「風呂掃除する!」
眠気は掃除してたら消えるだろうと、ルフィは風呂掃除をすることにした。
「そう? 誰が風呂掃除してるんだっけ……あっ、サンジ君だ…ちゃんと掃除しなさいよ?」
「おう! サンジと一緒にピカピカにするぞ!」
にこにこ笑って張り切っているルフィには危機感がない。ナミはため息を吐いた。
「……頑張りなさい。何かあったら叫ぶのよ? 助けてあげる」
「ん? おれはナミより強いから大丈夫だぞ? じゃあ掃除してくるな」
「そういう意味じゃないわよ……はァ、いってらっしゃい」
全然、意味を理解してくれないルフィにナミは呆れながら手を振った。
(毎回毎回、襲われてるのになんで警戒心がないのかしら?)
船長の能天気さにある意味尊敬するナミだった。
***
ルフィが倉庫に入るとサンジの上着とネクタイが水樽の上に置いてあった。
倉庫を抜け、風呂場へ向かう。
「サンジ〜おれも掃除する〜!」
「ルフィ? こんな狭い場所に来るなんて襲われに来たのか?」
壁のタイルを磨いていたサンジがルフィを振り返る。
サンジは水に濡れないよう、腕まくりしたシャツと裾を折り上げたズボン姿だった。
「掃除だって言ってるだろ〜サンジは意味わかんねェ」
「お前みたいに鈍すぎるよりマシだ」
「そうかァ? ま、いいか〜おれも掃除!」
意気揚々と風呂場に入ろうとするルフィをサンジが手で制する。
「お前、帽子は置いて来いよ。落としたら泡まみれになるぞ?」
「え! それは困る…ちょっと置いて来るな」
サンジの上着の上に帽子を置いて、ルフィは再び風呂場に戻った。
「置いてきたぞ」
「よし、じゃあ浴槽の中を洗ってくれ」
「ラジャー!」
スポンジを手渡されたルフィは笑顔で浴槽に入って洗い始める。
「お前、掃除好きだったっけ?」
「こういうイベントみたいなのは好きだ」
「あァ……なんかわかるかもしれねェ」
ルフィも掃除とはいえ、みんなで騒ぐのは好きなのだろう。
「トイレは掃除したのか?」
チラリとトイレを見てルフィは熱心にタイルを磨くサンジに尋ねた。
「あァ、あとはタイルと浴槽だけだったんだよ。手伝ってくれて助かる」
「えへへ、サンジの役に立てるのは嬉しいな」
「可愛いこと言ってくれるじゃねェか」
「うわっ! 泡まみれの手で撫でるなよ〜」
わしわしと頭を撫でられるのはルフィも好きなのだが今のサンジの手は洗剤がついている。
「あ、あァ油断した…ははは、タイル洗い終わったし浴槽も終わったろ? 流すついでにシャワーで頭洗ってやるよ」
「ついでかよ〜サンジはたまにマヌケだな」
ルフィはぶつぶつと文句を言いながらシャワーのコックに手をかけた。
「ちょ、待て!」
ザーーー
サンジの焦った制止の声も虚しく、ルフィはシャワーのコックをひねった。
「あっ……」
勢いよくサンジの上を水流が雨のごとく降り注いでいる。
びしょ濡れになったサンジはニッコリと笑いながら、青ざめるルフィに見えるようにゆっくりシャワーを手にした。
「ルフィ、何かおれに言うことは?」
「水も滴るいい男? …なーんて…あはは」
乾いた笑いをしながら浴槽ギリギリまでルフィは後退る。
「よし、洗ってやるよ」
「ぎゃー! ごめんなさい!」
「てめェもマヌケだろうが! あのまま水出したらおれが濡れるに決まってんだろ! わざとか!」
ルフィは服を着たまま水をかけられる。
浴槽の中にいるので逃げ場はない。
「わざとじゃねェもん! ごめんっていつものクセで…ぷはっ…いい加減、水かけるの止めろよ〜」
「反省したんなら別にいいぜ」
サンジはシャワーを下に向け、水に濡れたルフィを満足そうに見た。
「びしょ濡れなのもイイな」
「す、隙あり!」
