久しぶりに発見した新しい島。食料や生活用品などなくなっているものを買うためにルフィたちはその島に立ち寄ることにした。

「ルフィ、あんたは船番ね。欲しいものは後で買ってきてあげるわ」
「なんでだ! おれだって街に行きたい!」
「いい? 航海図もゆっくり書きたいし、この街には長めに滞在したいのよ。何より私はのんびり買い物がしたいの!」
「ん? すればいいじゃねェか」
「前みたいに海軍に見つかってさっさと出航するのはイヤだっつってんのよ! あんたたちは賞金首なのよ? 追われる身なの! なのに毎回、目立つようにバタバタと…バカじゃないの!」

あんたたち、とルフィとゾロを交互に指差してナミは罵倒した。
ゾロは寝ているから無反応だ。

「な、なんでロビンはいいんだよ〜」
「ロビンはゾロみたいに方向音痴でもないし、あんたみたいに騒がしくして正体をバラす行為をしないからよ」
「えぇ〜ヒマじゃんか」
「船番だって立派な仕事よ。…それ以上グダグダ言うならご飯抜きにするわよ」

これは効いた。ナミには逆らわない方がいい。

「やっぱヒマだ〜」

特等席の上でゴロゴロする。

サンジ、ウソップ、ロビンは買い物に出掛けてしまった。ゾロ、ナミ、チョッパーは船にいるけどかまってくれない。ナミは日誌を書いていて邪魔すると殴られた。
ゾロはいつも通り寝ている。
チョッパーは薬を調合している。邪魔してるとやっぱり殴られた。ナミに。

「ルフィ」
「お〜チョッパー! ヒマになったのか?」
「い、いや。おれはこれから薬の材料を買いに行くんだ。みんなケガが多いからな」
「え〜じゃあまた一人か〜」

つまらなそうに言うとチョッパーが思いついたような顔つきになった。

「そうだ! 要するにルフィが賞金首だってわかんなかったらいいんだろ?」
「お〜そうなるかな?」
「じゃあこの薬をやるぞ! 試作なんだけどな。これを飲めば誰もルフィが海賊だなんてわかんなくなるんだ」
「そうなのか!? チョッパーすげェ!」
「ほ、ほめられても嬉しくねェぞ!コノヤロー」

嬉しそうに手を叩きながら変な踊りをしている。

「飲めばいいんだな? よし」

ルフィは小さな粒をゴクリと飲み込んだ。

「効いてくるまで30分ぐらいかかると思うからおれは先に買い物行って来るな」

「お〜ありがとな、チョッパー。気をつけて行けよ」

ニコニコ笑いながらチョッパーは船を降りていった。

「ん? そういやどうなるんだ?」

チョッパーも喜びのあまりか説明もなく買い物に出かけてしまったので薬の効果もわからない。

「まぁ30分たったらわかるか」



―――30分後―――



「よしっ海図も書けたし買い物行こうっと」
「な、ナミィーー!」

叫び声とドタドタという足音。鍵を掛けていなかったので女部屋にルフィが駆け込んできた。

「何よ、ノックぐらいしな……ルフィ?」

ナミは振り返ったまま固まってしまった。

「な、な、何よ…それ」

あまりの出来事に動揺して言葉が出てこない。

「おれ…女になっちまった…ナミ〜どうしよう」

ルフィの胸は膨らみ、身長もやや縮んだように見える。体つきも女性特有の柔らかさを持っているように見えた。髪の毛は腰の長さまで伸びている。

「どうしようって…それ、本物なの?」

思わず胸の膨らみを触る。結構大きい。

「わ、もむなよ〜本物だって…」

ルフィは情けない顔でナミの手から逃げる。

「…気持ちいいわね。ゴムだからかしら? それはさて置き、何かしたんじゃないの?急に女になったわけじゃないんでしょ?」
「え〜っと…あっ薬! チョッパーが言ってたのってこれだったのか」
「薬?」
「おれがヒマだって言ったら街に出れるように薬をくれたんだ。おれだってわかんなかったら街に出れるから」
「それで見た目が変わる薬をくれたのね。ふーん、まぁ確かに今のあんたを見て賞金首だって思うやつはいないでしょうね」

