うーん、と唸りながら綱吉はパジャマ姿のまま立ち尽くしていた。
先程、布団に潜り込み、眠りについたのを覚えている。
ということは、これは夢なのだが夢にしては何もない空間に綱吉は辺りを見渡す。
感覚は現実世界と同じだなと考えていると、突然、背筋がゾクゾクするような悪寒がした。

「こんばんは」
「うわぁ!?」

背後から声を掛けられ綱吉は文字通り飛び上がる。
クフフ、と独特の笑い声が聞こえ、恐る恐る振り返った。

「む、骸?」
「君は夢の中でも相変わらずですね。ふむ、不思議と君は交信しやすい。超直感の成せる技でしょうか?」
「し、知らないけどさー夢に急に現れるなよ〜驚くだろ」
「案外暇なんですよ、捕われの身というのはね」
「っ……」

言葉に詰まる綱吉を見て、骸は馬鹿にしたように笑う。

「本当に甘いですね、沢田綱吉」
「えっ?」
「無駄な同情はやめた方が身のためです。付け入る輩が出て来ますよ」
「そ、そんなことは…」

言い淀む綱吉を気にした様子もなく骸は言葉を続けた。

「マフィアがそんな甘い考えではすぐに利用され、殺されます」
「オレはマフィアにはならないって!」
「おやおや、反抗期ですか?」
「もー! 何なんだよ! からかいに来たのか?」
「忠告ですよ、惰弱な考え方をやめなさい」

言葉と眼差しに温度差を感じる。
綱吉はもしかして、と思い当たる感覚を口にした。

「…もしかして、オレのこと心配してるのか?」
「…君の体をのっとると言っているでしょう? つまり、その体は僕の体でもありますからね」

視線を逸らし、呆れた風に話しているが動揺していることは綱吉にもわかった。
回りくどい心配の仕方に少し呆れる。
言い訳や建前で骸の本心は隠されているようだ。
要するに素直じゃない。

「えっと…ありがとう」
「何のことですか?」

相変わらず、とぼけた態度で綱吉を見てきた。
卑劣で辛辣、極悪非道なイメージもあるが、骸は犬や千種を逃がすために自身だけが捕まっている。
守護者になったのも仲間のためだ。
それだけのことを仲間のためにできる愛情を持っている人だとは綱吉も知っていた。
クロームも含め、自身を慕う相手には優しかったりもする。浄化後は特に。
それが少しだけ自分に向けられたのかと綱吉は思い、笑った。

「ううん、何でもない。骸らしいよ」
「おかしな人ですね。油断しないでくださいよ? 特に雲雀恭弥にはね」
「な、なんでそこでヒバリさんが出て来るんだよ?」

恐怖のお茶会を思い出し、自然と綱吉の身体が強張る。
それを見て、骸はつまらなそうに話した。

「恭弥さん、などと呼んでいるらしいじゃないですか」
「うっ、どこでそれを…」
「風の噂で」
「おまえのせいじゃないけど、おまえのせいなんだよ!」
「さすがに、わけがわかりませんよ」

理解不能と、表情をしかめる骸に綱吉も拗ねたように口を尖らす。

「…骸を呼び捨てしてるなら自分もそうしろって言われたんだよ。オレだってわけわかんないって」
「おや、思ったよりわかりやすい人だったんですねぇ。まぁ伝わっていないのなら意味はないですが」
「はぁ?」

一人納得する骸に首を傾げた。

「ふぅ、周りが行動を起こしているなら困りました。僕も伝える努力をした方がいいんでしょうかね」
「どうかしたのか?」
「そうですね…例えば君が誰かに銃口を向けられたなら思わず庇ってしまう程度にはあなたのことを想っていますよ」
「ど、どういう意味だよー急に何言ってんだ」

