?」
「そうだけど」
「……そっか」
なんだか、しょんぼりしてしまった。
いや、船長でいいのだが、せっかくなので違う役職が良かったのだ。
なぜだか落ち込むルフィにゾロは焦る。
「だ、大丈夫か?」
「……うん。なんか、つまんなかっただけだ。あ、他のみんなも見て来よっと〜ありがとな、ゾロ」
「……あァ」
ニカッと笑ったルフィにゾロは赤面しつつ、見送った。
ルフィは他のメンバーに会う前に男部屋へ紙とペンを取りに行く。
「えーっと」
そして、今わかっていることを書き出した。
おれ せんちょー
フランキー コック
ゾロ こうこがくしゃ
ウソップ こうかいし
ロビン ふなだいく
普段のみんなを思うと本当に似合わない。
これを見るだけで大笑い出来そうだ。
実際に見ると似合うのかもしれないが、とりあえずフランキーとゾロは面白かった。
「あとはサンジとチョッパーとナミか」
わくわくしながらルフィは再び甲板に出る。
「楽しそうね、何してるの?」
「あ、ナミ」
振り返ると片手にダンベルを持ち、いい汗をかいているナミがいた。
腰には日本刀。
「な、ナミが剣士? 体、鍛えてたのか?」
「何言ってんの? 鍛練なんていつもしてるじゃない」
「お、男らしい…」
涼しい顔でダンベルを持つナミはニッコリと笑ってルフィを見た。
「ありがとう、惚れてもいいわよ?」
「ふえ? また今度にしとく…?」
訳の分からない返事をしながらルフィはナミを見て、ふにゃりと笑った。
おそらく、質問の意味は理解していないだろう。
「可愛いわね…私、フランキーに飲み物貰いに行くトコなのよ。ルフィはどうする?」
「うーん、サンジとチョッパーを見てからにする」
「そう? よく分からないけど、いってらっしゃい」
ルフィはキッチンに入っていくナミを見送ってから、しゃがみ込み、新しく書き込む。
ナミ けんし(いつもよりおとこらしい)
ナミには失礼かもしれないが、逆に似合う気がした。
「もしかしてチョッパーは船医のままかも」
ルフィは医療室に行こうとした途中でチョッパーを見かける。
「あ!パチンコ持ってる」
「ルフィ〜さっきからうろうろしてるな」
「まァな。そっか〜狙撃手はチョッパーなんだな」
「な、なんだよ〜急に〜」
嬉しそうなチョッパーを抱っこしてルフィも笑う。
ルフィの言いたいことはよくわからないが、チョッパーもつられて笑った。
「おい、ルフィ。こっち来い」
「サンジ? うん、じゃあまたな〜チョッパー」
「う、うん」
突然、不機嫌そうなサンジに呼ばれルフィはチョッパーを床に降ろして、サンジに着いて行く。
予想通りというか、消去法でサンジは船医だった。
それらしく白衣を着ている。
医療室に着くとルフィはベッドに座らされた。
「えっと…」
「腹、診せろ」
「はーい」
ルフィはボタンを外す。
すると腹には包帯が捲いてあった。
「あれ? ケガなんかしたっけ」
「したんだよ、アホ。心配ばっか掛けやがって…」
サンジが包帯を取ると傷口はほとんど塞がっていた。
「あ〜、もう治ってるな」
「そうだな」
「…んっ……その触り方、ヤダ」
サンジは触れるか触れないかの距離でルフィの傷痕を撫でる。
「エロい顔するなよ」
「してないって! サンジは船医だと危ないな」
真っ赤な顔で否定し、ルフィは頬を膨らます。
そして、素早くボタンをはめた。
「触診して欲しいって? お前にならいつでもしてやるよ」
「言ってない! 船医なんだろ、自分の耳の心配しろよ」
「あはは、上手いこと言うじゃねェか」
頭を撫でられ、ルフィは楽しそうに笑う。
「ん? なんだ、これ」
「あ〜、メモだ。せっかくだから書き足しとこうかなァ」
ポケットに入れていた先ほどのメモをサンジに取られ、ルフィはまだ書いている途中だったと思い出した。
「書き途中か? ほら」
「うん、ありがと。えーっと」
サンジに返されたメモを受け取り、ルフィは床に座り込み、続きを書く。
チョッパー そげきしゅ
サンジ せんい
「何書いてんだ?」
サンジも床に座り込み、ルフィのメモを覗き込む。
「おもしろかったから」
「……どこが? 全員の役職書いてるだけじゃねェか。しかも、ナミさんのトコに男らしいって書くなよ…わからなくもねェけど」
ニコニコと笑うルフィにサンジは呆れた顔でメモを見た。
「まァ、サンジにとってはそうなんだろうけどさ〜。わっ、どこ触ってんだ!」
「尻」
「〜っ! サンジなんて、こう書いてやる!」
悪気一つないという顔で返答され、ルフィは真っ赤になりながらメモに書き足す。
サンジ エロせんい
「失礼な奴だなァ。おれのは普通にある欲求なんだよ。それなら、藻にも足りないだろ」
サンジは自分の持っていたペンで書き足す。
ゾロ ムッツリこうこがくしゃ
「えー! サンジじゃないんだぞ?」
「おれはムッツリじゃねェの、オープンなんだよ。あ、言い忘れてたけどチョッパーは抱っこするな」
先ほどのことを思い出したのかサンジは不機嫌になった。
「な、なんで? モコモコしてるのに」
「理由はおれが嫌だから」
「そうなの?」
「当たり前だっつーの」
チョッパー そげきしゅ(青春中につき抱っこ禁止)
不機嫌そうにチョッパーの項目にサンジは書き足した。
「うーん、なるべく気をつける」
ルフィも他の部分に書き足しながら了承する。
チョッパー そげきしゅ(青春中につき抱っこ禁止)モコモコ、かわいい。でも、がまん
「……他の奴らのが寂しいな」
「とりあえず、書くかァ」
別に書く必要もないのだが、このまま書き終えると中途半端な気がして二人は全員に思いついたことを書き足していった。
おれ せんちょー。つよい。天然。犯罪的に可愛い。天才的に鈍い。無邪気に誘ってくる。←そんなことしてない、バカ!
