「サンジってなんでおれが好きなんだ?」

水槽の魚を見ながらルフィは横に座るサンジに尋ねた。

「何で、ねェ? …気づいたらとしか言い様がねェな。まァ、きっかけはあるけどな」

突然の質問にサンジは少しだけ悩んで応えた。

「きっかけ? そういうもんか〜。あ、タコだ〜ウソップが釣ったのかな」

生簀に入って来たタコを見て、ルフィは笑う。

「まだ釣りしてんのか。食料が増えるのはありがてェけどな。……おれがお前を意識しだした、きっかけが気になるか?」

サンジは意味ありげな眼差しで、まだタコを見ているルフィを見つめる。

「んー、うん! でも、ちょっとだけな。それよりも鍵つき冷蔵庫の暗証番号が気になるかな」

にしし、と笑いながらルフィはサンジを見た。

「……教えねェよ。鍵つきの意味がなくなるだろうが。はァ、おれへの興味は暗証番号以下ってことか」
「あはは、そんなことないって〜」
「ハイハイ、そういうことにしといてやるよ。もっとこっち来い」

サンジは再び水槽を観察し始めたルフィの腕を掴み、足の間に座らせた。
ルフィは慌てて暴れるが押さえ込まれてしまう。
ついでに麦わら帽子をテーブルに置かれた。

「だ、誰か来たらどうすんだよ!」
「ウソップは釣り、チョッパーは医療室、ナミさんとロビンちゃんは女部屋、フランキーは兵器開発室、マリモは見張り」
「……誰も来なさそうだな」

