「ちょっといいですか?」

下駄箱で靴を履き替えていると、女のコに話し掛けられた。
二人組だ。一人は俯き、何も話さない。
ネクタイの色からして後輩だろう。
雰囲気的に告白という甘い感じではなく、嫌な予感のする空気だった。

「なに、かな?」
「ルフィ先輩、サンジ先輩のことをたぶらかさないでください!」
「た…? たぶらかす?」

聞き慣れない単語にルフィは目を丸くする。

「だっておかしいじゃないですか! サンジ先輩は女子にすごく人気があって、すごくモテるのに…何でルフィ先輩なんですか?」

何で自分なのかなんて、ルフィ自身が知りたいことだ。
でも、泣きそうな顔で睨まれると何も言えなくなってしまう。

「1年のコはルフィ先輩がサンジ先輩をたぶらかしたんだってみんな言ってます」

衝撃的な発言にルフィは自分の耳を疑った。

(おれが、サンジを、たぶらかしたことに?)

理解すると同時に今すぐ座り込みたいほどの虚脱感に襲われる。

「このコ、中学の頃からサンジ先輩のことが好きだったんですよ?」
「そ、そうなんだ」

先程から俯いている女のコの肩がびくりと揺れる。
実に可哀相な気がした。
憧れの先輩と同じ高校に入れたと思ったら、別に好きな相手がいて、しかも男だなんて。
女のコと付き合っているならまだ諦めがつくというものだろう。
現状は悪夢としかいいようがない。
せめて、大好きなサンジ先輩が騙されているという可能性を信じたということだ。

「サンジ先輩のこと、諦めてください!」
「あの〜、たぶらかしてないよ? 諦めて欲しいのはおれの方で…」

こういう勘違いしたまま問い詰められるのは実に気まずい。
か弱い女のコ二人に怒鳴りつけるわけにもいかず、困り果てる。
かといって、悪意の篭った眼差しにも耐え兼ねてしまう。

「何してんの?」
「さ、サンジ先輩」

サンジの突然の登場に後輩達はかなり動揺していた。

「こいつに何かしたら例え女のコでも容赦しないよ?」
「…何もされてねェし、女のコには容赦しろよ」

見たこともないぐらい冷たい表情でサンジは後輩を見ていて、ルフィは内心で焦る。

「っ…ご、ごめんなさい…あの、私…ただ……サンジ先輩がたぶらかされてると思って…」
「おれがルフィを好きなのはそんなに変か? こういう勘違いで人を傷つけるお前らを好きになる可能性の方がない」
「ご、ごめんなさい!」

哀れなほど悲しげに顔を歪めてサンジにお辞儀し、二人は走り去ってしまった。

「お、おい…いいのか?」

確かに困っていたし、あの眼差しに含まれる悪意から何をされるかわからなかったが、少し可哀相な気がする。

「ルフィはお人よしだ。ああいう奴らは、ちゃんと言わなきゃわかんねェよ。でも、大丈夫。ルフィのことは、おれが守るから」
「サンジ……って、バーカ!!」

サンジのおでこをグーで殴る。
そして、痛みにしゃがみ込んだサンジを睨みつけた。

「原因、お前じゃん! 元はといえば、てめェのせいで有らぬ疑いかけられてんだろうが! 危うくほだされかけたっつーの! 後ろ指差される生活はお前が原因だということをお忘れですか!?」
「い、痛い…おれはただルフィが好きなんだ」
「うるせーわ! よくもまァこんな状況下でそんな戯れ事抜かせるな! あと、殴った拳はもっと痛い! 早く阿呆なとこ治せ! 人目とか気にしろ!!」

ルフィはさっさと下駄箱から立ち去り、少し離れた場所でピタリと立ち止まる。

「……帰らねェのか?」
「ルフィ…一緒に帰る!」
「早くしろよな〜」

1組の下駄箱で慌てて靴を履き替えているサンジをルフィは仏頂面で見つめた。
結局はサンジをほっとかない。
ウソップに言わせれば、こういうところがサンジの大好きなルフィそのものなのだが本人は気がついていない。

後日、サンジとルフィはお似合いだとついつい本音を言ってしまうウソップ。
その発言に異常に喜んだサンジ共々殴られる日も近いのだった。

























*END*