今日はなぜか口数の少ないサンジとベンチに座って電車を待つ。
女にフラれたあとは大体泣きわめくか無口になるのでルフィも気にしない。
気にしないどころかサンジをほっとき、ゲームをして待ち時間を潰していた。
「…ずっと考えてたんだけどさ」
「んー?」
ゲームを続けつつ、ちらっと見るとサンジはこちらを真剣に見ていた。
「嫉妬したりとか失恋したって勝手に思い込んだりって疲れるんだよ」
「は?」
「好きな相手に気づかれないままの片想いに疲れた」「うん」
サンジって好きな相手いたっけと思いながら、ゲーム画面を見つつ、話を聞く。
セーブできる場所は遠い。
「思っていたのと違ったって言われるのも、もう嫌だ」
「あー…そういうギャップが好きな奴もいるって」
サンジはフリーのとき告白されたら誰とでもすぐに付き合うが長続きはしない。
見た目も良いし、学力も良い。オマケに運動神経も抜群だ。
しかし、常識がビミョーに足りない。
頭の良い阿呆だったりするので見た目から幻想を抱いている女のコはギャップにがっかりしてしまうようだ。
「たぶん、想いって言わなきゃ始まらないし、終わらすこともできねェんだよ。まァ、終わらすつもりもねェけどさ」
何やら真面目に話し出したサンジにルフィはゲーム機の電源を切り、それをカバンにしまう。
セーブは諦めた。こんなものより友人の相談の方が大事だ。
「なに? 好きな人でも出来たのか?」
サンジとは高1のとき同じクラスだった。
そこから自然と仲良くなり、2年生では別のクラスになったが今も気が合うのでよく一緒にいる。
だけど、好きな相手がいるという話は初めてだった。
女癖の悪いサンジが自ら惚れる相手。しかも、真剣だ。本気の相手ということだろう。
それなら真面目に聞いてやりたいと思った。
「おれ、ルフィのことが好きだ」
「なんでやねんっ!!」
立ち上がり、サンジの肩を手の甲で強めに叩く。いわゆる、ツッコミだ。
関西人でもないのにあまりの衝撃で関西弁になってしまった。
恐ろしいボケだ。全力ツッコミをしてしまった。
セーブもせずに電源を切った数秒前の自分がバカらしい。
そして、周りのざわつきが耳に痛かった。
ここは駅で、電車待ちの学生が大量にいて、サンジのことは別の学校の奴らも注目している。
ギャップでフラれるとはいえ、サンジはモテるのだ、とても。
「おれは真剣だ。愛してると言っても過言じゃない」
ツッコミしたルフィの手をぎゅっと握り、ボケ続けるサンジ。
申し訳ないが鳥肌が立った。
慌てて、振りほどく。
頭を打ったのか? 強打したのか? そう聞きたいが更なるボケが怖くて、二の句が告げない。
ルフィは猛烈に、この場から逃げ出したくなった。
ヒソヒソと交わされる会話や謎の歓声に電車の到着をこれほど待ち遠しく感じたことが今まであっただろうか。いや、ない。
無駄な反語が頭を過ぎった。
何とも言えない空気の中、電車が到着する。
その場の空気から逃げるようにルフィは電車に乗り込む。
出口側に追いやられるが、先程の駅の雰囲気よりマシだ。
大量の学生に電車内は満員。しかし、いつもと違って圧迫感がない、満員なのに。
理由は明らかだった。
「まァ、お優しいこと! サンジ君って男にまで紳士的なのね! ……腕が痺れるぞ?」
サンジが盾になっているのだ。
ルフィを人混みから守るように両腕の中に囲っている。
できるだけサンジを見ないようにルフィは景色を見た。
流れ始めた景色はいつも通りなのに、圧迫感がなくて快適なはずなのに少しも心が落ち着かない。
「腕は平気。お前に誰か触れるのがイヤなだけだ」
「……ああ、そう」
周りの興味津々な視線、無関心を装う雰囲気に心が折れた。
もうツッコミする気力も湧かない。
この阿呆は何かの罰ゲームの最中なのか、はたまた壊れたのか。判断に悩むところだ。
できれば前者であって欲しい。
電車を降りて、二人きりになったとき『悪ィ悪ィ。ウソップに言われた罰ゲームでさ〜この前、賭けに負けたんだよな〜』そう笑いながら言われることを願う。
それがルフィの中での最善のシナリオだ。
そうすれば、この気まずさも笑い話になる。
もちろん、シナリオ通りにはいかないけれど。
*END*