サンジの言葉にルフィは暴れるのを止めて、サンジにもたれる。

「だろ? せっかく二人きりなんだから魚じゃなくて、おれを見ろよ」
「わっ…恥ずかしいこと言ってる」
「かまって欲しかっただけだ」
「あはは、なんだそりゃ」

ルフィの腹の上で手を組み、サンジもソファーにもたれた。

「晩メシ、何すっかな?」
「キッチン新しくなってから、ますます張り切ってるな〜」
「巨大オーブンがあると料理のレパートリーが広がるんだよ」

嬉しそうなサンジにルフィも嬉しくなる。

「サンジのメシはいつもウマイぞ!」
「サンキュー」
「えへへ」

頭を撫でられてルフィは幸せそうに笑う。

「…なんか眠くなるな」
「おれも眠い」

まったりとしていたせいか二人とも眠たくなってしまった。

「ちょっと昼寝でもするかァ」
「賛成〜いつもみたいに先に起きたヤツがまだ寝てるヤツを起こすってことで」

退けようとするとサンジに引き止められる。

「退けるのか?」
「ふえ?おれが乗ったままだとサンジが寝づらいだろ?」

きょとんとした顔でルフィはサンジを見上げた。

「…………まァいいか。寝るより他にしたいことが出来たら大変だしな」
「?」

不思議そうな顔をしたルフィをサンジは笑いながら横に置いた。

「おやすみ」
「うん、おやすみ〜」

ソファーに猫のように丸くなりルフィは眠りについた。



***



「む……ふわ〜よく寝た〜サンジ〜起き…あれ?」

アクアリウムバーで寝ていたはずだがルフィは甲板の上に転がっていた。

「あ、これ……メリー号だ」

馴れ親しんだ船にルフィは驚きの声を上げた。

「なんで……夢?」

疑問に思いながらも、とりあえず定位置だった船首に座った。
夢ではあり得ないようなリアルな感触にルフィは茫然とする。

「……でも、なんかキレイなような」

自分の記憶の中にあるメリー号より、かなり新しく見えた。

「過去に戻った…とか? それとも、やっぱり夢? ……夢だとしたらどっちが夢なんだろ」

自分のセリフに焦燥感が募る。
そんな気持ちを振り払うようにルフィはブルブルと頭を振った。

「とりあえず今はいつなんだ? 腕、包帯巻いてる…ケガはよくするからなァ」

船首に仰向けに転がり、左腕に巻かれた包帯をボンヤリ見る。

「ルフィ、ケガが痛むの?」
「お〜、ナミ〜。そんなことねェよ。もう痛くないし、傷も塞がってんじゃないかな」

いつの間にかそばに来ていたナミにルフィは包帯を取って見せた。
ルフィの予想通り、包帯の下に傷口はもう見当たらなかった。

「ほらな!」

心配そうなナミにルフィはニカッと笑ってみせた。

「よかった」

相当、心配していたらしくナミは心底ホッとしているように見えた。

「ナミは大袈裟だな〜」
「…私のせいでついたようなもんでしょ? 心配して当たり前よ」
「ナミのせい?」

ナミの言葉に引っ掛かりを覚えて、ルフィは起き上がる。

「アーロンと戦うことになったのは元はと言えば私のせいでしょ? ……感謝してる。本当にありがとう」
「あは、あはは! 気にすんなよ! この船の航海士はナミがよかったんだ」
「ありがと。あ、サンジ君が昼食、そろそろできるって言ってたわよ」

嬉しそうに笑ってからナミは思い出したように昼食の話を出した。

「そっか! じゃあ、もうちょいしたらラウンジ行く〜。なァ、ナミ」
「何?」

立ち去ろうとしていたナミはルフィの呼び掛けに振り返った。

「グランドライン…まで、あとどのくらい?」

確かめるようにルフィはナミを見つめた。

「本当に楽しみなのね〜あと二、三日ってトコかしらね。その前にあんたが喜びそうな町があるから、それも楽しみにしときなさい」
「喜びそうな町……うん! 楽しみにしとく!」

ナミはルフィの様子に笑いながら、ラウンジに入って行った。

「グランドラインに入る前…喜びそうな町はローグタウンのことだ……うーっ」

ルフィはなんとも言えず、唸りながら船首に寝転がった。

「あー…よくわかんねェな…」

仮に過去に来たんだとして自分は元の時間に戻れるのだろうか?
どうやって?
そもそも悩んでどうにかなるものなんだろうか?

「……い、おいって! 聞いてんのか?」
「う、わっ! サンジ…」

疑問がぐるぐると頭を巡り、ルフィは自分を呼ぶ声に気づくのが遅れた。

「今、気づいたのかよ……メシ、できたぞ」
「は、はーい」

心臓がバクバクしている。
突然、声を掛けられたことでルフィは動揺してしまった。

「変なヤツだな…先に行ってるぞ」
「……うん」

サンジの後ろ姿を見ながら、ルフィは不思議な感覚に陥った。

「あ〜、なるほど…」

その理由に思い至り、ルフィは苦笑した。
いつもなら一緒に行くからだ。サンジだけ先に行くなんて最近ではあり得なかった。
今のサンジとは出会って間もない。
お互いに恋愛感情など抱いているはずがなかった。

「……はァ、考えても仕方ないよな。とりあえず、メシだ!」

ルフィは考えるのを一旦止めて、昼食にすることにした。



***



昼食も終わり、クルー達はそれぞれの時間を過ごしている。
ルフィは再び船首に仰向けに寝転がっていた。

「ナミさーん! 飲み物の準備が出来ました」
「あら、ありがとう、サンジ君。気が利くわね」
「貴女のためならなんでもします!」

ルフィは耳を塞ぎたいのを耐えて、とりあえず見えないように麦わら帽子を顔に乗せた。

「……初めはこれが当たり前だったのになァ」

恋愛感情が伴っていると些細なことで嫉妬してしまう。

昔の自分はサンジがナミにデレデレしたところで気にもしなかったが今はそういうわけにはいかない。

「ちぇっ、いつおれのこと好きになるか聞いておけばよかった」

そうすれば多少、我慢もできるだろう。

「でも……」

女好きのサンジが自分を好きになった理由がルフィには全く分からなかった。

好きになったのは偶然で、今いる過去から全部やり直すとしたら、サンジはもう一度自分を好きになってくれるだろうか?

