いたたまれない気持ち満載のまま、ルフィは階段を駆け降りる。
(もー! サンジの阿呆め!!)
サンジが自分を好きだということは冗談ではないことぐらいわかっているつもりだった。しかし、自身の認識が甘かったようだ。
性的に見られているとわかると、いたたまれない。
(普通、好きな相手にああいうこと言う!? あの阿呆の脳内、見れるなら見てやりてェよ!)
嫌悪感があるわけではなく、ひたすら恥ずかしかった。
目的もなく走り続けているとルフィの完全なる前方不注意で誰かとぶつかってしまった。
「ぶふっ! わ…ごめんなさい!」
「…気をつけろよ」
「はい! ホントにすみません!」
不思議と周りの空気が凍りついている。
生徒達は遠巻きに事の成り行きを見守っていた。
「?」
ルフィはわけがわからず首を傾げる。そして、ぶつかった相手をまじまじと見た。
ネクタイの色からして先輩だ。
緑の髪に鋭い目つき。お世話にも優しそうとは言い難い顔つきをしていた。
しかし、ルフィは見た目を気にするタイプではないので周りが凍りついた理由がわからなかった。
「あー! ちょっと!」
立ち去ろうとする先輩の制服をルフィは掴んだ。
「なんだ?」
「ここ、どこですか?」
適当に走りすぎたせいか場所がわからなくなっていた。
校内で迷子というのも恥ずかしい話だが聞けば、すぐに目的地へ辿り着ける。
昼休みが終わる前に屋上へ戻り、サンジに対するわだかまりをなくしておきたい。
「…なんだそりゃ。現在地がわからねェのか?」
「う〜、色々ありまして…わかってないです。と、とにかく再び屋上まで行かなきゃいけないの!」
「仕方ねェな。わかりにくいから着いて来い」
「はーい!」
にこにこと笑顔で返事をすると変な表情で凝視された。
間延びした返事をしてはいけないのだろうか。
無言で歩き出した先輩に続く。
先輩が通ると他の生徒達が左右へと道を開けた。
「先輩、嫌われてるの?」
「直球だな。恐がられてるらしい。お前は平気なんだな」
「あ〜、別に恐くないですよ。道案内もしてくれますし」
「そう、か」
なるほど恐がられていたから、先輩にぶつかったとき周りが凍ったのかと今更ながらにルフィは納得した。
(あれはおれが殴られるかもって周りが思ったんだなァ)
見た目は恐いが根は優しいと何となく思う。
そして、歩いていて気になったことがあった。
「先輩」
「なんだ?」
「屋上、逆方向じゃないですか?」
「……」
いくら来たことがない場所とはいえ窓から見える景色に見覚えがある。
無言で踵を返そうとする先輩をとりあえず引き止めた。
「あ〜、もう大丈夫です。ありがとうございました」
「…悪かった」
「いえいえ、助かりました。それではこれで」
ルフィはぺこりと頭を下げる。
(周りのリアクションよりもいい人だな〜方向音痴だけど。この人、さすがに自分の教室はわかるよな)
一抹の不安を抱えつつ、ルフィは屋上へ向かおうとした。
「おい」
すると呼び止められる。
振り返ると笑顔だった。仏頂面ではないときの破壊力はなかなかのものだ。
「噂、気にするなよ」
「? あ…はい、ありがとうございます」
何のことかわからなかったが、サンジとの噂だとすぐにわかった。
3年生の間にも流れているのか。
そして、噂の張本人とわかっていて普通に接してくれたのだ。嫌悪を抱かれても仕方のない噂なのに。
淡い感動を覚える。
ルフィの中で『いい人』から『すごくいい人』へとランクアップした。
「先輩、お名前は?」
「ゾロだ。お前のことは知ってる。ルフィだろ」
「あはは、いつの間にか有名人に…えっと、おれは大丈夫です。噂がイヤなことはありますけど…その〜、噂の相手と一緒にいたいですから……友達なので」
自分の返答に衝撃を受けてしまった。取って付けた様な『友達』に内心焦る。
「それならいいけどな。まァ変な輩に気をつけろよ」
「はい! それじゃあまた」
「ああ、またな」
ルフィはゾロに手を振り、屋上へと向かった。
その後、屋上でルフィがゾロとの出来事を話してサンジの機嫌が急降下するのだった。
*END*