原因が分かれば動揺することもないとナミは平常心を取り戻した。

「えっ!じゃあ街に行ってもいいのか?」

ナミの許可があれば街に出れるのでルフィは期待した。

「…いいけど、あんたノーブラはヤバイわよ。捕まるわよ?」
「のーぶら? それだと海軍に捕まるのか?」
「もっと危ない人達よ。服も変えなさい。貸してあげるから。髪も邪魔でしょ? くくってあげる」

至極楽しそうにナミは言った。

「えー、女物の服着るのかァ?」
「着なきゃ外出禁止」
「ぶー、わかったよ〜」

暇な時間を持て余すよりはマシとルフィは渋々承諾した。

悪戦苦闘しながらもナミはなんとかルフィに服を着せることに成功した。

「ナミ…なんかこの胸当て、苦しい。足もスースーするしよ」

ナミが持っている服はミニスカートが多い、ズボンもあるがルフィに女物を着せる機会は滅多にないと思った。だからルフィはミニスカートを着用させられているのだ。
髪は邪魔になるという名目で二つにくくった。
これでルフィはどこからどう見ても可愛らしい女のコになった。

「我慢しなさい。うーん、顔の傷…結構目立つわね。化粧で隠そうかしら」

我ながらイイ出来だと内心ほくそ笑むナミはルフィの顔の傷が気になった。

「えーっ! それだけはイヤだぞ!」
「…仕方ないわね。でも、麦わら帽子は置いて行きなさい。その服には合わないわ」
「えーっ! ナミは暴君だなァ」

ルフィは口を尖らせ、麦わら帽子の端を両手で持ち、ぎゅっと頭に押さえつける。

「細かい傷とか縫っておいてあげるわよ。それならいいでしょ?」
「本当か! ナミはいい奴だな!」

にっこりと笑い、麦わら帽子を差し出す。笑った顔も本当に可愛らしい。

「ん? でも、ナミは買い物行かないのか?」

首をかしげ不思議そうに尋ねる。

「十分満足したもの。ルフィ、サンジ君に会ったらこれを渡して。どうせ会いに行くんでしょ?」
「ししし、まァな」

ナミから紙切れを受け取りルフィはそれをポケットにしまいこんだ。

「じゃあ行って来る!」
「はいはい、気をつけてね。声をかけられてもついて行かない事、一緒に食事しましょうって言われてもついて行っちゃダメよ?」
「おう! じゃあな〜」

バタバタと走り去る音を聞きながらナミは少し不安になった。

「大丈夫…よね? 街では…サンジ君、手は出さないわよね」

サンジのことを信頼してルフィを任せることにした。ルフィが一人でフラフラするよりは安全なはずと自分に言い聞かせ、帽子を直すために裁縫箱を取り出した。



***



ルフィは視線を集めながらもサンジを探して街中を闊歩する。

「食料品買ってるんかなァ?」

独自の嗅覚でルフィは食品売場を探り当てた。
人混みの中、サンジを探し、キョロキョロと辺りを見回していると人にぶつかってしまった。

「いてッ」
「わぷっ、悪ィ…」

思い切りぶつけた鼻をさすりながらルフィは謝った。

「おいおい…ぶつかっといて悪ィだけで終わると思ってんのか、お嬢さん?」
「お嬢さん? あァ、おれか。じゃあ、ごめん?」

首をかしげ、不思議そうな顔をしながら謝った。

「謝り方の問題じゃねーよ! ちょっとこっち来い!」
「どこ行くんだ?」

わけが分からず腕を引かれるままルフィは連れ去られようとした。

「ちょっと待て。女性にそんな乱暴な扱いをするなんて紳士の風上にも置けねェな」
「あァ? 誰だ、てめェ」

あ、サンジとルフィが口を開く前にルフィがぶつかった男は華麗に蹴り飛ばされていた。
おお〜と周りから歓声が上がる中、サンジはルフィの前にやって来た。

「大丈夫ですか? お嬢さん」
「あはは、サンジ、おれだ」
「え? ルフィ…本人?」

じっとルフィの顔を見て、身体を見て、再び顔を見た。

「おーい、ルフィ!」
「あ、チョッパー!」

声がした方を見るとチョッパーがこっちに走って来ていた。

「わ〜! かわいいぞ、ルフィ! 成功したんだな」
「む、かわいいって言われても嬉しくねェぞ」
「でも今は女だからかわいいが褒め言葉だぞ?」
「あ〜そうなるかァ」

ニコニコ笑うチョッパーと難しい顔をするルフィを見てサンジは状況をなんとなく理解した。

「あ〜チョッパーがなんかしてルフィが女になってるわけだな」
「そうだぞ! この姿ならナミが街に出てもいいって言ったんだ」
「お前、姿変えてまで街に出たいほど暇だったのか…」