「……すげェ嫌な考えだな」

自分の考えにルフィは本気でヘコんできた。

自分と付き合うより、ナミかロビン、もしくは別の女と付き合う方がサンジにとって良いような気がしてくる。

「そりゃ男と付き合うより……女の方がいいよなァ」

もしかして、やり直せということなのだろうか?
どこかで神様が見ていて、サンジは女と付き合う方が幸せだから、サンジがルフィを好きになる前に飛ばされた…とか。
サンジを幸せにするチャンスをくれたということなのだろうか?

「あー…考え方がネガティブだ〜ウソップみたいだ〜」
「さっきから何ブツブツ言ってんだよ」
「ふえ? ゾロ〜起きてたのか」

ゾロの声にルフィは起き上がり、帽子を被り直した。

「おれがいつも寝てるみたいな言い草だな」
「あっはは! いつも寝てるじゃねェか」
「………たまには起きてる」

言い返せないのかゾロは口籠もりながら地味に反論した。

「あ〜確かに、たまには起きてるな」
「おれのことはいいんだよ。なんか悩んでんのか?」
「え?」

船首に、もたれてゾロはそのまま座った。

「仲間も増えたし、もうすぐグランドラインだ! って、はしゃいでたのに急におとなしくなっただろ」
「あ、そうか……」

確かに前の自分は興奮して騒いでいたなとルフィは思う。
というか憧れのグランドラインに入るのだから騒がない方がおかしい。

「つーか、お前はいつも騒がしいからおとなしいと変だ」
「失礼なヤツだな〜なんとなく言いたいことはわかるけど」

ルフィは船首からゾロの緑色の頭を見下ろしながら少し拗ねる。

「はは、騒がしい自覚はあるんだな」
「何笑ってんだよ〜。あ、そうだ」

一人で考えてもネガティブな方向へ行ってしまうのでルフィはゾロに聞いてみることにした。
船首から立ち上がり、ゾロの正面に座る。

「何だ?」
「もしも、ゾロが自分の意思と関係なく過去に行ったとしたら元の時間に戻りたいと思う?」
「はァ?」
「ほ、本の話!」

意味不明という顔をされ、ルフィは焦る。

「変な本を読むなよ…そりゃ戻りたいんじゃねェか? 自分の意思で戻れたら、おれは戻る」
「戻り方が分からなかったら?」

ルフィは、ずいっとゾロに近づいて尋ねる。

「そりゃなるようになる。過去からやり直す…だろうな。……お前さ」
「ん?」
「頭使うの苦手なんだから考えんの止めとけ。どうせ答えなんかでねェよ。直感で動け」

少し赤い顔でゾロはルフィを押し退けた。
押し退けられたことよりゾロのセリフにルフィはポカンとした。

「ゾロに言われたくないかも」
「うるせェよ」

ゾロは怒るわけでもなく、ニヤッと笑う。

「サンジがそう言ったらゾロは怒りそうだけどな〜」
「お前は、かわ……」

可愛いから別に構わない、と言おうとしてゾロは固まった。

「かわ? 川? 皮? 何が言いたいんだ?」

ルフィは首をかしげる。

「なんでもねェ! おれは寝る!」
「お、おう。話聞いてくれて、ありがとな、ゾロ」

ゾロの立ち上がる勢いに驚いたがルフィはお礼を言った。

「お前が元気になるなら構わねェ……じゃあな」
「寝過ぎるなよ〜」

ルフィのセリフに、ひらひらと手を振りながらゾロはミカン畑の方へ行ってしまった。

「気にしても仕方ないか〜確かにゾロの言う通りだな」

ルフィは少しスッキリした気持ちで再び船首に座った。



***



仲間が寝静まった中、ルフィは一人、月明かりが照らす甲板に出た。

「寝れねェ……はァ」

仲間と騒いでいれば、いつもと変わらずにいられたが静かになるとついつい余計なことを考えてしまう。
船の縁に肘をつき、ルフィは、しばらく海を見つめた。

「何してんだ?」
「う、え? さ、サンジこそ何してんだ?」
「おれは泥棒がいないか見に来たんだよ」
「ドロボー? いないだろ〜船の上だぞ?」

意味が分からないというようにルフィは首をかしげた。

「冷蔵庫を荒らす質の悪い輩がクルーの中にいるんだよ」
「あは、あはは! なるほど! サンジは上手いこと言うな」

サンジは船の縁にもたれる。

「反省しろっつーの。ケガでも痛むのか? この船にはまだ船医がいないからな。気をつけねェと」
「ケガはもう平気だ。それにいい医者が仲間になるから心配いらないって!」

