「買い出しに行く!」
掃除もいいが買い出しも楽しそうだとルフィは思った。
「そう? じゃあ買うもの、紙に書いてくるわ。ちょっと待ってなさい」
「おう!」
ナミはすぐに紙と財布を片手に戻ってきた。
「はい、これ。財布もね」
「やっぱり一人で行くのか〜」
「そうね〜みんなもう掃除しちゃってるから…ついて行きましょうか?」
ナミは少し考えてからルフィに提案した。
「ううん、大丈夫だ! ナミも掃除しててくれ」
ルフィはがま口の財布を首から下げて、その中になくさないようにさっきナミに渡された紙をいれた。
そしてルフィはニカッと笑い、ナミを見た。
「そう? 気をつけて行きなさいね」
「わかった! 行ってきまーす!」
ルフィはナミにブンブンと手を振り、満面の笑顔で船を降りて行く。
ナミも笑いながら手を振った。
***
「え〜っと、何買えばいいのかな?」
町に出たルフィは財布から紙を出して、内容を見た。
「わっ」
紙面ばかり見ていたせいか前にいた人にぶつかってしまった。
「わ、悪ィ」
「お前、ぶつかった人間に対する誠意が感じられねェな」
「え? エース!?」
ルフィがぶつかった人物は兄のエースだった。
エースは笑いながらルフィはデコピンをした。
「よう! 元気にしてたか?」
「元気だぞ! エースはなんでここにいるんだ?」
「お前と似たような理由だ。買い出し」
エースの手を見ると買い物袋を持っていた。
「そうだったのか! すげェ偶然だな」
エースはニコニコ笑うルフィの麦わら帽子を退けて、頭をわしわしと撫でた。
「そうだな〜せっかくだし一緒に買い物するか」
「ホントか? あはは、一緒に買い物は久しぶりだな」
話すことも久しぶりだ。エースが先に海に出て行った二年間、寂しくなかったわけがない。
ルフィはこの偶然が心底嬉しかった。
「で、何買うんだ?」
「えっと〜タオルと洗剤とゴミ袋!」
「……なんだそれ」
予想外の買い出し品にエースは変な顔をした。
「今、大掃除中なんだ〜おれは買い出し担当」
ルフィはニカッと笑い楽しそうだ。
「あ〜それでか。お前の欲しがる物じゃねェもんな」
エースは納得した。
「いつもならウソップあたりが買いに行かされるだろうな〜」
「船長が買いに行くものには見えねェな」
エースは笑ってルフィを撫でた。
「じゃあスーパーに行くか? 全部揃ってるだろ」
「うん!」
兄弟仲良く並んで歩いて行った。
***
「さて、買い出しも終わったし、少し話でもするか」
ルフィとエースは海岸近くにあるベンチに座り、話しをすることにした。
「海賊は楽しいか?」
海を見ながらエースはルフィに問う。
「当たり前だろ! 仲間もいい奴ばっかだし、ずっとやりたかったことだしな。めちゃくちゃ楽しいぞ」
「おれはお前と一緒に海賊するのもいいかなって思ってた」
「エース?」
エースの声はどこか苦しそうでルフィは心配になった。
「……いや、なんでもねェよ。おれは自分の船を誇りに思ってるからな。きっと今のままでよかったんだな」
苦笑しながらエースは視線を海からルフィに戻した。
「よくわかんねェけど、おれはまた会えるなら別々の船でもいいと思うぞ?」
「あはは、そうだな。会えないわけじゃねェ」
ただ、会いたいときにすぐ会えない…そんな言葉を自分の胸に押し隠し、エースは笑う。
「……寂しいけどな」
「えっ?」
「楽しくて、騒がしくて、忙しくて、冒険がいっぱいで悩むヒマなんてねェけど…たまにエースが近くにいないことが寂しくなる」
「ルフィ……」
少し寂しそうにルフィは笑う。
「あはは、サンジがそんな寂しさはおれが埋めてやるって言ってたからな! きっと大丈夫だ」
心配性な兄に心配をかけまいとルフィは必死に弁解する。しかし、その弁解はエースに新たな心配を増やした。
