食事を終えた三人が勉強を始めようとするとローがウソップの横の席へと座った。

「…何? おれ達これから勉強するんですけど」
「キッドがチャリ取りに行ってる間ヒマなんで構ってください」
「めんどくさー。自転車どうかしたの?」
「壊れたから修理ですよ。そろそろ直るから取りに行ったわけです」

先輩だらけの中でのんびりくつろぐローを半眼で見てから、ルフィはため息を吐く。

「キッドが戻って来たら向こうに行けよ?」
「行きます行きます! ルフィ先輩のそういうトコ好き」
「はいはい」

さらりと流してからルフィはメニューを再び見た。
ウソップが不思議そうにその様子を見る。

「まだ食べるの?」
「んー、やめとこうか。晩ご飯があるし」
「ええ!? まだ食うんすか!?」

ローは本気で驚いた。先程、かなり食べていたように見えたのは幻だろうか。

「え? 食べるよ」
「あ〜、そういえば慣れただけでおれも初めは驚いたっけ」
「おれもだ」

ウソップとサンジに口々に言われて、ルフィは首を傾げる。

「そうだったっけ?」
「見た目の割に食べるんだよな、ルフィって」
「…甘いものも結構食べるのに太らないよな」
「や、やめろ!」
「……痛い」

サンジにさりげなくお腹触られて、ルフィは思いきりサンジの足を踏んだ。

「なるほど。餌付けも有効かもしれないですね」
「何のだよ! あ、そういやローも勉強教えてって言ってなかったっけ? 勉強できないコ?」
「ヤダな〜おれはできますよ〜キッドじゃないんだから。ただ、古文が苦手で…絶対に将来使わないっしょ」

ローは嫌そうにため息を吐いた。
それを見てウソップは呆れる。

「なに中学生みてェなこと言ってんだよ…そんな風に考えると勉強する気が失せるっての」
「そうだぞ〜将来なりたいものができたとき、必要になるかもしれねェから学んでおきなさい。なりたいと思ったときから勉強すると大変だぞ?」
「なんか…二人には言われたくないんですけど」
「おれ達みたいにならないためのありがたい経験談。去年、真面目に授業受けてりゃよかったって毎年思うもんな〜サンジはどういうモチベーションで勉強してんの?」

ミルクティーを飲みつつ、ルフィはサンジを見た。
少し困った顔でサンジは呟く。

「勉強、楽しくないか?」
「おおーっと〜予想外なような予想通りなような? 何それ? ちょっと詳しく言ってくれる? どういう意味?」
「単純に知識が増えるの、楽しい」
「そうか…よかったな。まァ、解けない問題がわかったときは嬉しいから、それの延長線上の気持ちかな」

ローは身を乗り出してサンジに話しかけた。

「じゃあサンジ先輩、古文教えて」
「……うーん、ヤダなァ。ルフィ以外に教えるのは本当にめんどくさい」
「ええー…素直な先輩だこと! ま、いいんですけどね〜将来の夢に必要なさそうですから」
「え? 将来の夢あるのかよ〜ない人バージョンの説教しちゃったよ。夢って何?」

にっこりと笑ってローはルフィを見つめる。

「医者ですよ。外科医」
「まともな夢でリアクションに困る…うん、応援してやる」
「ありがとうございます。将来有望でしょ? 恋人にいかがですか?」
「ヤダ」

はっきりとした否定にサンジが嬉しそうに笑う。

「おれの方が将来有望だ」
「モテモテだな、ルフィ」
「ウソップ、殴られたいのか?」
「ごめんなさい。そういえば、サンジは遅くに帰ってもいいのか? 前はダメだったろ」

ウソップの言葉にサンジは頷いた。

「説得したから平気。過保護になりすぎないように気をつけるって誓ってくれた。無茶しなきゃ多少は黙認してくれる」
「理解のある親ですね〜」
「自分の気持ちを言葉で伝えてもいないのに相手がわかってくれないって思うのは結構わがままかもしれないって思ったから」
「そうだったの? そういえば、2年になってからだよな〜サンジが放課後、遅くまで一緒にいるようになったのって」
「うん、おれの粘り勝ちだ。まずは、わからせる努力をすることにした。おれの『本気の気持ち』を無下にする親じゃないから」
「…お前…まさか…親に……おれが好きだとか言ってないよな?」

