春(ゾロル)


ルフィが甲板に出るとゾロが壁にもたれて寝ていた。

「また寝てる〜」

構ってもらおうと思っていたルフィはガッカリした。しかし今日のように暖かい日は思わず眠ってしまいそうなまどろみがあった。

ルフィはアクビをし、ゾロの横に座った。
帽子を外し、ゾロの横顔を見上げる。

「ゾロはカッコいいなァ……筋肉もあるし……おれはなんであんまりないんだろ」

腕を触る、鍛えているつもりだがゾロとは腕の太さが全然違うとルフィは頬を膨らました。

「ちぇっ……まァいっか〜おれはゾロが大好きだしな……」

うとうとしていたルフィはそう呟いた後、ゾロにもたれかかり夢の中へと意識を移した。

ルフィが話さなくなったのを確認するとゾロはニヤける口元を片手で隠した。

いわゆる狸寝入りをしていたゾロは話しだすタイミングを失っていたのだが黙っていてよかったと心底思った。

穏やかな寝息をたてるルフィの頭を撫でる。

「…おれだってお前を愛してる」

春の陽射しと同じようにあたたかな気持ちでゾロはルフィを見つめた。

「今さら離せねェからな…覚悟しとけよ」

安心したようにもたれかかったまま眠るルフィをどうしたものかとゾロは悩んだ。
いつの間にかルフィに服の裾を掴まれており、眠りを妨げそうで立ち上がることもできない。
そして今はこの空間を壊したくなかった。

「おれも、もう一眠りするかァ」

そう宣言するとルフィの頭にもたれかかりゾロも目を閉じた。



***



陽が傾き始めた頃ルフィは目を醒ました。

「ん……あれ? おれ…寝ちゃったか。おーい、ゾロ〜起きろ〜」

ルフィが目をこすりながらゾロを揺するとゆっくりと目を開けた。

「……」
「ゾロ? ……んぅ!?」

突然、ゾロに口を塞がれルフィは一気に眠気が消え失せた。

「っ……ぁ…ば、バカ! 起きろ!」

さらに深くなりそうな口づけを強引に終わらせ、ルフィは飛び退いた。

「……あァ?」
「ね、寝ぼけてんのかよ?」
「……今、起きた」

バクバクと高鳴る鼓動を静めようとルフィは深呼吸した。

「急に襲うな! びっくりしたぞ……」
「襲ったのか?」
「無意識か? 怖い奴だなァ」

呆れた顔でルフィはうなだれ、ため息を吐いた。
するとゾロが近づいて来て、ルフィの顎をとる。

「な、なんだ?」
「覚えてねェ……もったいねェからもう一回するぜ」
「な! ……ん……ぅ」

否定の言葉を封じるようにゾロはルフィを貪るように口づけた。
じたばたと暴れるがゾロから逃げられない。
激しい口づけはゾロが満足するまで続けられた。

「っ……ぷはっ」
「真っ赤だな」
「〜〜っ! アホ!」
「いてっ…まァそう怒るなよ」

ぜぇぜぇと息を吐きながらルフィはニヤリと笑うゾロのふくらはぎを蹴った。

「信じらんねェ〜ゾロは危険だ!」
「そんなことねェよ」
「ホントかァ? 怪しいな……ん〜今回は許す! 次、勝手にしたらすげェ怒るからな!」

ルフィはニカッと笑い、ゾロに抱きつく。
ゾロも笑いながら抱きしめる。

「了解だ、船長」
「か、軽いのなら…もう一回…してもいいぞ?」

真っ赤な顔でルフィはゾロを見上げた。
上目遣いで可愛いお願いをされゾロは鼻血が出るかと思った。

「軽いのか……ルフィは厳しいな」
「激しいのは……ふらふらするからヤダ」
「……了解」

ルフィを貪りたいと思うが可愛い船長の願いを叶えるため少ない理性を総動員し、ゾロはルフィに軽く口づけした。

赤い顔のまま満足そうに笑うルフィをゾロは再び抱きしめた。










*END*







夏(サンル)



