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ルフィは振り返ることなく家から飛び出した。
恐怖からまだ抜け出せない。
エースから逃げるために、ひたすら走った。
何だか、無性にサンジに会いたい。
公園に差し掛かった頃、突然腕を何者かに掴まれた。
「っ!?」
「ルフィ、どうしたんだ?」
「サン、ジ…なんでここに」
「なんか、お前のことが気になって……っ!? その服…どうしたんだ?」
「ふえ…っく」
サンジに出会えた安堵から涙が溢れて止まらない。
ルフィはサンジに抱きついた。サンジは何も言わずにルフィの背中を優しく撫でる。
エースの想いに応えられなかったことが悲しくて仕方なかった。
あのとき逃げ出さなければ何か変わっていただろうか。
それでもルフィは逃げ出してよかったと本当は思っている。
サンジの傍は心地良い。でも、それだけじゃない。とてもドキドキした。
「落ち着いたか?」
「うん…ありがと、サンジ」
しばらく泣いたあと、恥ずかしそうにルフィはサンジを見上げて笑う。サンジはそれを見て、安心したように笑った。
「こんなときに言うのは卑怯かもしれないけど…おれ、ルフィのこと好きだ」
「サンジ……」
サンジの告白に徐々に顔が赤くなってくる。そして、じわじわと脳内にサンジの言葉が伝わってきた。
なんだか、サンジを見ていられなくて目を逸らす。答えは決まっているのに、なかなか口から出てくれない。
家を飛び出して一番に会いたかったのは紛れもなくサンジだった。
自分は恋愛をしたことがない。でも、その会いたいと想う気持ちは恋なのではないだろうか。
ルフィは深呼吸をして、もう一度サンジを見た。サンジの緊張も伝わってきて、心臓が壊れそうなほど脈打っている。
「お、お、おれも! サンジのことが好き、です」
「よっしゃ!! これで晴れて両想いだな!」
サンジに突然、抱きしめられて、ルフィもそろそろとサンジの背中に手を回した。
しあわせそうに笑われて、胸がぎゅっと締めつけられたように苦しくなる。
嬉しいときも涙は出るんだと実感しつつ、ルフィはサンジに強く抱きついた。
「よし、それじゃあ一発殴って来る」
「え? だ、誰を?」
突然の展開に頭がついて行かない。ルフィは軽く混乱しながらサンジから離れた。
「もちろん、エースを」
にこりと背筋が寒くなるような笑顔でサンジは歩き始める。
「う、ウソだろ?」
「いや、ホント。本気で殴らせてもらう」
「ダメだって! おれの兄ちゃんだぞ? 殴ったらダメだ!」
立ち止まることなくサンジは必死に追い縋ってくるルフィを見た。
どんな目に遭わされようとルフィにとってエースは大切な兄であることに代わりはないのだろう。
そのことに怒りと言い知れぬ不安、そしてエースに対して多少の憐れみを感じた。
多少のことをしても自分から離れないルフィ。自分の歯止めが利かなくなる前にエースはルフィを己から遠ざけたかったのだろう。
(それにしちゃやりすぎなんだよ…クソ野郎が)
はだけて見えるルフィの鎖骨にキスマークを見つけ、サンジは苛立つ気持ちを隠そうともせず歩き続ける。
「お前を泣かせたことが許せない。例え、どんな理由があろうともな」
「な、泣いたのはサンジがいてくれて安心したんだよ」
「でも怖かったんだろ?」
「……うん」
「やっぱり殴る。そうしなきゃおれの気も済まない」
「うぅ」
何を言っても止まらなそうなサンジに慌てていると先程飛び出した自宅まで戻ってきてしまった。止める間もなくサンジは玄関を開ける。
「サンジ?」
「無用心だぜ、お兄さん」
「……いってェ」
突然の来訪者に驚いたエースはサンジに思い切り殴り飛ばされた。
「自業自得だろ」
「まァな…手加減なしで助かった」
エースは殴られた頬をさすりながら立ち上がる。
殴られたことにより自己嫌悪していた心が少しだけ楽になった。
「エース! 大丈夫か?」
慌てて近寄るルフィにエースは目を見張る。
「……おれのことを軽蔑しないのか?」
「しない。何があってもエースはおれの兄ちゃんだから」
「……ルフィ」
ルフィの変わらない笑顔を見て、エースは泣きそうに歪んだ顔で笑った。
「ごめんな。たくさん怖がらせたよな? もう怖がらなくても大丈夫だ。時間はかなり掛かるかもしれねェけど…ちゃんとお前のこと諦める」
「…エース」