「なんだそりゃ……サンジ? 誰、それ?」
「え? おれの船のコックだけど…エース、顔が恐いぞ」
明らかに不機嫌顔になったエースにルフィは怯える。
「いやいや、それは仕方ねェよ。で? そのコックがお前に…へェ? 是非今度じっくり話がしてェな」
「みんなにも会ってくれよ! おもしれェ奴らなんだ」
「みんな…なんか…」
さっきは何も思わなかったけれど今ならわかる、クルーには下心がある。
「……お前、気をつけろよ?」
「何に?」
「…いろいろだ、いろいろ」
「? おう」
意味不明という顔をしながらもルフィはエースに向かってうなずいた。
「まァ今日は会いに行けないがな。おれにもやることがある」
「そっか…」
しょんぼりするルフィにエースは不思議な気持ちになった。
……まるで恋人を想うような。
「!」
「ん? どうした?」
今までの感情の理由がやっとわかった気がする
なるほど、おれはルフィが好きなのか。
家族として、弟として、愛する人として。
「おーい、エース?」
無言で自分を見つめるエースにルフィは首をかしげる。
「あァ、気づくとよくわかる。そりゃお前のクルーが羨ましいわけだ。船長はお前だもんな」
「???」
「弟としてだけの感情じゃねェのか…これはまたいろいろと厄介だな」
もっと早く気づいてれば単純な弟に自分との関係は特別なものだと教え込めたかもしれない。
「さて、そろそろ帰るかな」
「うん…そうだな」
急な別れの言葉にルフィは落胆を隠せずに返事をした。
「また会えるからそんな顔すんな」
「うん。うわっ、エース?」
突然、エースに抱きしめられルフィは驚く。
「簡単には渡さないってコックに伝えておけ」
「よくわからない内容だな…うん、わかった」
エースは名残惜しげにルフィを放し、笑って手を振った。
ルフィは走り出し、一度だけエースを振り返って、手を振り、また走り出した。
そんなルフィが見えなくなるまでエースはずっと見つめていた。
「意識するとダメだな。ダメな兄ちゃんだ」
離したくない、自分のそばに置いておきたいなんて…
「…また会おうな、ルフィ」
笑ってからエースも歩き出した。
***
「ただいま〜」
「お帰り。遅かったな〜混んでたのか?」
「いや、エースに会って話ししてたんだ」
ニコニコと笑うルフィは本当にエースが好きなのだろう。
「兄ちゃんに会ったのか。よかったな」
「おう! あっ、エースからサンジに変な伝言があるんだ」
「おれに? お前の兄貴から?」
サンジはルフィをよしよしと頭を撫でていた手を止める。
お互いよく知らないはずなのに一体なんの伝言があると言うのだろうか。
「うん。えっと〜簡単には渡さないってさ! あと、じっくり話がしたいとも言ってたぞ」
「……へェ?」
「意味わかんねェよな」
あはは、とルフィは笑うがサンジにはその意味がハッキリわかった。
「お前は本当に鈍いな〜そんなんだから手が出せねェんだろ」
「あはは、サンジも意味わかんねェな」
「……はァ、兄貴も大変だろうよ。まァ負けねェけどな。火拳のエースだっけ? 強いかもしれないが料理人に火は敵じゃねェよ」
ニヤリと不敵に笑いサンジはルフィを見た。
「んん? つまり、エースに負けねェってことなのか?」
「そういうこと」
「えーっ、仲良くして欲しいのに」
口を尖らせルフィは困った顔をする。
「ほら、荷物貸せ」
「仲良くしろよ? おれの兄ちゃんなんだからな」
買い物袋を差し出しながらルフィはサンジに上目遣いでお願いする。
「……気が向いたらな」
荷物を受け取り、サンジはため息を吐いた。
兄の存在はある意味、一番強敵かもしれない。
仲良し兄弟、心の距離が離れることはないだろう。
サンジは次、エースに会うときまでにルフィへ手を出してやろうと心の中で誓った。
*END*