「ルフィ先輩、一緒に帰りましょ」
HRが終わり帰り支度をしているとルフィの机の前にローがいた。
「…お前の心臓、鋼でできてんの?」
「まさか〜ルフィ先輩と同じですよ。何でですか?」
「上級生の教室ってのは一人じゃ入りにくいもんなんだっての! はァ、サンジのクラスのHRが終わる前に帰れよな」
呆れたようにルフィはシッシッとジェスチャーでローを追い払うことを試みる。
「一緒に帰りましょ」
「ヤダ」
即答するルフィにローは笑った。
「冷たいな〜。でも、そこがいいですね」
「黙れバカ。今日は用事があるんだよ。だから、ダメ」
「サンジ先輩と帰るんでしょ? おれも一緒に帰ってもいいじゃないですか?」
「サンジに、用事があるの! 二人きりで話したいからローはダメ」
ローは何やら思案してから、ルフィを見つめた。
「……んー、まァいいですよ。タダではイヤですけど」
「えー? どういうワガママだよ」
なかなか出て行かないローに内心で焦る。
サンジと鉢合わせると非常に面倒だからだ。
「寂しく一人で帰るおれが可哀相じゃないですか?」
「そうかァ? うーん、一理あるのかな。おーい、ウソップ!」
「……今、呼ぶなよ。何?」
「ローと一緒に帰ってやれよ」
「「罰ゲームかよ!」」
二人同時にツッコミされてルフィは驚いた。
「な、なんだよ。仲良し?」
「違う! なんでこの人と一緒に帰らないといけねェんだよ!」
「そうだぞ! 仲良くなる気もない後輩とギスギスしながら帰るなんて嫌に決まってんだろ!」
二人にものすごい勢いで言われ、ルフィは頭を掻く。
「いや、寂しいっていうからさ」
「はァ…今日は大人しく帰ります。それじゃ、ルフィ先輩さようなら」
「おー、気をつけて帰れよ。あいつ、何落ち込んでんだ?」
何だか肩を落として帰るローを見送るとウソップが微妙な表情でルフィを見ていた。
「何だよ〜」
「いや、変な奴に好かれるわりに鈍いなァと思って」
「はァ?」
「ローは何でルフィと帰りたかったんだと思う?」
ウソップの言いたいことはわからないが真面目に答える。
「ん? からかってんだろ〜あいつ、女にモテるらしいし、暇な奴だよな」
「やっぱりルフィを相手に恋をするなら直球&根気がいるんだな。後輩、ちょっと可哀相。いや、あいつも根気ありそうだし、可哀相なのはサンジか」
ぶつぶつと呟くウソップに首を傾げつつ、ルフィはカバンを持って立ち上がった。
「よくわかんねェけど、今日はサンジと話してから帰るな」
「ああ、じっくり話し合って帰れよ〜」
「おー、じゃあな」
謎の緊張をしつつ、ルフィは1組へと向かう。
すると、丁度HRが終わったのか1組の生徒が廊下へと出てきた。
嬉しそうなサンジを見つけ、ルフィは話しがあると屋上へ連れて行った。
***
二人してフェンスに適当にもたれ掛かる。
部活動をする生徒達の声を背景にルフィはどう切り出そうか悩んだ。
何も言わないルフィにサンジは首を傾げた。
「話って?」
「うっ…ちょっと待て」
「うん」
何から聞けばいいのかわからず、ルフィは悩む。
ウソップが言っていたように、とりあえず現状確認が相応しいだろうか。
「えーっと…お前っておれのこと…す、好きなの?」
「うん! 大好き! もちろん恋愛感情で」
「そ…そう、か」
あまりの即答に顔が熱かった。
きっとサンジは恥じらいの感情はどこかへ忘れてきたのだろう。
サンジの羞恥心をこれから一緒に探しに行きたい気分になった。
「お、おれのどこが好き…なんだ? 正直、そこら辺にいる高校生男子だぞ?」
「ルフィは自分の魅力を何もわかってない。だって、一緒に帰ろうって言ってくれた」
「はい?」
「去年の4月17日、ルフィはおれに『一緒に帰ろう』って言ったんだ」
すごく嬉しそうに話すサンジにルフィは動揺する。
そんなこと言っただろうか。
しかし、『去年の4月17日』というフレーズには聞き覚えがあった。
ウソップが自習時間に言っていた『きっかけ』の日だ。
去年の4月17日。ふと、思い出す。
「あ! 迎えの車が来てなかったときか!」
「そう! 憶えてくれてたのか! あの日からおれはルフィが好きなんだ、ずっと」
「えっ、あの日がきっかけ…? おかしいだろ!」
どれだけ考えてみてもルフィには、サンジとただ一緒に帰った記憶しかなかった。
「ううん、あの日は忘れないから」
「いやいや、忘れていいよ! 一緒に帰っただけじゃん」
「忘れないって。なに? 話って、これ? おれの愛を確認したかったの?」
「ぶへっ! 何言ってんだ! 笑っていいか迷ったっつーの! お前の頭の中どうなってんだよ…」
「あはは、ルフィのことばっかりだ」
「……うー! か、帰るぞ!」
「ん? うん、帰ろうか」
何だか恥ずかしいことばかり言われ、ルフィの中で限界がきた。
このノリでは無理だ。
何を聞きたいかすら、わからなくなった。
現状、サンジが自分を大好きなことだけは深くわかり、心臓がうるさい。
自分の気持ちも話すつもりだったのに。
帰り道でもう一度、話そう。
赤くなった顔を隠すようにルフィはサンジの先を歩くのだった。
*END*