突然、降った土砂降りが晴れた。
駄菓子屋の軒先で雨宿りしていた白蘭と綱吉は安堵する。

「やっと止んだー帰ろっか」
「濡れて帰ってもよかったくらいだけどね」

白蘭の言葉に綱吉は自分を見た。服は斑に色を変え、雨の跡を残している。
靴もズボンも跳ね返りの泥や水で汚れていた。心なしか服が重い。
ちらりと白蘭を見ると、同じように濡れていた。

「そう、かも…いや、頼まれたものが濡れても困るし」
「それもそうだね〜」

笑って頷く白蘭に綱吉も買い物袋を見せて、笑みを返す。
綱吉は奈々に頼まれた買い物を一人でし、その帰りに偶然白蘭と出会った。
しばらく話して、綱吉がそろそろ帰ろうとしたときに大雨が降ってきたのだ。
もっと早く別れを切り出していればお互い濡れずに済んだかもしれない。
申し訳なく思って白蘭を見ると、こちらをじっと見ていた。

「ちょっと状況違うけど、こういうのも遣らずの雨っていうのかな」
「え?」
「もうやんだのー? つまんなーい!」

聞き慣れない単語に意味を聞こうとすると、黄色の雨ガッパを着た男の子が母親らしき女性の手を引き、目の前を通った。
うんざりしていた大雨も目の前の少年には楽しいイベントだったようだ。
不満そうな少年に綱吉は微笑む。

「あ! お母さん! 虹がでてるよ!! さっきまでなかったのにね!」

子供は母親と手を繋いだまま、ぴょんぴょんと飛び跳ねて空へと手を伸ばした。

「きれいだね! お家に持って帰りたいなぁ」

母親は微笑しながら、不思議そうに虹を掴もうとする男の子に何か説明しているようだった。
何となく親子の後姿を二人で見送る。
姿が見えなくなった頃、先ほどの言葉の意味を聞こうとすると白蘭が不思議そうに虹を見ていた。
綱吉もつられたように空に目を向ける。
キレイな半円とまではいかないが、それでも虹を見るのは久々で思わず見入った。

「…なんで虹に手を伸ばすんだろうね。あんなに短い腕が空に届くと思ってるのかな」
「ん?」

意識を虹から白蘭へと移す。白蘭はもう虹を見ていなかった。
いつからこちらを見ていたのか、少し寂しそうな顔で綱吉をじっと見ている。

「どんなに手を伸ばしても届くはずないのにね。子供はそういうのわからないのかな」
「そんなこと気にして手を伸ばすわけじゃないだろう? こう…何か掴めるかもしれないし…届くかもしれない、じゃないか」

自分でも何を言っているのかわからないが、届かないと諦めて手を伸ばさないよりずっといいような気がした。
笑われてしまいそうな自身の言葉に綱吉は気まずそうに頬を掻く。すると、その手を突然掴まれ引き寄せられた。
よろけた綱吉の体を白蘭が正面からぎゅっと抱きしめる。

「アハ! 本当だ、欲しいものに手が届いちゃったね!」
「なん…っ!」

慌てて体勢を整え、白蘭を見上げると嬉しそうに破顔していた。
わずかに興奮しているのか白蘭の頬が赤い。でも、きっと自分のほうが赤いから何も言えない。
大きな右手が綱吉の右頬と首筋をなぞり、心臓の上辺りで止まる。
すっと目を細めて、綱吉の耳元で囁いた。

「ねぇ、僕の手は綱吉クンの心まで届いてるのかな?」

背筋がぞくりとするような言い方に思わず片耳を塞ぎ、急いで距離を取る。

「やっぱり、そこに届かないと意味ないよね」

にこにことしあわせそうに笑う白蘭に言葉が出ない。
突然すぎてリアクションができなかった。
そんな様子を楽しそうに見ている白蘭に腹が立ってくる。

「いったー! 急に何?」
「こっち見るなよ」

綱吉は白蘭の足を思い切り踏んづけてから、そっぽを向いた。

「やだよ」
「……」
「そんな可愛い顔で睨まれても怖くないよ」

睨んでも白蘭は嬉しそうに笑うだけで、綱吉は話を逸らそうと先ほどの単語の意味を聞くことにする。

「…やらずの雨」
「ん?」
「やらずの雨ってどういう意味? さっき言ってただろ」
「来客を帰さないかのように降る雨のことだよ。君にまだ帰って欲しくなかったから、綱吉クンと一緒にいたかったから」