嫌な予感がして、ルフィは怯えながら尋ねた。

「? ルフィのことも話したから後継ぎ問題は大丈夫だ」
「ぎゃあああ! 終わった…おれの常識的にありえない展開だ…」
「ルフィ…強く生きろよ。おれは味方だからな! 陰ながら見守ってるよ」
「陰ながらって…表出て来いや! ダメだ…ちょっと…ほっといてて…」
「…了解」

テーブルに突っ伏したまま動かなくなったルフィを哀れに感じつつ、ウソップはサンジとローへと視線を戻す。

「本当にうらやましいっすね〜理解のある親で。うちの親は同性好きになった〜なんて言ったら勘当するだろうなァ。真面目で融通利かないし、どちらかというとおれの『本気の気持ち』も鼻で笑う感じなんで」
「それでお前は捻くれたんだな」
「サンジ先輩は基本失礼っすね。これでも更正したんですから。あ、でも安心してくださいね! 親に紹介はできないですがルフィ先輩のこと一生面倒見る気でいますから」
「お前らの話は重い。おれには重過ぎる」

機能停止しているルフィからは何のリアクションもなく、ウソップは顔を引き攣らせた。

「紹介しても気分悪くなるだけですよ〜ルフィ先輩を悪く言われたら親とはいえ殴っちゃいそうなんで」
「親を殴るなよ…今はルフィのツッコミを望めないからあんまりボケんなって」
「見掛けに寄らず、お前も苦労してんだな」

サンジはルフィが早く起きないか横目で見つつ、ローと話す。

「自分の思い通りにしたい人達なんだよ。ま、ああいう人達なんだって理解してからは距離の置き方とかわかりますよ〜。医大入れたら家、出ていいって言われてんでね。自立したいんで真面目ですよ。医者になりたいのも本気なんで一石二鳥っすね」
「古文は赤点取らない程度でいいだろ。気が向いたら教えてやるよ、たぶん」
「ここまで聞いても同情しないとは見直しましたよ、サンジ先輩」
「そりゃどうも」
「あ、勉強はルフィ先輩には教えなくていいんじゃないっすかね」
「……なんでだ?」

僅かに殺気を込めてサンジはローを見た。
ウソップはそれに気づき、無理とわかりつつ他人のフリをする。

「留年したら同じクラスになれるかもしれないじゃないですか」
「アホか!! おれは留年するほどの頭脳じゃねェよ! だいたい、お前の親に紹介されて文句言われたらお前が殴る前に殴り飛ばしてやるよ! つか、紹介されてたまるかボケぇ!! そもそも一生面倒見てもらうつもりはねェ!!」

復活したルフィはとりあえず気になったことをツッコミした。
ウソップは安堵で胸一杯になる。

(やっぱり、サンジ達相手にはツッコミいないとダメだな)

気を取り直してルフィは座り直した。

「黙って聞いてても無理だな。お前らのボケ脳には感心する」
「褒められてんのかな〜。あ、キッド」

ローのセリフに振り返るとキッドが戻ってきていた。

「自転車、直ってた?」
「は、はい」

ルフィの質問に赤くなりつつ応える。

「よかったな〜。はい、じゃあお勉強タイムの始まりです。ローは自分の席に戻りましょう」
「……はーい。お前、帰って来るの早いんだよ!」
「痛っ! わけわかんねェ…」

状況がわからないままキッドはローに蹴られた。

「なんか疲れた…なんでかな」
「それはサンジとローが原因じゃないかな。そういえばサンジの親公認なんだな」
「だー! もー! 気分的に忘れてたのに!!」

再びルフィはテーブルに突っ伏し、ウソップはサンジにしばらく睨まれるのだった。





















*続く*