ルフィはチョッパーを頭に思い浮かべながら笑った。

「へェ? そりゃ早く仲間になって欲しいもんだな。女性の船医希望だ」
「あ〜女じゃないし、仲間になるのはもうちょい先だな〜」

サンジはルフィに半信半疑の視線を送る。
そんなサンジにルフィは苦笑した。

「予言か? まァいい……それより、なんかあったのか?」
「…うん。でも、きっと何もなかったらこんな感じなんだろうなァ」
「はァ?」

サンジとの間に微妙にある距離を見て、ルフィは困ったように笑った。
この距離感が今のサンジとルフィの距離なのだ。
いつものサンジなら肌が触れ合うほど近くにいるが今は違う。
サンジはルフィが何を言いたいのか分からず、ルフィを見た。

「やっぱり女の方がいいよな…何がきっかけでこの距離は埋まるんだろ」
「…船長の考えることは凡人のおれには理解できねェな」
「そういや、おれはいつから…」

サンジのこと好きだったんだろう。

話を聞かないルフィをサンジは呆れたように見ている。

「あ〜、おれも気づいたらだな。あはは、サンジと同じだ」
「何がおれと同じだって?」
「えへへ、内緒」

嬉しそうに笑ってルフィはサンジを見た。

「……あ〜、そう」
「サンジはナミが好きなのか?」
「当たり前だ。見てて分かるだろ」
「………うん」

ルフィはズルズルと縁にもたれたまま座った。

「なんだよ? お前もナミさんのこと好きなのか?」

サンジも座るが、やはりルフィとの間には一人分の隙間が空いている。

「そりゃあ好きだけどサンジが想ってるのとは違う」
「……なんか、変な感じだな。本当にルフィか?」
「……」

ルフィは、ぼーっと隙間を見ていてサンジの言葉に無反応だった。

「…お前、聞いてる?」
「え!? き、聞いて…ない…かな。あはは」

ルフィは焦って、誤魔化すように笑った。
サンジはルフィが見ていた、隙間に目を向ける。

「この隙間、なんかあんのか?」
「なんか、寂しいなって…思って…」

自分の中にある感情を口にしたとたんにルフィにはサンジの横顔がぼやけて見えた。

「あれ? ……ふえ…っ」

嗚咽が溢れそうになり、ルフィは必死で口を押さえる。
急に黙ったルフィを見て、サンジは驚いた。

「え? お、お前…泣いてんのか?」
「う〜……ち、違う」

ルフィは慌てて涙を拭い、立ち上がる。

「違わねェだろ…えっと、その、大丈夫…か?」

どうしていいか分からないという顔でサンジはルフィから目を逸らした。
泣き顔を見ていいものか悩んでのことだろう。

「……サンジ」
「なんだ?」

サンジは申し訳なさそうな顔でルフィを見上げた。

「ナミばっかりじゃなくて、おれのこともたまには構ってくれなきゃイヤだからな」
「へ?」

間抜けな顔で自分を見上げるサンジにルフィはニッコリと笑った。

「あはは! 今日のおれは忘れて? きっと寝呆けてんだ〜。じゃあ寝るから、おやすみ〜」
「……おやすみ」

ルフィは一度だけ夜空に浮かぶ月を見上げてから、男部屋へと去って行った。

「何なんだよ…あいつ」

サンジは気持ちを落ち着かせるためにタバコに火を点ける。
変なヤツだと思っていたがここまでだとは思わなかった。

「男が泣いたぐらいで何、動揺してんだ…」

タバコを吹かしながら、まだ高鳴っている心臓にサンジは一人焦る。

昼食の後、ルフィの元気のない様子が多少、心配だったが女性のために働く方が楽しいので行かなかった。
何よりゾロがそばにいたことが気に入らなかった。

「いやいや、嫉妬じゃない。断じて違う…はず」

サンジは自分の考えを自分で否定する。

泣き顔を見て、抱きしめてやりたいなどと思ってはいない。
さっきの笑顔が可愛かったなどと思ってはいない。

