放課後、帰ろうとすると目の前に人影が見えた。

「ん?」

顔を上げると見覚えのある姿が照れ臭そうな表情でルフィを見ている。

「昨日はありがとうございました。これ」
「お〜、昨日の! 別に気にしなくてよかったのに」

差し出されたのは20円。
ルフィは恐持てなのに律儀な後輩に笑った。

「……先輩だったんスね」
「え? わかんなかった?」
「あー…同級生かと」
「……まァこの時期はネクタイしないからな」

ビミョーな空気になりつつ、二人は苦笑いをする。
すると、もう一人見覚えのある人物が笑顔で近づいてきた。

「ルフィ先輩〜一緒に帰りましょ〜」
「ロー…お前は本当にしつこいな」
「熱心って言ってくださいよ。って、何でてめェがいるんだよ」
「あれ? 友達? じゃあ、お前ら一緒に帰れ」

ルフィは立ち上がり、その場を去ろうとするが腕を掴まれる。
ローが掴んだのかと思い、顔をしかめて振り返るとルフィの腕を掴んだのはもう一人の後輩だった。

「ん? どうした?」
「忘れてます」
「あ〜、そっか。ま、今度から気をつけろよ」

ルフィは20円を受け取り笑顔を向けると後輩はやや赤面しつつ、頷く。

「……どういう関係?」
「どうって…切符売り場で電車賃20円足りなくて困ってたから、あげたんだけど今返してもらった」

なるほど、とローは納得した。
すると、もう一人の後輩が訝しげに尋ねる。

「二人の関係は?」
「ただの先輩と後輩」
「おれの片想い」
「お前なァ…冗談ばっか言ってんなよ。で、お前らの関係は?」

二人に関係を聞かなければいけない気になってルフィも尋ねた。

「…幼なじみみたいなもんですかね」
「幼稚園から小中高も同じです。仲は良くないです」
「へ〜、幼なじみか」

口で言うほど仲が悪くもなさそうなのでルフィは特にそのことに触れない。

「好みは意外と似てるんですよねェ。やだやだ」
「お前! 黙っとけ!」
「ルフィ先輩は天然だから奥手なお前には無理だ。さっさと帰れ」
「いや、お前も帰れよ。おーい、ウソップ〜」
「こういうときに呼ぶなって言ってんだろ!」

何やら後輩同士で言い合いが始まったのでルフィは遠くから見守っていたウソップを呼んだが、怒られてしまった。

「断るのも面倒だから今日はみんなで帰ろうかと」
「…おれも含まれてんの?」
「だって、今日部活休みだろ」
「…はーい」

ウソップは力無く同意してくれた。

「お前、昨日サンジと一緒に帰らなかったのか?」
「うん。昨日は親族会? ってのがある日でさ。月一くらいであるんだけど、その日はサンジは迎えの車で帰るよ」
「それでか」

サンジがいたならあの後輩に話し掛けさせないだろうと思っていたのでウソップは納得する。
見知らぬ怖い顔の人物によく声を掛けられるものだとウソップは内心でルフィに感心した。

「ルフィ!」

そんな話をしているとHRが終わったサンジがルフィの元へとやって来る。

「お〜、サンジ。今日はローがいてもいいか?」
「………………ヤダ」
「ええ? ま、まァそう言わずに」

拗ねてしまったサンジに慌てていると袖を引っ張られた。

「おれも一緒に帰っていいですか?」
「えーっと、そういや名前は?」
「キッド」
「キッドも帰る方向一緒なのか」
「駅まで、ですけどね」
「そっか〜せっかくだし、一緒に帰るか」

笑顔で応じるルフィにローは不機嫌そうに近づく。

「おれのときと態度違いません?」
「…気のせいだろ。ほら! 帰るぞ! サンジも露骨に嫌な顔するなよ!」
「ルフィは嫉妬させるの上手いな…おれを試してんの?」
「ち、違うよバカ! …電車からは二人だろ」

ルフィは赤くなりつつ、サンジから顔を逸らした。

「…うん、我慢する」
「そうしろ。お前は人付き合いが足りないんだよ」
「後輩コンビは下心あるからヤダ」
「おれはオープンですけどキッドはムッツリなんで気をつけてくださいね」
「だー! やめろ!」

真っ赤になって怒るキッドを交わしつつ、ローはにっこりとルフィに語る。

「いや、どっちもスケベに変わりないぞ?」
「男がスケベじゃなくてどうするんですか」
「どうもしねェよ」

呆れるルフィにサンジはぼそりと呟いた。

「…スケベでも仕方ないかもな。おれはルフィとエロいこといつでもしたい」
「おー! 同感! サンジ先輩とはそういうトコ、気が合いますよね」
「「うぐっ」」
「マジで、黙れ」

鉄拳制裁を鳩尾にされ、サンジとローはすぐに話せないほどのダメージを食らう。
キッドまでもなぜか無言になる。

「帰りたい…ものすごく一人で帰りたい」

そのときのウソップの呟きを聞くものは他に誰もいなかった。
































*END*