呆れ顔でルフィを見る。

「だってサンジと買い物したかったんだ」
「お前…チョッパー、ルフィ借りるぜ?」
「お?うん。おれは薬が成功してるか見たかっただけだから。明日には戻るけど一応、元に戻る薬も作っとくぞ! じゃあな〜」

サンジに裏路地へ引っ張られながらルフィはチョッパーに手を振った。


「…どしたんだ?」
「どうしたってお前なァ…ん? ちょっと機嫌悪くねェか?」

膨れっ面のルフィにサンジは少しビビる。怒らせるようなことはまだしてないはずだ。

「サンジ、女には無条件で優しいよな」
「あァ…なるほど。さっきのことな」
「……なんかちょっとヤだ」

ルフィはむくれたまま後ろを向いてしまった。
そんなルフィを後ろから抱きしめる。

「おれだって話を聞かず、いきなり手加減なしに蹴飛ばすようなマネを毎回してるわけじゃねェよ」
「さっきは聞いてなかったぞ?」

不思議そうな顔でルフィは振り返る。

「…お前に似てる女だなって思ったら話聞く時間も無駄だと思ったし、手加減は忘れてた」
「サンジ…」
「そしたらホントにお前だし…早めに蹴飛ばしてよかった」

身体の向きを変えてルフィはぎゅっとサンジに抱きついた。

「油断しすぎなんだよ、お前。知らない男に触られてんじゃねェよ」
「腕、掴まれただけだぞ?」
「それだけでもイヤなんだよ」

ぎゅっと抱きしめられルフィはサンジの胸に擦り寄る。

「なんか…胸があると変な感じだな、ルフィ」
「そうか? おれはスカートの方がスースーして気になる」

一旦離れ、ルフィはスカートの端を持ち上げた。
白い太ももにサンジは釘付けになる。

「アホ! てめェは誘っとんのか!」
「は? 違う違う。ホント変なんだよ、この服」
「違わねェな…責任取れよ?」

ニヤリと笑ってからサンジはルフィに手を伸ばした。

「わわ、冗談だろ?」
「さて、どうかな?」
「目が本気っぽいぞ!」

ジリジリと後退りをしながらルフィは逃げ道を探す。
ふと自分のポケットに手があたり、中に紙切れが入っているのを思い出した。

「サンジ、ストップ…ぎゃー! 胸揉んだ! …っや! 〜ストップ! これ!」
「…なんだよ?」

サンジは不機嫌そうに、差し出された紙切れを手に取り、内容を読む。

「な……」
「ナミからだぞ…サンジに渡せって…どした?」

紙切れを見たままサンジは固まってしまった。
ルフィも紙切れを覗き込む。

『街の中でルフィに手を出さないこと。手を出したら許さないわよ?』

「ナミの命令は絶対だもんな? ししっ! 買い物しよう!」
「あのタイミングでその紙を見せるなよ…はァ、仕方ねェな」

諦めたような困った笑いでサンジは先を歩き出した。
ルフィは後ろからサンジの腕を抱き込みニコニコ笑っている。

「…胸を…腕に…あてるな…」
「ん? イヤだ! ベタベタしたい!」

手を出されないと分かったルフィは強気だ。

「てめェ、今晩、覚えてろよ?」
「ししし、忘れるぞ」
「思い出させてやるよ、身体にな?」
「エロエロだ! おれは逃げるからな!」
「いいぜ? どこに逃げても捕まえるからな」


そんな会話をしながらも二人は楽しく買い物をしたようだ。

その晩、ルフィが逃げ切れたかは二人にしか分からない。






















*END*