「はァ…思ったけどな」

ばか正直な自分が嫌になる。
抱きしめたいと思った。
可愛いと思った。
……ゾロと笑い合っているのが心底、嫌だった。

「自覚させるなよ…止まらなくなるだろうが」

ルフィがいつも通りだったら自分を誤魔化すことも出来たが、さっきみたいな態度をされると嫌でも自覚してしまう。

「好きなんだろうな」

認めてしまえば簡単な話だった。
しかし、ルフィがどういうつもりで構えと言ったのかは分からない。

「……明日、聞いてみるか」

同じ気持ちだといいが一筋縄にはいかない気がした。
短くなったタバコの火を消し、吸殻をキッチンにあるゴミ箱に捨てる。
ついでに朝食の下ごしらえをしてから、男部屋に戻った。



***



次の日、サンジはルフィが一人のときを狙って話し掛けた。

「ルフィ」
「お〜、サンジ。どうかしたか?」

ルフィはニカッと笑って、サンジを振り返った。

「昨日のアレはどういうつもりで言ったんだ?」

回りくどく言っても伝わらないと思ったサンジは直球で聞いてみた。

「昨日?」
「……構えって言ったのはお前だろ」

何のことを言っているのか分からない様子で首をかしげたルフィにサンジは顔を引きつらせる。

「え? おれ、そんなこと言ったっけ?」
「はァ!?」

まさか本気で寝呆けていたということなのだろうかとサンジは思わずルフィの胸ぐらを掴む。

「く、苦しいって…」
「ああ…悪ィ」

すぐに我に返り、サンジは胸ぐらを掴んでいる手を放した。

「き、昨日のことはよく覚えてないんだよ」
「その話、詳しく聞こうじゃねェか。とりあえず座れ」

ルフィはなぜサンジの機嫌が悪いのか分からず、多少怯えながらその場に座った。
サンジもルフィに触れ合うほど近くに腰を下ろした。

「ち、近くないか?」
「気にするな。波の音がうるさくて、お前の声が聞こえないんだよ」
「そうなのか〜。えっとな」

サンジの適当なウソをルフィはあっさりと信じて、昨日のことを話し始めた。

「おれ、昨日甲板で寝てたんだ」
「あ〜そういや、寝てたな」

サンジは昨日、日向で眠るルフィを見かけていた。

「うん。その後、気づいたら周りが暗かった。甲板で夜まで寝ちゃったかと思ったら自分のハンモックで寝てた。だから、もう朝まで寝ちゃえって思って寝たんだ」
「……甲板で寝てから何も覚えてないってことだよな」
「うん、メシ食ったかも覚えてない」

ルフィは困った顔でサンジを見た。

「あ〜、なるほど。寝呆けてたから元気なかったのか。寝言にしちゃハッキリ喋ってたぜ」

サンジはニッコリと笑ってルフィを見つめる。
照れたように笑いながらルフィは頭を掻いた。

「そうなの? おれ、しゃべってた? あはは、なんか恥ずかしいな」
「豪快に寝呆けるヤツだな〜。あはは……ってそんなわけあるか! 喋ってたし、メシも食ってたし、風呂にも入ってたんだよ、お前は!」

突然のノリツッコミにルフィは驚く。

「えェ!? で、でも本当に覚えてないんだよ〜」
「ほう? 夢遊病の一種か…医者がいないからわかんねェな」
「うーん、今度寝呆けてるみたいだったら起こしてくれよ」

別に、これといって体調も悪くなくないのでルフィはとりあえずは気にしないことにした。

「了解。あ〜、あとお前のお願い、ちゃんと聞いてやるよ。しかも、ルフィを優先に構ってやる」
「なんの話?」

サンジのセリフにルフィは首をかしげる。

「お前が寝呆けてるときの話」
「へ? なに言ったかわかんねェけど別に気にしなくていいぞ? 寝呆けたときのことだもん」
「いいや、無理だ。今さら気にしないなんて不可能な話だ」
「そ、そうか。おれ、なに言ったんだ?」

