とある島に停泊中、ルフィはサンジを探していた。
「あ、ナミ〜サンジ、見なかったか?」
みかん畑の横で新聞を読んでいたナミが顔をあげた。
「サンジ君ならさっきまで甲板でゾロとケンカしてたけど……今は静かね。ゾロなら居場所、知ってるんじゃない?」
「そっか〜サンキュ」
ルフィはナミに礼を言い、甲板に走って行く。
不機嫌そうに仰向けで寝転がるゾロを至近距離で覗き込んだ。
「る、ルフィ! その体勢はヤバイ……」
ゾロは慌て跳ね起き、ルフィから少しだけ距離を取る。
顔が少し赤くなっていた。
「何がヤバイんだ?」
訳がわからないという顔でルフィはゾロを見る。
「……なんでもねェ。で、なんか用か?」
「サンジがどこにいるか知らねェ?」
そう言った途端にゾロの顔が不機嫌に戻った。
「さァな、知らねェ」
「…そっか」
しょんぼり肩を落とすルフィにゾロは慌てた。
「冷蔵庫の中身がないって言ってたから買い出しにでも行ったんじゃねェか?」
「そっか! じゃあ探して来る」
「……荷物持ちがいる量だから誰かと一緒に行ったのかもな」
そう言われれば今この船にはゾロ、ナミ、自分しかいないとルフィは納得した。
「サンキューな、ゾロ」
手を振り、船を降りる。
とりあえず仲間の誰かを見つけようと街をうろついた。
できればサンジにすぐ会えたらいいな、と思っていたが辺りには見当たらなかった。
「よ〜ルフィ。お前もなんか買い物か?」
「ウソップ! いや、違うんだ。サンジを探してるんだけど知らねェか?」
買い物袋を持ったウソップは首をかしげた。
「悪ィな。見てない。買い出しに行ってんなら食品扱ってる店付近を探した方がいいんじゃないか?」
「そっか〜サンキュ! じゃあ行ってみる」
ウソップに手を振り、食べ物を売ってそうな場所を探した。
「ルフィ! なんか食いに来たのか?」
出店の周りをうろうろしていたチョッパーがルフィに気づき声をかけてきた。
「チョッパー! いや、今日は違うんだ。サンジ見なかったか?」
「サンジ? うーん、見てねェぞ」
少し考えてから見なかったとチョッパーはルフィに告げた。
「あれ? じゃあロビンといるのかなァ」
「ロビンなら本屋の近くで見かけたけどサンジが一緒だったかまでは見てないや、ごめんな」
「そっか〜ありがとな、チョッパー」
チョッパーに手を振り、ルフィは本屋へ向かう。
これだけ探して会えないとなんだか、さらに会いたくなってしまった。
「あ、ロビン〜」
「ルフィ」
本屋にいたロビンが柔らかく微笑みルフィを見た。
しかし、サンジは傍にいないようだ。
「ここにもいないのか……なァ、ロビン、サンジがどこにいるか知らねェか?」
「私が出掛ける前はコックさん、倉庫の中を見ていたわ」
「倉庫!?そこは探さなかった……なんだ〜船にいたのかァ」
無駄足を踏んでルフィはショゲた。
「ありがと、ロビン。おれ、船に帰る」
「そう?私はもう少し本を見て帰るから気をつけて」
「ロビンも気をつけて帰って来いよ〜じゃあな」
クスクス笑うロビンに手を振り、ルフィは船に戻る帰り道をとぼとぼ歩いた。
サンジを探して半日が過ぎた。陽も暮れかけている。
こんなにタイミングが合わないとなると、なんだかもう二度とサンジに会えない気がしてルフィは気分が沈んで行くのを感じた。
「サンジ……」
「……なんだ?」
「えっ?」
ルフィが振り返るとそこには探し続けていたサンジがなぜか息を切らせて立っていた。
「さ、サンジ!」
思わず街の中だということも忘れてルフィはサンジに抱きつく。
「なんだよ、大胆だな」
どこか嬉しそうにサンジはルフィを抱きしめた。
ルフィはなぜか泣きそうになるほど安心した。