「だから、今まで通りお前の兄ちゃんでいさせてくれよな」
「当たり前だ! バカ」
不安そうに言うエースにルフィは思いっきり抱きついた。エースは優しくルフィの頭を撫でた。
すると、すぐにルフィは首根っこをサンジに掴まれ、エースから離される。
「とりあえず今日はおれの家に泊まらせるからな」
「……ああ」
「そっか! じゃあ、着替えとか取って来る。というか着替えて来る」
ルフィは自分の服を見て、急いで二階に上がって行った。
その姿が見えなくなってから、サンジはエースと向かい合う。
「……諦められんのか?」
「わからねェ…どんなに諦めようとしても無理だったからな。でも、男に二言はない。ルフィへの想いは押し隠してやるよ」
「そうしてもらえると助かるな」
「あ~、お前にルフィ任せるの嫌だなァ。憎たらしいとはこのことだな」
冗談っぽく言ってはいるがエースの目は本気でサンジを睨んでいる。
「お前なァ…反省しろよ。おれも多少反省してんだから。今日は悪かったな、煽るようなこと言って。暴走したのはおれが原因みたいなもんだろ?」
「まァな。でも、感謝もしてる…ルフィに全部伝えたら楽になった。これでルフィを傷つける心配はもうない」
「よかったな」
どこかスッキリしたように笑うエースを見て、サンジも笑った。しかし、次の発言で笑顔は凍りつく。
「あと、何しても軽蔑されないってわかって安心したんだけど」
「てめェ、何もするんじゃねェぞ?」
「……たぶん、大丈夫」
自信なさそうにエースは返事をした。それを見てサンジは顔を引きつらせる。
「諦める気はあるんだよな?」
「……たぶん、大丈夫」
「お待たせ~わっ! サンジ、どうしたんだ? 怖い顔してるぞ?」
泊まりの用意を済ませたルフィがリビングに戻ると、サンジは見たことないほど怖い顔でエースを睨んでいた。
「油断ならねェ奴だな…ほら、ルフィ行くぞ!」
「う、うん。じゃあ行ってきまーす」
「行ってらっしゃい」
ルフィのカバンを持って、サンジはさっさと家から出て行く。慌ててルフィはサンジの後を追った。
「どうしたんだ?」
「なんか、一難去ってまた一難って状況なんだよ」
「んん?」
状況がわからないルフィは首を傾げることしかできない。
「今はエースのこと考えるのはやめとくか」
不思議そうにしているルフィを見て、サンジは笑った。
「お泊りの許可が出たってことはエースにとってもかなりの譲歩だろうしな」
「そうなのか?」
「そりゃそうだろう」
サンジは意味がよくわかっていなさそうなルフィの頭を撫でる。
その後は他愛無い話をしながら二人はサンジの家へ向かった。
***
「で、手を出してもいいんだよな?」
「え?」
家に着いた途端の質問にルフィはよくわからずに首を傾げる。
サンジは後ろ手で鍵を閉めながら、にこりと笑った。
「恋人の家にお泊りするって意味を考えてみろよ」
「意味? …………ええ!? だ、ダメだよ!」
ようやく理解した瞬間にルフィの顔は真っ赤になる。そんなルフィにサンジは軽く口づけた。それだけでルフィは真っ赤になったまま固まってしまう。
「かわいいなァ…真っ赤じゃねェか」
「だ、だって! そんな…急にキス、するとは……恥ずかしいって…おれ、初めてだし」
まだ恥ずかしそうにしているルフィを見て、サンジはなんとも言えない顔で抱きしめた。
こういう状況は初めてで、本当にどうしていいかわからない。
「大丈夫。このマンション、防音完備だから」
「そ、そんな心配してないって! おれ達は高校生だぞ? 健全なお付き合いをしようよ!」
「えらく古風な考え方だな……二人きりの空間で、ルフィに手を出さないなんて、おれは我慢できる自信がない」
本当に自信なさそうにサンジは首を横に振りながら、部屋の電気をつけた。
じわりじわりと近づいてくるサンジから逃げるためにルフィは荷物を置いて、後退りする。
「うぅ、せめてサンジが卒業してからにしようよ……ダメ?」
「おれが卒業してから? …………約一年、我慢しろって意味?」
サンジの問い掛けにルフィは赤い顔のままコクコクと頷いた。
「無理だろ……何で? お前、おれに抱かれるのがそんなにイヤなのか?」
「ち、違う! だって、おれは女じゃないんだぞ?」
ルフィはベッドに上り、部屋の隅へと逃げるがサンジの思う壺な場所に追い込まれている。
壁にぶつかり、それ以上は逃げられなくなった。