そういえば聞いていないと思い、ルフィはサンジに尋ねた。

「構ってくれみたいなこと言ってたな」
「へ〜、ヒマだったのかな」
「…どうだろうな? ま、これからは構ってやる」
「あはは、遊んでくれるのか? 何して遊ぶ?」

深い意味があるとは思いもよらず、ルフィはニカッと笑った。

やはり一筋縄ではいかなかったかとサンジは妙に納得してしまう。

「すぐ手に入らない方が逆に燃えるけどな」

何して遊ぼうかと考えて笑っているルフィを見て、サンジは意味深に笑った。



***



「……ろ、ルフィ」
「んー…」

肩を揺さ振られるがルフィは、まだ目を覚まさない。

「起きろって〜早く起きなきゃ襲うぞ?」
「う、ギャー! 止めろ! どこ触ってんだよ!」
「いろいろ…な。やっと起きたか」

ニヤリと笑うサンジにルフィはその場から飛び退いた。

「そりゃ起きるよ! 何してんだよ!」

ルフィはサンジが近寄らないように睨んで威嚇する。

「失礼な反応だな。ちょっと触っただけだろ。それに、うなされてたから起こしたんだぜ?」
「うなされてた? あ……変な夢見たからだ」

ルフィは辺りを見渡し、自分がアクアリウムバーにいることに安堵のため息を吐く。

「近寄ってもいいか?」
「う〜……」
「不安そうな顔するなよ。何もしねェって、今は」

今は、というセリフに不安を感じながらもルフィはコクリと頷いた。
すぐ横に座ったサンジを見てルフィは少し驚く。

「なんだ?」
「いや、ちょっと夢とごちゃごちゃになって。えへへ、夢は夢だもんな! 距離がないのってイイコトだな」

ルフィはサンジに、もたれて安心したように笑った。

「距離? つーか、悪夢でも見たのか? うなされたら、おれが毎回起こしてやるから安心しろ」
「うん。そういえば、サンジがおれを好きになったのっていつ?」

頭を撫でられながらルフィは夢の中で思った疑問をサンジに聞いてみた。

「気になってきたか? いつってのはよく分からねェな。気づけば好きだったし。ある出来事で意識し始めたな」
「あ〜、きっかけがあるって寝る前に言ってたな」

ルフィはサンジが寝る前のことを思い出した。

「聞きたいか?」
「うん! 夢のせいで気になるようになった」

ルフィは夢の内容を思い出し、拗ねたように口を尖らせる。

「夢の内容も気になるなァ。どんな夢見たんだ?」
「えー、先にきっかけ教えてくれよ」
「おれも気になる……がここは譲るか」
「やったァ!」

ワクワクと期待した眼差しを向けられ、サンジは少し躊躇う。

「冷静に考えたら変なきっかけだから言いたくなくなってきた」
「変でもいいって! 言って言って!」
「…………寝呆けたお前と話してから」

サンジの言葉にルフィは憐れむような視線を送った。
それを見て、サンジは言うんじゃなかったと呟いた。

「サンジは趣味が悪いんだな」
「なんか、お前には言われたくないセリフだな。あのときの泣き顔と行動がおれにとってはツボだったんだよ」
「それに寝呆けてんのに話なんてできるの?」

サンジは当時のことを思い出しながら話す。

「したのに、お前は全く覚えてねェんだよ。まだメリー号に乗ってたときだな。まァ、あれがなかったらルフィのこと強く意識しなかっただろうな。今もお前への気持ちを気づかないフリしてたかもな」
「へ〜じゃあおれ、寝呆けてよかったのかもな」