骸は自分をのっとるつもりだと言っていたが、綱吉を守るために骸自身が撃たれては本末転倒もいいところだ。
意味がわからず、綱吉は困惑する。

「おやおや、こんな簡単な例えでもわからないんですか?」
「…知るかよーわけわかんないよ、骸」
「毎晩、愛を囁いて差し上げますよ」
「あ、愛!? いらない…からかうなよな。そんなくだらないことに力を使うなよ」
「クフフフ、残念ながらくだらなくないんですよ。これでも焦ってるんです」
「え?」

予想外に真剣な眼差しに綱吉は身体を強張らせた。

「どっかの誰かさんがアプローチしてるじゃないですか。君は気づいてないみたいですけど」
「えっ…骸、おまえ…まさか本気でオレのことを?」
「さあて、どちらがいいですか?」
「そ、れは…わかんないけど」

正直、骸の言葉の意味が上手く脳内に浸透していない。
動揺するままに言葉を重ねられ、処理できていなかった。
それも織り込み済みなのか、骸はいつものように笑う。

「それでは好きなように考えてくれていいですよ」
「ええ?」
「まだまだ付け入る隙がありそうですからね。不安ですがチャンスでもあるんで悩んでしまいます」

すっと、さりげなく頬に触れられ驚くが身を引くタイミングを失った。

「手っ取り早く手に入れてしまった方がいいんでしょうかね? クフフ、誰かから奪い取るというのも面白いかもしれない」

驚く綱吉に、お構いなしに骸は柔らかな頬を軽く撫でる。

「ああ、でも先に手を出されるなどゾッとしませんね。その相手が誰であれ陰湿に殺してしまいそうです」
「ぶ、物騒なこと言うな!」
「夢で会える分というのは学校で会えない分だと思ってくださいね。ハンデはあるようで、ないんですよ。他の守護者にも、そう伝えてください」
「混乱させるなって! どういう意味なんだよ」

本気なのか冗談なのか区別がつかない。
理解の範疇を軽く越えていた。
にこにこと胡散臭い笑顔の骸は答えをくれるつもりは今のところないようだ。
答えたところで理解できなさそうなので、骸なりの気遣いなのかもしれない。

「そういえば、雲雀恭弥には次いつ会うんですか?」
「う、ええ? 明日…かな? 最近会ってないから…気をつけないと教室に乗り込んで来るし」
「そうですか。それでは、少し失礼します」

応える暇もなく骸が鎖骨付近に口づけてきた。
きつく吸われ、停止していた思考が急激に戻ってくる。

「な、にしてんだよ!!」
「ちょっとした宣戦布告ですよ」

突き飛ばすより早くに身を離した骸を綱吉は真っ赤になって睨み上げた。
すると、困ったように笑われる。

「誘わないでください。もっと酷いことしたくなるじゃないですか」
「へ、変なことするなら絶交だからな!」
「クハハ! 子供ですか、君は。いや、子供でしたね」

自身でも子供じみた予防策だとは思うが口をついて出たのだから仕方ない。
綱吉は怯むことなく、睨み続けた。
しばらく、そんな綱吉を眺めていた骸は楽しそうに笑う。

「絶交は怖いですからね、今日のところは大人しく退散しましょうか」
「もう出て来んな!」
「おやおや、冷たいですね」
「……変なことしないなら、別にいいけど」
「クフフ、甘いのは僕だけにして欲しいものですね」
「っ!?」

あまりに自然に抱きしめられ、言葉を失った。
そして、何事もなかったように綱吉を抱きしめたまま骸は話を続ける。

「ああ、犬と千種には優しくする必要はありませんよ」
「なんで? ま、そもそも会わないと思うけどさ」

突き飛ばすなり、殴り飛ばすなりできるはずなのに上手く行動できない。
だから、綱吉も何事もなかったように会話した。
そうする以外の行動は不自然に感じられるほど、現状が当たり前に思える。
周りに誰かいたなら、その光景に奇異の目を向けそうだが、生憎ここには二人しかいない。