フランキー コック。サイボーグ。にあわない。変態。涙もろい。
ゾロ ムッツリこうこがくしゃ。にあわない。藻。正直、邪魔。
ウソップ こうかいし。にあうかも。うそつき。長鼻。嘘が下手くそ。
ロビン ふなだいく。美女。年上の色気がある。にあわない…かな。
ナミ けんし(いつもよりおとこらしい)にあう。美女だが強い。おこるとこわい、でもやさしい。手強いライバル。
チョッパー そげきしゅ(青春中につき抱っこ禁止)モコモコ、かわいい。でも、がまん
サンジ エロせんい。にあうかも。かっこいい。やさしい。←あんまり褒めると襲うぞ?←ごめんなさい。ぜんぶ、うそです←冗談だ、襲うけど←だめ!!エロ、バカ、へんたい!
「うー、サンジは変なことしか書かないなァ。もう書いちゃダメだ」
ルフィは少しだけ書き足してから、メモをポケットにしまった。
「正直に書いただけだろ。それより、似合う似合わないってどういう意味だよ」
全員の項目に書かれているにあう、にあわないの文字にサンジは首をかしげる。
「え? うーんと、個人的な感想…かなァ? 別に今の役職でもいいんだけどな」
ルフィもどう説明したものか悩んで首をかしげた。
別に仲間達の性格が変わっているわけではない。
誰かが欠けているわけでもない。
そのお蔭でルフィは今の不思議な状態も楽しむ余裕がある。
「お前の考えてることはよく分からんな…ま、いいか。なァ、ルフィ」
「ん? さ、サンジ…目が…」
「目が? どうかした?」
どうもこうもない。サンジの目には情欲が滲んでいる。
思わず逃げ腰になったルフィをサンジはあっさりと捕まえた。
そして、そのまま床に押し倒される。
「メモの書き合いも楽しいけど他のこともしたくならねェ?」
「ならない! サンジ、どけよ!」
「お前は相変わらず頑なだなァ。抱いてとかたまには言えよ」
「そ、そんな恥ずかしいことだれが言うか!」
勝手に体温が上がる。顔が熱い。
サンジの発言は心臓に悪いとルフィは内心で思った。
「じゃあ診察ってことでボタン、外せよ」
「……診察するだけだよな?」
「勢い余って性欲処理までやるかもな」
にっこりと笑顔でそんなことを言われた後でボタンを外す気になど到底なれない。
ルフィは顔が引きつるだけで言葉を紡げなかった。
「仕方ねェな。おれが脱がしてやる」
無言のルフィに至極優しい声音で話し掛けるサンジはひどく楽しそうだ。
ルフィが口を開くより早く、キッチン側の扉が開く。
「私、医療室で盛るなって言わなかったかしら?」
「……言ってました。ぐっ!」
ナミにこの状況を見られた動揺でルフィは油断したサンジの腹を蹴りあげて脱兎のごとく逃げてしまった。
「自業自得よ。ま、恥ずかしがるルフィは可愛いけど。ここは通路にもなるんだから…同じ注意は二度とさせないでね、サンジ君。次は斬るわよ?」
腹を押さえて悶絶するサンジを見て、ナミは笑顔で再びキッチンに戻った。
「いってェ…ルフィの奴、今晩はお仕置きだな」
全く懲りていないサンジはニヤリと笑って物騒なことを言う。
ふと足元に目を向けるとルフィが持っていたメモが落ちていた。
「暴れたから落ちたんだな」
一応、届けてやるかとサンジは拾い、もう一度文面に目をやる。
自分の項目を見て、サンジは幸せそうに微笑んだ。
「そういや、ポケットにしまう前になんか書いてたな…本当に可愛い奴」
サンジ エロせんい。にあうかも。かっこいい。やさしい。←あんまり褒めると襲うぞ?←ごめんなさい。ぜんぶ、うそです←冗談だ、襲うけど←だめ!!エロ、バカ、へんたい!でも、だいすき
あまりにも可愛らしい告白にサンジは胸が温かくなる。
サンジはメモに『おれも』と書き足して白衣のポケットになくさないようにしまった。
これを見たときのルフィの反応に期待しつつ、サンジは逃げ出した愛しい恋人を探しに行くのだった。
*END*