キスしたいとこだが、少ない理性を総動員させ、サンジはなんとかルフィを抱きしめるだけで止まった。
サンジは抱きしめた衝撃で落ちかけたルフィの麦わら帽子を片手で掴む。
「わ、サンジ? ど、どうした?」
サンジの中で葛藤があったなどつゆ知らず、ルフィはサンジの突然の行動に驚いた。
「……ずっとお前に言いたかったことがある」
「な、なに?」
驚いてはいるがルフィは暴れることなく、おとなしくしている。
「先に言っとくけど、冗談じゃねェし、仲間とか友達の意味じゃないからな」
「うん?」
ルフィはサンジの腕の中で窮屈そうにサンジを見上げた。
「好きだ」
「………うん。あれ? 仲間の意味じゃない?」
「いつ好きになったかなんて分からねェ。気づいたら、ルフィばっかり見てた」
「ちょ、ちょっと待って! あれ? どういう……え?」
意味がゆっくりと脳内に染み渡っているのかルフィは段々と動揺してきた。
「考える時間やるからそこで考えろ」
「そこって…」
「おれの腕の中」
「う……か、考えるよ」
サンジの顔を見るのが恥ずかしいのか、ルフィは胸元に顔を埋めて黙り込んだ。
しばらくの間、黙っていたが唐突にルフィは顔を上げた。
「おれの気持ち、ちゃんと伝わったか?」
「つ、伝わった……サンジって、おれのこと好き…だったのか」
ルフィは真っ赤になった。
口に出したことで、サンジの想いを余計に意識したのだろう。
「そうそう。おれはお前のことが好きで好きで仕方ないんだよ。…助けてくれ」
「な、なんだよ〜サンジは女が好きなんじゃないのか?」
サンジの言葉にルフィは赤面したまま困った表情になる。
「最近はお前じゃなきゃダメなんだよ」
「なにが?」
その質問にサンジはニヤリと笑って、ルフィを見た。
「夜のオカズ」
「は? ………えっ……う、え!? ギャー!! 放せ!!」
一瞬、何を言われたのか分からず混乱した表情だったがすぐに理解し、真っ赤な顔で暴れだした。
「落ち着けって」
「む、無理だろ! そんなの言われて落ち着ける奴がこの世に存在するわけねェよ!」
じたばたと暴れるがサンジにしっかりと腰を掴まれていてルフィは逃げ出すことが出来ない。
「いや、性的欲求もあるんだけどな。なんかこう…大事にしたいっていうのか? そういう感情も伴ってるわけなんだよ。おれの主義的に女性は大切にするもんだ。だけど、男なのにお前のことを大切にしたいって思ってる」
「急に真面目に言われても……」
暴れるのを止めてルフィは困った顔でサンジを見上げた。
「これでも悩んだんだよ。でも、ライバル多いし、悩んでる間に誰かのモンになってたら最悪だろ?」
「う、うん」
よくわかっていない顔でルフィはコクリと頷いた。
「お前はおれのことどう思ってんの?」
「おれ!? ……よく、わかんない」
「だろうなァ。ま、おれの気持ち知っててくれたらいいか。陽も暮れてきたし、船に帰るか」
恋愛感情に疎い、というか全体的に鈍いルフィにはすぐに返事は無理だと思っていた。
大方、サンジの予想どおりの展開だ。
抱きしめていた手を放し、持っていた麦わら帽子をルフィに被せて、サンジは歩きだす。
「で、でもな!」
「ん?」
ルフィに背広の袖を掴まれ、立ち止まる。
予想外の展開にサンジは首をかしげる。
「す、す、好き…だと思う! おれ、サンジのこと…」
「え!?」
「わ、わかんないけど…たぶん。他の誰かに好きって言われてもこんなにドキドキしない…と思うし、なんか嬉しいから…わっ」
「……すげェ動揺してる。さすが船長、おれの予想を遥かに越えた返事だ」
再びルフィを抱きしめ、喜びを噛み締める。
「あはは、なんか恥ずかしいな」
ルフィも、そろそろとサンジの背中に手を回す。
「多少な。あ〜名残惜しいけど帰るか」
「うん……うわ、手…」
本格的に暗くなり始めた空にサンジは苦笑しながらルフィを抱きしめるのを止めて、手を繋いだ。
「さっきの道に出るまで、な。それならいいだろ?」
「えへへ、うん」
ルフィは恥ずかしそうにギュッとサンジの手を握り返してきた。
「やっぱりなんか買い出しして帰ろうかな」
「ん? 余り物は?」
ルフィは首をかしげて、サンジを見る。
確か、船にある余り物を使って料理すると言っていたはずだ。
「めでたい日だしな。手の込んだモン、作りたい気分なんだよ」
「やった! 晩メシ、楽しみだ」
ルフィはニコニコしながら繋いだ手をブンブン振った。
「お前、可愛いな」
「な、んっ……なに…して」
触れるだけの軽い口づけにルフィは真っ赤になって、サンジから顔を逸らした。
「あはは、つまみ食い」
「……恥ずかしい奴だな」
「いやいや、おれはもっといろいろしたい」
「な、なに言ってんだ! 無理だぞ?」
サンジの本音に軽いキスだけでいっぱいいっぱいのルフィは心底、焦る。
「さすがに今は無理だろうな」
「今とかじゃなくて! ずっと無理だ!」
「それこそ無理な相談だ。恋人に手を出さないなんてありえない。おれ、テンションあがってるし」
「えェ!? そ、そうなの?」
ルフィは驚いて、サンジを見上げる。
「そうそう。好きな奴に想いが通じたんだ。普通あがるだろ」
「そっか」
サンジの心底、嬉しそうな笑顔にルフィもつられて、ふにゃりと笑った。
「それにお前の心の準備を待ってたら一生何もできなさそう」
「そ、そんなことは…ない…と思うぞ?」
「果たしてそうかな。さっきだってキスしていいか聞いたらダメって言ってるだろ」
「うっ……」
図星を差され、ルフィは口籠もり、立ち止まる。
「やっぱりな〜」
「し、仕方ないだろ!付き合うとかよくわかんないから恥ずかしいし、緊張するんだもん」
「うわ、なんだそれ。可愛いすぎる!」
サンジはギューッとルフィを抱きしめ、軽くキスしてから離れる。
ルフィは突然の出来事に対応できず、立ち尽くしていた。
「ま、また! もう…アホだ、サンジはアホ!」
「真っ赤になって怒られてもなァ」
プリプリと怒って、ルフィは人通りの多い道に進んでいく。
「絶対、避けれるようになってやる!」
「いや、そんな決意されたら困るんだけど」
サンジは急いでルフィの横に追いつく。
「だって悔しいじゃねェか〜」
「慣れたら悔しくなくなるって」
「な、慣れるって……むぅ」
ルフィは恥ずかしそうに、口を尖らせて拗ねる。
「好きなモン買ってやるし、作ってやるから。そう拗ねんなって」
「うー、そうだよな。よし、買い出しに行こ!」
ルフィは機嫌を直して、ニカッと笑う。
そんなルフィの頭を撫でてからサンジは近くの出店を物色する。
ルフィも横から覗き込み、二人仲良く食材選びを始めた。
その後、食材の大荷物で船に帰宅した二人はナミに無駄遣いするなと怒られるのだった。
*END*
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