嬉しそうに笑うルフィにサンジもつられて笑った。

「可愛いこと言いやがって。メシの準備がなかったら襲ってやりたいトコだ」
「そ、そういうこと言うなって」

ルフィは赤くなって、サンジから距離を取ろうとするが腕を掴まれる。

「メシ作るから、その間にお前の夢の話、聞かせろよ」
「おう、いいぞ〜手伝おうか?」
「……皿割るからしなくていい」

前回の手伝いを思い出し、サンジは笑顔でルフィの申し出を断った。

「え〜? 見てるだけでいいのか?」
「作りたい相手がそばにいると作りがいがあるもんなんだよ。そばにいるだけでいい」
「……サンジは時々、本気で恥ずかしいヤツだと思う」
「ルフィのことは、いつも可愛いヤツだって思ってる」

ルフィが赤い顔でジロッと睨むがサンジは涼しい顔で笑っている。

何を言っても恥ずかしい言葉を返されそうでルフィは悔しそうに黙った。

「はは、何黙ってんだよ。ほらほら、メシ作るから行くぞ」
「むー……サンジ」
「な……っ」

なんだ、と言おうとしたサンジの唇をルフィは背伸びして塞ぐ。

「ふーんだ! サンジだって黙ったじゃねェ……ふっ……っ!」

してやったりという顔で笑うルフィのアゴを掴み、サンジは深い口づけをする。
なかなか解放されず、ルフィは眩暈がしてきた。
ゾクゾクとする感覚に倒れそうなルフィの腰をサンジが支える。
存分にルフィを堪能してからサンジはようやく解放した。

「……おれに手抜き料理をさせたいのか?」
「は……っ…どういう…意味?」

耳元で囁かれ、ルフィはビクッと震えた。

「今からしてたらメシ作る時間がなくなるだろ? ……何をなんて聞くなよ?」
「っ! 聞かないよ! そ、そんなわけないだろ!放せって!」
「放して大丈夫なのか?」
「え?」
「腰砕けってヤツだろ」

ニヤニヤ笑うサンジの腹をルフィはグーで強めに殴る。
油断していただけにサンジは腹を押さえて、うずくまった。

「もう、なんでこんなことになったんだっけ」

ルフィはプンスカと怒りながら、うずくまるサンジを無視して、部屋を出ようとする。

「痛ェな…本気で息できなくなったぞ?」

サンジは出て行こうとするルフィの腕を掴んで止めた。
掴まれた腕を振り払うことはしなかったがルフィはサンジを睨んだ。

「自業自得だ! そ、そんなんだから…」
「ん?何だって?」

目を泳がせるルフィの声がよく聞こえず、サンジは聞き直した。

「……おれからチューできないんだよ。サンジがエロいことしてこないならいいのになァ」

ルフィは赤い顔で拗ねたように口を尖らせる。

「はァ、もう、お前は何なんだ」
「わっ」

突然、抱きしめられルフィは驚く。

「本当に可愛いな〜。どうしてやろうかって気になる」
「な、なに言ってんだ! 晩メシ作るんだろ」
「お前からキスして欲しいけど止まらなくからなァ。理性がなくなる」
「そ、そっか…おれからはしない方がいいのかな」

困りながらルフィはサンジの背中にそろそろと手を回した。

「それも嫌だな〜。自分からするときでも結構、理性ギリギリだけどお前からもして欲しい」
「う〜ん……じゃあ、すぐ逃げられるようにすればいいのかなァ。毎回襲われてたら身がもたない…」
「毎回我慢するのも身がもたない……はァ、お互い苦労するな」
「…そうだな。なんか考え事したら、お腹空いてきたかも」

セリフと共にルフィのお腹が、ぐーっと鳴った。

「おっ、そろそろ作らなきゃ晩メシ遅くなるな。この話は保留だ。美味いモン作ってやるよ」
「やったァ! そばで待ってる」

ニコニコと笑ってルフィはサンジに、ギューっと抱きついて離れた。そして、サンジの手を取る。

「よしよし。あ、夢の話も聞かせろよ?」
「はーい! 早く行こ!」

はしゃぐルフィに手を引かれながらサンジは幸せそうに笑った。


その後、キッチンでルフィが見た、夢の話を聞いたサンジは自分がルフィを意識するきっかけに似ている状況に驚くのだった。

























*END*