「特に犬はあなたみたいな人間に慣れていませんからね。噛み付かれてしまうかもしれませんよ」
「…冗談、だろ?」
「クフフ、どうでしょうね」

やはり、今のままでは変だとフリーズしていた脳が動き始めた。
何か言おうと見上げた骸の目は優しくて、綱吉は真っ赤になる。
その様子に笑いながら、骸がもう一度強く抱きしめると、突然ツナが消えた。

「おや、起きてしまいましたか」

落ち着いた声音とは裏腹に骸の表情は歪んでいた。
胸にあった温もりが消えるというのは存外気分の悪いものだった。
温もりの相手が沢田綱吉であるのならば尚更に。
くだらない感傷に骸は自嘲する。そして、その空間から歩き出した。
綱吉が再び眠るまではまだ時間がある。こんな場所で一人待つのもつまらない。

骸はふと先程の綱吉の様子を思い出し、自然と笑んだ。
まるで自分の所有の証であるような印も綱吉には残っている。
あれを雲雀が目にすることがあるならば、小気味いいと骸は一人声を殺して笑った。
しかし、雲雀に暴走されては困る。
仕返しとばかりに似たようなことをされるかもしれないと思うと穏やかでいられない。
全てはこんな気持ちにさせる綱吉が悪いのだ。
自分に無断で手を出されたのならお仕置きするのが妥当だろう。
手を出した相手にも、もちろん綱吉にも相応の報いを受けてもらうことにしよう。
そんなことを考えながら、骸は暇つぶしの散歩へと出かけた。



***



「起きろ」
「う、わっ!?」

リボーンの声に飛び起きて、しばし放心する。
鼓動が異常なほどに脈打っていて、綱吉はパジャマの胸の辺りをぎゅっと掴んだ。

「今日は寝起きがいいな。ん? なんだそれ」
「えっ?」

ベッドに上がったリボーンが鎖骨の辺りを指差す。
一気に顔に熱が集まる感覚がした。

(夢じゃないのかよ! なんで現実にまであるんだ)

原理まではわからないが、いわゆるキスマークとやらが自分の鎖骨にあるのだろう。
無理だと思いつつ、骸なら可能な気がして、ひたすら動揺した。

「……夢の中でまではオレは関われねーからな。自分で対処しろよ、全力で」
「…わかってるって」

綱吉の様子から状況を察したのか有能な家庭教師リボーンは少し怒ったようにベッドから飛び降りる。

「今日はヒバリに会うんだろ?」
「ああ、うん」

何だか眠った気がしない。身体は休んでいるが、精神は疲労したようだ。
毎日話し相手になるのは無理そうなので、次に骸が現れたときにそう言おうと心に決める。
ぼんやりしている綱吉にリボーンは制服を投げ付けた。

「おまえが原因で守護者プラスαの大乱闘が起きるのも時間の問題だな」
「何だよそれ! 怖すぎだって! しかも、なんで原因がオレなんだよ!!」
「……はぁ」

まだ自分の総モテ状態に気づいていない綱吉にリボーンは盛大にため息を吐くのだった。


















*END*

















鈍感なツナに超直感とは言い得て妙だ。
やっぱり骸ツナは書きやすい気がした。
けど、真剣に書くかふざけて書くか最後まで迷ってたんで
読みづらいかもしれないですね。
ツンツンさせたいようなデレデレさせたいような。
ヒバリの話を聞いてからはツン封印です。
時期にもよるだろうけど、制服着てて鎖骨がはっきり見えるわけないので
宣戦布告を言い訳にキスしたかったからしたんですが(さすがに唇は可哀想かと変な遠慮もある)
服を脱がされたりするような状況になっても平気なようにとの配慮だったりもする。
まぁ、そんなの見つけたらヒバリさんはずっと機嫌悪いし、家にも押しかけてきそうだけどね!笑
微妙に身勝手な骸って素敵やん?
というか、骸が普通だなぁ。もっとハイテンションナッポーでもよかったよね。
ふふ、たまにはこんな感じの骸さんでもいいんじゃないでしょうか(笑)
骸は完全にギャグにするかシリアスまじえるか…悩むね。
私はツナが受けなら何でもおいしくいただけます。





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