「うー…もう会えないかと思ったぞ」
「……おれもだ」
なぜサンジが息を切らせていたのかルフィにはわからなかったが会えたことが今は、ただ嬉しかった。
***
サンジはゾロとの争いの後、倉庫の中で足りなくなった食料を見ていた。
「あ〜やっぱ、結構足りねェな。ルフィ連れて買い出し行くか」
倉庫から出るとナミとばったり出会った。
「あ、サンジ君ここにいたんだ。ルフィが探してたわよ? ゾロのところに行ったわ」
「そう……ですか。わざわざありがとうございます」
急いで甲板に寝転がるゾロのところに行ったがルフィの姿はない。
「おい、マリモ。ルフィはどこだ」
「…あァ? お前、船にいたのか? 買い出しに行ったと思った」
ということはルフィにもそう言ったのだろうとサンジは思い、さっさとその場を離れようとした。
「おい、ちょっと待て」
「……なんだ?」
「他のクルーとてめェが一緒にいると思ってるはずだ。……さっさと見つけてやれ」
ゾロは決して、こちらを見ずに言った。
「てめェに言われなくてもわかってる」
フッと鼻で笑ってからサンジは船を降りた。
周りを見ながら早歩きで歩くがルフィは見当たらない。
代わりにウソップを見かけた。
「おい、ウソップ」
「お? サンジ。ルフィ…には会えてねェみたいだな」
「ルフィはどこに行った?」
「食品売り場の辺りのはずだ。さっき別れたばっかだから急げば会えると思うぜ?」
「そうか。サンキュ」
小走りで食料売り場まで向かう。
本来なら今頃、この売り場へルフィと一緒に来ているはずだったのに。
「サンジ〜ルフィが探してたぞ?」
「チョッパー…またすれ違ったか」
ガッカリするサンジにチョッパーは慌てた。
「悪ィ。サンジとロビンが一緒にいると思ってるから本屋付近にいるかもって言っちゃったぞ」
「ん、気にするな。ルフィはおれが捕まえる」
「お〜よくわかんねェけどがんばれサンジ」
ヒラヒラと手を振り、ルフィを探しに戻った。
(ロビンちゃんはおれが倉庫にいたのを知ってるからな)
下手をすればまたすれ違いそうだとサンジは走って本屋まで行った。
「コックさん、ルフィならついさっき歩いて帰って行ったわよ」
「ロビンちゃん、おれがここに来るのわかってた?」
サンジが来るのを待っていたかのようにロビンは本屋の前で立っていた。
「ふふ、早く追い掛けてあげて? とても落ち込んでいたから」
落ち込んでいたと聞いたならのんびり話していられない。
サンジは礼もそこそこにロビンに手を振り、別れた。
歩いて帰っているなら今度こそ会える。そう思うと走り出していた。
行き交う人の隙間から探し人の姿が見えた。
肩を落としてとぼとぼ歩いている。
抱きしめたい衝動に駆られたが人前でそういうことをするとルフィは恥ずかしがって怒る。だから、サンジは我慢をして話しかけようとした。
「……サンジ」
「……なんだ?」
「えっ?」
サンジは全力で走ったせいか息が整っていない。
しかし、ルフィに名前を呼ばれたなら反射で応えてしまう。
「さ、サンジ!」
突然、ルフィに抱きつかれ驚いたがサンジは離すことなく受けとめる。
「なんだよ、大胆だな」
自分がやりたかったことをルフィから実行され、顔がニヤける。そして遠慮なくルフィを抱きしめた。
「うー…もう会えないかと思ったぞ」
「……おれもだ」
会いたくて、会えなくて、先にいるのがわかっているのに届かない。
こんなのはもうこりごりだ。
「お互い、出かけるときは絶対に言うことにするかァ」
「賛成!会えないのはもう嫌だ……っ!」
急にルフィが飛び退くように離れた。
「なんで離れるんだ?」
「ま、ま、街の中じゃねェか!」
どうやら我に返ったらしい。