サンサンと照りつける太陽の下でルフィはぐったりしていた。

「あぢィ………」
「おい、そんな場所で寝るな…熱中症になるぞ」

甲板に寝転がるルフィにサンジも暑そうに己を手で仰ぎながら声をかけた。

「サンジ……うわっ! 見るだけで暑苦しい! なんでこんな暑いのにスーツなんだ? 意味わかんねェ!」
「意味わかんなくはねェだろ!」
「寄るな! 暑苦しい!」

近寄ろうとするサンジにルフィはストップをかけた。
サンジの額に青筋が浮かぶ。

「寄るな……だと?」
「スーツを脱げ! 見るだけで暑さ倍増だ!」
「……」

にっこりと話の流れに似合わない爽やかな笑顔でサンジはネクタイを外した。

「えっ! ちょっ……」

サンジの目が笑っていないのに気づき、ルフィは起き上がる。
しかし、ルフィが逃げるより早く、サンジはルフィを捕える。

「ぎゃー!! ごめんなさいィ!!」
「別に怒ってねェよ…暑苦しいスーツ着てるおれが悪いと思ってな」
「お、怒ってない?」

恐る恐るルフィが見上げるとその目はまだ怒りを宿していた。
愕然としていると両手首をいつの間にかネクタイでくくられていた。

「う、ウソつき! すげェ怒ってるじゃねェか!」

ルフィがじたばた暴れても戒めは解けない。

「さて、スーツを脱ぐようなことをしようぜ?」
「や、ヤダ!」
「脱げって言ったじゃねェか」
「さ、サンジはスーツがすごく似合う!カッコいい!」

脱がせないように必死に誉める。いつもカッコいいと思っているので嘘ではない。

「へェ? カッコいいって思ってたんだ?」
「うん! おれはサンジほどカッコいい男、見たことねェぞ」

嬉しそうに笑うサンジの怒りが消えたことを感じ、ルフィもにっこりと笑う。

「じゃあ着たままするかな」

笑顔のままルフィは青ざめた。

「えっ? えっ! じょ…冗談だろ?」
「冗談のつもりだったけどお前があんまり誉めるから止まらねェな」
「えー! うわっボタン外すなよ! ……お願い、サンジィ」

赤い顔のまま懇願するようにルフィは上目遣いになった。その目は涙で潤んでいる。

「っ! ……その『お願い』はベッドの中でさせてェな……」
「やっ……」

ほんの冗談のつもりが無意識だろうがルフィに煽られ、サンジも己を止めることができない。

ばしゃーん!!
カコーン!!

突然、二人の上に大量の水とバケツが降ってきた。
バケツはサンジの後頭部に直撃。

「うるさーい!! ただでさえ暑いのにイチャイチャと! バカか!」

サンジが後頭部を押さえてしゃがみ込むと、ナミが怒り心頭という感じでルフィたちを見下ろしているのが見えた。

「今日は街に停泊する予定だからそれまでおとなしくしときなさい!」

言うだけ言うとナミは引っ込んだ。

カラカラとバケツが虚しく甲板を転がる。
びしょ濡れになってしまったがこの陽気ならすぐに乾くだろう。
ルフィはサンジの後頭部を優しく撫でた。

「だ、大丈夫か?」
「もう平気だ…ああでもされなきゃ止まらなかっただろうな」

ナミに心の中で感謝し、サンジはルフィの戒めを外した。

「こういうプレイは宿でしような」
「し、しない!」

ルフィの水に濡れた髪を優しく撫でながらサンジはニヤニヤ笑ってとんでもないことを言う。

「早く街に着かねェかな〜」
「しないよな? 変なことはしないよな?」

サンジの服を掴んでルフィは不安でいっぱいの顔をしている。

「風呂付きの部屋に泊まろうな」
「こ、答えろよ! 変なことはしないんだろ?」
「ベッドはひとつでいいよな」
「き、聞いてんのか? しないよなァ?」

何度聞いてもサンジは聞こえないフリで、必死なルフィの様子を存分に楽しむ。


騒ぐルフィたちにナミがもう一度、水を掛けたのはあと数分後の話。













*END*






秋(サンル)