「もちろん、わかってるぜ? 嫌がる理由を言えよ」
「え、え、えっちしたらサンジ、おれのこと飽きちゃうかもしれないじゃん! そんなのヤダよ!」
「かわいい! なんだその考え方!」
つまり、肉体関係を持つと女性の方がやっぱり良いとサンジが思うかもしれない、とルフィは不安なのだ。
あまりに愛しい理由に止まるものも止まらなくなってしまう。
「かわいくないって! おれは必死なんだ! …わっ!」
「ベッドに逃げるなんて……誘ってるのと同じ意味なんだぞ?」
足払いをされ、バランスを崩したところをベッドに押し倒される。
ルフィは何が起きたかわからずにポカンとしてしまうが、すぐに状況を理解し、暴れ始めた。
「やっ…待って…」
「どうしよう…すげェ興奮してきた」
「落ち着いて! こ、怖い……おれ、こういうの慣れて、ない」
泣きそうに潤んだ目で見上げられて、サンジには冷静な判断ができない。
しかし、今にも切れそうな理性の糸をなんとか結び直し、サンジはルフィの上から退けて、ベッドに仰向けに寝転がった。
「サン、ジ?」
「おれは、お前を怖がらせたいわけじゃねェんだよ」
「う、嬉しい…」
死ぬほど我慢しているのがわかってルフィは大事にされているのがわかり、嬉しくて泣いてしまいそうになる。
「お前に飽きることなんてないから安心しろよ」
「うん」
「他に質問は?」
「今はない、かな」
安心したように笑って、ルフィはサンジを覗き込んだ。
「じゃあ、抱いてもいいですか?」
「へ? そ、それは…」
興奮したような瞳にルフィは動揺が隠せない。
「今日くらい我慢できるかもしれないけど……あまり我慢すると優しくできないかもしれないんだよ。こっちだって切羽詰ってんだ」
「ど、どうすれば……」
「してもいいなら、ルフィからキスしてくれ。何もしないなら、風呂に入って寝るから」
「うぅ」
サンジは意地悪な男だ。そう思ったが口には出せない。これなら、襲われた方が恥ずかしさは半減だった気がする。
自分からキスするなんて、サンジに抱かれたいと言っているようで今すぐにも走って逃げ出したい気分だ。
サンジも余裕がないと言っている。今日を避けたら、どうなるのだろう。
そう考えると恥ずかしくて、少し怖い。
ちらりとサンジを見ると、じっとルフィを見つめていた。
サンジは何も言わず、ルフィの判断に任せているようだ。
怖い。けど、ルフィだって興味がないわけではない。本人には絶対に言えないけど、サンジと身体を重ねてみたい。
壊れそうなほど高鳴る動悸に、眩暈がする。
ルフィは意を決して、ゆっくりとサンジに近づいた。
「ちなみにキスしたら、最後まで泣こうが喚こうが止まらないからな」
「な、なんでそんなこと言うかなァ」
決心が鈍りそうなことを言われて、ルフィは赤い顔でサンジを睨む。
「我慢の限界なんだよ。ルフィが欲しい。頼むからキスして?」
恋人の命令にも似た、お願いにルフィは深呼吸をしてからサンジを見た。
「目、瞑って?」
「……了解」
誰かに自分からキスするなんて初めてで、ひどくドキドキする。
ルフィ自身も目を瞑り、そっとサンジに口づけた。しかし、今後の展開を考えると恥ずかしくて目を開けられない。
「ルフィ、怖がらなくていいから目を開けろよ」
「は、恥ずかしいんだよ!」
「ホント、エースはよく手を出さずに我慢したよなァ…ある意味、感心する」
サンジの呟きに、目を開けると一気に視点が逆転した。
いつの間にかサンジが自分の上にいて、ルフィは手品でも見ている気分だ。
「できるだけ優しくするから」
「う、うん……えっと」
「どうした?」
さりげなく服を脱がしながらサンジは、何か言いたげなルフィを安心させるように笑いかけた。
「サンジ、大好き」
「っ! この状態で勇気ある発言だな」
「え? ええ? ……ふぅっ」
少し赤い顔でサンジは心底しあわせそうに笑ったあと、ルフィに口づけた。
「おれもルフィのこと大好きだ」
ルフィが何か言う前にサンジは再びルフィにキスをする。今度は先程とは比べ物にならないほどの深い口づけ。
頭がくらくらして、でも抵抗しても押さえ込まれて、もう何が何だかわからない。
待ってもイヤだもサンジは聞こえないフリで、宣言通り止まってはくれなかった。
そして、サンジはルフィの可愛さに結局暴走して、次の日にルフィに怒られるのだった。
*END*