ルフィは真っ赤な顔で辺りを見回している。
「誰も気にしてねェよ」
「お、おれが気にするんだ!」
「いいじゃねェか。感動の再会なんだから」
サンジが再び抱きしめようとするとルフィはジリジリと後ろへ逃げた。
「だ、だめだ」
「さっきはお前から抱きついて来ただろ?」
「あれは…嬉しかったから!」
ルフィはだんだんと人気のない路地へと追い込まれて行く。
「おれは今も嬉しい。だから別に抱きしめてもいいよな?」
「だめ!」
「聞き分けがない奴だなァ。いい加減諦めろ」
「聞き分けがないのはサンジだろ!」
ルフィは真っ赤になって睨んできた。
止めろと言う意味なのだろうが効果は正反対だ。
「そういう態度は逆に男を煽るってことを覚えた方がいいぜ?」
「あ、あおる?」
「そういうことだ」
意味はわからなかったみたいだが危機感だけは与えられたらしい。
「そ、そういえばサンジ、おれに会う前に走ってたのか?」
「ん? まァな〜誰かさんを探してたんだよ」
気を紛らわそうと必死なルフィも可愛いとサンジが思っているなど本人は気づいていないだろう。
「もしかして、おれ?」
「他にどこのどいつを必死になって探すんだよ」
「サンジ……わわっ!」
感動している隙をついてサンジはルフィを抱きしめた。もちろん周りに誰もいないのは確認済みだ。
「油断したみたいだな、ルフィ?」
至極、楽しそうにサンジは言う。
「むー……えへへ、まァ、いっか」
少しだけ恥ずかしいが嬉しさの方が強い。
ルフィはサンジに抱きついた。
「この後は恋人らしくデートして帰るか。買い出しは明日でもいいだろ」
「で、デート……サンジはすぐ恥ずかしいこと言うなァ」
「事実だろ? 人があんまりいない道なら手、繋いでもいいよな?」
サンジの思いがけない優しい笑顔にルフィは顔が赤くなる。
そんなルフィを愛しく思い、サンジはルフィの手を取った。
サンジに手を引かれ歩き出す。
ルフィは微笑み、サンジの手をぎゅっと握り返した。
会えないときは寂しく、会えたときはその分だけ嬉しかった。
でも、やっぱり一緒にいるときが一番いいな、とサンジの横顔を見上げる。
夕暮れの中のサンジはいつもよりカッコよく見えてルフィは照れた。
「おれがカッコイイからってあんまり見るなよ」
「…そういうトコがサンジらしいなァ」
ルフィは笑いながらサンジを見上げた。
「そういうサンジも好きだけどな」
「っ!」
冗談を本気で返されサンジの顔は珍しく赤く染まる。
しかし、夕陽のせいでルフィはサンジの変化に気づかなかった。
無言になったサンジを不思議に思い、ルフィはサンジを見上げる。
「どした、サンジ? ……あっ! もしかして赤くなってねェか?」
「なってねェ」
「えェ? じゃあこっち向け〜」
「嫌だ」
ルフィに顔を見せないようにサンジは反対方向を見る。
手を繋いだままルフィは回り込もうとするがサンジに阻止された。
諦めず、必死でサンジの顔を見ようとするルフィの手をサンジは引っ張る。
「な…んっ!」
「……お前も赤いな」
バランスを崩したとき、急に軽くキスされ、ルフィは真っ赤になる。
人通りが少ないとはいえ、ここは街の中なのだ。
周りに人がいないことを確認した後、熱い頬のままルフィはサンジを見上げるがその顔は赤くない。
「むー、ズルイぞ」
楽しそうに笑うサンジにルフィは口を尖らせた。
「ははは、一緒に風呂へ入ってくれたら照れて赤くなるかもな」
「ウソだ! サンジが喜ぶだけだろ」
「バレバレか。隅々まで洗ってやろうと思ったんだがな」
ルフィは真っ赤になってサンジを睨む。
どうやらルフィがサンジの赤面を見るのはまだ先になりそうだ。
*END*