秋晴れの空の下、読書しているサンジをルフィは見つけた。

「あれ〜? サンジ、眼鏡してる」
「読書の秋だからな。雰囲気だ」
「意味わかんねェ〜でも頭良さそうに見えるな」

ニコニコ笑いながら、ルフィは少し失礼なことを言った。

「普段から頭良いっつーの! ……頭のことお前に言われたくねェよ」
「ん? そうか?」

あはは、と明るく笑いサンジの横に座った。

「何、読んでるんだ?」
「官能小説」
「かんのー?」

ルフィは、やはり意味がわからない様子で首をかしげた。

「読むか?」
「え? いいよ〜難しそうだし」
「難しくなんかねェよ。まァ参考にもならないような話だったな」

サンジは本を閉じてルフィの肩を抱き寄せた。

「どんな話?」
「医者の主人公が眼鏡美人患者をただただヤル話。イマイチだったな」
「?」

疑問符いっぱいの顔でルフィはサンジを見上げた。

「眼鏡か…ルフィ、ちょっと眼鏡かけてみろよ」

何もわかっていない顔のルフィを楽しそうに見ていたサンジは思いついた顔で自分の眼鏡をルフィに渡した。

「おれ、別に目悪くないぞ?」
「おれも悪くねェよ。まァ気分の問題だな」
「そんなもんか?」

不思議そうにしながらもサンジに渡された眼鏡をルフィは掛けた。
眼鏡をしたルフィをサンジはまじまじと見つめる。

「へェ? 結構、似合うじゃねェか」
「んー? そうなのか? でもこれ普通に見えるな」

ルフィは周りを見渡すが特に見えにくいと感じることもなかった。

「度は入ってねェからなァ。ルフィ、本の内容はわかったか?」
「え? いや、よくわかんねェ」

突然の質問にルフィは困った顔でサンジを見た。

「じゃあ実践で教えるしかねェな」
「???」

ルフィが気づいたときには押し倒され、サンジが上になっていた。

「あれ? なんで?」

なぜこんな展開になったのかわからずにルフィはあたふたとした。

「それじゃあ、診察しますね。痛いところはないですか?」
「は? ないぞ。うわっ…な、何?」

上着のボタンを外されてルフィは焦る。

「胸が痛い? それは大変だ」
「ちょっ! ちょっと待てって! ……っ」

ルフィはサンジを押し返そうとするがびくともしない。
いたずらに胸を触られルフィは息が上がる。
上着をはだけられ、鎖骨に口づけられる。

「ん……サンジ…だめ…だ」
「ルフィ……眼鏡は色っぽいな」

サンジは苦笑しながらルフィを抱き起こした。

「と、止まった…今日はエライな、サンジ」
「ん〜? 楽しみは夜にとって置こうと思ってな」
「え! ……う〜」

サンジは赤い顔でうつむくが嫌だと言わないルフィをいとおしそうに見つめながら外したボタンをはめ直す。

「で、本の内容はわかったか?」
「わ、わかった! ……やらしい本だったのかァ。読まなくてよかった」
「なんでだよ?」

ボタンをはめ終え、サンジはルフィを抱き込む。

「からかうだろ〜サンジはときどきイジワルだからな」
「……確かに。思う存分、からかうだろうな」

ニヤリと笑ってサンジは応えた。

「やっぱな〜イジワルなのも嫌いじゃねェけど心臓がドキドキしすぎてダメなんだよな〜」
「…ルフィ、眼鏡外せ」
「ん? なんで?」

あまりにも可愛い発言にサンジは笑ってしまう。
そんなルフィだからイジめて泣かせたくなってしまうのは内緒にしておこう。
キョトンとしたルフィの眼鏡をサンジは外す。

「可愛いけどキスするのには邪魔だろ?」

サンジは驚くルフィの耳元でそっと囁き、唇を重ねた。















*END*






冬(チョパル)



「ルフィ、寒くねェのか?」
「チョッパー! すげェ寒ィぞ」

白い息を吐きながらルフィが笑顔で答えた。
ナミにコートを借りて着ているがその姿はひどく寒そうに見える。

「部屋に入ればいいのに…風邪引いちゃうぞ?」

甲板で夜空を見上げていたルフィへ心配そうにチョッパーは近寄る。

「寒い日は星がキレイに見えるだろ? だからもう少し見たいんだ」

チョッパーもルフィを見習い、空を見上げる。
澄んだ空気に星と月が普段よりキレイに見えた。

「うわー! キレイだなァ、ルフィ」
「だろ? …あっ! いいこと思いついた」

目を輝かせて夜空を見上げるチョッパーをルフィは抱きしめた。

「わわっ! る、ルフィ」
「チョッパーはあったけェな〜」

マストにもたれ、チョッパーを抱きしめたままルフィは空を見上げている。

チョッパーは自分の鼓動が早くなるのを感じた。

「キレイだな、チョッパー」
「う、うん」

ルフィの鼓動を聴き、チョッパーはさらにドキドキした。
しかもなんだかルフィはいい匂いがする。
正直、星どころではない。

「チョッパーは流れ星って知ってるか?」
「ェ? し、知らない」

チョッパーは自分の鼓動がルフィに聴こえやしないかとソワソワしていて一瞬何を言われたか、わからなかった。

「星が流れるんだって。それが見れたら願い事が叶うらしいぞ〜星が流れてる間に言わなきゃダメみたいだけどさ」
「願い事? なんでも?」
「うーん。よくわかんねェけど真剣に願えば叶うんじゃないか?」

ルフィがそう言うとチョッパーも真剣に空を見上げた。

「なかなか見れないらしいけどな〜おれも流れ星の話を聞いてから結構探してるんだけど見つからねェんだよ」
「へェ〜だから見たら願いが叶うのかなァ」
「かもなァ」

一緒にいて、一緒に話をして、一緒に空を見上げる。
それだけでチョッパーはしあわせだし胸の辺りがほんわかとあたたかくなる。

外は寒いのにルフィのそばにいると寒さなんて関係ないみたいにあたたかい。

チョッパーがそんなことを考えながら煌めく星を見ていると星が流れた。

「「あ! 流れ星!!」」

二人の声が重なる。

「……びっくりしすぎて願い事なんて考えてなかった」
「……ルフィ、おれも何も願ってない」

まさか流れ星が本当に見られるとは思わなかった二人は呆然と見つめ合った。

「ぷ……あはは」

どちらからともなく笑いだす。

「まァいっか〜願いは自分で叶えたほうが楽しそうだしな!」
「うん! でも、また一緒に星が見たいぞ」
「じゃあ寒い夜はチョッパーを抱っこして星を見ることに決めた」

にかっと笑い、ルフィはチョッパーを抱っこしたまま立ち上がった。

「寒ィからこのまま寝ようっと〜別にいいよな?」
「え! う、うん! やったァ」

どうやらチョッパーがこっそり考えていた『まだルフィと一緒にいたい』という願いは叶ったらしい。

二人が笑い合いながら男部屋に入っていくとき、夜空にまた星が流れた。

願わくはあの人の願いが叶いますように……















*END*