ニヤリと笑うサンジの隙をついてルフィはシャワーを奪い取る。
「あ、頭冷やせ!」
「冷て! …てめェ一度ならず二度までも……お仕置きが必要だな?」
「えー! 冗談だろ?」
「試してみるか?」
「や、やだ!」
水を出したまま暴れるので浴槽とタイルの泡はキレイすっきり流れていた。
サンジは水を止め、ルフィを捕まえる。
「わわっ…えっ」
「覚悟決めろよ?」
「えーッ!!」
バタバタと走る音が聞こえ、ガチャっと風呂場のドアが開いた。
「うるさーい! ……何してんの?」
「鍵かけるの忘れた…」
怒り心頭のナミの登場にボソっとサンジが呟いたのがルフィにだけ聞こえた。
タイルに押しつけられた体勢でルフィはナミを見る。
「な、ナミ〜」
「はいはい、サンジ君、ルフィから離れて」
「……はい」
サンジは渋々とルフィから離れた。ルフィはホッと息を吐く。
「はァ…何やってんのよ。びしょ濡れじゃない」
「これはサンジが悪い」
「はァ? なんでだよ。お前が急に水出したんだろ!」
ルフィの言い分にサンジがキレた。
「うっ…で、でも! サンジがおれの頭に泡つけなかったら水出そうなんて思わなかった!」
「お前が可愛いこと言うから撫でたんだろ!」
ナミにとって、余りにもくだらない理由に顔が引きった。
「うるさい! 痴話喧嘩なら別の場所でしなさい! …ほら、さっさと着替えないと風邪引くわよ? はァ、構うのもバカらしい」
ナミは風呂場の外にあるタオルを二人に投げつけ、呆れ顔のままその場から立ち去った。
「ナミに怒られた〜」
頭を拭きながらルフィは愚痴る。
「拭くの下手だな。おれが拭いてやるよ」
「ありがと。あ〜パンツまでびしょ濡れだ……」
サンジに頭を拭かれながらルフィは水浸しの服を絞る。
「着替えるしかねェな」
「やっぱりか〜困ったなァ。おれの予備の服、まだ乾いてない」
甲板でぼんやりする前にルフィはすべての服をまとめて洗っていたのだ。いくら天気がいいとはいえ、まだ乾いていないだろう。
「そうなのか? 仕方ねェな。おれのシャツ貸してやるよ」
「ホントか? ありがと」
ニコニコと笑ってルフィはサンジに礼を言った。
サンジも笑ってルフィの乾きかけの頭を撫でた。
「とりあえず部屋に行くか」
「おう! 今度はおれがサンジの髪を拭いてやる」
「そりゃどうも」
麦わら帽子と自分の服を持ちサンジは笑った。
***
「え〜これは変だろ?」
「……いや、最高だ!」
ビシッと親指を立て、サンジはルフィに最高の笑顔を向ける。
男部屋でお互い、着替えをすませたもののルフィは困った顔でサンジを見ている。
サンジに手渡されたシャツを着たがブカブカでサイズが合わない。ズボンもブカブカなのでルフィはとりあえずシャツ一枚だけの姿なのだ。
「ちぇっ、サンジはデカイなァ」
「しばらくしたらお前の服も乾くだろ」
「そりゃそうだけど〜足がスースーするし……恥ずかしい」
大きいシャツを一枚しか着ていない、しかも自分のシャツ、そして恥じらっているというのはサンジの心をガッチリ掴んでいた。
怪しい雰囲気を感じ取りルフィはそわそわし始める。
「じ、じろじろ見るな」
上から下まで舐めるように見られ、ルフィはたじろぐ。
「お前……可愛いな。襲いたいぐらい可愛い…」
「えっ!? だ、ダメだぞ? 掃除しなきゃナミに怒られちゃうぞ?」
サンジの情欲の滲む瞳にルフィは狼狽え、抗議した。
しかし上目遣い、しかも赤い顔で言われても効果はゼロだった。
「無理無理。襲うなって方が無理……あとで仲良く怒られような?」
「っ!」
否定の言葉はサンジに唇を塞がれ、ルフィには応えることはできなかった。
そしてせっかく着た服をサンジにすぐ脱がされることになったのだった。
*END*