墓穴とはこういうことを言うのだろうか。自分から話題を振ってしまった。
綱吉は恥ずかしくて泣きそうな気分になる。

「ふふ、真っ赤だね。困っちゃう?」
「……困るよー」
「じゃあ、まだ最後まで言わないであげるよ。でも、さすがにここまで言ってわからないほど綱吉クンは鈍感じゃないよね?」

少し真剣な眼差しに、綱吉は俯いた。

「うぅ…ワカリマセン」
「え? それは大変だ! やっぱりちゃんと愛の告白しないとダメなのかも」
「いらないいらない!」
「残念。じゃあもうちょっと我慢する」
「…えっと、その…告白……するつもりなの?」
「もちろん! 期待しててね」

なんでそんなに楽しそうなのかと聞きたくなるような笑顔に綱吉はリアクションに困る。
それに、服が張り付いて何だか煩わしい。無性に着替えたい衝動に駆られる。

「しないったら…オレ、帰る…服着替えたい…」
「僕の家の方が近いよ。タオルと着替え、貸そうか?」
「え? 本当? そのほうが助かる」

自宅までは微妙に距離があるので出来れば着替えたいと思っていた綱吉は、白蘭のありがたい提案に笑顔を見せた。

「狼について来ようとは度胸があるね、綱吉クン。食べられちゃうよ」
「え?」
「もしかして、食べられたいのかな?」

白蘭にアゴを掴まれ、親指の腹でゆっくりと唇をなぞられる。

「っ!? 何なんだよ!! もう!!」

ぞくりとする感覚に大きな手を払い除け、綱吉は後退りした。
顔が熱い。また赤面しているであろう自分を殴ってやりたかった。

「だって、あんまり油断されると手を出しちゃうよ。僕だって健全な男の子なんだから」
「付き合ってもないのに手を出すなんて不健全だ!」
「それもそうだね」

にこにこと笑われて怒っていいのか笑っていいのか、綱吉はわからなくなってしまう。
困惑する綱吉に白蘭はにっこりと笑った。

「嫌なときはちゃんと拒否しないと流されちゃうよ? ほら、拒否してみて」
「えっ? えーっと、それ以上近づくな…?」
「その意気だよ、綱吉クン!」
「わ、わかった!」

正解だという空気に少し自信が出てくる。
自分も同じ男なのだから、嫌なら拒否すればいい。
安堵に滲む綱吉の顔を見て白蘭は綱吉の鼻を人差し指で突ついた。

「まぁその気になっちゃったら抵抗なんて意味ないけど」
「意味ないの!?」
「ないない。僕が本気になったら綱吉クンなんて軽く押さえ込めちゃうよ」

その言葉に綱吉は白蘭から、すっと距離をあける。

「えー、ケダモノ…」

そんな態度に白蘭は楽しそうに綱吉が離れる前より体を密着してきた。

「あはは! 綱吉クンは面白いなぁ。そんなところも好…あ、まだ言っちゃダメだったね」
「……」
「早く言いたいな〜。ね、いつ言おうか? いつがいい?」
「し、知らない」

早足で歩くが足の長さの違いのせいか悠々と横に並んでくる。
自宅に帰ってもよかったが、とりあえず白蘭の家へと向かった。
このまま帰っても、白蘭のことばかり考えそうだったから。
服を借りるだけ、何も問題はないはずだ。

何か問題があるとすれば、恥ずかしいだけで別に白蘭が嫌ではないことだろう。





















*END*






こういうのってあとになるとじわっと照れるのはなんだろうね(笑)
現代ツナと現代白蘭なんですが、他はあんまり深く考えてないです。
無限にあったパラレル世界の一つなのか、未来編から帰ってきたあとなのか。
それともまったく別のパラレルなのか、まったく考えてないので
好きに解釈していただけたらなぁと思います^^
今見て思ったけど買い物袋の描写が後半消失してますね。たぶん、ずっと持ってるんだと思うよ。
手を伸ばすことに臆病だった白蘭もいいかなぁと、まぁ後半はあれでも自重してんだよ!笑
いいよね、しあわせな二人がいても、いいよね?