迎えの車を待っていると見覚えのあるクラスメートが話し掛けてきた。

「あれ? お前って…えーっと……同じクラスの…えーっと…」
「サンジ」

名前も覚えていないクラスメートに話しかけるルフィにどこか感心しつつ、サンジは自分の名前を告げた。

「そうそう! サンジだよな! 誰か待ってんのか?」
「ああ、迎えの車。渋滞だってさ。遅くなりそうだってメールきてた」
「ふーん? じゃあさ、一緒に帰ろう」
「え?」

ニカッと笑うルフィに驚いて、見つめる。
いつも車で送り迎えをされていたので今まで誰にも誘われたことはなかった。
だから、そのことに衝撃を受けたのだ。
じわじわと嬉しさが胸を占める。

「待つのもヒマだろ〜電車で帰るってメールで伝えれば平気だろ。サンジっていつも車だろ? 駅前のたい焼きの美味さを知らないのは人生損してると思うんだよな」
「そう…なのか?」

サンジの様子を気にすることなくルフィはにこにこと笑っていた。

「うん! あ、帰り道違うかな?」
「いや、同じ方向だ。降りる駅も同じ」
「そっか〜じゃあ平気だなって何でおれが降りる駅を知ってんだよ」
「見たから」
「ええ? お前いっつも車じゃん。いつ見るんだよ」

怪訝そうなルフィにサンジは思い出しつつ答える。

「受験のとき見た。あの駅から通う人は少ないからな」
「あ〜、そうなの? 記憶力いいんだな。そんで、どうする?」
「一緒に、帰る」

そう言ってサンジは運転手にメールを送った。
これで大丈夫だろう。
後々余計な心配されそうだが、そんなことよりもルフィと一緒に帰ってみたかった。

「そんじゃあ帰ろう」
「うん。おれ、電車乗るの初めて」
「おー? マジか〜それは切符の買い方から指導してやるよ。あれ? おれのこと駅で見たって言わなかった?」

駅に向かって歩きつつ、ルフィは隣を歩くサンジに首を傾げる。

「おれも電車で受験会場に行こうかと思って独断で家を出たら、駅にわざわざ迎えに来た。仕方ないから車で行った」
「あはは! 意味ねェな〜。なァせっかくだし寄り道して帰ろ〜おれ、腹減った」
「…奢るよ?」
「なんでやねん! 別にいいって〜むしろ、奢ってやるよ〜お小遣いもらったばっかだし、帰り誘ったのおれだしさ」

これまた新鮮な感覚でサンジは感動してしまった。
今まで奢られたことなんてない。
サンジの家柄を気にせず、平然としているルフィがものすごく特別に見えた。
もっと近づきたい。
初めてそんな風に思える相手に出会った。

「ルフィ」
「ん?」
「一緒に、帰ろうか」
「帰ってんだろ…あはは、わけわかんねェな」

笑うルフィにつられて、サンジも笑う。

「うん、おれもよくわかってない」
「何だそれ〜」
「こういうの、楽しいな」
「う? うん、まァそうだな〜教室では話さないもんな〜席遠いし、お前の周りの女子が怖くて近づけないし」

そういえば、休み時間は大体女子に囲まれていた。
別段、嬉しくも嫌でもないことだ。

「そっか」
「モテるんだな〜」
「ルフィは?」
「うへー嫌なことを聞くなよ。おれはモテないよ。彼女はいたことないからな」

どこか拗ねたような表情でサンジを睨む。
少しも怖くない。むしろ、可愛いと思った。
ルフィに『恋人』がいないということが、何だか嬉しかった。

「あ〜、サンジにはわからない感覚かもな〜」
「…モテた方がいい?」
「やっぱりそうなんじゃないか?」

その言葉にサンジはそうかと口の中で呟く。
そして、ルフィを見た。

「これからも一緒に、帰りたい」
「お、おお。急だな。別にいいけど送り迎えはいいのか?」
「大丈夫」
「そっか、そんじゃ寄り道いっぱいできるな」

笑うルフィにサンジは頷く。

「あ〜、彼女できたら遠慮なくそっちと帰れよ?」
「彼女…モテた方がいい………うん」
「?」

何やら考えているサンジをルフィは不思議そうに見てしまった。
いまいち何を考えているのかわからないが、面白い奴だと思う。
今まで自分の周りにはいないタイプだった。
一緒にいるのも楽しい。
これからは教室でも話し掛けてみようかとコッソリ思った。


まさかルフィも自分の発言でサンジが色々な女のコと付き合うことになるとは思いもしないのだった。






























*END*