「町の女性に声をかけてみるか」
船が港に到着し、サンジはルフィと二人で買い出しに行くことになった。
「何か考え事か?」
「へ?」
「黙ってるからさ」
ルフィは不思議そうにサンジを見上げた。
「いや、なんでもねェ」
「そっか? おれ、あっち見て来るな。調子悪いなら船に戻ってていいからな?」
心配そうに見つめるルフィにサンジは罪悪感が涌いてきた。
「大丈夫だ。あそこのベンチに座ってる」
「ん、わかった」
ルフィの背中を見つめて、少し反省する。
どの女に声をかけようかと考えていたとは、さすがに言えなかった。
「ルフィといるのに他のこと考えるのは疲れるなァ」
女のことを考えているのに疲れるとは昔の自分が今の自分を見たらどう思うだろう。
そう考えてサンジは苦笑した。
嫉妬させるなんてバカなことを考えるのは止めてルフィの元へ行こうとすると目の前に見知らぬ女性が立ちふさがった。
「こんにちは〜お兄さん。今、ヒマ?」
出で立ちと醸し出す雰囲気から、その女は娼婦だと分かった。
「こんにちは、お嬢さん。連れがいるんでね」
「え〜、そうなんだ。お兄さん、好みの顔してるから安くしてあげようと思ったたのに」
艶やかに笑う、男の扱いになれた仕草に軽く嫌悪感を覚えた。
「残念だけど間に合ってる」
「そう? もし、気が変わったら夜にでもまたこのベンチに来てね。サービスしちゃうわ」
「気が向いたらね」
それだけ言い残すと新たな客を探しに女は裏路地へと消えて行った。
今のサンジには興味ないことだ。
「……サンジ、帰ろ?」
「っ! ルフィ…」
突然、声をかけられてサンジは驚いた。
娼婦を目で追っているうちに戻って来ていたのだろう。
「もういいのか?」
「…うん。帰ろ」
「あ、あァ」
体調を崩したのかルフィは元気がない。
サンジは心配になり、買い出しもせずに船へ帰ることにした。
***
元気のないルフィをベッドへ寝かしつけ、サンジは温かいスープを手早く作った。
買い出しをしなかったせいか簡単なものしか作れない。
「ルフィ?」
「サンジ…おれ、別に体調悪いわけじゃ…」
「いいから寝てろ」
いつも元気なだけにその様子はサンジを心配させた。
スープを飲み、ルフィは部屋を出ようとするサンジを見た。
「……どこ行くんだ?」
「心配するな。町に行って来るだけだ」
「っ!」
ルフィは焦ってベッドから飛び降り、サンジに抱きついた。
「る、ルフィ?」
「………っ」
「どうした?」
急に背中に抱きつかれ、サンジは驚く。
何かに怯えているようなルフィを安心させるようにサンジは優しく問いかけた。
「行かないで」
「……」
「どこにも行かないで」
「ルフィ…」
サンジが振り返るとルフィは目にいっぱいの涙を溜めて、こちらを見上げていた。
「……行かないで」
「どうしたんだ?」
「行かないで…行かないで…お願い、どこにも行かないで」
理由を聞いても聞こえていないのか泣きながらルフィは行かないでと懇願するばかりだ。
「お前が望むなら、どこにも行かない」
「……ホント?」
「ここにいるだろ? どこにも行かない」
「うん…」
ぎゅっとサンジに抱きつき、ルフィは胸元に頬を擦り寄せた。
「…どうしたんだ?」
「さっき…ベンチで女と話してた」
「あれを聞いてたのか」
調子の悪そうなサンジを心配して、ルフィが戻ると女性と話していた。
途切れて聞こえてくる話の内容に眩暈がした。
だから、サンジを町に近付けたくなくてルフィはサンジに帰ろうと言ったのだ。
「…あの女のトコに行かないで」
「行くわけないだろ…町に行きたかったのはお前に食わす物を作る材料を買いに行くつもりだったんだよ」
「そう…だったんだ。よかった」
泣き笑いの顔でルフィはサンジを見上げる。
そんなルフィに軽く口づける。
「不安にさせたな」
「えへへ、おれの勘違いだったから別にいいんだ〜」
涙を拭って照れたようにルフィは笑った。
「ルフィがいるのに他の奴のトコには行かない」
「そっか…サンジがいなくなると思ったら怖かったんだ」
どこにも行かないようにルフィはサンジの服を掴む。
「よしよし、大丈夫だからな。お前のそばにいるよ」
「うん」
頭を撫でるサンジにルフィは安心したように笑った。
「…さっきのお前、色っぽかったぜ」
「へ? そ、そんなわけないだろ…サンジは目がおかしい」
普段言われないことを言われて、ルフィは動揺する。
「本当だって。昼間に見た娼婦なんかじゃ足元にも及ばねェよ。誘ってんのかと思った」
「誘ってないって!」
いつの間にか腰を撫でていた手をルフィは必死で止める。
「お前がいろいろ可愛くて困る」
「なんだよそれ…わっ」
腰に硬くなったモノをあてられ、ルフィは真っ赤になって固まる。
「責任取ってくれよ、ルフィ?」
低い声で囁かれルフィはビクッと震えた。
恥ずかしさのあまり涙が出そうになる。
「む、ムリです…」
「お前は何やってもおれのツボなんだよなァ。…可愛いすぎてイジメたくなる」
「っ! …ぅ…ん」
深く口づけられ、ルフィはその場に崩れ落ちないようにサンジの服を必死に掴む。
長い長い口づけの後、ルフィはようやく解放された。
「おれのこと好きか?」
「はァ…す、好き…っ」
息が整わないうちに再び口づけられる。
しかし、今度はすぐに解放された。
「愛してる、ルフィ」
「う、うん」
「続き…どうする?」
「えっ!?」
煽るだけ煽られたルフィは今さら止めたいとは言えない。
それに止めたいと言ったところで止めたくなくなるまで煽られるのがオチだろう。
意地悪な質問にルフィはサンジを睨む。
「ルフィはどうしたいんだ?」
サンジは涼しい顔でルフィの視線を受け流し、再度聞いてくる。
「お、おれは……わっ」
「ベッドでゆっくり聞こうか」
いわゆる、お姫様抱っこをされルフィは恥ずかしくて赤くなった。
「サンジは恥ずかしさがないのか?」
「お前ほどはねェな」
「あァ、そう」
ルフィは優しくベッドに下ろされるが逃げられないようにサンジに上へ乗られてしまった。
「どうしたい?」
「…イジワルだな」
「たまには言わせたいんだよ。お前もおれが欲しいってのが知りたい」
サンジはルフィから求められてみたいのだ。
「う〜…お、おれは…」
ルフィは真っ赤になりながらも必死に言葉を紡ごうとする。
「続きがしたい? したくない?」
少し可哀想になり、サンジは助け船を出した。
「………し、したい」
「了解」
瞳を潤ませてルフィはやっと応えた。
愛しさのあまり、サンジは口づける。
「さ、サンジ」
「なんだ? ……っ」
突然、ルフィからぶつかるようにキスをされ、サンジは驚いてしまう。
「サンジを…ください」
「っ……お前な〜」
「?」
その言葉がサンジにどのような効果を与えたか分からずルフィは首をかしげる。
「……どうなっても知らねェからな」
ルフィの抗議の言葉は深い口づけでかき消されてしまった。
*END*